「俺は荷物じゃなーーーーーい!!」
そんな叫び声が聞こえたのは仕事時間が始まってから1時間も経った
頃だった。グラウンドで黙々と仕事(訓練)をしていた来須は聞き覚えの
ある叫び声に足を止めこそしなかったが、顔は上げた。見れば向こうから
相棒の若宮が叫び声の主と一緒にやって来る所だった。何故か若宮は
左肩に大きな段ボールを、そして右肩には叫び声の主…滝川を担いでいる。
担がれている滝川は何とか若宮から逃れようともがいているが、力で
スカウトに敵う訳がない。しっかりホールドされた状態で手足を振るだけ
無駄に体力を消費していた。
「いい加減諦めろ。素子さんがお呼びだと言っているのに逃げようと
するからこうなるんだぞ」
「逃げるに決まってるじゃん!俺、昨日派手に被弾したんすよ?
嫌味言われるのに逃げない訳がないじゃんか」
情けない声にほんの少しだけ表情を緩めると近づいてくる2人を見て
徐々に走る速度を落とすと立ち止まる。目の前に来た事でようやくそこに
来須が居ると気付いた滝川は顔を真っ赤にして言い訳をまくし立てた。
「せ、せ、先輩!?あ、あの!これには色々理由があって…」
「逃げるからこうしてるんだ」
はははと豪快に笑う若宮を半分泣きながら滝川が睨む。尊敬する来須の前で
こんな格好見られ恥ずかしくて仕方ないといった様子だ。
「そうだ、悪いんだが頼まれてくれるか?」
「…何をだ」
「素子さんへこれを届けるのと物資の運搬の2つを一度には出来んからな。
頼まれてくれると嬉しいんだが」
誰がこれだよ!俺は荷物じゃない!と怒る滝川を無視して若宮は笑いながら
暴れてずり落ちそうになるそれを担ぎ上げ直す。
来須に特に断る理由はない。頷くと若宮の担ぎ上げている滝川を無表情に
自分の右肩へと移した。
「いや、まぁそっちでもいいんだが…」
左肩の段ボールを軽々と持ちながら苦笑いをする若宮。一方尊敬する
来須に荷物と同じ扱いを受けた滝川はショックを受けているようだった。
それもその筈、何せ相手は若宮でなく来須である。呆然としている滝川を
他所に若宮は何処か楽しそうだ。
「まぁ、でも俺よりはお前の方が滝川も大人しく言うことを聞くだろうしな。
うむ、では素子さんの所へ連れて行ってやってくれ。ああ、もちろん
素子さんの所から脱走しないようにしっかり見張りまで頼むな」
そう言いながら笑って若宮は段ボールを所定の場所まで運びに行く。後に
残された来須は右に担いでいた滝川を降ろしてやると優しく頭の上に手を
乗せた。それまでショックで泣く寸前だった滝川が大きな瞳で見上げる。
「…行くぞ」
涙が少しだけ滲んだその視界に映ったのは口の端だけを少し上げて微笑む
来須だった。
<あとがき>
散々リテイクを繰り返したこのお題。満足した物がかけたと思ったら
何故かテキストエディットのエンコード関係がおかしくなり、
完成したそれを開く事もままならず、頼りない記憶を元に復旧させたのが
このミニSSです。うう、でもやっぱりその前に書き上げていたものの
方がいろいろ良かった気がします…(泣)