それはとても珍しい事だった。
校舎裏でブータと対峙している舞はとても緊張しているように見えた。
例え戦闘だろうが、決して緊張している所を見せない舞が頬を
紅潮させながらじっとブータを見ているのだ。
そう言えば猫が好きだとか言ってたっけ…。
ふと以前の会話を思い出しながら近づくとこちらに気付いた。
「お前さぁ、そんな風に睨むからブータの奴も恐がってるじゃん。
猫好きなんだろ?普通に抱えたら?」
そんな風に言うと慌てて釈明する舞。自分に釈明するより
触りたいなら触ればいいのにと思っていると足元からするりと
長いしっぽが泳いで行く。
「…仕方ねぇな…」
不意にブータの尻尾を捕まえると小声で友達だろと言う。振り返った
ブータは嫌そうに顔をしかめていた。小さく舌を打つと財布の中身を
思い出しながら簡単に計算をする。どうやら猫カンを買うくらいの
余裕はありそうだ。
「…あとで猫カンやるって、な?」
大人しくなったブータを抱きかかえると舞の目の前にずいっと
差し出すように見せた。
「ほらよ」
無造作に見せると舞が一瞬脅えたように肩を大きく震わせる。
「…ば、ばかもの。猫が嫌がっているではないか!」
「今、大人しいだろ?」
じっとブータを見つめる舞の頬は先程よりも紅く染まっている。
何か、マジで好きなのな、猫。
…ちょっとそういうのって可愛いかも。
「あ…う…。…。さ、触るだと…。…一生に一度の決断だ。
…私は、私は…触る!」
そこまで力む事でもないと思うが、舞にとってはそれだけ
重要な事なのかもしれないと頷く。正直ブータみたいな
お化け猫、重たいのでそろそろ下ろしたい所だ。いくら
訓練していると言っても重い物は重い。早くすませて
くれれば、この腕のだるさとも解放されるのにと思いながら
舞をじっと見つめる。
意を決した舞が手を伸ばすとブータの様子が変わった。伸ばされた
舞の手をはねのけると腕から逃げ、走り去ってしまう。確かに
あんなに睨まれるようにして見られたら逃げてしまうかも
しれない。
目の前で強がりを言っている舞を見ていると普段とは違う感情が
湧いてきた。面白いという感情と…。
「…だから、何故そこで笑う!」
今なら怒鳴られても別に平気だった。何故なら、それは照れ隠しだと
わかってしまったから。
「…そ、そなたの反応、ヘンすぎるぞっ。いつものそなたであれば…」
言われる事は至極最も。だけど気付いてしまったから仕方ない。
猫に嫌われたからと寂しそうに眉を寄せていたのを。
それを誤魔化そうと尊大に振る舞おうとしたことを。
「な、何だ。その顔は何だ…!?」
少し自分でも意外だったから、一瞬憮然とした表情を見せる。
だけどそれも束の間、いつものように笑うとその感情を肯定した。
「別に?」
「『別に』という表情ではないだろう!」
肯定しつつも、そう答えた。何となく今すぐは言いにくい。
「何でもないって」
「嘘をつけ!」
でも…さ。
きっと近いうちに言うかも。
お前、結構可愛い所あるじゃんってね。
まぁ、どうせ怒られるんだろうけど。
別にいいや。それも楽しそうだから。
ヘンな奴なんて言葉そっくりそのまま返すぜ。
嫌な奴だったり、可愛かったり…お前だって十分ヘンだからな。
うん、まぁ…そのヘンな所も含めて俺はいいと思うけどさ…。
<あとがき>
このお題とっても悩んで、結局こんな感じに。
本当はもっとシリアス向きなお題だと思うのですが、これは
逃げました。
滝川じゃなくても意外な事に出くわすと結構評価ががらっと
変わりますよね。滝舞は大抵そんな所から始まると思うんですよ。
そうじゃなきゃ、絶対交わらないこの二人(笑)