枕に埋めた額


それは迫り来る恐怖。喪失への恐怖だ。
補給車の中で、ただ祈るように戦況を見守る事しか出来ない自分。彼は闇と言う恐怖と戦いながら、自分達の前を行く。死という恐怖と闘っている。

もし、彼が帰ってこなかったら──

そう思うと胸が張り裂けそうだった。いつだって彼には笑っていて欲しかったし、彼の傷つく所なんて見たくなかった。自分の中の不安をかき消してくれる彼のあの明るい言動の全てが戦時中だと言う事を忘れさせてくれるから。何より、彼を好いているから……いつも不安だった。

不安故に夜、布団の中で涙が込み上げる事もしばしばある。
声を殺す為に枕に顔を押し付け、気が済むまで泣き続ける事だってある。

もし、彼を失ったら自分はどうなるのだろうと。きっと、辛くて立ち上がれなくなるだろう。だって、今のような仮定の時点で自分はもう足が震え、涙腺が緩んでしまっている。

そんな事を彼に言ったら、困ってしまうだろう。──わかってる。だけど、もう駄目なのだ。堪えられない。何でこんなに自分は弱くなってしまったのだろうか、わからない。

誰かを好きになったから?
彼を好きになってしまったから、辛いの?

午後の授業が始まった事を結晶が告げる。頭を振ると彼の愛機に、しがみつくように座り込んだ。

ほら、思い出すだけで涙が止まらない──

子供のようだと解っているつもりだった。こんなのただの我が侭だ。かたんという小さな音に驚きながら、急いで涙を拭うとハンガーに入ってきた人影が見えた。階段を上がってくる音が近づいてきて、それが彼だという事に気付く。

「あれ、どうした?」

驚いたような彼に思わず先程までの思考が蘇る。何度もそれを振りきろうと首を振るが、見たくもない映像に聞きたくもない幻聴が脳内に再生され始めた。

「おいっ…! 森!?」

慌てて駆け寄る彼の差し出す手を握ると懸命に涙を殺す。
まるでその手に祈るように。この温かい手が冷たくならないようにと。
「どうした? なぁ、どうしたんだ?」
心配そうな彼の声にずっと左右に首を振り続けた。

──言えない。

自分の感じている恐怖を彼には告げる事が出来ない。だけど……もう限界なのも確か。

このままでは自分はいつか彼に漏らしてしまうだろう。貴方が出撃する度におかしくなってしまう程不安になると。いっそ、こんな所から逃げてしまおうと。
でも、それが一日でも延びるように。出来れば言わずにいられるように。今はただ口を噤もう。

夜、枕に顔を埋めて泣き声を殺すように。



<あとがき>
シリアス、しかも以前のSSの間の出来事みたいですね。>地上の星
彼女の恋愛イベントはやはりパイロット相手の方が、しっくりしますよね。スカウトより。そうするとデフォルトならあっちゃんか滝川。さらにあの答えの返し方はあっちゃんよりは、滝川の方がしっくり来る気がするのですよ、私は。あっちゃんっぽい返し方もありますけどね。滝川の方があう気がします。恐れを知っている滝川の方が、彼女を解ってあげられるんじゃないかなぁと。