手を繋ごう


気持ち良い午後。日曜日ののんびりした雰囲気を楽しむように散歩に出た……というのは前向きな考え。本当は日曜日だって言うのにデートする相手も居なくて寂しいから外出……が正しい。少しだけ憂鬱に思いながら、あてもなくただ足を動かす。

「何かないかなぁ……」

はぁとため息を漏らす。きっと滝川を知る人が見たら驚いただろう。ため息をつくなんて『らしくない』と。ただ、ため息の理由が『彼女が居なくてデート出来ないから』と知れば、きっと笑いながら納得するだろうが。

何も考えないで歩いていると今町公園へと辿り着いた。
「ちょっと寄って行くか……」
あてのない散歩だ。どうせ行く所もないし、お金を使わない公園はとてもリーズナブルな選択だと言える。
ベンチに腰掛け再びため息をつくと空を見上げた。空は何処までも青く、澄んでいる。時折吹く風が気持ち良くぼーっと空を見つめていた。

「ふぇ? ようちゃん?」

よく知った声が耳へ飛び込んで来る。視線を地上へと戻すとそこには首を傾げたののみが立っていた。そして隣には師匠と仰ぐ瀬戸口も居る。

「よぉ、暇そうだね、お前さん」
「……悪かったな……ふん」
「たかちゃん、めーなのよ。ひまなのはわるいことじゃないのよ。からだをやすめるのにはひつようなことなの」
「ああ、そうだ。そういう意味もあるな。ごめんな、ののみ」
ののみの言葉に瀬戸口は笑うと素直に謝る。そんな瀬戸口を横目に滝川はののみに話しかけた。
「東原は師匠と遊んできたのか?」
「えっとね、いまからほっとけーきをやくのよ。だからね、おかいものなの」

へぇと頷くと今度は瀬戸口を見る。暇を持て余した自分もそれに混ぜてくれないかなと思いながら。
「……ちょっと待て。その目は何だ」
「いいなーっと思って」
素直にそう口にするとののみが嬉しそうに声をあげる。
「じゃあ、ようちゃんもいっしょにほっとけーきやく?」
「ちょ、ちょっと待て、ののみ。俺はだな……」
「いやーサンキュー! 東原、師匠!」
「待て! 俺はまだ何も言ってないぞ」
勝手に話を進めようとするののみと滝川に待ったをかけるものの、瀬戸口に決定権はあって無きのごとしだった。 何故なら、瀬戸口はののみの言葉に滅法弱い。

「たかちゃん?」
きょとんと見上げる無垢な瞳。それは瀬戸口にとって拒めない視線だった。
「……はぁ……わかったよ。ののみがそう言うなら」
肩を落とした瀬戸口にののみと滝川が揃って声をあげる。
滝川は一人きりの寂しい休日から逃れられ、なおかつおやつが 食べれると言う事実に歓声を。ののみは純粋に楽しい、嬉しいと言う感情から歓声を上げた。

「じゃあ、おかいものいこ」
そう言ってののみが滝川へと手を差し出した。
「ああ、そうだな」
何の躊躇いもなくののみの手を取った滝川は立ち上がると瀬戸口をみて、にっと笑って見せた。
「お前さん、随分嬉しそうだな」
「ん? だって楽しいじゃん」
「そりゃ、お前さんはね」
諦めたようにそう答えるとそんな瀬戸口の手に小さな手が触れる。……ののみの手だ。

「たかちゃんはたのしくないの?」
その言葉にまさかと肩をすくめると小さな手をしっかりと握る。

「それじゃ、気を取り直して買い物に行くか。滝川、当然だがお前さんも出せよ」
「えー、師匠の奢りじゃないのかよ」
「野郎に奢る金はないね」
「たかちゃん、ひいきはめーなのよ。ののみもちゃんとおかねだすもん」
ののみを中心に手を繋いだ三人が公園を後にする。

それはとある平和な休日。
戦時中にありながら、平和と言うにふさわしいある日曜日のお話。



<あとがき>
……これ、滝川がメインじゃないですね(苦笑) まあたまには滝川が脇役にまわることもあるでしょう。何度も言いますが、これは勢いで書いているので。

この三人だと多分一番大人なのはののみちゃんなんでしょうね。瀬戸口はののみちゃんの前だと結構弱い所を見せますからねぇ。それで、間違いなく滝川は一番子供です。ええ、これは誰といても変わらないんでしょうけど。ああ、唯一大ちゃんとなら対等かもしれませんね。