薄暗い空に顔を顰めながら教室に入ると窓に向かっている後ろ姿がある。一組では見かけない、波打った長い髪と長身は…… 二組のヨーコのものだ。 「何……やってんの?」 「ハイ?」 にっこりと微笑むヨーコに首を傾げる。土曜日の仕事時間は長い。午前中の授業を終えた後は通常通りの7時まで仕事時間である。にもかかわらず、整備士である筈のヨーコは夕方に自分の教室ではない この教室で何やら外を見ていた。 「いや、何やってるのかなーって思って」 「ハイ、仕事の間に息抜きしてましたネ」 「そっか……」 確かに連続の作業は集中力を欠く。その為の息抜きは必要だと思うが、何故ここに居るのか、滝川はそれがわからなかった。 「雨、降らないといいデスね?」 「え?」 ヨーコの言葉に目をぱちくりさせる。唐突な言葉に驚いていると目の前のヨーコが優しく微笑む。 「忘れては駄目デス。明日はみんなとキャンプ行きますデスよ?」 「あ、ああ……そっか。そうだったっけ」 記憶の片隅にはあったキャンプという単語。忘れていたつもりはないけれど、この会話に出てくるとは思っていなかったから驚いたのだ。 「楽しみデスね?」 「……そうだな」 窓に近づき、薄暗い空を見上げた。隣にいるヨーコが手を組み、何かを呟く。 「ヨーコさん?」 「晴れるようにお願い、シマス」 その言葉に納得がいった。だから、彼女は窓辺で佇んでいたのだと。 「滝川クンもお願いしマスか?」 にっこりと笑ったヨーコに一瞬きょとんとしたが、すぐにその意味を理解すると負けじと笑い返す。 「そうだな、俺もお願いしよっかな」 その言葉にヨーコは幸せそうに目を細めると自信あり気に頷いた。 「滝川クンとワタシ、二人でお願いしたら、きっと届くデス」 「ああ、届くよ」 「二人とも『太陽の子』デス。神様、きっと叶えてくれマスよ?」 「太陽の子?」 「ハイ、滝川クンは『陽平クン』デス。ワタシは『ヨーコ』ですネ。……二人とも太陽から名前を貰ってマスよ」 優しく語る言葉に納得がいったように何度か頷く。その様子をヨーコは、ただ幸せそうに笑っていた。 「太陽、それはイアル。イアルは幸福の名。滝川クンも、ワタシも幸せの子ですネ? 幸せの子、願いマス。それはきっと、叶うデスよ?」 そう言って再び窓の外へと視線を移す。薄暗い空はまだ続いている。 だけれども、その雲間から一筋の光が漏れていた。 ──太陽の光だ。 きっと、明日は晴れるだろう。 だって、太陽を望んだから。太陽の子がその姿を見る事を望んだから。 だから、きっと明日の朝は綺麗な青空が広がっているだろう……。 <あとがき> む、難しいです〜。ヨーコさん、とても難しいですね。特に台詞に気を使います。頭の中では佐久間さんのあの可愛らしいイントネーションで読んでもらえるのでいいのですが、果たして他の方にもヨーコさんらしさが伝わっているのか、とても心配です。 お題を見た時はののみちゃんが最適かな? と思ったのですが、彼女もまたふさわしいと思い滝川と会話してもらいました。普段名前を呼ぶ事はありませんが、この子もまた太陽の子の筈ですよね? 陽平なんですし(笑) |