いよいよだ、そう思うと心なしか緊張感が走る。 教室に沈黙が広がり、それが嘘でない……本当だと、現実であるのだと強調している ように思えた。ふと、隣を見れば親友の姿がある。彼の手元を見ると、その手は小刻みに震えていた。 ああ、彼は恐いんだと他人事のように心の中で呟く。 いや、それが普通なのだろう。死ぬかもしれない──そう思えば、恐怖を感じるのは特別な事ではない。 寧ろ、緊張はするものの恐怖を抱かない自分の方が、どこかおかしいのかもしれない。いや、実際おかしいのだろう。こんなにも冷静でいられるのだから。 解散を言い渡され、それぞれが仕事場へと向かう中、彼だけはその場から一歩も動く気配がなかった。 「…滝川?」 自分の声にびくりと肩を震えさせると、彼の大きな瞳がじっとこちらを見る。 瞳に映るのは純粋なる恐怖……だった。死という言葉への畏怖。 そしてややあってから、無理やりの笑顔を彼は作って見せた。 「な、なんだよ……驚かすなよな」 「ハンガーに行かないの?」 「……いや、そりゃあ……行く、けど」 歯切れの悪い彼の言葉にはいつもの勢いなんて微塵も無い。 普段の明るい太陽を思わせる無邪気な笑顔もない。 今、張り付いているのは随分たよりない笑顔。 「それともこれから遺書、書く?」 再び肩を大きく震わせる。 「……遺書……か…。俺さ、別に書く相手いねーから」 頼りない笑い声が消えて行くように語尾へ付け足される。 自分の死が恐いというより、死を迎えた時、誰かがその死を悲しんでくれるか……。 彼はそれを恐れているのだろうか……? その言葉は少なくとも死そのものを恐れているようには聞こえなかった。 もちろん死を恐れていない訳ではないだろう。 でも、多分……。 「それは僕だって同じ。だからね、僕は皆宛に書くよ」 「……え?」 「君に、そしてこの小隊の皆に宛てて書くんだ」 だから、恐れないで。 誰も君を忘れたりしないよ。 たよりない君の笑顔に僕はそう言いたかった…。 <あとがき> ミニミニSSのスタートがいきなりシリアスモードなんですが…(汗) 重苦しい幕開けです。これぐらいの文章量でいくつか書いて行けたらいいなーと思っていますが、ものによっては長くなるかもしれません。本当はあっちゃんとのお話ならほのぼのした日常が書きたかったんですが。 |