瞳の色




鏡に映る自分の顔を見る。
そこ映るのは空ろな目をした自分が居るだけだ。
薄紫の瞳からは生気を感じられない。

そして、次の瞬間愛嬌のある笑顔へと変化させた。
これはいつもの表情。誰もが知る瀬戸口隆之の表情だ。
その表情は偽りの笑顔。自分の裏側を、心の闇を悟られぬように
張った防御壁とも言える。

「師匠、何やってんの?」
手を洗いながらこちらを見る滝川に肩をすくめる。
まっすぐこちらを見ているその瞳は自分と同じ薄紫だ。
大きな瞳を何度も瞬かせながら不思議そうに見ている。

「ん?別に?」

とぼけながらそう答えると眉を顰めて、じーっとこちらを睨む様に
見ていた。薄紫のその瞳は自分と同じ色だが、生気が感じられないだとか
空ろであるとかそんな雰囲気はない。ただ…。

時折、妙にその瞳は寂しそうに空を見つめていた。

普段は小隊内の誰よりも子供っぽくはしゃぎ回っているが、一人で
佇んでいる時の滝川は誰よりも孤独に捕らわれているような気がした。
そう考えれば、普段のあの明るさは生来のものもあるだろうが、
その孤独に、闇に負けないようにと精一杯虚勢を張っているのではないかと
思えてくる。

「何だ、何だ。俺に見惚れたか?野郎に見惚れられても困るんだがな」
「べ、別に見惚れてなんかないっ!」

いつもの軽口に口を尖らせた滝川に笑って見せると頭をなぜてやる。

「子供扱いすんなよ」

そう言って手をはねのける滝川に再び手を伸ばすともう一度頭をなぜた。
決して馬鹿にしようと思っている訳ではない。滝川に必要だと思ったのだ。

──何が必要か。

それは一人でないとわからせること。
不安になることはないのだと悟らせるべきだと思った。

そして…自分のように過去を引きずり、その闇に足を取られ身動きを
取られぬように目の前に広がる道に気付かせてやりたいと思ったから。

その瞳は曇らせるべきではない。
空ろになってはいけない。
そんなのは自分だけで十分だと思った…。

─────────────────────語りへ───


今回は同じ瞳の色を持つ瀬戸口視点です。
何となく瀬戸口が滝川を構うのは慕ってくるからというのが
大きいと思いますが、でもやっぱり心の動きをいろいろ見てだ
と思います。不安定な滝川を心配してわざとちょっかいをかけて
みたりしている…といいなと(苦笑)

私の中では滝川が不安定であると気付いているのは瀬戸口とあっちゃん、
萌ちゃん辺りであって欲しいと思っています。あとはののちゃんかな。

その中で一番親子の情に近い情を与えてくれるのが彼かなと。
もちろん友人としての情も与えてくれるでしょうけど。

ウチの瀬戸口は私の所為ですっかりお父さんになってしまっている
事が多いのですが、やっぱりそれは滝川があれだけ慕っているのが
原因でしょうね。あっちゃんには素直になれないことも瀬戸口相手なら
素直になれるでしょうし。

んー、気付くとどうも瀬戸口と滝川の関係について語っているような。
本来のお題、瞳の色について語らねば(笑)

私が殆どのSSで瞳の色を薄紫と表現するのは何となくです。
色として生の紫よりも少し薄いぐらいが好きなので。これはイラストでも
大体グレーをかけているのが影響していると思います。…最もweb上では
どうしても違う色になってしまってアップされるんですけどね。

少なくとも私のMac上の作業中は薄紫になってます。…web用に保存すると
どうも色味が変わってしまっていけませんね。