降将




陰口をたたく者など何処にでも居る。
小者であれば小者であるほど、実力で見返すことも出来ずそのような行動に出る。
ひがみ、やっかみ…負の感情に任せてそのような行動に出ても仕方あるまいに。
そのような暇があるならば、自らの才を見せつければ良いのだ。
…もっとも出来ぬから、陰口などをたたくのであろうが。

文官が廊下で小声で話す様子を見て、微かに顔を顰めるとため息をつく。
陰口を叩かれるのには慣れていた。戦場で華々しい戦功を上げれば上げるほど
武官は文官に煙たがられた。文官でも才に溢れ、認められている者は数多くいる。
それなのに一部の文官は陰口をたたくばかりで武官を目の敵のようにしていた。
自らが引き立てられないのはその場を持たず、他人をただやっかんでいるだけにも
関わらずその原因を武官へと転化させている。

いつもそうであるように陰口など聞こえぬふりをしていると思わぬ言葉が
耳に飛び込んできた。あまりの言葉に振り返ってその者たちの近くに歩み
寄ろうとしたところ、肩を掴まれ足を止める。そこ居たのは馬超だった。
何も言わずに首を左右に振る。

「だが…っ!」
「放っておけ。小者を相手にする時間の方が惜しい」
馬超の物言いに文官たちが憤慨した様子でこちらを睨むが、直接言葉を
ぶつける事が出来ないままその場を去って行く。
「全く、お前もあんな奴等など放っておけばいいものを」
「自分の事ならば腹など立てないが…あれだけ努力している者にあの言葉は
ないだろう」
「降将なんてそんなものさ」
馬超の言葉に勢いを削がれる。それは暗に彼自身もそういう事があったと
言っているようなものだったからだ。
「だからと言ってそれが当たり前だとは思わんがな。言いたい奴には
言わせておけばいい。そのうち自分の狭量さに気付いて恥じる事になる
だろうよ。己の才の無さに、そして姜維との違いにな」
笑ってそう言い切った馬超にどう言葉を返そうかと思っていた所に木簡を
抱えた姜維がやって来た…。


─────────────────────語りへ───


何で毎回趙雲視点なのかはまぁいいとして今回のお題は「降将」。
実際姜維の扱いには文官と言わずに武官内でも色々あったのでは
ないかと思います。しかも丞相直々に物を教わったりしていれば
余計ではないでしょうか。

趙雲や他の武将に比べると馬超の方がこの立場を分かってあげられるかなと。  
実際五虎大将の時もありましたしね…。

勝手な憶測ですが、馬謖とも何かあったんじゃないかなと思っていますが、
流石にそこは単なる憶測にしか過ぎませんし、そこをSS化したら
すごく長くシリアスなものになりそうですよね。

こういうやっかみやひがみって現代社会にも通じる部分があって
ずっと昔から人は変わっていないんだなぁと思わずにいられません。