麒麟




まさか、これ程とは…。

姜維の繰り出す一振り一振りを間一髪で受け流しながら、つい先日の様な
天水での一騎打ちを思い出す。近頃、軍師殿の傍らで兵法を学んでいる
合間を縫って自己鍛練をしていると言っていたが、また一層動きが軽やかに
なったのではないだろうか。

──姜維に足りないものは持久力だ。

…と言ったのは馬超だったか。その持久力もいつの間にか自分たちに
追いつくものになってきている。しかも、元々の攻撃速度に磨きが
掛かっているのだ。

これは…我々もうかうかしていられないな。確かな手ごたえについ表情は
笑顔へと変化していく。追われれば、こちらもさらに己を磨きたくなる。
まして追ってくる者が、期待以上に優秀であればある程に。

「…よし。今日はここまでだ、姜維。」
「…お手合わせありがとうございます。」

丁寧に頭を下げる姿に頷くと手に持つ模擬槍を周りの兵卒に渡す。
「これから軍師殿の所か?」
「はい。丞相府へ参るつもりです。」
顔を上げた姜維もまた兵卒に模擬槍を手渡し、こちらを見て笑った。
どこか少年めいたその笑顔にこちらもまた笑顔で返す。

──天水では麒麟児だと言われていたそうですよ。

そうだ、確か軍師殿が言っていた。『麒麟児』と評されていたと。
実際軍師殿も姜維の才覚に満足していると何度も言っていた。知略も
良し。槍術も我らに劣るものはなし。そしてこの蜀漢に相応しい
聖獣『麒麟』。仁徳の世に現れる麒麟とはまさに姜維の事ではない
だろうか。

「…趙雲殿?」
何も言葉が返ってこない私を不思議に思ったのか、首を傾げて
こちらを見ている。
「いや、何でもない。早く軍師殿の元に行くといい。」
「はい!では…。」
丁寧に頭を下げると身を翻し、鍛練場を出ていく。軽やかに走る
後ろ姿に麒麟が駆けていく姿が重なった。見送った後、そんな自分を
笑うと誰に言うわけでもなく呟く。

「先が楽しみだな…。我らを追って来い…麒麟よ。」
─────────────────────語りへ───


今回は前回、前々回よりもかなり短めですが(汗)
何故か姜維のお題なのに視点は趙雲の方が書きやすいのですよね。
恐らく最後あたりのお題でないと姜維本人の視点で書かない気がします(苦笑)

さて、今回のお題『麒麟』ですが、ストレートですね。
天水でも親孝行な優等生で通っていたとか(特に演義)まぁ、
無双ではどちら着かずのような気がしなくも…(汗)
でもとても真面目で自分を磨くことを忘れない子だと
思います。上のお話の中でも趙雲が言っていますが、
麒麟というのは仁徳の治世に現れると言われていたそうですね。
無双ならまさにぴったりですよ。…史実だとあの劉禅(阿斗)なので
ぴったりなんて口が裂けても言えませんけど。

麒麟は中国での想像上の獣ですが、姜維には非常にぴったり
だと思います。あ、私の贔屓目かもしれませんけれどね(苦笑)
ただ、無双姜維限定ですが。いえ、丞相が亡くなる前なら
いいと思いますけど。
これ以上は別のお題と話が被りそうなので、いずれそちらで
話したいと思います。