出会い




軍師殿の言葉通りならば、今にもこの城から彼の者が出てこよう。
間もなくして門が開かれる筈。

…馬の鳴き声…?

目の前に現れた若武者は右手に握る槍を振りかざす。
「姜伯約と申す!お相手願う!」

──澄んだ瞳…良い目だ。

惜しいな…心の中で呟くと手綱を引く。軍師殿の命に背くわけにも
行くまい。彼の者が簡単にこちらに降るとも思えぬが…。
だが、軍師殿の事だ。今までと同じく何事もなかったかのように
成功させてしまうのだろう。
考えても仕方のないこと。私はただその命に従えば良いのだ。
彼の者を見て、一度頷くと呼吸を計り退却しようと馬を反転させた
その時だった。

「趙将軍ともあろう方が若輩者に背を向けるのですか!」
「そう思いたくば、思うがいい。」

その動きは風のようだった。氷の刃のように鋭い風の刃。
自分の槍術とはまた違った動き。
武人として見たいと思うのは自然な事。

互いに距離を取りながら次の瞬間を計る。退却するにもこの者を
振りきらぬ限りは無理だろう。それに我が陣営に加えるに相応しいか…
見極めるには良い機会だ。

ふむ…『払う』か…。
切っ先を受けながら、陣営にあるもう一人の槍術の持ち主を思い出す。
『突く』、『叩く』…全て揃う…か。

「考え事とは余裕ですね。」

笑みを浮かべた表情。どちらに余裕があるのか、この時悟った。
自身が彼の者の策に陥っていたのだという事に。

四方から矢の雨が振り注ぎ、自軍の兵たちの声には焦りの色が含まれている。
兵を伏せておいたか…。

「…退却せよ!」

追い来る彼の者の切っ先を受け止めながら指示を飛ばす。後は…どのように
ここから退くか…だな。

「逃がす訳にはいかない!」
「我らとて、そうもいかんのだ!」

渾身の力を込め槍を振りかざす。が、彼の者はそれよりも早く風のように
その切っ先を振るった。体を捻りその刃から逃れようとするが、微かに右腕を
擦る。そのまま彼の者が次の攻撃に移る前に振り上げた槍を振り下ろした。
次の瞬間同時に二人の体が馬から転げ落ちる。彼の者は驚いた様にこちらを
見ているが、正気を戻す前に私にはする事がある。
…軍師殿の策を遂行せねばならぬ。
馬に飛び乗ると本陣に向って自軍とともに坂を駆け降りる。

…軍師殿の言葉、今なら私も頷けよう。
彼の者が我が陣営に加われば、魏の陣営の力を削ぐだけならず、
大いなる力を加える事になろう。
彼の者の知略、槍術、共に敵にあるには惜しい。

「軍師殿、只今戻った。」
「…どうですか。」

ゆったりと羽扇を持ち静かに問う。
その言葉に頷くと軍師殿がゆっくりと出陣していく。


彼の者が…姜伯約が我が陣営に加わるのはその数刻後だった…。

─────────────────────語りへ───


以前から自分の語り専用のお題が欲しいと思っていたのですよ。
…という事で勝手に作ってみました(笑)
今回は短いSS付きですが、毎回こういうSSが付くとは限りませんが、
出来れば付けていきたいなぁと。

さて一番最初の項目は『出会い』なのですが、私と姜維の出会い(笑)は
やはり真・三國無双シリーズです。弟が元々プレイしていたのを見ていただけ
なのですが、徐々にハマまっていきましたね。特に姜維は3からかな。
蜀シナリオの外伝「天水の麒麟児」のムービーがきっかけですかね。
その後は自分専用のエディット武将を作る時に使いやすいキャラを
使おうと姜維を使い出して…今に至る訳です。

彼にハマってから色んなものを買いましたね(苦笑)北方三国志全巻、
吉川三国志全巻、柴錬三国志全巻…言い出したらキリがないくらいに。
無双以外でも彼が一番好きですよ。特に柴錬の彼は可愛い(笑)です。

無双2でも彼を使った事があったのですが、やはり2は陸遜の方が
使いやすいのですよ。姜維使いになった今でも2は少し使いにくいかな。
チャージラッシュがないのとチャージドライブがないのは結構大きいですよ。
無双と通常攻撃5の連撃は使いやすいですけどね。

出会った頃(笑)の彼のイメージって「丞相が好きな声の高い子」という
とんでもないイメージでした。…今でもそれには違いないですけど(苦笑)
でも色んな書籍や無双3の猛将伝における列伝を見ていると、また
違うものが見えてきますよね。彼は蜀の末期を支えた最後の人なんですよ。
帝位は劉禅が継ぎましたが、先帝(劉備)の志を継いだのは丞相諸葛亮でした。
そしてその諸葛亮から志を継いだのが姜維なんです。
確かに彼は無理な北伐を何度も強引に進めました。でもそのまま成都に
留まっていても、いずれ魏の侵攻を受けたでしょうし、劉禅の周りには
宦官が侍っていました。彼は孤立無援だったと思うんです。彼の他にも
もっと優秀な人材が居たら…?蜀はもっと違ったかもしれません。
まぁ、そんな仮定は無駄なことなのですが。

ともかく…姜維と出会って何が変わったって…苦手だった中国史に興味を
持つようになったという事ですか(苦笑)