研究テーマ->ジャンル研究->不思議な音楽->遺伝子の音楽
自然界にある色々なものを利用して音楽をつくることができます。たとえば、地形の起伏をメロディの起伏に置き換えることでも音楽を作ることができます。また、脳波を測定し、そこから音楽をつくるようなこともできます。 ここでは、遺伝子の情報から音楽を作ることについて考えます。  
大野博士の考えたルール
大野博士は、DNAの4つの構成物資、A、T、C、G(アデニン、チミン、シトシン、グアニン)を下記のようなルールで音に変換することを考えました。

(1)上の譜面を参照し、塩基に音を割り当てていきます。たとえば、塩基が、Cだとしたら、「下のシ」、「下のド」、「上のド」、「上のレ」のいずれかを割り当てます。4つのうち、どれを割り当てるかは自由です。Tの場合は、「上のラ」か「上のシ」のいずれかが選択可能です。
(2)音価(音の長さ)の選択は、自由です。
(3)半音の上げ下げは、自由です。

大野博士の考えたルールに関する考察
明らかに、ハ長調あるいは、イ短調を意識した、音選びのルールです。また、音楽的に並べられるように、選択肢にかなりの自由度があります。
私も、最初、自由度をもたせずに、機械的に1対1で塩基を音に割り当てるプログラムを作ってみましたが、実に単調で、音楽的なものにはなりません。この自由度をもたせる発想は、妥当なものだと思います。
ルールをもとに、人間が音を割り当てていく場合、自然に、音楽理論が反映されると思います。たといえば、塩基がCの場合、「下のシ」、「下のド」、「上のド」、「上のレ」の4つが選択可能ですが、直前の音が、「上のラ」の場合、1オクターブ以上離れた「下のシ」の音を選ぶことはあまりしません。おそらく、「上のド」、「上のレ」のいずれかを選ぶことになります。もっと言えば、通常の音楽は順次進行(1つ上の音か1つ下の音に進むこと)がもっとも多いですし、音の跳躍の幅が大きくなるほど、頻度は少なくなりますから、選択肢がいくつかあっても、次に選ぶ音は、自然と絞られてきます。
なお、半音の上げ下げは、自由ということから、実際の選択肢は下記のようになります。

上記では、シやファの場合、ドやミへの半音への調整は、しないことにしています。同様に、ドやミの場合には、シやファへの半音への調整は、しないことにしています。(つまり、ダイアトニックスケール上の音から、ダイアトニックスケール上の音への調整は行いません。)
プログラムでは。。。

プログラムでは、大野博士のルールのような、音の割り当てに従い、音を生成しますが、なるべく跳躍幅が少なくなるように音を選択していくようになっています。 ただし、同じ塩基が続く場合は、選択可能な別の音を鳴らすようになっています。
また、フラット(b)のつく音と、ナチュラルの音が、同じ重みづけで選ばれてしまうと、音楽に調性感がでません。なので、ダイアトニックの音だけを鳴らすように設定できるようにしています。(起動時は、オクターブ内の12音全部が選ばれるようになっています。)
DNAの二重螺旋構造になっています。これは、同時に2つのデータが取り出せるという意味なので、音楽では、和音が鳴らせるという意味になります。こちらも設定で、螺旋の片方だけを鳴らしたり、両方の音を鳴らしたりできるようになっています。
DNAのCGのグラフィックは、実際のDNAの螺旋と同じように、「1回転あたり10.4塩基対」になるようにしています。塩基ごとに、違った色で表示します。一般的かどうかは分からないのですが、aは オレンジ、tは黄色、cは ピンク、gは青になるようにしています。
今後の改良点
小さなところでは、コード進行を生成して伴奏をつけ、メロディは、必要に応じてフラット(b)やシャープ(#)の音を選ぶような仕組みが必要と思います。
大きなところでは、塩基の中に現れる繰り返しのパターンに考慮して、音楽を生成するということが考えられます。音楽は、パターンの繰り返し無しでは成立しません。しかし、厳密に同じパターンを繰り返すのではないのも音楽の特徴です。DNAの配列の中から、まったく同じパターンが繰り返されているところは、それほどないでしょうし、それで音楽をつくるのはナンセンスです。まったく同じでなくても、ほぼ同じところをみつけて、それを生かした音楽を生成するようにするのが良いと思われます。DNAの3Gを見てみると、ところどころ、繰り返しっぽくなっているところがあるのが分かると思います。
たとえば、下の譜面を考えてみます。

上のような4小節の曲があるとします。大きくみると、Aの部分とBの部分は、だいたい同じなので、2小節づつの繰り返しになっていると考えることができます。しかし、厳密にみると、A1とB1はまったく同じですが、A2とB2は少し違っています。
このように、似ているけど、すこし違う繰り返しパターンが、機械的ではない、音楽っぽさをだすのです。
私の場合、ちょっとDNAのデータを見ただけですが、DNAの配列にも、このように、似ているけど、すこし違う繰り返しパターンが、かなりの頻度で出現します。そのすこし違う繰り返しパターンから、上記のような音楽っぽさを引き出すことが、ソフト改良の次の目標です。
ちなみに、このような、繰り返しへの着目は、フラクタル音楽と共通するものと思います。