映画「ウォルト・ディズニーの約束」(Saving Mr. Banks)

4月に観た映画「ウォルト・ディズニーの約束」(Saving Mr. Banks)がきっかけに
「メアリーポピンズ」と原作者「P.L.トラヴァース」についていろいろとビデオを
観たり、本を読んだりしました。この映画は公開前から観たかった作品でしたが、な
かなか観に行くことができませんでした。地味でマイナーな映画ということもあり、
公開3週目くらいから一日1回上映、それも朝8時台(爆)なので、休日に早起きを克服
しないと観ることができないという個人的には非常に高いハードルが、存在しており、
やっとこさ観に行ったという感じでした。実はその週の金曜に上映終了でラストチャ
ンスの日曜だったことになります。(約ひと月の上映期間)ちなみに僕が観た時は、
朝の8時25分上映開始・・・。

映画の内容は、「メリーポピンズ」の原作者P.L.トラヴァースとウォルトを中心とし
たディズニースタジオの制作裏話なんですが、幼少期に辛い思いをしたクソ婆キャラ
のトラヴァースの父親との関係がメリーポピンズの制作とシンクロしていくところが
大きな見所です。

僕自身メリーポピンズが大好きで何度も観ていますが、次回観る時は、これまでにな
いところで泣けそうです。大変良い出来の映画だと思いますが、本当に扱いがマイナ
ーで可愛そうです。同じくディズニーの「アナと雪の女王」が一日6回上映なのと対
照的でした。おまけにパンフレットも売り切れでした。orz (後にヤフオクでお高
い値段で購入しましたが、結構内容が充実していました。)

自宅に原作本があったので、改めて読んでみたり、50周年記念BDを観たりしました。
BDには、映画のメイキングとかも収録されており、リアル「ウォルト・ディズニーの
約束」を垣間見ることができました。(笑)でも、正直言って原作より映画の方が圧倒
的に素晴らしいと感じてしまうのは、原作のファンに怒られそうですが、もし映画が
なかったらマイナーな本で終わったように思います。逆に映画を見てから原作を読む
と結構がっかりするかも? (大汗)

実は、10年前に40周年記念DVDが発売になった時、BDも発売になると思っていたんです
が、結局DVDのみでした。今回初のBD化ということで期待していたんですが、画質など
なかなか良い出来でした。

本当にジュリー・アンドリュースがマイフェアレディに選ばれなくて良かったです。
(アカデミー賞のスピーチで本人も皮肉でしょうがそう言ってました。説明しておく
とジュリーは、マイフェアレディのオリジナルキャストだったんですが、映画版はオ
ードリーが主演に選ばれ、おかげでこちらへ出演可能になった経緯があります。)あ
と、バート役のディック・ヴァン・ダイクがダンスも歌もこの映画のために練習した
っていうことに驚きました。CGの無い時代の特殊撮影はアイデア勝負的なものが多く、
笑うと浮いてしまうウィッグ叔父さんのシーンは、天井が横と下のセットも作るなど
力技で笑ってしまいました。音楽、大好きな曲が多く、懐かしく観ることができまし
た。当時の最高水準の技術を使ったエフェクトが素晴らしいと思います。

また、音楽担当のシャーマン兄弟も素晴らしかったです。本物も映画版も(笑)
「ディズニー映画の名曲を作った兄弟:シャーマン・ブラザーズ」というビデオも観ま
した。素晴らしい作品を作った陰には、いろいろな想い、苦労、悩みなどがあったん
だと感動しました。

原作の「メアリーポピンズ」は、映画の原作になった第一巻は自宅にあったのですが、
バンクスさんの失業のエピソートが見当たらなかったので図書館で残りの3冊(メアリ
ーポピンズのシリーズは全部で10冊あり、料理本とかを除いた物語としては、メイン
の4冊と考えて良いと思います)を借りて斜め読みをしました。でも失業のエピソート
は、見つかりませんでした。結局「バンクスさんを救え!」は、映画のオリジナルの
ようです。(映画化の際にも1巻の章に赤丸を付けてました)

映画はあまり記憶にないが原作は好きだという英文科卒の嫁さんに言わせると映画の
メアリーポピンズは原作とイメージが違うと言います。確かに映画しか観た事が無か
った僕は原作を読んだ際に結構違和感を感じたのは、それの裏返しだったんだと思い
ました。そうそう、メアリーって鼻で「フフン」って笑って、基本ツンとしたキャラ
であまりフレンドリーな印象がありません。

そのあたりの改変が映画化の監修作業でトラバースの逆鱗に触れたようです。という
か?バートの役回りを含めかなり違った話になってます。(爆) あの公園へ遊びに行
くシークエンスは、原作ではたった6ぺージです。10倍くらい増量させています。(爆)
  結局ディズニーは、子供を喜ばそうとああいう形に仕上げたんですね。トラバースが
ペンギンなどを最後まで許さなかったのは、原作では子供に媚を売るようなキャラク
ターではないのに笑顔で楽しく歌うのは、NGだったんだと思います。
映画「ディズニーとの約束」では、強烈に映画化の作業を騒がしいものという感じに
描いています。(かなり極端です)会議の席に毎回ドーナツやキャンディなどのお菓
子を山盛り用意したり、いかにもサービス過剰の描写だと思います。でも本当に大切
に扱って欲しかったのは、父親のバンクスさんだったというのが映画のポイントでし
た。映画のネタばれになってしまいますが、お父さんのバンクスさんのモデルはトラ
バースの父親なんです。彼女の「トラバース」という名前も彼の名前からとっていま
す。(彼女の本名は、ヘレン・リンドン・ゴフ。この事が結構ポイントだったりしま
す)トラバースは父親が大好きだったようですが、お酒で仕事を失敗したり、身体を
壊したりして1907年に亡くなってます。映画では、映画の制作と子供のころのトラバ
ースと父親の関係を中心とした家族の話が同時進行します。本当に父親役のコリン・
ファレルが素晴らしい!

トラバースはオーストラリア出身で25歳でロンドンへ移住しています。映画で陰で
「彼女はオージー」みたいな言われ方をしていたのが印象的でした。確かにイギリス
の作家のイメージですもんね。自分の伝記を頑なに拒否したのは、オーストラリアと
いう自分のルーツを認めたくないというのが、あったように思います。その上「ケル
ト文化」に傾倒したりとなかなか複雑な印象です。今回初めて知ったんですが、ケル
ト神話とかケルト文化とか文字で残っていないこともあり、かなりの虚構な部分があ
るようです。まぁ神話ですから言い伝えに変わらないんですが、かなりファンタジー
の要素が大きいと感じました。92年にウエールズにひと月ほど出張したんですが、ケ
ルト文化みたいなものが面白かった記憶がありますが、やはり観光では分からない事
が多いですね。

パンフレットにもトラバースについての文章を書いていらっしゃる森恵子さんの「P.
L.トラヴァース 現代英米児童文学評伝叢書 8 」も読みました。書かれたくない
自伝というか?人生についての文章や年譜が興味深かったです。結構成功してはいる
んですが、プライベートは色々とあったようです。もっとも色々あるのが人生なんで
すが・・・。トラバースを演じたエマ・トンプソンの分析は「複雑で屈折した性格」
みたいなものだったんですが、全く同意です。映画では、かなりチャーミングに描い
ていたと思いますが、実物は女優崩れの気難しい偽(爆)イギリス人作家で神秘学や
禅思想の影響を受けている人物だと思われます。(映画の最後に実際のトラバースの
肉声を聴くことができますが、そんな感じです。(爆))

対するウォルト演じるトム・ハンクスもエマに負けないくらい素晴らしい!
隠れて煙草を吸ったり、ビジネスマンの面も出したり、決して必要以上に美化されて
いないと思います。なにより「現場にいた」リチャード・シャーマンが脚本を読み撮
影に立ち会っているのが、説得力を感じさせます。トラバースは公開記念パーティの
席で「かなりの出来ですわ。アンドリュースさんのメリー・ポピンズはよく似合って
いると思いますけど、バン・ダイク氏の起用は間違いでしたね。それに私、実写と漫
画の合成は好きじゃありませんわ。あの部分はいつカットしてくださいますの?」と
詰め寄ったが、ウォルトはきわめてクールに微笑みながら、こう答えたという。「映
画が完成したら僕の所有物になると、ちゃんと契約書に書いてありますでしょう。も
う、何も手は加えませんよ」(笑)映画では、描かれていませんが、ウォルトは、ス
タジオが軌道に乗る前に作った人気キャラクターを他の会社に泣く泣く持っていかれ
た過去があり、キャラクターへの思いれなどには、理解があると思われます。(笑)
逆にこの映画は、登場する人たちのバックグランドを知っていたらさらに面白さが増
すと感じます。ウォルトしかり、シャーマン兄弟しかり。

ディズニーを描いていながらディズニー映画じゃないというところが良かったと思い
ます。非常に地味な作品かもしれませんが、個人的には、星4つあげたい映画でした。

2014年6月1日

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