夕食を食べ終わった後は、三人でテレビを見たり、トランプやテレビゲームを して遊んでいたのだが、そのうち晶香は疲れたのか眠り込んでしまった。今は浩 之と二人で居間のソファーに座って先ほどのワインを飲んでいる。 「いいワインじゃないけどな」 おいしい、と言った私に、浩之はそう答えた。 「お酒のおいしい、まずいは何を飲むかじゃなくて、誰と飲むか、だそうよ」 私が誰かから聞いた事をそのまま言うと、浩之も、そうかもな、と同意する。 「それにしても……」 「何よ?」 「いや、さっきの晶香の言葉……」 「あれ、ね」 「子供って、妙に鋭いもんだな」 「う〜ん、そういうそぶりは見せなかったつもりなんだけど……」 「単に俺達が仲良くしてるのをみてそう思ったのかもな」 「そうだとしても、半分はあたり、よね……」 そう言ってお互いに笑いあう。 疲れ果てたらしい晶香は手にしっかりとウサギのぬいぐるみを持ってすやすや と眠っている。 「ごめんね、晶香の相手してもらって」 疲れたでしょ、訊いてみた。 「確かに疲れたけどな。でも、そんなこと忘れるくらいに楽しかったぜ?」 私に向けられた笑顔。 ……私、この人のこういうとこ好きになったのかな。 そんなことを考えていると、浩之が続きを口にする。 「なんせ、可愛い女の子を二人も独占できたしな。気付いてたか?すれ違う男の 8割くらいがこっちの方振り返ってたぜ」 「当然でしょ?なんせ、この私と、その従姉妹なんだから。これで目に留めない 男がいるなら、どうかしてるわよ」 私がちょっとふざけ気味に言うと、浩之も笑顔でこう言った。 「振り返った奴の半分くらいが、俺の方羨ましそうに見てたぜ?」 そんなことを話してると、晶香の声がした。 「お姉ちゃん……お兄ちゃん……今度はあっち」 どうやら寝言のようだ。顔には、微笑みが浮かんでいる。 「楽しい夢見てるみたいだな」 「そうね……」 微笑んで言う浩之と私。 「ところで、ねぇ、浩之?」 「ん?」 「結局、あなたは誰が好きなわけ?」 「ん〜」 「それともなに?今みたいにいろんな女の子と仲良くしてるのが好きなの?」 「いや、そうじゃないんだけどな」 困った顔をする浩之。 「じゃ、誰が好きなのよ?」 「正直言うと、決められないんだ」 「誰にするかを?」 「いや、どっちにするかを、だ。こういう言い方は失礼かな?」 「?」 「綾香と、芹香先輩。俺が、どっちを好きなのか、わからない」 「もしかして、よく似てるから?」 少し棘のある言い方。自分でも、好きじゃないけど、どうしてもこういう言い方 になってしまう。 「いや、そうじゃない。二人とも、違うからなんだよ」 「…………」 「どこがどうとかは、言う気はねーけどな。はっきりしてるし」 二人の間に沈黙が訪れる。 「でもな、わかった」 「何が?」 「先輩もお前も、俺が好きなんだよな。で、俺はお前も先輩も二人とも好きなん だ。どっちかには決められない」 ずるいかな?と浩之は言う。 「まあ、ずいぶんと優柔不断で都合のいい答えではあるわね」 声を低くして言う。 「そうだよなあ……」 う〜ん、といった感じで浩之は考え込んでしまう。 ちょっと困らせてみようかな。 「あ〜あ、でも残念かな、少し」 「え?」 「あなたが姉さんと結婚してくれたら、私たちは楽できるんだけどな」 「なんで?」 浩之が疑問だ、っていう感じで言う。 「だって、そうすれば私も姉さんも来栖川グループの矢面になることはないでし ょ?」 「誰と結婚しても同じだろ?」 「私も姉さんも、あなたじゃないとイヤだもの。少なくとも今は、ね」 そして、くすり、と笑う。 「それに、私とあなたが結婚しても姉さんは長女よ。相手が見つからなければ、 会社を継ぐのは姉さん。私だけ楽にはなれないわ。だからあなたと姉さんが結婚 すれば会社を継ぐのはあなた。私と姉さんはその後ろで遊んで暮らせるってわけ よ」 「お前は結婚しないのかよ?」 「だから、あなた以外とはイヤよ」 どっちにしても責任は重そうだな、といって苦笑する浩之。 「私たちを好きになったんだから、それくらいは覚悟してもらわないと」 「そうだな……」 浩之の手が私の頬にのびて、引き寄せられる。 そして、キス。 彼の胸に倒れ込んで、抱きしめられる。 やだ、なにしてるんだろ…… なんでこんなこと……あたまがぼーっとして、よく、考えられない。 やっぱり、ワインのせい、かな…… 「あーっ!やっぱりお姉ちゃん、お兄ちゃんのこと好きなんだ!」 ……え? 目を開けてみる。 私と浩之が座ってるソファーの前で、晶香がこっちを見ている。 「ね、ねえ、晶香、いつからみてたの?」 「えーとね、お兄ちゃんとお姉ちゃんがチューしてるところ!」 はあ、目眩がしてきた…… 浩之は、というと、 「はは、はははは……」 引きつった笑いを浮かべてる。無理ないかも…… あ、そうだ。 「晶香、今のこと、誰にも言っちゃダメよ?」 「なんで?」 「なんででも」 「教えてくれないと、言っちゃうよ〜?」 「……二度と遊んであげないわよ」 少し低い声で言う。 「わかった……言わない」 少し、可哀相だったかな…… 「ねえ、眠いから、もう少し寝てもいい?」 「どうぞ。おやすみなさい」 「うん……」 そう言うと、晶香はもと寝ていたソファーで寝息を立て始めた。 「……ねぼけてたのかな?」 「だといいけど」 顔を見合わせて笑う。 「晶香は寝ちゃったし、どうしようかな……」 「泊まってけよ。あの子起こすのは可哀相だし」 「あら、いいの?おじいさま達にばれたらただじゃ済まないかもよ?」 「ばれないようにしてくれるんだろ?」 「わかってるじゃない?」 そして、キス。 「部屋は、親父達のを使ってくれ。晶香を連れてかないとな」 「私はあなたの部屋でいいけど?」 「ばーか」 「冗談よ」 浩之は晶香を抱きかかえる。 「よっと……結構重いな」 「女の子に対して失礼よ」 そう言って彼のお尻を軽くはたく。 「おっとあぶねーなー」 そう言いながら、階段を上っていく。 「これで、よしと」 「ご苦労様……」 浩之を部屋の入り口まで送り出す。 「おやすみ……」 「ああ。おやすみ……」 ドアが閉まる。家にはなんて言い訳しようかな。 次へ