「どうだ?おいしかったか?」 「うん!とってもおいしかった!」 牛丼屋を出て、晶香は浩之の問いに本当においしかった、という表情で応えた。 晶香と自分の分は払うと言ったのに、浩之は、 「いいからまかせとけ」 と言って、三人分払ってしまった。後で聞いたら、バイトして少し収入があった んだって。 その後は、三人で街をぶらぶらして過ごした。晶香にはいろんな物が珍しかっ たみたいで、あちこちに立ち寄っては、ウィンドウショッピングをしたり、また ゲームセンターでも大はしゃぎして、クレーンゲームで浩之にウサギのぬいぐる みをとってもらったりして喜んでいた。ちなみに、私には黒猫のぬいぐるみをと ってくれたりもした。 夕方、晶香を間に挟んで手を繋いで歩いていた。 「晶香ね、とっても楽しかったよ」 「よかったわね」 「うん!」 晶香はご機嫌だったが、 「ほんとのお兄ちゃんとお姉ちゃんだったらいいのに」 そう言って、寂しそうな顔を見せた。 「…………」 「……また、遊びに来ればいいじゃねーか」 浩之の言葉に『え?』と驚く晶香。 「別に遠くに住んでるわけじゃないんだろ?」 「うん……」 「だったらさ、休みの日にでもまた綾香んとこにいきゃいーじゃん。そうすれば 綾香がまた連れて来てくれるんじゃねーか?」 そう言って、私の方を向いて、浩之はにやっと笑う。 「……綾香お姉ちゃん、いい?」 晶香が上目遣いに私の方を見る。 「……いいわよ」 そう答えるしかなかった。これで断れる人なんて、いないわよ。 「本当?ありがとー!」 ジャンプして私に抱きつく晶香。 「ちょ、ちょっと!やめてよ〜」 晶香は私の首にしがみつき、浩之はそれを楽しそうに見ている。 ……全く、こっちは苦しいのに。 暫く歩いた後、私はふと浩之に訊いてみた。 「ね、晩御飯どうするの?」 「あ?コンビニで弁当でも買うつもりだけど……作るの面倒だし」 「じゃ、私が作ってあげようか?」 「え?」 「今日は私たちに付き合ってくれたでしょう?そのお礼」 驚いた顔の浩之に微笑んでみせる私。 「いいけど、この子はどうすんだ?それに、遅くなるとまずいんじゃ」 「だーいじょうぶ。家族は誰もいないから、この子と二人なのよ。電話で連絡入 れればいいから。ね?」 「うん!」 嬉しそうに微笑んで、晶香も手伝うよ、と言う晶香。 まあ、それでいいなら、と浩之もO.Kしてくれた。材料になる物は冷蔵庫に あるらしい。あとは、私の腕次第だけど、それなりに自信はある。浩之が満足し てくれる物が出来るといいけどね…… グツグツグツ…… キッチンにいい香りが漂う。 浩之の家にあった材料で作っているのは、ビーフシチュー。足りなかったのは デミグラスソースだけで、近所のコンビニで買ってきた物を使っている。 晶香は居間のソファーでテレビを見ていて、浩之はシャワーを浴びている。私と 晶香もさっき浴びた。 「お、いい匂いだな」 シャワーを浴び終えた浩之がキッチンへやってきた。 「あ、後少しで出来るから。晶香〜、お皿並べるの手伝って!」 「はーい!」 居間にいた晶香がてててて、とやって来て、あらかじめ出して置いたお皿を並べ ていく。 「しかし、お前に料理が出来るなんて意外だな〜」 「あら、これでも女の子ですからね。それに、姉さんと違ってある程度は一人で 何でも出来るように育てられましたからね」 「先輩は料理できないのか?」 「ホットケーキとか、カレーとかなら出来るみたいだけど……」 そのとき私は、以前姉さんの作った料理を思い出していた。 「けど、なんだ?」 私の微妙な表情の変化を見て取ったのか、浩之がそう尋ねてきた。 「いえ、姉さん、凝ってるでしょ?例の……」 「ああ、あれ……」 姉さんはオカルトやら魔術やらにはまっている。それで、いつもおかしな儀式や 実験を繰り返したりしている。成功したり失敗したりするが、怪しげな薬に関し ては、成功したという話を聞かない。逆に、アミュレットなんかは成功している ようだ。 私が思いだしたのは、一年ほど前に姉さんにお茶をごちそうになったときのこ とだった。 カップに注がれた紅茶に口を付けたとき、それに気付いた。 「あれ?姉さん、これ、ちょっと変わった味がするわね」 「……」 「え?疲れがとれる効果がある魔法薬をいれた?」 こくん、とうなずく姉さん。 「大丈夫なの?」 またしてもこくん、とうなずく。 別段、変わった事もなかったので、お茶とホットケーキをごちそうになって、 自分の部屋へ戻った。その夜、私はいつもよりぐっすりと眠った。 目を覚ますと、姉さんとセバスチャンが心配そうに私をのぞき込んでいた。 「なに……?どうしたの?」 実は、例の紅茶に入っていた薬は失敗作だったらしく、疲れがとれる代わりにし ばらく眠り続ける、という副作用があったらしい。それで、私は丸二日ほど眠っ たままだった、と言うわけだ。 「そんなことがあったとはねえ……」 浩之はさもありなん、という感じで聞いていた。 「俺も、前に『元気が出る薬』を飲んだら、気絶したことがあったけど 」 苦笑して言う浩之。 「まあ、悪気がないからなぁ……」 「そうなのよねぇ……」 二人で苦笑しあっていると、晶香が言った。 「ねぇ、ご飯まだぁ〜?」 「あ、ゴメンゴメン。すぐに用意するわ」 と、浩之が冷蔵庫でごそごそやっている。 「なにしてんの?」 浩之はこっちに一本の瓶を掲げて見せた。 「せっかくだし、これがねーとな」 その瓶は、ワインのボトルだった。 私と浩之が向かい合って座り、晶香は私の隣に座っている。 「ま、まずは一杯、ってことで……」 そう言って浩之は私の前に置かれたグラスにワインを注いでいく。 「未成年なのよ?私たち……」 そう言ってはみたが、実際飲んだことがないわけでもない。それに、晶香や浩之 と一緒にいるのも手伝って、微笑みながら言ってしまった。 「とか言いながら、飲んだことくらいはあるだろう?」 「そりゃあ、まあ、ね」 浩之は自分のグラスについだ。 「晶香ものむ〜」 と言う晶香に浩之は笑って、 「お前はこっち」 と、冷蔵庫にあったアップルジュースを晶香の前に置かれた私たちと同じグラス に注いでやっている。 「ま、とりあえずは……」 『カンパ〜イ』 三人の声が重なる。晶香は手が届かないので、椅子の上に立っている。一口、二 口とワインを味わった後、いよいよメインディッシュにとりかかる。 浩之がまず、シチューを口に運んだ。 「どう?」 「……うまい……」 「おいしいよ!お姉ちゃん」 浩之も晶香もそう言ってくれた。 「ふふっ、ありがと」 自分も食べてみる。う〜ん、確かに前に作ってみたときより、美味しく感じる。 「しっかし、こんなに上手く作れるとはなあ」 「あら、どのくらいだと思ったの?」 「よくて、俺よりマシ程度だと……」 「あら、失礼ね〜!」 「でも、それだけじゃないと思うよ?」 「なに?晶香」 口を挟んだ晶香に言う。 「あのね、ママが前に言ってたんだけど、好きな人のために作ると、美味しくな るんだって!」 ピタッ! 私と浩之の手が止まる。そりゃあ、言葉にはお互い出してないけど、そういう雰 囲気はある。もっとも、浩之は芹香姉さんともそういう感じではあるのだが。 「お姉ちゃん、お兄ちゃんのこと好きなんでしょ?」 「ま、まさか!そんなことあるわけないでしょ!ね、浩之?」 「そ、そうだぜ。そんなことあるわけない……」 「そうなの?」 晶香、鋭いかも。でも、浩之が本当はどう思ってるかは分からないし 「そ、それよりもおかわり!」 浩之はその話題をうち切るようにそう言った。 次へ