CAN FLOWMOTION

カンというのは今考えてみるとすごく時代を先取りしていたバンドで、音はしょぼいですが(ドイツのバンドの割にローテクで、中期までの作品は2台の2トラックレコーダーでピンポン録音されていたらしい)、今聴いてもとても新鮮に聞こえます。

このFLOWMOTIONはダモ鈴木が脱退した後、新たなスタイルを探求していた時期である1976年の作品で、前作のLANDEDからVirginと契約し、新たにポップ的なカラーを打ち出し、このアルバムではレゲエやエスニックのエッセンスが加えられ、さらに聞きやすくなっています。

アルバムはトレモロをきかせたギンギンのギターコードで始まります。

アルバム1曲目I WANT MOREはディスコっぽい曲で、シングルヒットしたナンバーですが、バックにVCSシンセサイザーのリズムが流れていて、後のジョルジョ・モルダーのミュンヘンエレクトリックディスコミュージックに通じるものがあります。AND MORE,AND MOREと繰り返されるコーラスが心に残るナンバーです。

CASCADE WALTZはレゲエのエッセンスが織り込まれたワルツです。マイケル・カローリのつぶやきのようなヴォーカルのバックに流れる、ホルガ−・シューカイのベースが曲にいいアクセントをつけています。ロバート・フリップのようなマイケル・カローリのギターが印象的で、バックに流れるシンセサイザーのノイズがサウンドに立体感を与えています。

LAUGH TILL YOU CRY−LIVE TILL YOU DIEはボブ・マーリーのPUT IT ONによく似たナンバーですが、この曲もホルガーのベースがいいアクセントを加えていています。単なるレゲエのコピーでない独特の雰囲気を持った曲になっています。

AND MOREはI WANT MOREのリフレインで、AND MOREというコーラス部分が延々と繰り返されます。マイケル・カローリのワウギターが気持良く跳ね回ります。コーラスの声が地響きするように大きくなり、やがてフェードアウトして終わります。

アナログ版B面1曲目のBABYLONIAN PEARLはその名の通り中近東的なバラードで、アーミン・シュミットの渋い歌が聴けます。メンバーも各自気楽に演奏しているようでいい感じのナンバーです。

SMOKE(E.F.S.NO.59)は延々とパーカッションが鳴り響く呪術的なナンバーで、バックに呪文のようなつぶやきが流れ、アフリカの民族音楽を連想させます。

ラストのタイトル曲FLOWMOTIONはレゲエぽいリズムの上を、ジミヘンのようなギターソロが延々と続いていくカンらしい一風変わったナンバーで、かっこいいギターソロのせいか、長い曲の割には退屈せずにどんどん曲の中に引き込まれてしまう不思議なナンバーです。

このアルバムの次に発表されたSAW DELIGTではホリガー・シューカイはテープ操作のみで演奏に参加せず、新たにベースとパーカッションに二人の黒人ミュージシャンが加わり、洗練されたサウンドを聞かせてくれますが、単なるフュージョンバンドになってしまって、もはやカンのサウンドと呼べるものではなくなったように思えます。確かにアナログサンプリングされたアフリカの女性ヴォイスが挿入されたアニマルウェーブのような名曲もありますが、やはり僕はホルガー・シューカイのヘタウマベースがないと、カンのサウンドとはいえないと思います。

 

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