平成9年8月27日
(社)JPNIC
副理事長 丸 山 直 昌 殿
弁 理 士 会
                    会 長  田 中 正 治
商標委員会
                    委員長  押 本 泰 彦


ドメイン名の登録に関する提言



序:インターネットの社会は、商業ベースに利用されることにより年々 発展しており、ウェブサイトを開設しようとする者により各国において ドメイン名の登録申請が後を絶たない状況となっている。
 インターネットがもっとも発達しているアメリカ合衆国では、〜.COM (ドットコム)の不正登録が問題となっている。
 これは、アメリカにおける登録機関(NSI(Network Solution Inc.))が、一業種一ドメイン名の原則を採用しないばかりでなく、ド メインネームの自由譲渡を認めていることに起因している。
 これに対して日本ではドメインネーム所有者と商標権者との間の問題 は起こっていない。
しかし、現在アンダーグラウンドで発生している周 知又は著名商標とドメインネームとの問題は、後述するように、ドメイ ン申請者のモラルに反するようなドメインネームの選択に起因しており、 今後、個人又は企業によるかかる不正登録が増加する危険性を秘めている。
 今日のドメインネームの登録申請は、商業ベースを目的としたものが ほとんどであり、ドメインネームを自由に選択させることは、ドメイン ネームと商標権との抵触又は商標の希釈化を引き起こすことになりかね ない。
そこで、登録機関としては、ドメインネームが新たな問題を引き起こす 前に、ドメインネームの申請を登録段階で制限する必要性が生じている。


1.日本におけるドメインネームと商標との問題
(1)調査したところ、日本において発生しているドメインネームと商 標との問題として、以下のように、他人の周知著名商標を第三者がドメ インネームとして登録しているような場合がある。


(1) 松坂屋(matsuzakaya.co.jp)
組織名:有限会社ベラックシステム販売
   Organization:Bellac System Supply co.,ltd.
ネームサーバー:hq.hart.co.jp
状態:Connected
割当年月日:96/06/21
接続年月日:96/08/19

(2) 伊藤園(itoen.co.jp)
組織名:不動印刷株式会社 ネームサーバー:aerotech.jetnet.co.jp
状態:Connected
割当年月日:96/11/26
接続年月日:96/11/26

(3) ロッテ(lotte.co.jp)
組織名:不動計画株式会社
   Organization:Fudokeikaku Co.ltd.
ネームサーバー:aerotech.jetnet.co.jp
状態:Connected
割当年月日:96/11/26
接続年月日:96/11/26

(4) ハナエモリ(hanaemori.co.jp)
組織名:日本インデックス株式会社
   Organization:Nihon index Co.ltd.
ネームサーバー:aerotech.jetnet.co.jp
状態:Connected
割当年月日:96/11/26
接続年月日:96/11/26

 これらのドメインネームを見て、商品又はサービス業界の需要者・取 引者が、連想する会社又は組織は、デパートの「松坂屋」、飲料水・お 茶の「伊藤園」、菓子の「ロッテ」、デザイナーの「森英恵」となると 思われる。
 しかしながら、実際にこれらドメインネームを登録している企業は、 これらドメインネームから連想される企業又は個人とは全く異なる会社 となっている。
 しかも、これら4つの不正と思われるドメインネームの内3つは、同 じ1996年11月26日に割当られたもので、ネームサーバは同じaerotech. co.jpとなっている。
 さらに同じOrganization名で申請されているにも関わらず、2つ以上 のドメインネームを割り当てている場合も見られる。
 組織名自体が、異なっていればOrganizationが同一でも、ドメインネ ームを取得できるということを利用した悪質なケースと思われる。
 このことは、誰でも自由にどんなネームでも他に同一のドメインネー ムが存在しなければ取得できるという現在の状況に起因する問題である と思われる。

(2)また、JP-NICが管理しているドメインネームは第2、第3レベル のドメインネームまでであって、第4レベルのドメインネームについて は、管理の対象となっていない。
 しかし、第3レベルドメインネームについて、その選択を申請者の自 由に任せた時には、以下のような問題が起こることが予想される。
 すなわち、第2、第3レベルのドメインネームとして、特に第3レベ ルのドメインネームについて業界における普通名称が取得され、その結 果として自由にネームを選択できる第4レベルにおいて他人の企業名と 同一のネームを使用することにより、一般ユーザーに対してサービス又 は商品の出所につき混同させるおそれが生じる。
 すなわち、

第3 第4 第3
     motor.co.jp → nissan.motor.co.jp
newspaper.co.jp→ asahi.newspaper.co.jp
serve.co.jp → nifty.serve.co.jp
ltd.co.jp → mitsubishi.ltd.co.jp

のようなドメインネームの使用が放任されることとなる。
しかしながら、需要者を誤認混同から保護し、著名商標権者の利益を 保護するという観点から、かかる行為は排除されなければならない。
 ちなみに商標法では、商品又はサービスの普通名称、慣用商標等は一 般的登録要件(第3条)で規制すると共に、その商標法第4条第1項第 1号乃至第7号に公益的不登録事由が掲載されており、これに違反した ものは拒絶又は無効とされるようになっている。

2.ドメインネーム申請に対する契約による制限
 上記のような問題が生じるのを防ぐために、ドメインネームの割当は、 申請者と登録機関との契約において、以下のような制限を課すのがよい と思われる。

 「ドメインネームの申請は、
  (1)申請者の英文氏名又は名称、
  (2)申請者の氏名又は名称の英文の略称、
  (3)申請者が、現に登録商標を所有するときには、その登録商標の同 一の英文又は英文の音訳のみをその対象とする。
  但し個人名又は名称が既登録のドメインネームと完全一致し、 他の(2)(3)のいずれの申請も不可能な時には例えば63文字以内 において(1)(2)(3)のいずれか2つを組み合わせて結合することに より既登録のドメイネームと区別することができる。」

 ちなみに、1997年7月19日に公表された「Draft Memorandum of understanding for the internet council of registrars (CORE-MoU)」のAppendix Cの「REASON FOR REGUESTING THE PATICULAR DOMAIN NAME」においては以下のように規定されており、上 記制限事項と一致する。

  「この特定のドメインネームを要求する理由は、下記の事項と一致 する。
  (1)申請者の企業名又はその略称
(2)申請者の商標又はその略称(変化)
  (3)個人の申請者の名前又はその略称(変化)
  (4)他(充分な説明を備える)」

一企業に対して割り当てられるドメインネームが一つに制限されてい る場合に、一般的に当該企業は企業名をドメインネームとして選択する のが普通である。
また、企業によっては、その略称が周知化している場合もあり、企業 名の次に企業が考えるドメインネームとしては企業の略称を選択するの が一般的であろう。
 企業名は、所轄の法務局内で同一目的の同一又は類似の企業名が存在 しなければ登録が認められるわけであるから、企業名も全国的に同一名 称のものが多数存在し、その略称も同一のものが多数存在する。
 そこで、自己の企業名及びその略称のいずれについても同一ドメイン ネームが既に他人に登録されてしまっている場合に、企業がドメイネー ムとして選択するのが、一番知られていると思われる商標であると思わ れる。
 なお、登録商標も日本国内において42の分類に合計130万件存在 するので、同一登録商標が多数存在するケースもあり得る。
 しかし、一業種一ドメインネームの原則を守る限りにおいて、同一名 称の企業が、企業名、略称、登録商標のいずれもが競合する確率は極め て低いといえる。
 さらに登録商標を多数所有する企業にとって、取得又は選択できる商 標の数が多数あるのでドメインネームを取得できなくなるケースは極め て稀といえる。
 そこで、インターネット社会における商業秩序を守る上で、企業など が取得できるドメインネームに上記のような制限を設けることは必要と 思われる。

3.一般的表示の不登録事由について
 前述1.(2)で述べた第4レベルのドメインネームについての問題 に関して、ドメインネームの登録に際して、申請者がそのホームページ において行う商品又はサービスの内容を予想し、申請されたドメインネ ームが普通名称であるとか慣用商標であるとかを判断することは非常に 難しく、この問題に登録時の審査で対応するのは困難ともいえる。
また、前述2.「〜申請に対する契約による制限」で述べたような規 制を行えば、申請者が不正に普通名称又は慣用商標を第3レベルに登録 することは困難となり、第4レベルにおいて他人の登録商標を選択する 意味が失われることになるので、これにより、前述1.(2)の問題の 発生は防げるとも考えられる。
 しかし、不正者が自己の企業名として国際機関又は他人の著名商標と 同一の名前を選択する可能性もある。
国際機関名、例えば、unesco.or. jp、wipo.or.jp等がこれらの機関と異なる第三者に登録されたとき、ユ ーザーは誤ってかかるドメインネームのウエブサイトにアクセスする危 険性が予想される。
 これはウエブサイトのコンテンツの出所につき混同を起こさせること になる。
 そこで、かかる不正行為を少しでも減らすためには、商標法に規定す るような公的不登録事由を契約条項に加えるべきである。
 商標法においては、第4条1項1号乃至第7号に公的不登録事由を規 定している。
ドメインネームについても同様の不登録事由を規定するの が好ましい。
 ちなみに先のWIPOの会議において、フランス、スウエーデン、オース トラリア等はかかる要件を満たすもののみを登録するようにしていると 主張している。
 なお、商標法第4条第1項第1号乃至第7号の中には、ドメインネー ムの登録対象外である記号、紋章、図形等も含まれているために、これ らは除く必要がある。
 また1号乃至6号に該当する商標については、既に特許庁のデータ ベースにリストが作られていると思われ、これらについては機械的に瞬 時に判断することが可能と思われる。
 参考のために商標法第4条の規定及び該当する具体例を以下に記す。

第4条(商標登録を受けることができない商標)
1.次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受 けることができない。
(1)国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商 標
(2)パリ条約(1900年12月14日にブラッセルで、1911年 6月2日にワシントンで、1925年11月6日にヘーグで、19 34年6月2日にロンドンで、1958年10月31日にリスボン で及び1967年7月14日にストックホルムで改正された工業所 有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約をいう。以下 同じ。)の同盟国、世界貿易機間の加盟国又は商標法条約の締約国 の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟 国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、通商産業大 臣が指定するものと同一又は類似の商標
(3)国際連合その他の国際機関を表示する標章であつて通商産業大臣 が指定するものと同一又は類似の商標
   例)wto、wipo、ompi、unesco、oecd、who、fao、icao、imo、 ilo、imf、unido、ifc、ida、ibrd、itu、wmo、ifad等
(4)白地赤十字の標章又は赤十字若しくはジュネーブ十字の名称と同 一又は類似の商標
(5)日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商 標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印 章又は記号のうち通商産業大臣が指定するものと同一又は類似の標 章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品 又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの
(6)国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団 体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて 営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一 又は類似の商標
   例)japan、tokyo、yokohama、nippon
(7)公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
   例)○×△首相の馬鹿、
     弁理士会が商標「弁護士会」を申請するケース
卑猥なもの
(8)他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸 名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人 の承諾を得ているものを除く。
)   例)mori-hanae、hanae-mori
(15)他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標 (第10号から前号までに掲げるものを除く。
)    例)sony、national、hitachi、toshiba、canon
(19)他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又 は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類 似の商標であつで、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損 害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて 使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
   例)sony、national、hitachi、toshiba、canon

2. 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者が前項第6号の商標について商標登録出願をするときは、同号の規定は、適用しない。
   例)japan、tokyo、yokohama、nipponをそれぞれの機関又は国が申請するときには登録の対象となる。

3. 第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。
例)申請された商標出願時に、当該商標がまだ周知、著名となっ ていない時には、その商標出願の登録を認めるというもの。


 そこで、弁理士会としてドメインネームの登録に際して上記2.の 「ドメイン申請に対する契約による制限」に加えて、以下のような基準 又は契約条項を設けることをJPNICに対して提言する。



1.以下に示すドメインネームについては、その登録を受理しない。

(1) 国際連合その他の国際機関を表示する標章であつて通商産業大 臣が指定するものと同一又は類似のドメインネーム      例)wto、wipo、onpi、unesco、oecd、who、fao、icao、
imo、ilo、imf、unido、ifc、ida、ibrd、itu、wmo、ifad等

(2) 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する 団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であ つて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なもの と同一又は類似のドメインネーム
    例)japan、tokyo、yokohama、nippon

(3) 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるドメインネーム    例)○×△首相の馬鹿、

(4) 他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆 名若しくはこれらの著名な略称を含むドメインネーム(その他人 の承諾を得ているものを除く。
)     例)morihanae、hanaemori

(5) 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるド メインネーム
    例)sony、national、hitachi、toshiba、canon

(6) 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内 又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又 は類似のドメインネームであつで、不正の目的(不正の利益を得 る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。
以 下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
    例)sony、natinal、hitachi、toshiba、canon

2.国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団 体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて 営利を目的としないものを行つている者が前項第2号のドメインネームについてドメインネーム登録申請をするときは、同号の規定 は、適用しない。

    例)japan、tokyo、yokohama、nipponをそれぞれの機関又は 国が申請するときには登録の対象となる。

3.第1項第4号、第5号、第6号に該当するドメインネームであつ ても、ドメインネーム登録申請の時に当該各号に該当しないものに ついては、これらの規定は、適用しない。
例)申請されたドメインネーム出願時に、当該商標がまだ周 知、著名となっていない時には、その商標出願の登録を認 めることになる。



注)上記1ー(1)、(2)及び2については、特許庁又は弁理士会より具体的 な名称を列挙したリストを提供することができる。
  しかし、1−(4)〜(6)の制限規定については、その基準を直ちに選定 することは困難かと思う。そこで経過措置として以下のような付帯条 項を定めることを提言する。
「4.JPNICは、必要と認めるときには、ドメインネームの申請 者に対してJPNICが定めた1つ又は2つ以上の調査機関の提 供する商標データベースに基づいて調査リポートを提出させるこ とができる。」

 すなわち、ドメインネーム申請者に対して商標データベースの調査リ ポートのリストを添付させることにより、自分が申請しようとするドメ インネームについてどのような登録商標が存在するかを認識させる意図 がある。
商標データベースとしては、特許庁が検索データを提供してい る又は予定している機関JAPIO又はBRANDY等の民間商標デー タベースを利用することができる。

 但し、全分類を調査対象とすることができ、完全一致又は一音違いま でリスト出力できるデータベースが好ましい。
またドメインネーム申請 者の費用負担を軽減するために商標データベース調査機関と折衝して調 査費用が1万円未満となるシステムを確立する必要がある。

 著名商標の代替検索手段として既に特許庁では防護標章登録制度が確 立しており日本国内において広く知られた商標を登録し、これと同一の 登録を排除している。

 そこで特許庁のかかる防護標章登録のデータベースとリンクさせるこ とは意義がある。
 例えば、「national」、「hitachi」、「toshiba」、「toyota」、「canon」、「ricoh」、「takeda」、「brother」、「sony」、「seiko」等300件以上の登録データがアップツーデートな状態で揃っている。


4.その他

(1)ドメインネームと登録商標との同一性について、現在JPNIC が行っている同一性の審査は、完全一致であって、途中にハイフンを含 んだドメインネームについて、非類似と判断している。
 しかし、ドメインネームも電話やラジオなどで称呼されることにより ユーザーに認識されるものであり、ハイフンを除いた文字で称呼させた 時の同一性で判断すべきと考える。
 このことはWIPOの会議においてIAHCが提案する商標とドメイ ンネームの同一性の基準の中でも同様に句読点的要素の記号は排除して 同一性を判断すると規定されるているように世界的に共通の考え方と言 える。

(2)今後、商標権とドメインネームに関する紛争は、第2レベルド メインネームの追加とともに日本国内においても増えることが予想され ることから、紛争処理を行うためには、裁判によって処理するよりも、 gtld−MoUの新ドメインネームシステムで採用されるような調停 仲裁システムを国内のドメインネームについても採用することが望まし い。そして、その仲裁機関としては、弁護士会と弁理士会が共同で設立 する工業所有権仲裁センターが適当である。
また、該仲裁センターは当事者双方の合意に基ついて開始されるもの であることから、gtld−MoUにおいてドメインネームの申請書に 記載されるように、JPNICに対する申請についても、申請されたド メインネームと日本国内に存在する商標権との間に紛争が生じたときに は、その紛争解決のための機関として工業所有権仲裁センターを指名 し、該仲裁センターの判断に任せることに合意する旨記載させることが 望ましい。

以 上