概説
『説得学』とは、学問領域では心理学と法律学の学際に位置づけられる独自の学問ですが、人間関係のあらゆる場面において必要とされる汎用な学問とも云えます。したがって、この学問における理論や技術は、共同生活を行う万人に対して、有効に機能するでしょう。しかし留意すべきは、この学問が近年の心理学ブームで多く見受けられるビジネス上の処世術=〔商品や能力を売り込むための部分的一時的説得術(自己に有利な交換価値を決定するための交渉術)〕に限定されるものではないということです。[ビジネス交渉学では、影響効果理論での“賞罰”を重要なプラス要因にしていますが、真の信頼を得ることを目的とする表の説得学においては、それらはマイナス要因にしかならないなど、概念・定義で異なる点も多い] なぜなら、説得の本質が、人間の共同生活体たる社会が円満に存続するための潤滑油として、また、人間が個としての尊厳を守るための無形の盾として、必要・不可欠なコミュニケーションの道具・技術であることから、その学問的体系としては、共生(限られた空間・条件の中で共に生きる)に必要な対外的“信頼”を得て、これを大きく育て、“愛情(自己犠牲の覚悟)”として固めるために、全人格をもって誠実に言葉や行動を尽くす(相手に“得を説く”のだから自己保身では成功しない)という『表の説得学』と、既に結ばれていて悪性化してしまった縁=人間関係を解き切ることを目的に、“愛情”が歪み変質し“憎悪(自己犠牲の代償要求)”に変わってしまった人の心の鬼を「言葉の魔術」により静め、さらに自分との関係性が相手にとって価値のない無価値なものと認識させる『裏の説得学』との二つの柱を中核として成っており、それらは小手先の心理操作技術ではなく、全人格形成への彫刻技術をその手法とするからです。 また、臨床心理士やカウンセラー等と対比するならば、心理療法士を含めた此等は、相談者や対象者の心理状態やその関係性の現況分析のみを行い、相談者の自己改善や自己誘発を専らの処方箋としますが、説得学においては「成長とは変化することであり、人の心・人格は死ぬまで成長する」ということを基底にしており、相談者だけでなくその対象者をも、説得の対象として人格的成長(善行への変化)を果たしてもらうことにあります。 このように『説得学』は、心理学における現況分析に止まらない「将来の得を説く」という哲学的テーゼを含む極めて深淵なる学問として位置づけられ、現代の複雑な人間関係においては、必須の理論体系であると云えるでしょう。
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