オシロスコープ用 120mm ブラウン管 を使った 真空管式モノクロテレビジョン の製作
Homemade vacuum tube television with 120mm(5inchs 5UP1) CRT



<はじめに>

 日本では、戦後少しの間だが、オシロスコープ用のブラウン管を使って、テレビジョンを自作していた人たちがいたらしい。当時のラジオ関連雑誌をみてみると、まだテレビ放送が始まっていない時期にも、テレビの作成記事が掲載されている。NHKがテスト放送を行っていた時期もあるようで、この試験電波を受信しながら自作を進めていたようだ。当時のNHKが設計したTVK-II型という7インチのブラウン管を使用した入門セットがあったらしく、これを再現してやるっ・・・なんてのもよい目標になるかとも思ったが、7インチのブラウン管は入手できそうもなかったので、オリジナルで作成することとした。

シャーシ全体。それっぽいです〜。 ストーリオに木材加工を発注してみた。
塗装はやり直したいが、様子見で仮組してみた。


<パーツの入手と設計の考え方>

 これまでの3インチのオシロスコープ用ブラウン管を使ったテレビジョン試作機は、無事に画像を映し出すことに成功した。ここでは、ひとまわり大きな5インチのブラウン管を使うこととする。5インチのブラウン管は実はまだ結構簡単に入手できる。オークションで中古なりジャンクの古いオシロスコープを1000円程度で落札すればよい。もちろん、どんなオシロでもよいわけではなく、型番からどのようなブラウン管が使われているか調査は必要だ。ここでターゲットにしたのは、5UP1という丸い形の静電偏向型だ。オシロに使われているものは、大抵静電偏向型であるとは思うが、近年の角型ブラウン管は細かな仕様がなかなかわからない。一方、古い丸型のブラウン管はネットで検索すると仕様書がみつかる場合が多い。現在のところ、5ABP7というものと、5UP1の2つを持っているのだが、前者は長残光型といって、おそらくレーダーのような装置向けだと思われる。末尾のP7が長残光型であることを示している。一方、後者はオシロ用で中残光らしい。どちらも色は緑だ。本来なら白黒画像にしたいので、末尾がP4で終わっているものが欲しいのだが、残念ながらオークションでも、そうそうお目にかかることはない。海外から個人輸入する元気があれば、入手できそうではある。ま、何れね。

 前回はブラウン管用の高電圧は、ちょっと妥協してコッククロフトウオルトン回路で発生させた。これはこれで手軽なのだが、整流素子が複数必要になるので真空管だけで組むのはあまり現実的ではない。そこで、今回はオーソドックスにトランスで商用電源から昇圧させる。もちろん、この用途にあうトランスは秋葉原でも売っていないので、西崎電機さんで特別に巻いてもらうこととした。重くなるが高圧用整流管は1本ですむ。整流管は秋葉原で「猫またぎ」と呼ばれている1X2Bが使える。新品でも200円くらいで手に入る場合がある。まだ、滞留在庫があるようなので、是非活用してあげたい。実は高圧発生のために、白黒テレビ用のフライバックトランスもオークションで入手した。金500円なり。これで高圧を発生する手もあるが、今回は種々の理由により見送ることとする。現在入手可能な材料を使えば、数kVへ昇圧させるトランスを自作することは、さほど難しくなさそうである。

 RFチューナー部も真空管テレビ用のものを落札済みである。12チャンネルのガチャガチャとチャンネルを回してチューニングするタイプである。しかし、チューナー回路もシャーシ上に前作同様自分で組むこととした。アナログ放送ももうじき終了し、12チャンネル受信できる意味がなくなるからである。1チャンネル受信できれば十分である。もう一つ既製品を使わない理由は、映像中間周波数を20メガヘルツ台から少し低くしたいためである。どうせ、頻繁に使うことはないテレビだが、なんとなく「使うこと」を前提で書いている自分が少しおかしい。

 あと、入手が困難な部品はIFTである。前作では自作したのだが、今回も自作しかない。オークションでもめったにお目にかからない。手としては、ジャンクの白黒テレビを買って、分解するのもよいかもしれないが、最近、真空管式のテレビが結構なお値段で取引されている。レストアを楽しむ方々が増えているのだと思う。近年のICやLSI式と違って、回路が追えるので運がよければよみがえらせることが可能だ。不幸中の幸いとでも言おうか、テレビの映像用のIFTはQが低くてよい。というか、むしろQが低くないと駄目なのだ。これは、広い帯域を確保するためである。ボビンの材質やリッツ線を使ったりといった工夫は必要ない。前回同様自作する。音声のIFTはQは高いものが必要となる。特に検波に使うコイルのQは高いものが必要らしい。しかし、前作ではココも適当に作ったコイルでOKだった。自作しましょう。

 回路全体の構成は、前作とほぼ同じにする。高周波増幅は1段で、ここは6AK5でいく。周波数変換は安定した動作が期待できる6J6である。どちらの球もお値段は安い。映像の中間周波数増幅は2段とする。多くのテレビは3段だったようであるが、調整が大変になるので2段でいく。ただし、増幅率が不足することを補うためgmが高い球を使うこととした。前作では6BX6を使用したが、今回はさらにgmが高い6EJ7を起用してみる。どちらの球も1000円以下で買える。映像検波は6AL5、映像増幅はgmが高い12BY7というラインナップとする。

 音声は検波に6DT6を使う。ところが、いろいろ情報をあたっていくうちに分かったのだが、昭和20年代のテレビの自作記事には6DT6を使ったものが見当たらない。レシオ検波かフォスターシーレー検波が使われているようだ。6DT6を起用した方が球数を減らせるのだが、何故だかは後日調べてみよう。6DT6が開発されたのは、だいぶ後になってきてかららしく、静電偏向型のブラウン管でテレビを自作していた時代には、まだなかったようだ。

 偏向回路は前作と同じものとし、少しだけ回路定数を見直しておく。ここは12AX7と12AU7を使っており、ちょっと球代がかさむところである。両方ともオーディオ用に使われており、球が結構高価だ。ただ、メーカーなどにこだわる必要はないと思うので、12AU7は新品でも1000円以下で購入できる場合がある。これを狙おう。中国製などの安価なものの代替も視野に入れておく。

 意外と手に入りにくいのが高抵抗のボリュームである。トランジスター&IC時代のボリュームは、数10Kオーム台が多様されている。真空管時代は100K以上が多い。1Mまでなら秋葉でお店をまわっていれば見つかる。しかし、2M品は探すのにちょっと苦労した。見つからなければ、回路定数を変更するなりして、1M以下で済むようにしなければならない。


<回路>

 試作機とほぼ同じ構成。大きく回路を変えてしまったら、前回の作品が試作の意味がなくなってしまう。前回の回路を基本に微調整の範囲で作っていく。




<作成過程>

 パーツが入手できることを確認してから、作成にかかった。シャーシはこれまでに使用したものの中では、最大である。穴あけが厳しい。真空管アンプの作成は何度も行ってきたが、穴の数が全然違う。穴あけ作業だけでも、ほぼ1日作業となった。

大きなパーツを並べてみた
CRTはオークションで1000円で購入
これだけでもおそらく4〜5万円くらいかかっている
トランスは西崎さんで特別に巻いてもらったものだ
穴を開ける位置を紙で貼り付ける
シャーシはA−32で400×350×65mm
さすがに穴の数が尋常ではない
真空管アンプの比ではなかった・・・・・
大きな穴はコレであける
手に豆ができてしまう
まるまる一日かかった穴あけ
真空管ソケットをネジで取り付けていくバリコンはラジオ少年で購入したL型金具で取り付けたブッシュもつけていく
高圧がかかるボリューム取り付けはベーク板を使うベーク板にボリュームを取り付けてから・・・・ それをシャーシに取り付ける
絶縁を確保するためである
IFTは国際ラジオで買ったIFTを巻きなおししたサンハヤトの高周波ニスを塗ってコイルを固定 IFTのボビンをシャーシへ取り付けるスペーサ
サンハヤトの感光基板で作成した
6AK5の周りがちょっと狭いのが心配ラグ版とチョークコイルも取り付けた上から見るとこんな感じ


<ケースの製作>

 今回の作品はちゃんと箱まで作ってみた。木材加工はプロにお願いしてみた。ネットで検索してみると、新潟のストーリオさんがよさそうなので、今回はココに決めた。FAXで適当に書いた図面を送ったら、迅速に且つ丁寧な対応をしていただけた。

発注から3週間で届きましたよ、ブツが。空けてみました。 フロントパネルです。
さすがにキレイに加工されてます。
直角を出しながら木工用ボンドで貼り付け。塗装してから、仮にシャーシを入れてみた。やや斜めからみてみましょう。
後ろから。映像はあまり明るくないので、部屋を暗くして写真撮影。ブラウン管に近づいてみると、こんな感じ。
部屋を暗くして上から撮影。斜め上から。左方の明るい球は整流管。シャーシの裏も覗いてみましょう。



<調整>

・映像回路

 映像IFTの調整は結構難しい。ラジオのIFTなら放送を聴きながら実用的な範囲で調整できる。しかし、映像IFTはなかなかそうはいかない。今回は、ビデオのIFTを調整するために、簡単なスイープジェネレーターを作った。スイープするためのノコギリ波はタイマーICの555で発生させて、2SC1906を一石使った発振回路の周波数をふっている。かなり簡単な回路である上に周波数によって信号のレベルが変わってしまうのだが、ないよりはるかにマシで調整はだいぶ楽になる。

・音声回路

 音声回路は前回と同じ6DT6を使った回路だし、回路の定数もほとんど同じであるが、やはり調整に苦労した。コツは6DT6のG3に接続しているクォッドレチュアコイルと、G1に接続されているIFTが、それぞれちゃんと4.5MHzに同調していないといけないらしい。はじめはクォッドレチュアコイルの方の共振周波数ばかり合わせることをしていたのだが、どうもうまくいかない。ここでもスイープジェネレーターが威力を発揮した。なんと、5.1MHzに同調していたらしく、コイルのコアを入れていって4.7MHzくらいまで共振周波数を落とすと、G3の方での発振がとまってしまうのだ。

・電源周り

 新品のハズの定電圧放電管が放電していないことに気がついた。アノード側の電圧を測ってみると170Vある。役にたってないのだ。ただし170Vというのは微妙な電圧で放電開始電圧165Vのちょっと上、うーん、球自体の不良かバラつきか、あるいはすでに逝ってしまっている球なのか・・・判断するのは後回しで、とりあえず交換してみたらちゃんと放電した。アノード電圧は155V。

<ほぼ完成>

 ケースも作ってさまざまな調整を済ませ、大晦日の紅白に備えたのだ。

ブラウン管に枠をつけてみた5UP1というブラウン管だと緑ですな5UP11というブラウン管だと青になる
ケースの内側は黒に塗った同期信号微調整用ツマミは裏側 この電源トランスが重い!
スピーカーはこだわってアルニコ楕円です


紅白の視聴結果はコチラ

<感想>

 今回、テレビを自作してみて驚いたことは、電波で送られてくるテレビ信号の巧妙さだった。白黒では1940年代から使われている信号形式で、画像、2つの同期信号、音声をごっそり送ってくるのだ。途中からカラー化されたにも関わらず、白黒テレビでも受信できるように考えられているし、そもそもこんなに長い間使われる規格を作れたことがすごいと思う。今でこそ、アナログは時代遅れとなりデジタルに置き換わろうとしているが、1940年代(実験的には1930年代)の時点で使える部品を考えると、かなりストレッチした規格だったのではないかと思う。だからこそ、60年も使い続けられたのかもしれない。
 次は、カラーテレビの自作??と思われるかもしれないが、それはしない予定である。おそらく、アナログ放送終了までには間に合わないから。

<参考資料>

1.復刻版実用真空管ハンドブック
2.EF80規格、「無線と実験」4月号、1955年
3.ベルモントTV受像機の回路図、テレビジョンの作り方No.1
4.丹波保次郎監修、アマチュアテレビジョンハンドブック

<更新履歴>
2010.08.22 仮組で映像が映る。しかし、音声は出ず。IFTを感覚だけで調整することの限界を感じる。
2010.09.04 なんとか音声が出た。IFTとクォッドレチュアコイルの共振周波数がずれていたようだ。
2010.09.26 部品定数見直し数点
2010.11.06 ストーリオさんからケースの材料が届いたので、仮組みしてみた
2010.12.31 アナログ放送最後のNHK紅白を観る



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