97年、ワールドグランプリという大会が日本で開催され、世界の強豪国の選手と戦い方を見る機会があった。
基本的にロシアは高さと力で押してくるチームである。今回のナショナルチームは非常に若い選手が多く、十代の選手がなんと6人もいる。平均年齢で見てもたぶん21,2歳くらいだろう。やはり世界の強豪国は違うといったところか。5年先、10年先とチームを支えていくであろう有望な若手が何人もいる。
ロシアのナショナルチームの選手は、Vリーグの各チームに来ているので日本でもおなじみの選手が多い。しかもいずれの選手も個人としての表彰を受ける活躍である。また、ロシアは比較的選手の役割分担がはっきりしているチームと感じられた。そこでロシアの主力選手何人かの印象をまとめてみた。
(注1)ここで言う部門別の賞とは、Vリーグの個人表彰のうち、スパイク、猛打、サーブ、ブロック、サーブレシーブ、レシーブの各賞のこと。このうちスパイク、サーブ、ブロックの各賞はロシアの選手がとった。ちなみに、レシーブ系の2部門は日本人選手である。残る猛打賞は当然バーバラ・イエリッチである。
(注2)当然、一番がバーバラ、二番がエフゲーニャで、その次。
ロシアと違い、キューバのナショナルチームはそれほど平均身長は高くない。日本チームは97年3月の編成で大型化が進んだ。平均身長では、キューバと日本のチームは全くと言っていいほど差がない。ところが、最高到達点(垂直にジャンプしたときに手先が届く高さ)で見ると、キューバのナショナルチームの平均は日本チームの平均よりなんと20センチ近く高いのである。キューバのエースであるルイスは、身長はわずか1メートル75センチ、バレーボールの選手としてはむしろ小柄である。ところが最高到達点は3メートル35(身長1メートル75の人間が、ジャンプせずに手を伸ばしたときどこまで手が届くか考えれば、これがいかに驚くべき数値かわかるだろう。)。このあたりの運動能力の差を埋めないことには、いくら戦術とか精神力とかいっても太刀打ちできないことは明白であろう。よしんばたまに勝てたとしても、オリンピックあるいは世界選手権のような大会では勝てるはずはない。そして、基礎的な運動能力を鍛えるには、幼い時期から取りまなければ手遅れである。
この大会の決勝リーグの日本対キューバ戦、キューバは第1セットの後半かなり粘られ、第2セットも序盤に日本が5点ほどリードする場面があった。ところがキューバがまだ19歳のルイザという選手を投入したところから流れが変わった。なんとこの後11点連取で第2セットを逆転でとり、結局ストレート勝ちした。キューバチームはこの選手に助けられた形である。やはり世界の一流選手は18,9歳くらいで第一線に出てくるもののようである。
(注意して見ていないせいかもしれないけれども)キューバのチームはロシアほど各選手の役割分担はないように感じられた。どこからでも打ってくるチームである。
とにかく粘るチームである。普通だったら決まったと思われるボールを拾ってつなぐ。そしてそれを繰り返すうちに自分たちのペースに持っていく。しかし、粘るだけではやはり世界のトップのチーム相手には厳しい。今大会の決勝リーグ、2日目まで終わった時点で、2連勝(ロシア・キューバ)と2連敗(韓国・日本)のチームに見事に分かれた。
現在の編成で大型化を進めたこともあり、現在の日本チームはブロックが中心である。ブロックのタイミングが合えば世界のトップのチームに食らいついていくこともできないわけではない。ところが、上記3チームとの試合で、日本チームはほとんど同じような流れで3連敗を喫した。
日本チームは第1セットの終盤(あるいは、第2セットの序盤にかけて)非常に粘り、リードする場面もあった。韓国戦では第1セットをとった。ところが、ロシア戦では第2セットの最初から、キューバ戦・韓国戦では第2セットの半ばから一方的な展開となり、そのままほとんど無抵抗に近い負けである。これで露呈したことは、相手が戦法を変えてきて、ブロックがあわなくなる、あるいはサーブで崩されると、すぐにミスを連発し、しかも立て直しができないということである。アトランタ五輪の後、それまで日本チームを支えてきたベテラン選手が何人も引退した。現在の日本チームには、いったん崩されたときに立て直す原動力となるような選手がいない。これは国際試合の経験を積むしかないのだろう。
しかし、キューバの節でも述べたとおり、問題はおそらくもっと根本的なところにある。
この節だけ「追記」とあるのは、このチームを見たのはグラチャン(正式にはワールドグランドチャンピオンズカップ。長い上に紛らわしい。)だからである。もちろん、上記4チームもこの大会に出場している。この大会で、日本が最悪の負けを喫したのは、ロシアでもキューバでもなくブラジルだった。
ブラジルの強さは以下の2点に集約できると思われる。一つは、ブロックの的確さである。一度食らった攻撃は、極めて高い確率で止めてくる。攻撃が少しでも単調になれば間違いなく止まってしまう。ブラジルはビーチバレーが非常に盛んな国であり、バレーボールの代表選手もほとんどがビーチバレー出身らしい。ビーチバレーはチームの人数が少ないので、一人でブロックをしなくてはならない。ビーチバレーで鍛えられたのが生きているようだ。しかし、これは別にブラジル相手に限った問題ではない。バーバラの攻撃ならわかっていても半分以上止められない。エフゲーニャでも4割くらいは決まる。日本の攻撃はこのような選手とは違う。読まれたら相手がブラジルならずとも簡単に止められてしまう。だから、いつも相手のタイミングを外すように変化をつけなくてはならない。
もう一つは、誰が攻撃してくるのかわからないことである。何通りもの攻撃の可能性があるような場所にトスが上がる。また、選手がそのような配置になっているということである。だから誰をマークしたらよいのかわからない。ブラジルのセッターは世界一であると評価されているが、なるほどうなずけるものがある。
日本は第1セットの終盤競り合いながら最後にリズムを崩されてセットを落とした。その後はそのままずるずる、ほとんど見せ場もなく負けた。先のワールドグランプリそのままの負け方である。しかし、このような負け方をしたというのは、このような相手にふだん戦う機会が少ないことも一因としてあるだろう。Vリーグにおいては、2人までの外国人選手の枠がある。そうなると、外国人選手はどうしても個人として高さとパワーのあるエースアタッカーまたはセンタープレイヤーに限られてしまう。それが少ない人数で最も効果が上がるからだ。そしてチーム全体の戦い方としても外国人選手にボールを集めて力押しという形になる。Vリーグ女子では日本代表クラスの選手が少数のチームに集中する傾向が顕著で、それ以外のチームが日本のスタープレイヤーのいるチームに対抗するためにはなおさらそうならざるを得ない。だからロシアのような相手にはある程度慣れていると思われる(事実、第3回Vリーグの外国人選手で表彰を受けたのは一人を除き全員ロシアの選手である。「一人を除き」の一人とはもちろんバーバラだが、バーバラは高さとパワーで押してくるという意味ではロシアの選手以上に究極的な存在である。)。しかしこのような相手にはなかなかあわない、あるいは簡単にリズムを崩されてしまうのだ。
それにしても、このようなチームを見ると、一人しか打ってこないことがわかりきっている中でスパイクやアタックをばしばし決めることはどれほどすさまじいことか、改めて感じられる。