各チーム講評

ダイエー
NEC
ユニチカ
イトーヨーカドー
東芝
小田急

「これはひどい Part I」
「手の打ちようがないほどひどい」

付表

ダイエー

戦力的には優勝して当然のチームだが、それでも優勝は見事である。そうでないチームもあるからね。どことは言わないが(おい)。
衝撃の休部発表で、かえってチームの結束は固くなった。それにしても、選手一人くらい譲ってくれないかな(笑)これは冗談としても、他のチームならレギュラー確実なのにこのチームにいるために出番がほとんどないという選手が、何人もいるような気がする。

このチームについては攻撃面、特にブロックの強さがよく言われるけれども、それだけではなく、レシーブのよさも今回の優勝の支えとなっている。実際、決勝戦を見ても、ダイレクトでコートに落ちたボールはほとんどなかった。最も攻撃力のあるチームが防御面でも一番なのだから、勝負になるはずがない。


NEC

攻撃面では、ティーシェンコの穴は埋めがたいと思われていた。そのためシーズン前は意外と評価が高くない部分があった。しかし、ふたを開けてみれば、アタックの強さは昨シーズン同様圧倒的だった。ティーシェンコが抜けた穴は感じられない。特にスパイクレシーブの堅さが光る。ブロックがリーグの平均程度だったら、間違いなく優勝できただろう。


ユニチカ

第1レグ2勝5敗で終えたときは事実上脱落と思ったけれども、日立に続く名門沈没は免れた。苦しみ抜いた果てにプレーオフにも進出した。しかし、このプレーオフ進出は、大変な幸運に恵まれたものである。とにかく、世界選手権予選欧州地区F組の日程がVリーグと重なっていなければ、このチームのプレーオフ進出はあり得なかったのだから。

伝統のレシーブは間違いなく生きている。しかし、公式に発表される決定率の数字だけ見ていると惨憺たる状況である。実際決定力不足はいまだこのチームに重くのしかかっている。フルセット1勝3敗という点にそれが顕著に表れている。昨シーズンもフルセットでは0勝3敗、得失セットでも得失点でも大幅に得セットおよび得点が多いにもかかわらず負け越し、5位に終わった。


ヨーカドー

ガビー(ガブリエラ・ペレス)はやはりきた。ブロックもさすがだが私が特に評価したいのはアタックでの活躍である。1試合平均打数65本、並のエースアタッカー以上の打数*で決定率48.47%、バーバラ・アルの両スーパーエースを上回る2位は立派である。ところで、Vリーグで外国人選手で大外ししたという話は聞いたことがない。プロ野球やサッカーだとよくある話なのだが。
* 今年は、バーバラが出場1試合平均で打数100本を超えたし、アルも1試合平均80本に達したから、65本は大した本数でないような気がするかもしれない。しかし、昨シーズン1試合60本を超えたのはバーバラとアルの二人だけである。ましてそれ以前で1試合60本を超えた例は、日本リーグ時代を含めても数例しかない。

ガビーが大当たりすれば上位進出という評価はあったけれども、ダイエー・NECを破る爆発力は予想以上である。その一方で小田急に負けたりしている。このチームは好不調の波が大きいチームなのだろうか。

外国人エースに頼る割合が高くなると、その選手のところで守備に穴ができやすいけれども、このチームはレシーブについてもよくまとめてきている。本数的にはデンソー・東洋紡ほど集中していないこと、ガビーが守りもできる選手であることもある。


東芝

一言で言えば、「堅い」チーム。スパイクレシーブには目を見張るものがある。ブロックも強い。今気がついたのだが、スパイクレシーブとブロックが両方強いチームは珍しいのではないか。私は、レシーブ主体とブロック主体というのはベクトルとして逆向きだという印象を抱いていたのだが、どうなのだろうか(ダイエーとNEC、あるいは東洋紡とデンソーの違いである。この例もおかしいかもしれないが。)。

このチームの問題は、スパイクレシーブのよさを上回るほど深刻な決定力不足である。レシーブのレベルを落とさず決定力が上がれば、ダイエー、NECの次は間違いなく狙える。しかし、強力なエースを入れるとそこでレシーブには穴が開く可能性が大きいから難しい。サーブも即刻改善が必要である。

最後の3連戦で力尽きてしまったけれども、実業団から昇格したばかり、日本代表選手もなしでしかも外国人選手も使っていないことを考慮すれば、7勝はかなりの健闘と言える。特に、第3レグ第4戦でユニチカを叩きつぶすなど、プレーオフ進出争いを面白くするために最後まで貢献した。泥沼の4位争いの最大の立役者とも言えるのではないか。
しかし、これは、上位2チーム以外は、ベテランの引退・有力選手の移籍などで日本人選手が払底したことが主な原因であり、日本女子バレーの層が厚くなったのかといえば、残念ながらその逆である。


小田急

第2レグヨーカドーにストレート勝ちしたときは、これは本物だと思ったのだが、そこでストップしてしまった。来年に期待。

全体に力不足という印象がある。「これが出ればうちのもの」という得意のパターンがない。エースにきちんとつながれば何とかなるというわけではなく、ブロックもない。時折いい試合をするという話は聞いているのだが勝てない(フルセットの試合は4試合あるが全敗)というのも、そのあたりに原因があるような気がする。私が見た(開幕のデンソー戦と、第3レグの東芝戦)限りでは、デンソーがどん底状態にあったときですら、「バーバラがいればこのチームには負けないだろう」と思ってしまった。

結局、毎回男女とも必ずある「いじめられる役」になってしまった。しかしそのようなチームでも、たまたま調子が最高で、そして相手の調子が最悪だったときに、1試合くらい勝てるものである。このチームの場合、それは第2レグのヨーカドー戦だった。そして、このチームにはもう1試合神様(?)が勝ちをプレゼントした。「バーバラのいないデンソー戦」に当たったのである。

実業団リーグから上がってきたばかりのチームでも外国人選手を一人も使っていないとは、前回までに比べるとずいぶん悠長なことと感じられた。前回までは、Vリーグに上がってもすぐに結果を出さなければ降格だった。しかもVリーグの固定メンバーは名門チームばかりである。Vリーグと実業団リーグを行ったり来たりのレベルのチームが残ろうと思ったら、よほどの戦力増強をしなければならない。東洋紡にしてもデンソーにしても世界一クラスのエースアタッカーを獲得してやっとVリーグ定着を果たした。

日本人選手の攻撃力、特にアタックに関しては、このチームのポテンシャルはかなり高い。日本人選手のみのアタック決定率は、両横綱に次ぐリーグ3位である。決定本数部門では、熊前が日本人最高の5位、谷口が9位と健闘を見せている。このチームの問題は、数字で見る限り、むしろ守りにある。これは私の独自の推計だが(付表参照)、守りについては、アタックが下から2番目、ブロック・サーブが最下位である。実業団から昇格したばかり、外国人も使わないのなら粘りで勝負するしかない。そのチームが守りで最低では、2勝で断然の最下位もやむを得ない。


「これはひどい Part I」

本題に入る前に東洋紡の話である。このチーム(?)*もエアリーといい勝負の極めて重症らしいのである。
* この?マークの意味は、この後を読むとわかる。

Vリーグ観戦ガイドを読み返すと、「アルタモノワを中心に」、「レシーブ重視」とある。バックアタックも使う、ということも出てきたけれども、このチームの日本人選手にバックアタックがまともに打てる選手がいるとは思えない。そもそも、昨年のデータを見る限り、日本人選手でバックアタックがまともに打てる選手は非常に少ない。ということは、「拾ってひたすらアルタモノワへ」ということか?

実際試合を見てもその通りである。シーズン前はどのような構想だったのかよくわからないけれども、結局のところ「アルちゃん一人」になってしまった。少なくとも、それをやらせたらバーバラ(のいるチーム)の上にはいけない。アルタモノワは、イエリッチと違い、そのような使い方を想定して育てられた選手ではないはずである。結局、過負荷と有力日本人選手の引退などのため、アルタモノワの決定率は、昨シーズンよりなんと8ポイントダウン。チームもシーズンを通じて下位に低迷したまま終わった。

このチームがつまづいた原因の一つは、外国人選手を二人取って、チームがどのような形でいくのかはっきりしていなかったことだろう。アルタモノワが前半特に力を出せなかったのも、拾って徹底してアルタモノワにつなぐということが固まっていなかったのが大きな要因ではないか。

日本人選手もそれなりにそろっているのだから、もう少しましな戦い方があるような気がする。少なくとも、日本人選手の戦力の差を考えれば、デンソーより下はおかしいし、ヨーカドーより5つも勝ちが少ないはずもない。日本人選手の育成という観点からも、「アルタモノワ一人」という戦い方は問題がある。

もともとこのチームはレシーブは弱いと言われており、本来は守りより強力な攻撃力がうりである。そのチームが決定率4割を切るようでは厳しい。レシーブ重視と監督は言っていたけれども、付表を見る限り、その成果は見受けられない。このチームに似合うのは、やはり「全員攻撃」であろう。

技術集計からうかがえるもう一つの問題は、「誰がサーブレシーブをやるのか決まっていなかった」ことである。昨シーズンまではこのチームのサーブレシーブの中心はモロゾワだった。ところがモロゾワが使えなくなって誰がサーブレシーブをするのかという問題に、きちんとした対策がとられたとは思えない。真面目に対策をしてこれではもっと重大問題だが。
結果として、サーブレシーブもアルタモノワにやらせてしまったらしいのである。

エースアタッカーがサーブレシーブもするという形自体は、それほど珍しくない。しかしその場合は、アタックの負担をできる限り多くの選手で分散している。
表1.アタッカー兼レシーバーの負担
選手 アタック サーブレシーブ
依存度 成功率差 寄与度 依存度 成功率差 寄与度
アルタモノワ 50.5 +5.62 +2.63 34.6 +8.40 +2.69
大懸 23.9 +1.61 +0.37 38.6 +6.21 +2.27
チューリナ 30.2 -1.48 -0.46 33.8 -4.34 -1.47
木村 23.7 -3.86 -0.99 25.3 +3.51 +0.86
熊前 27.5 -3.01 -0.88 21.3 +7.50 +1.47
(参)ペレス 39.8 +11.87 +3.95 <18.5 - -
(参)イエリッチ 63.9 +11.78 +6.72 <19.0 - -
* 依存度(%) = その選手の成功数 / チーム全体の成功数×100
成功率差 = その選手の成功率(%) - その選手を除くチーム全体の成功率平均(%)
寄与度 = チームの平均成功率(%) - その選手を除くチーム全体の成功率平均(%)
これらのパラメータは本来アタックについて考えたものだが、集計が成功率ベースで出ていればどの部門についても定義できる。依存度は集計が成功率ベースでなくても定義できる。

アタックで重い負担をかける場合は、「どうぞ打ってください」というお膳立ては他の選手でするというのが最低限のチームワークだと思うし、他の「外国人エース一人」のチームの場合はそうなっている(だからといって、アタックの負担がチーム全体の6割とか1試合100本とかになると別問題である)。しかし、このチームにはそれもなかったらしいのだ。
さらに、サーブレシーブについても、アルタモノワの負担はリーグ全選手を通じ最も重い。サーブレシーブの依存度はリーグ2位、成功率差・寄与度はリーグ最大である。一人のエースがチームのアタックの半分を打つという時点で本来異常事態だが、その選手がサーブの3分の1を受けるのではさらに話にならないし、「他の選手では成功率が悪いからそのエースに受けさせる」のではもっと話にならない。
これでアタックをまともに打てというのは、無理な相談である。


「手の打ちようがないほどひどい」

本題のエアリービーズの話である。

シーズン前、Vリーグ観戦ガイドを見れば見るほど日本人選手の戦力のなさが感じられ、このチームはやばいのではないかという予感がした。実際シーズンが終わってみると、その予感は当たっていた。最後の最後で3連勝と追い込んだだけにかえって無念が残るけれども、このシーズンのデータを詳しく調べれば調べるほど、
「これでよく9試合も勝てたものだ」
ということになる。
今まで、世界で最悪のワンマンチームがクロアチアナショナルチームで、その次がエアリービーズだと思ってきたが、その認識は改めなくてはならないかもしれない。
しかも、クロアチアのナショナルチームは、95年ワールドカップで4位に入ったときはかなり「まともな」チームだったらしい。世界最終予選のときあれほどひどかったのは、世界有数のセッターと評価の高いキリロワがいなかったことが大きな原因らしい。

チーム結成以来最高成績の3位を達成した昨シーズンも、日本人選手の戦力ではVリーグで下から2番目か3番目くらいだった。そのチームから8人も退部者が出た。それも、レギュラーメンバーから何人もである。チームの基盤そのものが完全になくなってしまった。日本人選手の戦力では、間違いなくVリーグの中で最低だった。というより、Vリーグのレベルに全く達していなかった。最下位小田急にも大きく劣っていた。したがって、当然実業団上位の日立佐和、日立、NEC関西にも遠く及ばなかった。すると実業団リーグの中位から下位、とすると地域リーグの上位とも重なってくる。
このチームの日本人選手の決定率は、33.9%(バーバラが欠場した2試合を除けば35.0%)である。これは決定率最低の東芝、ユニチカとほぼ同水準である。しかも、このチームの日本人選手決定率を、両チームの全体決定率と同列に比べてはならない。その理由は、デンソーにおいては「バーバラがマークを全部引きつけている」ことである。日本人選手はノーマークに近いはずである。それでこの数値なのだ。実際に試合を見ても、第1レグの頃はまだしも、第2レグの2試合では、日本人選手の攻撃は本当に全部拾われているという印象だった。別にスパイクレシーブのよい東芝相手に限らず、レシーブが下手と言われる東洋紡戦でも、あまりの力のなさにいらいらするほどだった。
このチームの日本人選手の実力を見るには、バーバラの欠場した2試合を見ればよいだろう。NEC戦の決定率25%、レシーブが悪いはずの小田急戦でも30%に達しない。このチームがバーバラ抜きで1シーズン戦ったら、決定率は27〜28%くらいになるだろう。

このチームは必ず「バーバラさえ調子がよければ」という言い方をされる。もちろんバーバラの調子が上がらないのでは全く話にならない。しかし、日本人選手が全くだめなのではバーバラ一人がいくら打っても勝てない。むしろ、日本人選手でどこまで踏ん張れるかがこのチームのカギになっているように感じられる。実際、日本人選手がある程度決めていれば非常に楽になるし、逆に日本人選手がそれより悪いとほとんど勝てない。その「ある程度」とは、数字にすれば、日本人選手の決定率35%である。きちんと調べたわけではないけれども、日本人選手の決定率がこのラインを切っていて勝ったのは、おそらく第1および第3レグのユニチカ戦だけだろう。逆に、これを上回って勝てなかったのは、多分第1レグのNEC戦・ダイエー戦および第3レグの東洋紡戦しかない。

日本人選手の決定率35%で7割方勝てるとは、何と楽なことか。デンソーと同様外国人エース一人にボールが集まる東洋紡の場合、日本人が35%では話にならない(日本人選手で36.8%で大きく負け越している)。ヨーカドーも35%では苦しいだろう(日本人選手の決定率36.7%)。日本人選手が35%決まれば大筋で勝てるというのは、Vリーグの中でもおそらくデンソーだけだろう。バーバラの決定力がいかに飛び抜けているかということである。しかしこのチームにはそれができなかったのである。

今シーズンここまで日本人選手の決定率が悪く、バーバラに頼りきりになった理由として、セッター温水が実質的にVリーグ最初のシーズンだったこともあげられるかもしれない。確かに温水のセットアップも根本的に改善が必要である。初戦の小田急戦で見たときはまだまともだったけれども、けがでいったん戦線離脱し復帰したあとは本当にひどかった。日本人選手を使うためには速いトス回しが必要だが、それができるほどの技術がない。そのために必然的にボールは「ためをつくって高く上げておけばあとはあわせて打ってくれる」バーバラに集中する。しかし、今シーズンの日本人選手は、セッターが上手なトス回しができれば何とかなるというレベルではないと思われる。とにかく、昨シーズンまで試合でアタックをまともに打っていた選手がバーバラ以外誰一人いないのだ。キャプテン藤田にしても規定打数不足、三浦はピンチサーバー程度にしか使われていない。だいたいそれならヨーカドーあるいは東洋紡はどうなのか。ヨーカドーのセッター内田にしても、日本代表にという声もあるベテランである。東洋紡の永富は、かりにも先のアトランタ五輪では日本代表の控えセッターだったのである。しかしこの両チームとも日本人選手の決定率は36%台後半がやっとである(デンソーはバーバラの欠場試合を除き35.0%)。この両セッターをして、この両チームの日本人選手をここまでしかもってこられなかった(東洋紡の日本人選手36.8%はどう考えても低すぎだと思うが。アルタモノワにマークが集中するはずなのに。)ことからしても、このシーズンのデンソーがセッターの技術で何とかなる程度とは思えない。
注: 私はまだセッターの技術についてはほとんどわからないので、この段落はある掲示板の書き込みを参考にしている。

それではこのチームのレシーブはどうなのかといえば、これも東洋紡・小田急と並びVリーグ最低のレベルである。このチームはかつてはレシーブはよいといわれていたけれども、それもどうやら今は昔となってしまったようである。このチームは構造上守備面ではバーバラのところで大穴が開く。バーバラはもともと守りの役には全く立たない選手である。しかもバーバラがレシーブしていたらバーバラに打たせることができない。だからバーバラのところにとんできたボールも他の選手が受けなくてはならない。決定力がないなら、せめて守りでバーバラの穴を何とかしなくてはならないのに、それもできていない。

たまに他の選手にボールを回してみれば全く決まらない、拾ってつなぐこともろくにできない。バーバラの熱さ、すなわち私がバーバラを応援する大きな理由の一つは、バーバラは他の選手が非常に弱いチームでプレーしていることである。しかし、それにしても程度問題である。

第2レグ以降、4連敗-1勝-4連敗の頃はバーバラの気持ちも切れかけていたと思う。その後よく気持ちを立て直したものである。第1回の記事を見ると、バーバラは「第1セット当たらないとしゅんとしてしまう」と言われていたけれども、今シーズンは9勝のうち4試合は第1セットを落として逆転勝ちという粘りも見せている。それに対し、第1セットを取りながら逆転で敗れた試合は1試合しかない。
3連戦の最後になるとくたばるという評価も聞いたことがあるけれども、今シーズンについてはそれも外れである。3連戦の最終戦はいずれも勝っている。第2レグの場合、第2週が1月15,17,18と1日おいて3試合という日程だったけれども、この週も最終戦の18日にはアルタモノワと史上最大の打ち合いの末、勝利をおさめた。
バーバラは第4セットになると疲れてくるという話も聞いたことがあり、実際そうなのかも知れないけれども、とにかくバーバラの場合アタックが1セット30本である。普通なら2セット終わるか終わらないかでくたばってしまうペースである。

このシーズンを通して、様々な意味で、「バーバラこそ世界のエース」ということが疑問の余地なく明らかになった。今シーズンはただそれだけ、というのが私の印象である。
今シーズンのバーバラは、出場1試合あたり105本打ち、49本を決めた。1試合平均3桁のアタックなど、現実に起こるとは思わなかった。感覚が完全におかしくなるようなシーズンだった。

外国人選手を一人使えるとしても、日本人選手全体のレベルがもう少し高ければ、これではおそらく最下位になっただろう。そうなれば、昨シーズンまでの制度なら、自動的に実業団に降格となるところである。ところが、

という事情が重なって、Vリーグ5位に踏みとどまってしまった。

それにしても、視点を変えてこれを見れば、これほどまでにバーバラの力は絶大であるということである。Vリーグで華々しい活躍をした外国人選手は他にも何人もいる。しかし、チームに対する影響というか、チームの運命を全く変えてしまったという観点から見れば、バーバラの存在は他の外国人選手とも桁違いである。これまでのVリーグで四強に進出したチームは、基本的に、日本人選手だけで相応の戦力があった*。しかし、デンソーエアリービーズは、日本人選手の戦力で考えれば、あるいは外国人選手を取ったとしてもそれがバーバラでなかったなら、おそらくVリーグと実業団リーグを行ったり来たりのチームである。今シーズンは、バーバラがいなければ(外国人選手がいたとしてもバーバラでなければ)まず間違いなく最下位だっただろう。つまり、Vリーグ拡張の年度にあたっていなければ自動的に降格ということである。日本人戦力の立て直しができなければ、実業団リーグからさらに落ちてしまうおそれも生じるほどである。そのような事態が起こらなくても、Vに復帰するには長い時間がかかるかもしれない。
* 第4回のイトーヨーカドーは、この2番目の例外といえるだろうか。(ヨーカドーファンのみなさん、怒らないで。)

このスーパーエースは、世界大会などで実績を上げてから連れてこられたのではないという点でも、他の外国人選手とは決定的に異なる。日本での最初のシーズン、彼女はまだ17歳だった。国際大会での実績などもちろんなかったはずだし、国際的には知名度も皆無に等しかったはずである。この十年に一人、いや百年に一人かもしれない逸材を(バーバラの母国以外で)最初に発掘し、その存在をいち早く世界に知らしめたのは、デンソーエアリービーズ(当時日本電装)の功績(?)である。これもまた皮肉ではない。

さて、このシーズンが終了した後、98年5月の黒鷲旗では、他のほとんどのVリーグのチームがVリーグ期間中と同じメンバーで(外国人選手を使う)戦う中、日本人選手のみで戦い、実業団リーグの朝日生命とJTにストレート勝ち、ペレスのいるヨーカドーにもストレートで負けたものの一方的な敗戦ではなかった。このチームの西美保が新人賞も受賞した。刮目すべき進歩である。バーバラ抜きで実業団リーグのチームの試合との連戦(しかもJTにはメンショーワがいた)は、はっきり言って危ないと思っていた。そう思っていたのは私だけではなく、私が普段お世話になっているページの管理者の多く、さらにエアリービーズのファンも含め共通した見方であった(あるいはその裏返しとして、実業団チームの健闘を期待していた)ことを付け加えておく。
このシーズン中、バーバラにはブラジルのプロチームからオファーがあったらしい。これなら、もし日本人選手だけで戦っても、18試合のうち1試合くらいは勝てるだろうか?
しかしながら、その成果が試されるのは今度のVリーグである。

来シーズンもバーバラがこのチームに来て1試合の欠場もなく戦ってくれるなら(国際大会などで抜けたりしないということ)、このシーズンより悪くなることは絶対ないと確信している。裏を返せば、これ以上悪くなることが考えられないくらい、ひどい試合が続いていた。しかし、「これ以上悪くなることはない」ということにはもう一つ意味がある。それはエアリーはこのシーズンの前に世代交代を全部終わってしまったということである。他のチームではこのシーズンの後も有力ベテラン選手の引退が続いているところがある。また、大量の退部者を出したチームもある。98年6月現在、このチームはVリーグ10チームの中でも、上記の黒鷲での健闘、さらに日本人の新戦力の加入など、プラスの要素は最も多い。唯一の不安はセッターという状態である。このチームにとっては、外国人オン・ザ・コート一人という制度も有利と思われる。外国人選手を一人しか使えないのなら、その一人に最強のエースがいるチームに有利になるのは当然だろう。このシーズンにしても、バーバラが抜けてから1週間休みまでの9試合を除くと8勝4敗、しかもその4敗のうち3敗はダイエー・NECの両横綱相手である。

この文章では本気で怒ったし、実際このシーズンの状況はありとあらゆる意味で即刻改善が必要である。しかし、このチームの日本人選手が強くなって、バーバラでなくても勝てるほどの戦力になったら、バーバラでなくてはならない最大の理由である熱さがなくなってしまう。バーバラがいれば勝てるがいなくては勝てない程度の弱さ(?)がちょうどいいのである。要するに、何事もほどほどが肝心ということである。今シーズンの状況を見る限り、あと3シーズンくらいは、そのような心配(?)はしなくてもいいと思うし、それより先に、バーバラが日本を出ていくこととバーバラがつぶれてしまうことをよほど心配しなくてはならないが。それに、これまで記録面では毎シーズン常識を破壊し続けてきた(ちょっとオーバーか)バーバラに対し、これからもずっと常識破りの記録を作り続けてほしいという気持ちもある。しかし、これは前に怒ったこととは明らかに矛盾する。私自身の気持ちとしても難しいものがある。

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付表

この講評を書くに当たって基本資料とした表を以下に示す。この表の数値の算出の過程、および、項目の意味については、防御と失敗の集計を参照していただきたい。
なお、サーブおよびサーブレシーブについては、公式集計を参照していただきたい。

表1.アタック効果率
Team Hits Success Blocked Miss Succ. % Blo. % Miss % Efct. %
Daiei 3662 1557 202 212 42.52 5.52 5.79 31.21
NEC 3959 1668 294 238 42.13 7.42 6.01 28.69
Yokado 4121 1671 250 277 40.55 6.07 6.72 27.76
Unitika 4020 1419 290 213 35.30 7.21 5.30 22.79
Denso 3785 1540 275 246 40.69 7.27 6.50 26.92
Toyobo 3648 1439 270 234 39.45 7.40 6.41 25.63
Toshiba 3826 1327 218 167 34.68 5.70 4.36 24.62
Odakyu 4126 1570 300 275 38.05 7.27 6.67 24.12
Total / Average 31147 12191 2099 1862 39.14 6.74 5.98 26.42

表2.アタックに対する防御の効果率
Team Hits Success Blocked Miss Succ. % Blo. % Miss % Efct. %*
Daiei 3858 1357 366 35.17 9.49 19.71
NEC 3826 1338 235 34.97 6.14 22.85
Yokado 4227 1589 293 37.59 6.93 24.68
Unitika 4078 1523 287 37.35 7.04 24.33
Denso 3624 1534 175 42.33 4.83 31.52
Toyobo 3785 1628 265 43.01 7.00 30.03
Toshiba 3909 1574 278 40.27 7.11 27.18
Odakyu 3840 1648 200 42.92 5.21 31.73
Total / Average 31147 12191 2099 1862 39.14 6.74 5.98 26.42
* 試合ごとのアタックミスの数がわかる資料が手元にないので、全チームについてアタックミスの割合が全体平均(5.98%)に等しいとして算出。

表3.攻撃の値と防御の値の差
Team Attack
Win-Loss
Win-Loss(Class) Point Ratio
Daiei +11.50 19-2(1) 1.48
NEC +5.84 18-3(2) 1.43
Yokado +3.08 12-9(3) 1.06
Unitika -1.55 9-12(4) 0.98
Denso -4.60 9-12(5) 0.86
Toyobo -4.40 8-13(6) 0.85
Toshiba -2.56 7-14(7) 0.89
Odakyu -7.62 2-19(8) 0.70

表4.シャット率によるブロックの集計
Team Nb. Set Opp. Attack Success Avg. by Set Shut %*
Daiei 77 3858 366 4.75 9.49
Toshiba 75 3909 278 3.71 7.11
Unitika 81 4078 287 3.54 7.04
Toyobo 78 3785 265 3.40 7.00
Yokado 78 4227 293 3.76 6.93
NEC 82 3828 235 2.87 6.14
Odakyu 77 3840 200 2.60 5.21
Denso 76 3624 175 2.30 4.83
Total / Average 312 31147 2099 3.36 6.74
* この表中のシャット率は、ブロック成功数をアタックを打たれた総数で割ったものである。

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