過去において『アラビアン・ナイト』を映画化する際には、登場する女性の魅力の表現の方に重きを置かれるのが当たり前の事であった。それがされていない映画は大抵バギー・パンツ姿の登場人物による「泥棒とお巡り」パターンの作品ばかりであった。そういった意味ではこの『シンドバッド七回目の航海』は圧倒的に斬新な映画だったと言えよう。
ハリーハウゼンは様々なプロデューサーやスタジオに『シンドバッド』の企画を持ち込んでいたが、あまり良い反応は得られなかった。数カ月後プロデューサーのチャールズ・シュニーアと将来のプロジェクトに関して話し合っていた時、それまで二人が組んで作った映画は全て現代物か話題性のあるモノばかりである事に関しての話をしていた時、シュニーアはハリーハウゼンの『シンドバッド』の企画に大いに興味を示したのだった。さらにシンドバッドの冒険は一貫性の無いバラバラな話ばかりであるので、そのままでは一本の映画にならないため、ケネス・コルプに撮影用の台本の作成を依頼した。
この映画に登場するサイクロプスはハリーハウゼンの映画の中に登場する全モンスター中最も人気のあるモンスターの一つである。しかしハリーハウゼンがこの映画に登場するモンスターの中で気に入っているのはダンスを踊る蛇女である(もちろんサイクロプスもお気に入りだ)。これは『アラビアン・ナイト』を映画化する際のお決まりの踊り子の代わりに登場したモンスターである。そして何よりこの映画を他の映画との差別化に成功させているのは骸骨兵との戦いであろう。このシーンの撮影の為にオリンピックのフェンシング選手であるエンツォ・ムスメッキ・グレコを招き主演のカーウィン・マシューズのコーチと骸骨兵の殺陣を実演してもらったのであった。それから映画に登場した巨大な石弓は、実際には60cmほどのミニチュアであった。ただし合成の為に台車の車輪1個だけは2.4mの実物大のモノを作成した。この部分の撮影・合成にはかなりの歳月を要したが、出来としては完璧であった。
ハリーハウゼンはシュニーアや映画会社重役に企画を持ち込む時には、ハリーハウゼン自身が映画のハイライトシーンをイラスト化したモノを持参していた。物語がハッキリした段階になってからは、撮影のガイドとして絵コンテやドローイングが使われるのであった。
この頃、アニメーションと言えば、一般的には「アニメートされた漫画」とのイメージが強かった。そこでシュニーアとハリーハウゼンは、実写と一体になった立体アニメーション映画を指す新しい名称を確立することが重要だと考え、『ダイナメーション』との名称を誕生させたのだった。