昔、俺は自分の外面を非常に気にしている時期があった。簡単に言ってしまえば「オタク」とか「ボンクラ」とか呼ばれるのを極度に恐れていた時期があったという事である。それが何故だったかと言えば、単純に女にモテたかったからであった。

俺はその頃ももちろん映画が大好きでよく観に行っていたのだが、人と映画を観に行く時は必ず恋愛映画かヨーロッパ映画であった。何故か?当時俺は大盛堂書店という大型書店でアルバイトをしていた。そこはバイトが60人近くいたのだが、そのうち男は10人位で残りの50人は女の子というパラダイスのような所であった。で、俺は6階売り場で働いていたのだが、そこでは映画の書籍や前売券も扱っていたので、自然と6階は映画好きのバイト達が集まっているような感じだった。バイト中ヒマな時は、他のバイトの人達と映画の話などをするのだが、あの書店は(最近はどうなのかは知らないが)アート系の映画大好きっ娘が集結しており、映画デートにお誘いする時は必ずル・シネマでやっているようなフランス映画や、シネセゾンのレイトでやっているようなゴダール映画になってしまっていたのだ。俺はもちろんそういう映画が大好きなのでそういう映画に行く事には全く異存は無かった。

そんな所で俺がモテるためにはどうしたかというと、オシャレさん映画しか観ない人として振る舞ったのだ。今考えると馬鹿以外の何者でもないのだが、それでも当時はそうしていれば絶対モテると確信していたのだ。だから過去のオシャレさんフル・リスペクトな映画をビデオで観まくったりして一生懸命勉強したものだった。しかし、だからと言って俺がアクション映画やホラー映画を捨て切れるハズもなく、自分のバイト先で映画のチケットを売っているにも関わらず、わざわざ隣の丸井ヤング館の8階まで行って『フロム・ダスク・ティル・ドーン』とか『酔拳2』とかの前売りを買ってソーっと観に行ったりしていたのだ。まあ、もちろん当時観まくったオシャレさん御用達映画には俺的にかなり面白かったモノも結構あって、ああいう事でもなければ観る機会さえ無かったのではと考えると、良い機会だったなあとも思ったりしている。

話を元に戻そう。そんな俺が「オタク」とか「ボンクラ」とか言われても動じなくなったのは多分彼女ができてからだったと思う。なんつってもモテる必要が全く無くなったからだ。そんな「オタク」とか言われても動じなくなった俺は『不良番長』とか『ワンチャイ』とかを観まくってボンクラ血煙街道と同時にデブ街道もまっしぐらに突き進んだのだが、そんな俺を見ていた彼女は「ヤバイ!」と感じたのかどうかは知らないが、さっさと手切れを通告してきた。そうして彼女と別れた俺だったが、その時は既に『ドキッ!男だらけの水泳大会』状態の職場であるソフトウェア業界に身を置いていたのだった。大学生時代の俺だったら、モテたくてオシャレさん路線に戻っていただろう。しかし、俺の周りには「30歳独身!」「40歳童貞!」が溢れており、そいつらを見ていると「まあ、俺は何とかなるだろ」的な甘い考えが俺の頭を支配して、俺をオシャレさん路線に戻らせる事を止めさせてしまったのだ。

だからという訳でもないが、最近の俺は合コンに行ってもこんな会話が交わしている。

女「趣味は何なんですか?」

俺「映画鑑賞です」

女「あ、私も映画大好きなんですよ〜」

俺「へ〜、どんな映画を観るんですか?」

女「えっと〜、最近観た映画だと〜『タイタニック』とか『もののけ姫』ですね」

俺「ああ、ボクも観ましたよ。タイタニック号が垂直になった時の人間ピンボールとか笑っちゃいましたよねえ。エヘヘ」

女「...、高橋さんはどんな映画を観られるんですか?」

俺「いや〜、言っても分からないからいいですよ〜」

女「私、映画は詳しいんで多分知ってますよ〜。なんて映画ですか?」

俺「クンフー物ですね。それから映画そのものではないんですが『ロボ・ジョックス』でのアレンのアニメートは素晴らしかったですよ」

女「ほ、邦画だと何を観るんですか?」

俺「最近だとビデオで観たんですが『東京ふんどし芸者』なんて面白かったですねえ。野田幸男監督って天才だと思いますよ。他には『鉄と鉛』は本当に感動しましたよ。それから、え〜っと...」

女「(既に隣の男と楽しそうに)ヤダ〜!違いますよ〜!」

俺「いやあの時の由利徹の顔と新伍ちゃんの演技はねえ〜...」

こんな感じ。(受けを狙って言ったんだけどね)

要するに自分の好きな事を隠さずに、人に何て言われようとも「俺はこれが好き!」っていう事を言えるようになったのだ。でもそのおかげでモテないの何のって凄い状態に陥っているのだ。しかもホームページなんて始めちゃったお陰で引っ込みもつかなくなっちゃったしな。

で、結局何が言いたいのかと言うと、誰か俺に女紹介しろって事だ。ダメ?