超初心者のための小説の書き方と、その危険性と有用性について


「小説を書いてみたいが、どうしたらいいかわからない」
「書き始めてはみたものの、どうも長続きせず、まだ完成させたことがない」
 というあなたに、本当は言わなくてもよい、言わない方がいいのかもしれない、小説の書き方について、こっそり教えます。

   まず、用紙とペンを用意してください。
 用紙は字が書ければ、チラシの裏でもノートでも原稿用紙でも、とにかく小説が書ければなんでもよいのです。ペンも同じく、鉛筆でもボールペンでも、万年筆でも、なんでもかまいません。
 パソコンやワープロでもよいのですが、思考の妨げにならない程度の速さで打てる(ブラインドタッチできる)ことが条件になります。
 あなたの能力については問いません。小説を一冊でも読んだことがあり、簡単な作文を書けるなら、それで十分です。
 ではさっそく書いてみましょう。
 タイトルはあった方がいいけれど、なくてもかまいません。書き終わってから考えても遅くありませんので、気にするのはやめましょう。
 出だしです。上手に書こうと考える必要はありません。とりあえず、なにか文字を書いてみましょう。
 誰かがドアを叩いた。――とか。
 名を呼ばれて私はふりむいた。――とか。
 なぜ、ここにいるのかよくわからない。――など。
 とにかく、なんでも構いません。書いてください。そして、先を続けてください。誤字、脱字、文章が下手、文章がおかしい、字が汚い、等々、まったく気にする必要はありません。知らない漢字はひらがなでも、記号でも、顔文字でもかまいません。ただ、書き進めてください。情景描写とか人物描写とかも適当でいいです。面倒なら、書かなくてもいいですし「新宿みたいな街」とか「しょこたん似の女の子」みたいな表現でかまいません。
 登場人物の髪形が最初の方と違っていることに気づいたとしても、直す必要はありません。書いた文書が変だとしても、直したり、推敲したりしてはいけません。そんなことはすべて、書き終わってからやってください。
 むしろ、絶対に文章を読み返してはいけない!
 人の目も気にする必要はありません。
 この小説は純粋に自分が楽しむだけに書かれる小説であり、このままの状態で、他人に読ませることを、絶対に、まちがっても、考えてはいけません。
 つまり、何も気にする必要はないということです。
 大切なことは、自分を解放し、どれだけ自分の書くものがたりの中にのめり込むことができるか、自分が楽しめるか、ただそれだけです。
 ストーリーも、自分がおもしろいと思った映画やマンガ、アニメをいくらでも好きなだけマネしてください。そのまんまでいいのです。登場人物についても、実在する人物やアニメのキャラ等、好きな人物を好きなだけ、もって来るなり改変するなりして使ってください。むしろ、主人公は作者自身、がよいです。
 途中で乗れなくなったら、前の展開など無視してストーリーを変えてください。 突然、絶世の美女が天から降ってきたり、ウルトラマンが助けに来たり、主人公が実は水戸黄門だったりしても構いません。ストーリーの整合性も、無視してください。幼稚だとか、くだらない、とか思う暇があるなら、物語の先を進めてください。
 三十分ほど続けても、書くことが、ただ苦痛なら「しかし突然、世界は神の気まぐれによって消滅した」の一文を入れて、小説を強制終了させてください。
 そのままシュレッダーにかけるか、上からマジックで黒く塗りつぶすかして、捨ててください。できるなら記憶から消し去って、なかったことにしましょう。
 小説の材料に問題があったようです。自分にとって、好きな登場人物と好きな物語とはどんなものなのかを考え、集め、もう一度、最初から始めましょう。
 次は乗れるはずです。
 ガンガン行きましょう。できるだけ長い小説にしてください。1時間くらい書き続けると、トリップできます。いわゆるランナーズハイならぬ、ライターズハイの状態となります。これがクライマックスと連動すると、様々な脳内麻薬が吹き出し、この世の物とは思えぬ、快楽をあなたは得ることができるでしょう。
 一日で長編小説を書くのは大変ですし、肉体に無理が掛かるので、ほどほどのところで、「つづく」を入れて、少なくとも週一のペースで、書きつづけてください。この場合も、前の文書をじっくり読みかえすことは厳禁です。軽く斜め読み、もしくは、最後の一行だけ読んで、続きを書いてください。この長編がクライマックスをむかえる時、あなたは最高の快楽を得ることができるでしょう。

 このように、小説を書くという行為は大変危険な行為です。合法とはいえ、脳内麻薬を自家生成して、人知れずこっそりと使用する行為です。
 中毒性もあり、作家と呼ばれる人々の中には、ひと月も小説を書かないと禁断症状があらわれる人も少なからず存在します。
 なおかつ、金や恋愛よりも、脳内麻薬の虜となり、人生を踏み外すことにもなります。そのせいで、作家と呼ばれる人々の中には、出世のチャンスを捨て、それほど売れない小説かきの道を選ぶような者がいたりするのです。

 話を戻します。上記の他人に見せない小説は、厳密に言うと、小説もどきです。
 どんなに自分が面白い、と思っても、そのまま投稿したり、他人に見せたりしては絶対に! 絶対に! いけません。それでも「傑作なんだ!」とあなたが言い張るなら、せめて、もう二、三本、長編をしあげ、なおかつ、文章の勉強をし、なんども推敲を重ねてから、他者に読んでもらいましょう。それからでも、遅くありません。
 超初心者のあなたはまだ、今はまだ脳内麻薬を堪能することに専念してください。
 今、楽しまないと、もったいないです。なぜなら、小説の向上を求め、読者を意識しはじめたとたんに、それまでのように脳内麻薬に浸ってはいられません。
 読者を楽しませることに力点を置いた商業出版の世界では、トリップしたいのを押さえて、読者をエスコートするがことできないと生きていけません。ただし、まったくエスコートしなくても勝手に読者が付いて来てくれる、大御所と言われるところまで登りつめてしまえば話は別です。

 りっぱな脳内薬中となると、なんど賞に落ちても、皆から、バカだの才能がないと言われても、あきらめることなく、小説を書き続けることができます。デビューできなくとも、売れなくても、貧乏でも、小説を書いているだけで、脳内薬中なので、とても幸せです。デビューしてからも、鋼の精神力で、編集の無理難題やしごきにも耐えられます。

 逆に、脳内麻薬を十分に堪能していない方が、才能と運でデビューしたりしてしまうと、つらいことになる場合が多いです。
 売れた場合は、次々とそのシリーズ(同じジャンルの同じ方向性の作品)を早く沢山、書かなくてはなりません。ネタが切れたとか、他の作品が書きたいとか、泣き言を吐いても、読者や出版社が許しません。何億という金を稼ぎながら、遊びに出ることもできず、自分ではまったく楽しむことのできない小説を、苦痛の中に浸って、ひとりで、ただひたすら書きづけることになります。場合によっては、マジでキレます。

   売れない場合は、なぜ自分が小説を書くのか、その理由さえもわからなくなります。さっさと見切りをつけ、まっとうで実入りのよい仕事へ、当然の選択で移行します。賞をもらっても消えてしまう作家の多くは、これではないかと思います。
 脳内麻薬中毒作家は書き続けることに固執し、別の出版社に売り込んだり、別の賞を狙ったりするものです。

 次は、他者に読ませ、楽しんでもらえる小説の書き方とその勉強方法の初歩について記してみたいと思います。

 
 文 岡本賢一(http://www.ne.jp/asahi/k/o/)


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