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(1)
たくさんのガチョウの鳴き声。犬の鳴き声。ひづめの音と車輪の回る音。
「おい! ついて来るんじゃねえ! あっちへ行け! しっ! しっしっ! 聞こえねえのかおい! おまえだ! おまえ! 俺の後をついてくるんじゃねえ! あっちへ行け! 聞こえねえのか? おい! むこうへ行けってんだよ!」
たくさんのガチョウの鳴き声。犬の鳴き声。
車輪の回る音――止まる。
「おい! もういい。来い! こっちへ来い坊主! 殴りゃしねえよ。いいから、こっちへ来い! 聞こえねえのかおい! こっちへ来いってんだよ! 来ないなら、どっか行け! 俺の後ろをついて来るんじゃねえ!
くそっ!
わかった! こうしようじゃねえか! パンをやろう。チーズをたっぷりはさんだパンだ。それからコップ一杯のミルクもやろう。これは取り引きだ。ここへ来い! ここに来て俺の忠告を聞け。そうすれば、その報酬としてパンとミルクだ。1ペニーじゃ買えねえぞ。ロンドンのパブなら確実に3ペンスは取られる。来いよ! いいから来い! 暴力も嘘もなしだ。こいつは紳士的な取り引きだ」
走ってくる小さな足音。
「なんだおまえ裸足じゃねえかよ。どっから来た。
……まあ、そうだろうな。で? どこの救貧院だ? ああ知ってる。ひとつむこうの町だろ? そこから五マイル近くも、裸足で歩いてきたのか? それで、なんだって俺の後をついてくる?
ロンドンだと? 正気か? 道は確かにあってる。この道だ。だが、三十マイルはあるぞ。裸足で歩くつもりか? 二日もあれば辿りつけるだろうが……、いったいなにしに行く?
やめろ! 迷惑がられるだけだ。邪魔じゃなければ、母親はおまえを救貧院においてロンドンに出たりはしねえぞ。いいから帰れ! 救貧院に戻れ!
……ああ、噂には聞いてる。救貧院より刑務所の待遇の方がマシだったと、パブで耳にしたことがある。ディケンズもオリバー・ツイストで、劣悪だと書いてるしな。
知らねえのか? チャールズ・ディケンズだ。十五年前に死んだ有名な作家だぞ。俺みたいな学のねえ男でも本は読むぞ。クリスマスキャロル、大いなる遺産……、それから……。
ああ、やるよ。先に食え。ミルクも飲め。だが、俺の警告はこれからだぞ。食いながらちゃんと最後まで、俺の話を聞け。
俺がなんだって、こんなにガチョウを連れて歩いているかわかるか? これが俺の仕事だからだ。
貴婦人も四羽、混じっているが……。七面鳥のことだ。黒いガウンを纏った首の長い貴婦人に似てると思わねえか? しかもガチョウとちがって、そのへんの草じゃダメだ。専用の餌が必要だ。だから貴婦人だ。
八十八羽のガチョウと四羽の七面鳥、これをロンドンのスミスフィールド市場に運ぶのが俺、ドローバーの仕事だ。
名前じゃねえ。俺の名はジョン・デニソン。ドローバーは牛や豚、鳥を歩かせる奴らの名称だ。免許もあるぞ。特に牛が暴走すると大惨事だ。ドローバーは免許を持った者だけに許される責任ある仕事だぞ。
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俺みてえなグースドローバーは、今じゃすっかり珍しいがな。
鉄道だよ。蒸気機関車のせいでドローバーは瀕死だ。もう少し運賃が安くなれば、誰も歩いて家畜を運ぶなんて面倒なことはしねえ。俺もロンドンへの長旅はこれが最後だ。
だから、ここにいる鳥たちが、俺の全財産だ。預かってる鳥はいねえ。俺が育てたのもいるが、半分はあっちこっちで買い取った鳥だ。大きさにもよるがガチョウは6から12シリング。貴婦人はその倍だ。ざっと計算しても40ポンドは下らねえ大金だぞ。
大金すぎて価値がわからねえか? このあたりの農夫の給金が一週間で10シリング。一ヶ月で2ポンドだ。つまりこのあたりなら家族四人でどうにか二十ヶ月は暮らせるって額だ。
それを守っているのが、俺の犬たちだ。毛の長いのがコリー犬のリー、足の短いのがコーギー犬のギー。茶色いのがマウンテン・カーという犬種のカーだ。
うるせー。犬の名前なんかどうだっていいんだよ。ちなみに荷車を引いてるポニーの名は、ドロシーだ。
笑うな!
三匹の犬は優秀な牧羊犬だぞ。ほら、見てみろ。俺がなにも言ってねえのに、群れから離れようとしたガチョウを、犬たちがああやって先回りして隊へ戻してる。まったくもって、こいつらがいなけりゃ、俺の仕事はなりたたねえ。
敵が来たときも同じだ。野犬や鷲が、俺の鳥たちを狙おうとしても無駄だ。勇敢に立ちむかうぞ!
銃を持った追いはぎが来ても同じだ。飛びついて首に噛みつく。ガッ! そして食いちぎる。一瞬で終わりだ。それでもダメなら、マルティニ・ヘンリーの出番だ。
ライフル銃だ。単発式だが、俺の装填速度なら一分間に六発は狙って撃てる。見えるか、あの遠くにある木の太さくらいのマトなら確実にあてられるぞ。
つまり、おまえが俺のガチョウを盗もうとしても無駄だってことだ。首を噛みちぎられるか、頭を撃ち抜かれるか、そのどっちかってことだ。
ああ、わかってる。そんな考えを、起こさねえように忠告しているだけだ。
それだけじゃねえ。おまえみたいな得体の知れない奴にウロウロされると、犬や鳥が不安になる。草や虫を食う量が減る。ガチョウたちが肥え太らねえと買値がさがる。つまり、おまえがそこにいるだけで、俺のもうけが少なくなる、というわけだ。わかるか?
だから近づくな。どこか、俺たちの目の届かねえところへ行け。これが俺からの警告だ。おまえは2ペンス分のパンとチーズとミルクを腹に入れた。俺の警告もちゃんと頭に入れろ。次はねえぞ! 次に目にしたなら、容赦なく……。
うるせー! 知るか! 親なしなんか、ちっとも珍しくねえぞ!
どうしても行くってんなら、あてはあるのか? ロンドンはだだっぴろいぞ。人間もうじゃうじゃいるぞ。
バカヤロー! 母親の顔も名も知らねえのに、探せるわけねえだろうがよ! おまえは捨てられたんだよ! たとえ出会えたとしても、自分の子とは絶対に認めねえぞ! 勝手に産んで、勝手に捨てる母親のことなんぞ、忘れちまえ! 戻れ! 救貧院に戻れ! どんなに食事が少なかろうが、殴られようが、それでも生きていける!
うるせー! 戻れ! さっさと行け! そうじゃあねえと、ズドンと、頭に風穴を開けるぞ! コンチクショウめ!」
(2)
たくさんのガチョウの鳴き声。犬の鳴き声。
「おい裸足! こっちに来い! てめえが隠れながら、ずっとついてきてるのはお見通しだ! 来い! いいから出てこい! さっさと来い! 来ねえなら、俺のマルティニ・ヘンリーが火を噴くぞ! おい!」
駆けてくる小さな足音。
「まったく呆れたバカヤローだな。どうしてもロンドンに行って、母親を探すつもりか? そういうのをな、ガチョウに靴を履かせるって言うんだ。わかるか? 不可能なことをするっていう意味だぞ。
年はいくつだ?
どっちだ? 九つなのか十なのかはっきりしろ! ……まあいい。見た目が十だから、十ってことにしろ。
名前は?
どうでもいい。本当の名じゃねえとか、気に入らねえとか、俺には関係ねえ。その名が嫌なら、名無しの裸足と呼んでやる。
おい裸足、おまえに仕事をやる。そのガチョウだ。
そいつを、しめろ。こいつはもう歩けねえ。荷車に乗せて連れてきたが、もうダメだ。今日か明日には死んじまう。見ればわかる。だいぶ悪い。
だから、おまえがしめるんだ! 殺すんだよ!
弱ってるからそう抵抗しねえ。後ろからぐっと体を押さえて、左手で頭をつかむ。それからこのナイフで喉をすばやく切れ! 一気に深くスパッとやらねえと苦しんで暴れるぞ! 首が落ちてもかまわねえ。油断するなよ。首がなくても体の方はしばらく動くぞ。自分に血がかからないように、手を放して逃げろ。すぐに動かなくなる。そしたら、足を持って逆さにしろ。血抜きだ。
そうだ。同じことを言わせるな。おまえがやるんだよ。おまえの仕事だ。
俺は殺さねえ。自分の農場ではやるが、旅の途中では絶対に殺しはしねえんだ。絶対ってわけじゃねえが、今までそうしてきた。そのおかげで大きな事故もなかった。そう思ってる。俺のジンクスだ。
いつもなら農場や酒場に安く売っちまうが、このあたりじゃ、売れねえな。クリスマスでさえガチョウを口にできねえような貧乏人ばかりだ。今夜の宿も元は農場をしていたが、今は婆さんひとりだ。頼めばできねえことはねえだろうが、自分でやれと言われるのがオチだ。
だから、この仕事をおまえにやる。報酬は今夜の宿と夕飯、明日の朝食だ。しめたガチョウの肉も食わしてやるぞ。
食ったことねえだろ? ガチョウのローストだぞ。裸足の貧乏人には一生食えねえかもしれねえ、ごちそうだぞ。マッチ売りの少女って話は知ってるか? マッチをすって、現れる幻想のごちそうが、ガチョウのローストだ。ロンドンの奴らでさえ、ガチョウを口にするのはクリスマスだけだ。それも何ヶ月も前から積立貯金して、やっと小さいのだ。
そうだ。こいつらみんな、クリスマスのごちそうだ。貴婦人はどっかのお貴族様かちょっとした金持ちが買う。これだけ丸々した貴婦人だ。気前良く1ギニーは出すぞ。
やりたくねえなら、それでもいい。回れ右して救貧院に帰れ。
だがな、おまえが殺さなくても、誰かが殺すんだ。肉を食うということはそういうことだ。目にしていないだけで、おまえも殺しの片棒を担いでるんだ。野菜だけ食ってるから殺生してねえとか言う牧師もいるが、野菜を育てる農家は肉を食ってるぞ。住んでいる家も、着ている服も、殺した動物の肉を食って生きてる奴が作ってる。それに、植物だって生き物だ。
食うってことは、そういうことだ。自分で殺すか、見えないところで誰かに殺させるか、それだけのちがいだ。
これができねえなら、おまえは半人前以下だ。ひとりで生きることはあきらめろ。ロンドンに辿りつけても、悪い奴に騙されて食われるか、もっと酷い救貧院に押し込まれるだけだ。
どうだ? やるのか?
そいつは……、まあ……、おまえさんの働きしだいだな。使える奴なら、ロンドンまで連れていってもいいが……。
ガチョウの歩きは遅いぞ。今回は特にのんびりだ。道草を食いながら、一日、せいぜい五マイルほどしか進ませねえ。宿にできる農場を頼るからまっすぐでもねえ。早くとも一週間はかかるぞ。
それでロンドンに行っても、一日も暮らせねえぞ。金がいる。道で寝るだけで逮捕される所だぞ。しかも物価は田舎の倍、そう思え。
あるだと? どれ、見せてみろ。
バカヤロー。こいつはファージングだ。これで買えるものなんかねえぞ。最低でも1ペニーだ。このコインはその四分の一だ。
俺にしてみれば、こんな銅貨は金じゃねえ。俺が金と認めるのは3ペンスコインからだ。小さいが銀貨だ。銅貨はただの金属だが、銀貨はちがう。他の国に持っていっても、銀なら貴金属としての価値がある。金貨ならもっと確実だ。
今から泊まる農場の宿は格安の一泊6ペンスだ。もっとも、寝床は屋根があるだけで野宿とそう変わらねえが、暖炉のある場所で、夕飯が食えるぞ。パンとバターと砂糖入りの紅茶にありつける。茹でたジャガイモとミルクは、いくらでも食っていい。
それからジャムもあるぞ。プラムか木いちごのジャムをたっぷりパンに乗せられるぞ。
ふたりで泊まるなら倍の12ペンス、つまり……。
そうだ、1シリングだ。それじゃあ1ポンドは何シリングだ?
ほほう。計算はできるようだな。そうか、字も読めるか。義務教育ってのは偉大だな。俺の小さい頃はそんなものはなかったから、いまだに自分の名前しか読み書きできねえ仲間も多いぞ。
じゃあ学のある裸足のお坊ちゃんに教えてもらおう。
1シリングはペニーコイン十二枚、なのにその上の1ポンドは、シリングが二十枚必要だ。どうしてこんなにややこしい? 外国じゃ単純に十ずつ位があがる十進法だぞ。
知らねえのか? だろうな。俺も知らねえ。お上が決めたことだ。
だがな、この国にはもっとややこしいギニーって金もあるぞ。コインはねえ。俺が生まれる少し前まであったらしいが、今は存在してねえ金貨だ。価値はシリング二十一枚分だ。1ポンドに1シリング分のチップが入った額、そう覚えておけ。こいつはチップを払うのが当然のようなお貴族様が好む金の数え方だ。
ロンドンに行って、1ギニーとかハーフギニーとかの値段を見たら、貧乏人お断りの値段だと思え。不思議の国のアリスに出てくるきちがい帽子屋がかぶっているシルクハットにも、でかでかと、10、斜め線、6と値が書いてある。斜め線の左がシリングで右がペニーだ。つまり10シリング6ペンス。ハーフギニーだ。
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おまえは見たことねえだろうが、その上には5ポンド札というのもあるぞ。国が5ポンド分の価値があると認めている証書だ。透かしが入ってるが、後ろは真っ白だ。何百ポンドもの金を取り引きするお貴族様連中には、軽くて便利かもしれねえが、こんなもん、俺から見れば金じゃねえ。火事になったら金貨は焼けねえが、5ポンド札は灰になる。ソブリン金貨五枚を胸にしまっておけば、それだけで弾除けにもなるが、5ポンド札じゃ命は守れねえ。
どうでもいい! 裸足が一生、手にすることもねえ札の話なんぞ、どうだっていい。仕事をやるのか、やらねえのか、はっきりさせろ!
できねえなら帰れ! 半人前に用はねえ。後をつけることも許さねえ! それでもついてこようものなら、この杖で嫌というほど殴りつけてやる!
それとも、やるか? やって半人前になるか? 自分でしめたガチョウのローストを食うか? 二ヶ月ほど早いがクリスマスだな。二時間かけてじっくり丸焼きだ。肉汁で作ったグレービーソースをたっぷりかけて食うんだ。皮がパリパリで中はしっとりだ。俺の育てたガチョウはよく歩かせてあるから、農場で遊んでるだけのガチョウとは、肉質がちがう。うまいぞー。
さあ、どうする?
そうか、よし、やるか。
そうだ。こう持って、こうだ! 一気に深く、喉を切れ。苦しませるな。感謝して殺せ!
わかった。いいだろう。俺がガチョウを後ろから押さえてやる。茂みのむこうへ行こう。群れの仲間には見せたくない」
ガチョウの鳴き声。ふたりの足音。
「このへんでいいだろう。
そうだ。ぐっと、頭をつかめ。そうだ。その角度だ。やれ! 首が落ちてもいいから、強く深く、一気にナイフを引け!
どうした? やれ!
早くやれ! この意気地なしが! そんなんで、母親に会えると思うな!」
ばたつくガチョウの羽音。
「よし! よくやった。初めてにしては上できだ。近づくな。体は走ってるが、もう死んでる。もうすぐ、動かなくなる……。
泣くなバカヤロー! 感謝しろ!
ほら、もう動かねえ。足を持って逆さに吊るせ。そこの木の枝でいい。血抜きだ。やれ! そこまでがおまえの仕事だ。
温かい? 当然だ。ついさっきまで生きてたんだからな。だがもう、そいつはただの肉の塊だ。吊るせ」
コルクをひねる音。
「よくやった。俺のスコッチを少し分けてやろう。その震えも収まるだろうさ。スプーン一杯だけだぞ。ぐっとやれ。喉が焼けるように熱くなるが、毒じゃねえ。飲みすぎると毒だがな。
ははは。……だろうな。大人にしかわからねえ味だ。だが気をつけろ。この味が癖になりすぎると、盗みをしてでも飲みたがる大バカになるぞ。用心しろ」
ガランと鍋の音。
「もうひとつ手伝え。ガチョウたちに靴を履かせる。タールだ。こいつを少し温めて、おがくずと砂、粉砕したカキ殻を混ぜるんだ。ガチョウたちの足をこの鍋の中に浸すと、立派な靴になる。ついでにおまえも、足を浸せ。人の足にどのくらい効果があるかわからねえが、裸足よりはマシだろうさ。
ああそうだ。ガチョウの足に靴を履かせる。俺たちドローバーにとっちゃ、少しも不可能なことじゃねえのさ」
(3)
ふたりの歩く足音。
「そうか、そんなにうまかったか? 明日の朝はキドニーパイだ。ガチョウの内臓を包んだパイだ。ベーコンと卵も出るぞ。
ああ、もちろんジャムもだ」
ふたりの歩く足音。
「格安で飯も悪くない宿屋だが、俺たちの寝床が母屋から離れてるのだけが難だな。もっとも、あまり近くちゃガチョウたちがうるさくて他の客に迷惑だ。
贅沢を言うな。このくらい歩け! 夜はドロシーを歩かせねえ。それも俺のジンクスだ。特にこんな暗い夜は絶対にダメだ」
ふたりの歩く足音。
「ああ、そうだ。昔はこの牧場にもたくさんの牛や豚がいた。旦那が死んで、手におえなくなったから、今はパブと宿だけだ。
いやそれはねえな。ロンドンで成功した自慢の息子だぞ。年収がここらの農夫の五倍もあって、メイドをひとり雇ってるようなご身分だ。小さな雑貨屋だが、行商で稼いで、それだけにしたんだから、たいしたもんじゃねえか。
それを捨てて、こんな客の少ねえ田舎に戻るわけがねえ。
俺もドローバーをやめて、ロンドンで肉の行商をやるつもりだ。俺のこの目なら、どんな育て方をした肉か、うまいかまずいか、しめる前にわかる。うまい鳥肉を仕入れて、金持ちたちに高く売るんだ。お貴族様は、うまければいくらでも金を出す。ギニー単位で大量に買ってくれる。貧乏人なんぞ相手にしねえぞ。
たっぷり稼いだら、次は店だ。約束してあるパブの女を嫁にする。イーストエンドにあるパブだが、なかなか品のいい女だぞ。
悪いか? まだ独身だ。
それは嘘じゃねえ。まちがいなく、ドローバーの免許が取れるのは、三十以上の所帯持ちだけだ。
……年齢の方はまあ、そう見えればいい。女房の方は、免許をもらったあとに、離婚したり死別したり、いろいろ事情ってもんがあるだろ? 結局はまあ、身元がしっかりしてればいい。
俺の場合は、世話になった牧場主が保証人になってくれたし、形だけだが、一ヶ月ほど結婚していた、ってことになってる。
おい裸足! なんども言わせるな! それは絶対にダメだ。あきらめろ! ロンドンまでは連れていってもいいが、そのあとは知らねえ。
どうしても行くなら勝手にしろ! 俺を頼るんじゃねえ!
ともかくだ、ロンドンに行って顔も名も知らねえ母親を探す、そんなバカな考えは捨てちまえ! 紹介してやるから、農場で奉公しろ。仕事は楽じゃねえが、屋根と食い物の心配はねえ。救貧院よりはたらふく食えるぞ。
たとえ仮に、母親に会えたとしても、なにも変わらねえぞ。母親は、おまえを望んで産んだんじゃねえ。うっかりできちまった、お荷物だ。尻にできたおできと一緒だ。もう一度、切って捨てられるのがオチだぞ」
遠くで吠える犬たちの鳴き声。
「待て! こいつは、おかしい……。
大きな声を出すな。小声で話せ。止まるな。このまま歩きつづけろ。
こいつは……、盗人か追いはぎだ……。このランタンを持て」
ライフルに弾を込める音。
「ほらな。重くても、お守りを担いできたかいがあった。もっとランタンを上にあげろ。むこうからは小さな火しか見えねえ。大人が持ってるようにみせかけるんだ。
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そうだ。まちがいねえ。待ち伏せしてる。
犬たちの声がふたつしか聞こえねえ、……一匹、誰かやられちまってる……。
いや、それはねえ。まだ潜んでる。そうじゃなければ、あんなに吠えねえ。ガチョウの一羽くらいならくれてやってもいいが、待ち伏せしてるとなると、……俺の全財産を狙ってやがる。
チクショウめ。今どきこんなところで追いはぎなんかしやがって、思いつきではじめた素人だ。
おそらく母屋のパブにいた客だな。見知らぬ顔で、俺たちより先に出た客の誰かだ……。
おい、ランタンだけ前に出して、俺の後ろへつけ。まちがいなく銃を持ってるぞ。
いや、たぶん敵は多くてもふたりだ。それ以上なら、犬たちが死んでる。人数が少なくて、うかつに柵の中に入れねえんだ。ちょこまか逃げる犬たちを柵の外からうまく撃ち殺せる腕もねえ。
さて、どうするかだな……。
このまま母屋に引き返すのが無難だが、確実に犬たちが殺されちまう。
ああ、そうしてやる! だが、賊がどこの茂みに潜んでいるのか、この爪あとみてえな細い月明かりの下じゃさっぱりわからねえ。一発でも撃ってくれれば、位置がわかるんだが……。
とりあえず、あそこの太い木の陰まで歩くぞ。裸足はそこで待て。そこで隠れていろ。
俺は杖の先にランタンをぶら下げて、それを囮にする。賊はランタンの火にむけて撃ってくるはずだ。俺の体に当たる確率が減る。
心配するな。いつだってそうだ。運が悪けりゃ死ぬ。ここまでだって生きてこれなかったはずだ。
いいからこの杖の先にランタンをくくりつけろ。早くしろ」
駆けだす小さな足音。
「バカ! なにやってる! 戻れ! 行くんじゃねえ。おまえに囮を頼んじゃいねえぞ! 裸足! 戻れ!」
遠くから軽い銃声が二発。
「くそっ! そこか!」
重い銃声が一発。轟――。
「どうだ? 当たったか? 見やがれ! 一撃だ! くそっ! 勝手なことしやがって!」
ライフルのリロード音。駆けだす足音。
「バカヤロー! なに勝手なことをしやがる! 怪我はねえか? おい、ちゃんと答えろ! どこも撃たれてねえのか? 本当か? 血は……出てねえな……。運のいい奴め。だが、二度とこんなことするんじゃねえ!
泣くな。
……悪かった。俺はそんな意味で言ったんじゃねえ。おまえは不要な存在なんかじゃねえ。母親がそう思ってるだけで……」
軽い銃声が二発。
「くそっ!」
轟――。
男のうめき声。
ライフルのリロード音。
「銃を捨てろ! さっさと銃を捨てろってんだよ! そっちの銃にはもう弾がねえはずだぞ!」
茂みを揺らす音。
「よし、そうだ。それでいい。おまえひとりか? 横で倒れている男の他に、仲間がいるかって聞いてるんだ?
ああ、そいつはもう死んでる。胸に一撃だ。こいつは、戦争帰りか? おまえは、そうは見えねえぞ!
バカな奴だ。こんな男にそそのかされやがって! 貧しくとも畑の手伝いをしていればいいものを……。
見せてみろ! いいから傷口を見せてみろ。 おい裸足! ランタンで照らせ。こいつの腹だ。早くしろ!
こいつは……。
ああわかった。もういい。許してやる。ほんのでき心だったんだろ? もういい。もう謝らなくていい。なかったことにはできねえが、俺はもう、おまえを許してやる。俺の犬を一匹殺したことも……。運が悪かっただけだ。
だから黙って聞け。残念だが、おまえはもう助からねえ。当たりどころが悪い。隣に外科医が住んでるようなロンドンなら、もしかすると助けられるかもしれねえが、こんな田舎じゃ無理だ。このまま数時間ほど苦しんで、確実に死ぬことになる。
ああ、そうだ。終わりだ。もうすぐ、おまえの命が終わりになる。
どうする? 望むなら、苦しまなくてもいいように、とどめをさしてやるぞ。どうする?
なんだこれは? 金か?
ロンドンのどこだ。ああ、そのパブなら知ってる。入ったことはねえが、前を通ったことがある。
わかった。届けてやる。確かに預かった。まちがいなく届けてやる。ローラだな? 赤毛の女……。わかった……。わかったからもうしゃべるな。
裸足! 水だ! 水を一杯、持ってこい。荷車に積んである樽の中だ。早くしろ!」
駆けだす小さな足音。
「押さえろ。ここをしっかりと手で押さえろ。水はすぐ来る。
あ? なんだって? ああそうだな。少しばかし運が悪かっただけだ。わかった……。わかった。ちゃんと知らせてやる。
そうだな。きっと泣くだろうな。
綺麗な娘か?
そうか……。
そうだな……。
きっとそうだな……。
ああ、わかるぞ……。
そうか……。そうだな……。
いいから休め。もう、なにも心配するな。ゆっくり休め……」
駆けてくる小さな足音。
「ほら、水が来たぞ。飲め。どうした?
どうした? 口を開けろ。
ちっ! 死んでやがる!
俺たちみてえな貧乏人には、死に際の水さえ、贅沢ってことなのかよ! コンチクショウ!」
水を捨てる音。
「裸足、祈ってやれ。適当でいい。なんでもいいから、祈ってやれ。気持ちが大事だ。無慈悲な神だが、他にすがりようがねえんだから。
そうか……、死んだのはギーか……。あとで丁重に埋めてやろう。
なんだ? 血か? どこに?
ああ、確かに血だな。俺か? 俺の血か? 腹だ。一発、当たってやがる……。
なーに、ほんのかすり傷だ。心配ねえ。それよりも、母屋から婆さんを呼んできてくれ。この事件を、巡査にも知らせなきゃなんねえ」
(4)
「来たか。近くによれ。大事な話がある。いや待て。泥だらけの足でそれ以上、俺のベッドに近づくな。足を洗え。その桶に湯が入ってる。だいぶ冷めてるかもしれねえが、足を洗え。そのカバンの中に石鹸が入ってるからそれを使え。ついでに顔も洗え。
気にするな。あの婆さんは大げさだ。いつだって、なにかあるとすぐ泣く。そして怒る。その両方ってのは、珍しいかもしれねえがな。
そうだ。それだ。しっかり泡立てて、綺麗に洗えよ」
水の音。
「まずはおまえの勘違いを正そう。俺は確かに、おまえの母親が、おまえを必要としていねえ、そう言った。たぶんそれは、まちがいねえ。
俺も母親に捨てられた身だ。大きな屋敷でメイドをしていたが、うっかり俺ができちまって、クビになった。俺を牧場に預けて、ロンドンに出ていって、それっきりだ。おまえは俺と同じだ。必要とされずに生まれた子だ。
だが、勘違いするな。この世に不要な命なんかねえ。生きてるだけで、誰かの役にたってる。生きるってことは、食うことだ。誰かの育てたものを食うってことは、それに金を払うってことだ。農家も牧場も、仕立屋も雑貨屋も、それで生きていける。
俺もおまえも、この国を動かしている小さな歯車のひとつだ。替えなんぞいくらであるが、それでも、不要な歯車なんかじゃねえぞ。
洗えたなら、このタオルで足を拭け。少し俺の血がついてるが気にするな。
拭けたか? なら、その革靴を履け。使い古しだが、まだまだ使える。おまえに俺の靴をやる。命を張った礼だ。おかげでガチョウと犬たちを守れた。履いてみろ。
そうだろうな。大人の靴だ。だが、すぐにおまえも大きくなる。足にぼろ切れを巻いて、隙間に藁でも詰めとけ。紐を固くしめれば、歩ける」
床を歩く靴音。
「ははは、確かにでかいな。だがもう、おまえは裸足じゃねえ。こっちによれ。立派な靴を履いたおまえと、取り引きがしたい。
俺の顔色なんか気にするな。浅黒い日焼け顔だ。少しぐらい青い方が、男前に見えるってもんだ。
いいから黙って聞け。俺はここでリタイアする。旅の途中だが、俺はここでドローバーを終わりにする。
ああ、だからそれを頼みたい。ここから四マイルほど先に顔なじみがやってる小さな牧場がある。一本道だ。迷う心配もねえ。犬たちを連れて俺のガチョウと貴婦人を、明日、そこまで歩かせろ。
見ていたならわかるはずだ。おまえはドロシーの手綱を引いて、行き先を示すだけでいい。犬たちが列を整える。一匹たりないから、列が乱れるかもしれねえが、落ち着いて待てばどうにかなる。
泊まり客のひとりが、明日の朝早く、俺の手紙をその牧場へ届けてくれる。それで牧場の方には話がつく。
そこからさらに十マイル離れたところに大きな牧場がある。そこの牧場主が、俺を育ててくれた親方だ。そこから人が来て、俺のガチョウと貴婦人をすべて買ってくれる。犬たちも、ドロシーも、そいつに預けろ。それですべて片づく。
そうだ終わりだ。ロンドンまで歩きたかったが、俺はここで仕事を終わりにする。
あとは好きにしろ。ロンドンに出て、どうしても母親を探したいなら、そうすればいい。だが、おまえはまだ小さい。親方の牧場で奉公させてもらえ。もう少し大きくなってからでも遅くねえはずだ。この証文を見せれば、必ず、親方は雑用として雇ってくれる。
これだ。布切れに消えないようにコールタールを混ぜた塗料で書いてある。
この一番上にある名前、ドローバー・デニソン、これがおまえの新しい名だ。
宿の婆さんが保証人だ。書名も入ってる。
これを見せれば、巡査だろうが裁判所だろうが、誰も文句は言わねえ。確かにそのとおりだと納得する。
ここに書いてあるのは、おまえドローバー・デニソンは、俺、ジョン・デニソンの息子にまちがいない、ってことだ。
ありえなくはねえぞ。昔、俺が遊んだ女のひとりが、俺の知らねえところで、おまえを勝手に産んだ。その可能性はゼロじゃねえ。
だが、この証文はただではやらねえ。俺の仕事をきちんとやり終えるのが条件だ。
ちがう。ガチョウたちを運ぶだけじゃねえ。その前にもうひとつ、重要な仕事がおまえにある。
よく聞け。俺はもうダメだ。さっきの男と同じだ。当たりどころが悪い。腹の中で血が止まらねえ。今は少しのモルヒネで痛みを抑えているが、すぐに切れる。苦しんで、のたうって死ぬことになる。
だから、そうなる前に、俺をしめろ。
銃で俺を撃て。
それがおまえの仕事だ。
いや、助からねえ。そうは見えねえだろうが、毛布の下はもう血の海だ。
泣くな! いいから聞け! 撃ち方は教えてやる。この銃もおまえにやる。まずこのレバーを下に引くんだ」
リロード音。
「薬室が開くから、弾を入れて、レバーを戻す。これで撃てるようになった。銃口を俺の顎の下にあてろ。角度は俺が調節するから、おまえは引き金を引くだけだ。弾丸が俺の小脳を貫通して、一瞬で死ねる。
バカ! 自分でできねえから、おまえに頼んでるんだ。見ろ。銃口が長すぎて、指が引き金に届かねえ。
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その椅子を横に持ってこい。そこに座って銃を持て。銃口の先は、俺がしっかりと握っているから、おまえは目をつぶって、ただ引き金を引くだけでいい。
罪に問われることはねえ。俺が安楽死を息子に頼んだ。そう書いた手紙を婆さんにも預けてある。
俺を楽にしろ。報酬は俺の全財産だ。なにもかもおまえにやる。親方の農場にも、金を預けてある。全部、おまえのものだ。
これは悪くねえ取り引きだぞ。
あれは嘘だ。ロンドンの女と約束なんかしていねえ。店でも持てば、なびく可能性がある、そう思っただけだ。さっき死んだ男と一緒だ。
その小さな袋に1シリング入ってる。パブの女に届けて欲しいと、男が死に際に頼んだ金だ。それもおまえにやる。住所と名を書いた紙を入れておいたが、届ける必要はねえぞ。
パブの女にとっちゃ、名前も知らねえ男だ。見れば顔くらいは覚えてるかもしれねえが、それだけだ。それに、そんな金持ちが出すチップほどの端金をもらっても、たいして喜ばねえ。
それでも届けてやりてえなら、勝手にしろ。だが、追いはぎをして死んだことは内緒にしてやれよ。
俺の話は終わりだ。しっかりと銃を持て。そうだ。それでいい。
さあ、いいぞ。やれ。
気にするな。おまえがいなければ、俺も犬たちも殺されて、全財産を奪われていたはずだ。
これは、俺の寿命がつきた。それだけのことだ。年老いて歩けなくなったガチョウと同じだ。
さあ、やれ!
どうした? できねえなら取り引きは中止だ! この証文をランタンの火で燃やすぞ!
それともなにか、俺が苦しみながら死ぬ姿を、そこで見たいってわけか?
……なら、やれ。俺を楽にしろ。
……わかった。ならこうしよう。引き金に指をあてているだけでいい。俺がこっちから銃口を引っ張る。それで弾が出るはずだ。
おまえは目を閉じて、引き金に指をあてているだけでいい。
そうだ。それでいい。
ことがすんだら、婆さんを呼べ。
それから……、しっかりと歩けよ。この世に、不要な命なんか、ひとつもねえんだから。
じゃあな……」
轟――。
(5)
「ひとりでだいじょうぶなのかい?」
「うん。だいじょうぶ」
たくさんのガチョウの鳴き声。犬の鳴き声。ひづめの音と車輪の回る音。
歩きだす少年の足音。
(了)
あとがき
かつてドローバーという職業が実在していた。主に牛や豚、羊を徒歩で運んでいたが、ガチョウ専門のグースドローバーも実在しており、本当にタールでガチョウに靴を履かせていたという。
この話をアニメや漫画で時代考証をしている
村上リコに聞いた。
ひとの足には効果がないのだろうか? 子供の足なら少しくらい効果があるはず……。そう妄想したところから、今回のこのストーリーが走馬灯のように一瞬で完成した。
けれどすぐには書けなかった。19世紀の英国時代ものである。正直、知識が足りない。生半可なこと書くと村上リコにセブンシスターズの崖から蹴り落とされる。そんな気がした。
「じゃあ、村上リコに時代考証してもらえばいいんじゃん」などと考えるのは、とても危険だ。まず金がかかる。こんな短篇だろうと、少なくとも数十万は請求されるだろう。(※「しません! 応相談です!」注・村上)
そして知らないことを聞くと「本当にそれが知りたいのか? 本当に知りたいなら調べるけれど、ものすごく手間と時間がかかるんだコンチクチョウ!」とつめられる。
というわけで自分で調べることにした。考証協力に村上リコの名があるのは、参考資料を借りたからである。「これこれ、こういうことを調べたい」と言うとドサドサと本の山が積まれる。お金についてわかる本を尋ねたら、実物が出てきた。小説には書かなかったが5ポンド札は21[#「21」は縦中横]×13[#「13」は縦中横]㎝ほどあり、タブレットほどの大きさである。ちなみにこの年代、上は千ポンドまであった。さらに他の年代では一億ポンド紙幣なるモノもあったらしい。さすが、お貴族様の国である。
※主要参考文献リスト(他、いろいろ借りたけれど、よく使えたものだけ)
『The Drovers』
著者:Shirley Toulson
『The Drovers: Who they Were and How They Went: An Epic of the English
Countryside』
著者:Kenneth J. Bonser
『ラークライズ』
フローラ・トンプソン(著)
石田英子(訳)朔北社・刊
先の二冊は洋書なのでグーグル翻訳(画像取込)の力を借りて読んだ。牛や豚のドローバーについては詳しいのだが、ガチョウについてはそれほど書かれてない。特に困ったのが、ガチョウの移動速度である。いろいろ調べたがわからない。『Singleton's Pluck / 別名Laughterhouse』監督:リチャード・エア(1984年公開)の英国映画を参考にした。ストライキのために、ロンドンまで徒歩で百マイル、五百羽のガチョウを急いで運ぶというドラマである。この映画にある、おおよその最高速度を元に「最期の旅だからのんびり」という設定で速度を算出した。
『ラークライズ』は当時の田舎生活を知るのに、とても参考になった。いくら稼いで、なにを買っていたのかという肌感覚がよくわかる名著である。
書き上げたのち、村上リコにチェックしてもらったが、大きな訂正はなかった。指摘されたのはジャムの種類とグレービーソース。あとは相続についてだった。「遺産相続のために実子認定させるなら地元の牧師を呼んで……」という指摘だったが、遺産と言えるほどの金額でもなく、農場主を了承させるだけなので、割愛した。
村上リコ様におかれましては、ご協力に謹んで感謝。
この小説を音とセリフだけで書いたのは『小説に必要な描写とはなにか?』を考え直すため、シナリオ(ラジオドラマ、もしくはひとり舞台)風で挑戦した結果である。
書き上げた初稿では、語り部の主人公が死んでいるので(5)はなかった。最初に読ませた村上に「胸くそ悪い話だ」とけなされ、一人称的シナリオのルールを無視して(5)をつけたした。
もとの構想にあったラストは、朝もやの中で靴紐をきつくしめ直して歩きだす少年の姿だった。そこが一番、描きたかったシーンでもある。
(了)
初出
JURA43[#「43」は縦中横]号(2024/5/5)
時代考証協力
村上リコ
(※注)
この作品を舞台化(ドラマ化)したい場合はお知らせください。もうけの出ない小劇団やサークル、および無料公演ならば、使用料はいりません。それなりに稼ぐ公演や公開ならば、お安くしますので使用料を頂けると幸いです。
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◎著作者 岡本賢一
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