『あとがき』

 

「この小説のジャンルは、ファンタジーでいいか?」
 と、Sさんに聞かれた。
「やっぱり、××じゃあ、まずいですよね」
 否定されるだろうと思いつつ、そうたずね返すと、予想よりも遥かに力の入ったキツイ言葉が戻ってきた。
「あたりまえだ! 本が売れなくなってもいいのか!」
 というわけで、この本のジャンルは寓話ということになった。
 とてもピッタリだと思う。Sさんどうもありがとうございます。今後ともよしなに。

 表題作の「鍋が笑う」は、××同人誌『宇宙塵』に掲載され、僕のデビューのきっかけとなった作品です。掲載後、××好きの人々が年に一度集まる××大会において、日本××ファンジン大賞の創作部門を頂きました。
 僕の代表作です。デビュー後も、自分の作品を知って欲しいときなど、これを渡していました。六十になる僕の母も「一番好き」と言っております。
『宇宙塵』掲載に際して、代表の柴野拓美先生にはいろいろと細部にわたり、改稿のご指導を頂きましたこと、あらためてお礼もうしあげます。その後の小説かき生活において、どれほどこの時の指導が役にたったかわかりません。
 僕は最初、根っからのハード××ファンである柴野先生に、この作品を認めて頂けるかどうか心配しながら投稿したのです。けれど案に相違し「りっぱな××です。傑作です」というお言葉。××と認めて頂けたこと、今も心強く感じております。
 ありがとうございました。

「背中の女」は、デビュー前に『JURA』という印刷部数わずか百部の同人誌に掲載した作品です。イラストレーターの加藤・後藤さんと知り合ったのもこの同人誌です。
 この作品も評判がよく、今回この本の作品選定で、パスカル短篇文学新人賞を頂いた「父の背中」を蹴落として収録されることなったほどです。
 編集の高橋さんの話では「鍋が笑う」より「背中の女」の方を、篠田さんがベタ褒めしているそうです。

「リアの森」は書き下ろし作品です。クリスマスに出るということなので、気恥ずかしいほどのラブストーリーを書いてみました。
 最初は「機械少女」と「ライスのやくめ」のどちらを掲載するかで、担当編集の高橋奈穂子さんとその上司のIさんとで意見が分かれ、壮絶な死闘が展開したそうです。
「別に書き下ろす、なんてどうでしょうか?」などと僕が口を滑らせたの運のつきでした。他の締め切りが押され、今、僕はもう死にそうです。
 それはさておき、この作品「エルモがなんだかよくわからない」と、Iさんのこだわりに何度か手直しをしたところ、この作品においてそれがとても重要な意味を持っていることに気づかされました。さすがは三本の指に入る名編集者と噂されるだけの方だなー、と今ごろになってやっと再認識しました。でも、あとのふたりが誰なのかは知りません。
しかるに、よくなってしまったことから「もったいないから、これは長編にして出しましょう」という申し出を高橋さんから頂きました。それはそれでうれしいことです。
けれど「長編に直すには、今の僕の力では無理です。ボツならこの作品はハヤカワの××マガジンに持ち込みます」と叫び、僕が喫茶店の床をごろごろ転げ回って駄々っ子のごとく暴れたので、このまま掲載されることになりました。

 真のデビュー作であり代表作を含む傑作集と言えるこの本が、自著十冊めにあたる今回、このような立派な版形で出せたこと、意味深いものを感じます。(上下巻を一冊と数え、オリジナルではないノベライズ作品を除いてなので、少し強引かも)
 なにはともあれ、編集のI様(本名がどうしても知りたい方は『ディアスの天使』あとがきを参照のこと)そして高橋様、お手数をお掛けしてすみません。ありがとうございました。ギャラに関係ないというのに、カバーの下の表紙にまで力の入ったイラストを描いてくださった加藤&後藤様、ありがとうございます。デザインの里見様、そしてこの本に関わったすべての皆様、ありがとうございました。
                           今後ともよしなに。

 ただひとつ残念なことは、数ヶ月前に父が急死し、もうこの本を渡すことができないことです。
                                  岡本賢一

   個人ホームページ「猫丸の国」アドレス
    http://www.jali.or.jp/club/okamoto
   長い入力が面倒な方は日本××作家クラブのホームページの名簿からも行けます。
    http://www.sfwj.or.jp

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