第二回「純度100%ベストナイン」


 さて、前回に引き続いて今回も、我等がファイターズがいかに生え抜きに冷たい球団かということについて、
今度はより生々しい角度から、選手そのものの残留率について改めて検証してみたいと思います。

 まずは、以下のラインナップを御覧下さい。


一番:毒島章一(中)
二番:大下剛史(二)
三番:張本勲(左)
四番:大下弘(右)
五番:大杉勝男(一)
六番:白仁天(捕)
七番:古屋英夫(三)
八番:田中幸雄(遊)
九番:土橋正幸(投)


 これは、私の独断と偏見に基づいて、この球団の歴代選手の中から選び抜いた、いわゆる「ベストナイン」のオーダーです。
とりあえず、ここでは単純に「記録」として残っている「数字」および「タイトル獲得数」を基準として選ばせて頂きました。
まぁ、白仁天を捕手として起用しているあたり、かなり無理のある編成ではありますが(どうしても彼を外したくなかったので…………)、少なくとも打力だけに関して言えば相当な破壊力だと言えるでしょう。
ちなみに、もしDH制を使えるのであれば、ソレイタ、ウィンタース、ウィルソン(もし日本人枠選手のみに限定するなら、柏原か落合)のいずれかが加わることになり、まさに夢のオーダーが完成します。
とりあえず、この編成であれば、他球団のベストナインにもひけをとらない豪華なラインナップであると言えるでしょう(ちなみに、もし強引に落合を二塁手として起用すれば、投手を除けば平均生涯安打数が2000を超えるという究極の安打製造打線になります)。
 まぁ、ちょっと選出選手層が偏っていますし(過半数がいわゆる「東映黄金時代」)、「三塁は古屋よりも片岡」とか、
「投手は土橋ではなく高橋直樹」といった意見も出てくるとは思いますが、
とりあえずこのオーダーが「全歴代選手から選出したべストナイン」として正当か否かは、今回の主題ではありません。
ですから、これはあくまで「一つの選出例」として受け止めておいて下さい。


 さて、では本題に入ります。前回お話致しました通り、ファイターズという球団は、フライヤーズ時代以来、とにかく生え抜きに冷たい体質である訳なんですが、そんな中で、最初から最後までフライヤーズ/ファイターズのみで選手生命をまっとうした「純度100%選手」のみによるべストナインを選出してみよう、というのが今回の企画です。
 まず、上記の「最強オーダー」の中に入っている純度100%選手、すなわち土橋と毒島については、とりあえず「確定」としていいでしょう。また、まだ現役なので最終的に移籍する可能性はありますが、(既にFA宣言をしており、年齢的に考えても移籍の可能性は低いということで)あえてここでは田中も選出させて頂くことにして、残り六つのポジションについて考えてみます。


 では、まずは守備の要である「捕手」から考えていきましょう。
この球団の歴代捕手となると、東映時代のケンカ八郎こと山本八郎や、62年日本シリーズMVPの種茂雅之、
そして81年V戦士である加藤俊夫&大宮龍男に、最も長く定位置を守り続けた田村藤夫などが挙げられますが、
これらは全て、最終的にはトレードに出されています(加藤に関しては、初めから外様でしたが)。
そんな中、純度100%の捕手としての選出資格を持っている者としては、
東急時代の鈴木圭一郎と、62年優勝時の正捕手であった安藤順三の二人が挙げられます。
まずは、二人の打撃成績を比べてみましょう。

・鈴木圭一郎:出場試合数746 打率.207 本塁打18 打点148 盗塁30 犠打28
・安藤順三:出場試合数1078 打率.210 本塁打18 打点196 盗塁11 犠打52

 この数字を見る限り、平均成績としての評価はいい勝負のようですが、やはり長く務めている分、安藤の方が分がありそうですね。
実際のところ、捕手として一番必要な盗塁阻止率については残念ながら手元に資料が無く、
リード面に関しても(特に鈴木の場合は情報が乏しいので)客観的評価は難しいですから、ここでは純粋にこの打撃成績の数字と、
そして(日本シリーズでは種茂にいいところを持っていかれたとは言っても)優勝をもたらした実績から、
安藤の方を選出させて頂くことにしましょう。



 続いては、内野に目を向けてみましょう。基本的に田中は二塁以外ならどこでも守れるのですが、
とりあえずここでは素直に遊撃手として配置するとした上で、残りの三つの塁を順に考えていきます。


 まず、一番簡単なのは一塁です。というか、選択の余地がありません。
歴代の一塁手の中で、一度でも規定打席に到達した純度100%の選手は、実は東急時代の原田清しかいないんです。
その成績は、実動8年で打率が.245、本塁打36本という、一塁手としてはかなり物足りない内容なのですが、
とにかく他に人がいない以上、どうにもならないのが現状です。

 勿論、現時点での条件だけを考えれば、小笠原も十分にこの条件を満たしており、
数字としては原田を遥かに上回る成績を出してはいるのですが、原田が六年半一塁定位置を守り続けたのに対し、
彼はまだ一塁に定着してからの期間が短く、しかもまだ若いため、今後移籍する可能性も十分に考えられます。
故に、ここではあえて彼を外し、原田の方を選出させて頂くことにしましょう(無論、十年後くらいには彼に代わって小笠原を選べるようになっていてほしい、というのが本音ではありますが)。


 続いて二塁ですが、ここも選択肢は非常に狭いです。現役の金子を除くと、複数年以上定位置を守り続けた純度100%選手は、
東急時代の浜田義雄と、81年V戦士の菅野光夫の二人しかいません。
ただ、この二人のどちらを選ぶかとなると、これが結構難しいんです。とりあえず以下の数字を見比べて下さい。

・浜田義雄:出場試合数1027 打率.245 本塁打20 打点217 盗塁142 犠打84
・菅野光夫:出場試合数1009 打率.222 本塁打21 打点168 盗塁67 犠打136

 ここから判断するに、打力と足に関しては浜田の方が上なんですが、菅野の二番打者としての犠打数と、
それによって優勝をもたらしたという実績を考慮すると、ちょっと甲乙付け難いように思えます。
ただ、菅野の場合は出場試合数こそ浜田と大差ありませんが、守備固めとしての起用が多かったこともあり、
実は打席数としては倍近い差が両者の間にはあるんです。よって、浜田が七年連続で規定打席に到達していたのに対し、
菅野は実は(私としてはかなり意外なのですが)一度も規定打席数に到達したことがないんですね。
それに、菅野はやはりユーティリティープレイヤーとしてのイメージが強く、遊撃や三塁もよく守っていたことを考えると、
二塁のべストナインとして選出すべきなのは、やはり浜田の方ではないかと私は思います。


 さて、続いては三塁です。某氏が阪神に去ってしまったことにより、ここも二人の一騎討ちになりました。
上記の原田&浜田と同様、東急時代に五年間三塁の定位置を守っていた斎藤宏と、
つい先日まで日本ハムの顔とも言うべき存在であった広瀬哲朗の二人です。
ここも、まずは単純に二人の成績を比べてみましょう。

・斎藤宏:出場試合数548 打率.249 本塁打17 打点153 盗塁53 犠打45
・広瀬哲朗:出場試合数966 打率.261 本塁打12 打点173 盗塁84 犠打104

 このように、数字的には本塁打数以外は明らかに広瀬の方が勝っています。
ただ、問題としては、広瀬はどちらかというと(二度のベストナインを獲得している)遊撃手時代の方が評価が高いので、
ちょっと三塁手として選ぶのには抵抗もあるのですが、それでもこの数字を見る限り、
彼を外して斎藤を選ぶのもどうかと思いますので、ここではひとまず、素直に広瀬を選出させて頂くことにします。


 さて、これでようやく内野陣が揃った、と言いたいところなのですが、
次に外野に目を向けようとすると、ここで重大な問題が発生します。
なんと、東急・東映・日本ハムという三時代を通じて、規定打席に達したことがある純度100%選手は、毒島一人しかいないんです。
もし、ここに現役組を加えるとすると、井出と上田の二人ということになるんでしょうが、
二人ともまだFA資格取得前の段階なので(FAしたところで、大金を払ってまで他球団が欲しがるほどの選手か? という気がしなくもないですが)、まだまだ移籍の可能性は十分にあり、ここで選出してしまうことには異論を唱えざるを得ません。

 そこで、まずは81年V戦士の中では最長の「17年」という在籍年数を誇るユーティリティープレイヤー・五十嵐信一を(内野での出場機会の方が多かったのですが)外野手として選出し、そして、93年&94年には左翼を守っていた田中にも(遊撃でベストナイン4回、ゴールデングラブ5回を獲得している彼には心苦しいですが)外野を守ってもらうことにしましょう。これで、どうにか外野三人のラインナップは確定します。

 そうなると、次に問題になるのは空席になってしまった遊撃手なのですが、田中以外でその資格があるのは、
62年の日本一の折の遊撃手である岩下光一しかいません。
ただ、ちょっと無理をして考えれば、さきほど二塁手の選考から漏れてしまった菅野を起用するか、
あるいは広瀬を本職の遊撃に回して斎藤を三塁に起用するか、という選択肢もありえます。
とりあえず、岩下・菅野・斎藤の三人の成績を以下に並べてみましょう。

・岩下光一:出場試合数922 打率.254 本塁打20 打点186 盗塁52 犠打76
・菅野光夫:出場試合数1009 打率.222 本塁打21 打点168 盗塁67 犠打136
・斎藤宏:出場試合数548 打率.249 本塁打17 打点153 盗塁53 犠打45

 この数字を見る限り、打力だけなら岩下、小技重視なら菅野、広瀬を本来の位置で使うことを優先するなら斎藤、ということになりますが、まぁ、ここはやはり素直に岩下を選出すべきでしょうね。
というのも、ただでさえ貧弱なこの打線において、小兵の菅野を用いる必要はないですし、
どうせ左翼・田中の時点でかなり無理があるのですから、斎藤を使ってまで遊撃・広瀬にこだわる必要もないでしょう
(それに、あまりにも弱かった東急時代から三人も選ぶのもどうかと思いますし)。


 ということで、以下が私の選出した「純度100%生え抜きベストナイン」です。

一番:広瀬哲朗(三)
二番:五十嵐信一(右)
三番:毒島章一(中)
四番:田中幸雄(左)
五番:岩下光一(遊)
六番:原田清(一)
七番:浜田義雄(二)
八番:安藤順三(捕)
九番:土橋正幸(投)

 なんかもう、あまりに貧弱すぎて涙も出ませんね。
もしDHを使うなら(他に該当野手そのものがいない以上)斎藤か菅野が加わることになるのですが、
かえって貧相さを増すだけのような気がします(苦笑)。
実際、こんなメンバーでは、東映黄金時代のラインナップや、現在のビッグバン打線の方がよほどマシです。
特に、生涯本塁打のあまりの少なさには驚愕せざるをえません。


広瀬12 五十嵐37 毒島122 田中251 岩下20 原田36 浜田20 安藤18


 はっきり言って、田中と毒島以外は「一シーズンでの成績?」とでも言いたくなるような数字です。
しかも、原田や浜田はラビットボールの時代を経験しているにもかかわらずこの程度の数字しか残していないということは、
いかに長打力のない打者かということが分かって頂けるでしょう。
こんな迫力のない打線しか組めないほど、純度100%の選手は日本ハムでは貴重な存在なのです。


 ちなみに、ここではあまり触れませんでしたが、実は投手陣もかなり悲惨です。
フライヤーズ初期のエース級投手達を見ても、白木、米川、久保田など、最後の最後で他球団に移ってしまった選手が多く、
最初から最後までこの球団に在籍していた投手のうち、土橋以外で主力級であったと言えるのは、
過剰登板で若くして引退してしまった尾崎行雄(107勝)と、実動五年で「黒い霧事件」により永久追放されてしまった森安敏明(58勝)くらいのものです。
そして、特にひどいのがファイターズになって以降で、高橋直樹や西崎など、長年にわたってチームの顔として働いてきた大黒柱にも、晩年になると平気な顔でトレードを言い渡してきました。
まぁ、その後の活躍を勘定すれば、彼等のトレード自体は判断として間違っていた訳ではないとは思いますが、
それにしても、やはりこういう姿勢を続けている限り、十二球団一の不人気球団としての座は永遠に揺らぐことがないでしょう
(ただでさえ「地元基盤」がないんだから、せめて数少ないスター選手くらいは大事にすればいいのに…………)。


 また、投打共に純度100%の名球会選手を出していないのも、実はファイターズだけです(毒島があと23本で到達だったのですが…………)。
現時点で最も可能性が高いのは田中ですが、彼にしたところで、この球団の体質を考えれば、
2000本安打に達する前に首を切られる可能性の方が高いように思えてなりません。
2001年終了時点であと残り300弱というところまで迫ってはいるものの、今回の片岡の状況を見ると、
二度目のFA行使の時点で球団がまともに引き止めてくれるかどうかも怪しいですし、彼の満身創痍の身体状態を考えると、
「2000本安打達成目前になって引退勧告を出されるものの、本人が現役続行にこだわり、自由契約」というパターンも十分にありえます


 さて、これで純度100%選手の余りの少なさを理解して頂けたことでしょうし、とりあえず今回はこの辺りで終わらせて頂くとしましょう。次回は、逆に「外様ベストナイン」「転出組ベストナイン」を選出してみたいと思います。
こっちは、今回とは正反対に、かなり豪華な面々になると思いますので、そのギャップを楽しんでもらえれば幸いです。

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