覆面の男
今回インタビューをしたなまはげDX選手
A県K市『しゃぼてんホール』。今、ここでプロレス団体『飛翔』の興行が行なわれている。
この『飛翔』という団体はA県を本拠地として、全国で興行を行なっている中堅どころの団体である。
地上波では深夜に30分枠を持ち、衛星中継では完全生中継を行なっているため、メディアの露出度は高い部類に入る。
そして我々『週刊無頼漢』取材班は、試合が終わったばかりではあるが、
『飛翔』のトップレスラーである謎のマスクマン
『日本の風物詩』なまはげDX
へのインタビューを試みた。
(注・『日本の風物詩』は、『飛翔』を愛するファンからの公募によって、なまはげ選手につけられたキャッチコピーです)
レスラー紹介:なまはげDX
『飛翔』のトップレスラー。体格的には小柄の部類に入るものの、空中殺法・蹴り・関節技などは一級品。
そして、なにより受身が上手な所が素晴らしい!
受身がプロレスにおいては一番重要な技術だからである。
入場時に「泣く子はいないか〜」と観客席を徘徊するアピールはもはや『飛翔』名物とまでなっている。
『飛翔』社長アストロ・ノヴァ:談
「どうも、週刊無頼漢です」
「無頼漢さんですか、どうも今日は宜しくお願いします」
そういって、なまはげ選手は覆面をしたまま頭を下げた。
「で、今回のインタビューなのですが、
なまはげ選手の秘密を知りたいというファンの方々の要望が編集部に殺到したため、
差し支えのない範囲で教えてもらえればということなのですが…」
我々がこのような質問をすると、なまはげ選手はしばらく悩んでいたが、
「ファンの皆さんが知りたいというのであれば、可能な限りは教えましょう。さすがに、マスクを取ってくれというのは勘弁してほしいですけどね(笑)」
と答えてくれたので、無事にインタビューが行なえそうである。
以下はインタビューの模様である。
「出身地は?」
「秋田県男鹿半島です」
なまはげ選手の声は微妙にテレがあったりしますが…。
「好きな食べ物は」
「ハタハタとどんぶりときりたんぽですね」
「プロレスをするきっかけは?」
「小さいころによくTVで見ていたんですけど、この時は空手や総合格闘技の方が面白いなぁ…って思っていたんですよ。それで、プロレスマニアの友人が『試合のチケットを2枚もらったから一緒に行こう』と誘ってきたので、生の試合はどんなものなのかな? と思って行ったところ、見事にハマっちゃいましたね〜」
(注・なまはげ選手が言っている総合格闘技とは、
金網のフェンスで覆われた六角形の形をしたリングで戦うという代物。
目突き・噛み付き・金的以外はなんでもアリというルールだそうです
って、つまりは最初の頃のUFC)
「どういう所でハマったのでしょうか?」
「派手な空中殺法と、豪快な投げ技ですね。総合格闘技とかを見ていると、
『なんで避けないんだよ!』とか『持ち上がるわけない!』と思っていたんだけど、
生の試合を見るとそういう疑問が全部吹き飛んでしまったんですよ」
いかにも嬉しそうな顔をしながらインタビューに答えるなまはげ選手。自然と拳を握っていたりします。
「なまはげ選手のファイトスタイルからいえば、元々が総合系志向だったのが信じられないんですけどね(苦笑)」
「だって、総合の試合なんかやったらすぐに身体壊しちゃうじゃないですか(笑)。
見ている分には楽しいでしょうけど、いざ自分がやろうとするにはあまりにもリスクが大きいですよ。
負けたらレスラー人生全部パーですから
勝ち負けだけが全てを決める世界が、プロレスの試合を見るたびに好きじゃなくなってきたんですよ。
好きだった選手が負けてしまってああだこうだと言われてヘコんでしまう姿を見るのが辛かったんですよ」
「で、いつごろからプロレスラーになろうとしたのですか?」
「中学を卒業したころだね。
正直言って、勉強なんてできなかったし、目立ちたいという願望がこの時から強かったからなんだけど」
「それで、いきなり業界最大手の『真身会』に入門しようとしたんですよね」
「まぁ、あの時は単純に道場に行けば入門生として入れてくれるかなぁ? なんて思っていたんですよね。
で、最初に言われたのが
身体が全然できていないから無理
の一言でしたね〜。あの時は、すっかり入門できると思っていたから、すっかり困り果てたわけよ。
で、ブラブラと東京をうろついていたら…」
「『飛翔』の道場が目の前にあったと」
「そうです。今度はダメもとで入門をお願いした所、あっさりOKが出ました。
たまたま『飛翔』が長期で育成するという方針だったからなんでしょうねぇ…」
語っているなまはげ選手の顔は、しみじみとした表情をしている
「そして、三年ばかり身体を作りながら雑用を続けていると、いきなり社長室に呼ばれたんです。
そうしたら、リング上と同じようにマスクを被ったままのアストロ社長が、
今からメキシコへ行ってこい
と言うんですよ。その時は目が点になりましたよ」
目の前でお手上げのポーズをしながら、アストロ社長は話し続ける。
「そりゃ、空中殺法の本場メキシコですからね。これはチャンスだと思って二つ返事でOKと言いましたよ。
そうしたら、今度はマスクを取り出してきたんです。
君は秋田出身だったよね?
と言われて渡されたのが、なまはげのマスクだったんですよ…」
「と、いうことはその時がプロレスラーなまはげDXが誕生した瞬間ということなんですね?」
「まぁね…。その時はイヤだったんだけど、メキシコに行ってから考え方が代わったよ。
向こうではマスク剥ぎマッチをすることがあるんだけど、
その試合に負けてマスクを剥がされたルチャドール(レスラーの意)の様子を見ると、本当に悔しそうだった。
何度も地面を叩いていたしね…」
「確かに、マスクをしているルチャドールは素顔を知られることを嫌いますからねぇ…」
「下手に正体についてしゃべってしまうと、そのルチャドールが試合の時に殺気立って、
本気で殺されかねない状況になったね」
「なまはげ選手はそういうことはあったのですか?」
そういうと、なまはげ選手はおどけた表情をしながら
「いやいや、さすがにそんな怖いマネはできませんでしたよ。
修行に行っているのに、壊されて試合に出られなくなったら洒落にならないじゃないですか(苦笑)」
と言った。
「マスクに隠された正体という名の秘密。長く隠していれば隠しているほど、見せたくなくなるもの…。
そういう意味では自分は正体が明かになっても
お前…一体誰なんだよ!!
って言われるのがオチなので、荷が重くなくていいんですけどね。
これも、自分自身がマスクマンだった社長の心遣いなんでしょう。
まぁ、マスクを被っているおかげで、
泣く子はいないか〜
というなまはげ演技も恥ずかしがらずにできますし、
アメリカに行った時は『オーガ』と畏怖される状況になったわけだし。
顔にペイントしただけだと、ここまでできませんよ(苦笑)」
と満足げな表情で、息をつかせる間もなく話した。
その後、プロレスとはあまり関係な話しをして、揉め事が起こらないまま、無事にインタビューは終了した。
いろいろなことをしゃべる割には、マスクに対する拘りは特に強いことが伺えた。
これからも、なまはげの姿でリングに上がる続けるのであろう。
(終)