読書メモ

・「日本経済復活まで ―大震災からの実感と提言
(竹森 俊平:著、中央公論新社 \1,000) : 2012.04.22

東日本大震災直後の5月に出た本。
その中で著者は、今回の原発事故のような「人災」をどうしたらなくすことができるかを考えることが、本書の執筆動機であると述べている。 経済学者である著者は、本書で震災後の日本経済に対する提言をするに当たり、自らの立場を明らかにする必要を感じて、 第一部では本人の考え方の「産地」を明らかにしようとしている。その上で、第二部では標準的な経済書のスタイルで論じている。
結論として、「天災」の部分は「日本経済へのポジティブな影響が生まれる可能性」さえあり、逆に「人災」の部分は 「複雑かつ深刻な影響を与える」だろうとしている。 ポジティブな影響というのは、復興需要が景気回復に寄与するのではという期待である。震災から1年、復興現場は着実に動いているようだ。 一方、「人災」に関しては、事故から1年たったが終息には膨大な時間がかかりそうだ。 そうする中で、日本全国の全原発が停止する事態が近づいている。再び計画停電や節電の夏が迫るにつれ、 原発再稼動問題が目下の課題である。今後の国家としての長期的なエネルギー政策をどうしていくかの議論が尽くされないまま、 また、安全対策が終わらぬうちに、政府は目の前の再稼動を進めようとしている。
著者は当分の間、石油高価格時代が続くと言う。 ただでさえも原油価格が高騰しているというのに!原発停止で天然ガス・石油の輸入が急増中。 円高傾向のおかげで、多少、輸入額は抑えられているようだが、世界経済が上向いてくれば、 円安に戻り貿易収支の赤字が常態化する可能性もある。 そうすれば日本の家計のエネルギー支出額が増え、その分、消費は減り、ますます日本経済は縮んでいく。
著者は、輸出力を持たなくなった場合の日本は、「輸出力の限界がそのまま石油輸入の限界につながる」、と指摘している。 つまり輸出による収入がなくなれば石油代金は払えなくなり、日本は貧しくなっていく。 それを回避するためにも(製品輸出などの)「輸出力の増強」に励まねばならないとしている。 それにしても国内生産を支える電気料金の値上げが企業負担を増やすとなれば、「増強」も容易ではない。

○印象的な言葉
・悲観的な答えしか出せない立場もあれば、楽観的な答えしか出せない立場もある
・「ものづくり経営研究センター」センター長・藤本隆宏(東大)
・部品生産では日本は依然として世界トップクラス。(→今のところ東北地方で人件費を抑えることができているだけなのでは?)
・トヨタの東北シフト。労働力が安価で質がよい。シフトを進めたばかり。東北の強みは自動車部品より電子部品生産。
・復旧能力の更なる強化が必要。自動車メーカーはサプライチェーンの供給途絶状況を1ヶ月たっても把握しきていなかった。 設計情報の移設と再調整で、1週間以内に代替供給ルートを確保する復元力が欠けていた。
・被災地の復旧現場、生活現場、生産現場等の秩序・互助・対策・実行の水準の高さ。対照的な政府中枢のもたつき。日本は無数の 「良い現場」が支える。優良現場は幅広く柔軟な役割分担と協業重視が特徴。「多能工のチームワーク」。 日本の組織は「緩慢に来る危機」に弱く、目標が定まれば、「復興」局面に強い。(藤本隆宏)
・ヒューマニスト:人間中心の考えをする者たち
・大きな災いが存在する限り、誰も自由ではありえない(カミュ)
・日本社会の「システム設計」に重大な欠陥があった。それは執拗なもの、日常的に見るもので、欠陥とさえ思わないようになっている。
・日々の営みの中にこそ、確固としたものがある。自分の仕事をする、それだけが重要(カミュ)
・格付け機関:金融商品を一定の「想定範囲」のショックに対して安全であるとお墨付きを付与する
・原子力安全委員会は初めから「原発をつくる」という結論(予断)を抱いており、「予断」に基づいて安全審査を行っている
・「原発事故」は生存の問題に直結している
・自然災害発生の危険は国のエネルギー政策において、体よく忘却されたのではないか
・原子力安全委員会の安全規制の甘さは、「ショックの規模」についてではなく、「ショックの次元」についての甘さがあった。 ある次元のショックにだけ備えていればよいと考えていた。「想定」そのものが思い上がり。
・マグニチュード10を超える地震は絶対に起こらない、などとは確言できない。(→日本列島も長い年月の間の地殻変動によって今の形になった。 今後も同じ形を保ち続けることはない。
・首都圏の人口を短期間でよそに移すのはきわめて困難
・日経新聞も曖昧な報道を続ければ、投資家の信頼を失う
・東海村は県庁所在地・水戸から20km
・事故のあった原子炉のコンクリート障壁には想定外の重量の水が詰まって、余震で破損が起こりやすくなっている
・JOC事故後、遠隔操作の災害対応ロボット開発プロジェクトを発足。1年後に試作機を作っただけで打ち切り。 ロボットが必要な事態は日本では起きない、と判断された。
・震災により破壊された資本ストック(設備)。それは生産活動を行う上で不可欠な生産要素ではない。不可欠なのは人的資本。
・破壊された資本設備を最新の設備で代替する。生産技術の更新につながる
・阪神・淡路大震災の復興需要が日本経済の回復を牽引した
・日本経済はやがて「スローデス」、老衰死を迎えていくだろう
・震災後の円高は阪神・淡路のときにも見られた
・私有財産を守るのは所有者の責任。
・国側に責任のない災害の場合、国家は「補償」ではなく、「保障(社会保障)」、「最低限の生活の保障」の意味で援助を行うべき (神戸大学・阿部泰隆)
・国は「予算の許す範囲で」、個人住宅の再建に対する支援を行うことができる。補助を求めてくるすべての個人に対して支援を する義務を国が負うわけではない。しかし、「人災」の場合には事情はまったく異なる。東電と国家は正当な被害の補償を求めた者 すべてに対して、それに応じる義務がある。
・東電の一般担保の社債の発行高5.2兆円。株主資本3兆円。東電債の不履行が生じた場合、債権市場の崩壊を招く。東電債を多く抱えた企業や 金融機関は経営悪化を疑われ、資本調達をできなくなる。
・日銀は東電債の買い入れを積極的に行い、市場の安定を図っている
・戦前は外国人労働者に依存して炭鉱業が運営されていた
・東電は原発事項の損害賠償責任により、事実上破綻している
・当分の間、石油高価格時代が続く。理由は中東で進行している民主革命と、世界的な核アレルギー。
・中東の民主革命で主要国が一番恐れるシナリオは、王族支配のサウジアラビアで体制の転換が起こること。サウジは世界第一の産油国。
・原発の廃棄や新設のための巨額の費用や、使用済み燃料の廃棄のための費用を計算に入れれば、原発が安いエネルギー源だという主張は 疑われる。どの国も原子炉の稼動延長や使用済み燃料を置き去りにするという安易な手段をとっている。

<その他>
・事故現場の作業員をどうやって集め、どう動機付けしているのか。作業員たちの気持ちはどんなものか?

-目次-
第1部 震災発生
第2部 この国の未来