ゲームブックに愛を込めて


 こちらでは読者参加型小説(?)とでもいうべき、実験的なコンテンツを公開しています。
 登場人物の行動や判断の決定から、物語の舞台となる世界の設定まで読者の方々の意見を反映できるような形になっています。
 現在、公開している物語は、大正時代の日本をベースに、スチームパンクの要素を取り入れたホラーアクションという形で進んでいます。
 素人の若書きという非常に見づらい文章ではありますが、ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

 前回までの話を読みたいという奇特な方は、下の項目をクリックして下さい。

第一節:ジャバウォックにて
第弐節:奇妙なコイン
第参節:痩身のアラブ人
第四節:群がる者達
第五節:編集部にて〜其の壱〜
第六節:編集部にて〜其の弐〜

●第六節:編集部にて〜其の弐〜●

「――ふう」
 君は編集部の奥に見える古ぼけた木製の扉の方を一瞥してため息をついた。扉の脇にかけられた木製の表札には墨痕も鮮やかに「資料室」と書かれている。
 ――あれを調べる気にはならないな。
 資料室にうず高く積みあげられた資料の山を思い出して君はげんなりとした。
 王基教の機関紙である『星霊界』のバックナンバアもそこにあるはずであったが、いかんせん、よほどの古株記者でもない限り、これまでまともに整理をされた事もない(と思われる)その部屋からお目当ての資料を探し出す事などできよう筈もなかった。
 どういったコツがあるのか、山岡辺りはひょいひょいと資料を見つけ出してくるのだが――。
「――待てよ」
 思考の糸が山岡と言う名を紡ぎ出した所で、君はふと引っ掛かるものを感じた。
「――確かこの辺に」
 同僚記者達の騒々しい声に満ちた編集部を横切り、君は高級そうな樫材製の本棚の前に立った。やや薄汚れた硝子の奥に、きちんと並べられた派手派手しいデザインの雑誌の背表紙が見える。『実話世界』のバックナンバアだ。
 低俗な実録記事を売り物に僅かづつ部数を伸ばしていた『実話世界』の名を一気に世に知らしめた号。君が日露戦争の取材の為に海外赴任していた間に発行されたその号の目玉記事こそが、王基教の名を世間に知らしめた日露戦争の趨勢に関する予言の記事であった事を君は思い出したのだ。
 程なく問題の号を見つけ出した君は、それを取り出すとぱらぱらとページをめくっていった。皇軍の戦果を事実以上に喧伝するグラビア面が過ぎると、すぐにお目当ての記事が君の目に飛びこんで来た。
 ――出淵吾尼三郎、帝国の勝利を予言す!
 記事の内容をざっと読み飛ばすと、君は記事の最後に記された担当記者の名に目をやった。
 文責、山岡。
 君は、自分の記憶の確かさに内心ほくそ笑むと、振り返って山岡の様子を見やった。
 昼飯にでも出かけるつもりであろうか、山岡は丁度デスクから立ち上がり、うんと背を伸ばした所であった。
「――山岡さん」
 声を掛けつつ、君は小走りで山岡の席へと向かう。
「ん?」
 怪訝そうに山岡が君を見る。君はそんな山岡の様子には構わず快活な調子で言葉を続けた。
「どうです? たまには昼飯でも一緒に食いませんか?」
「そりゃあ、構わないがね。――何かあったのかい?」
 主幹室の方をちらりと見やると、山岡が尋ねて来た。あまり心配そうな様子でない所をみると興味半分の質問であるようだ。
「まあ、ヒゲの事も関係なくはないですが、たまには先輩記者の話を聞くのも勉強になるかと思いましてね」
「話をね、ふむ」
 訳知り顔でうなづくと、山岡はごろごろと喉を鳴らせ始める。何か(こちらにとって)悪い事を考えている時の山岡の癖だ。
「今日の昼飯はわかなの気分なんだが、君は大丈夫か?」
「大丈夫といえば、大丈夫ですが……」
 君は思わず口ごもる。
 わかなと言えば、横浜でも有名な老舗の鰻料理屋である。普通の勤め人では、そうそう気軽に昼に使うわけにはいかない。
 その事情は「普通の勤め人」である君にも同じで、その上に山岡におごる羽目にでもなったら(そして山岡の態度からはどうでも君におごらせようという気がはっきりとうかがえる)、と考えると君の返答が歯切れの悪いものになるのも仕方のない所であった。
「――と言いたい所だが、腹も減っている事だし、梅香亭の大盛りハヤシライスにしておくか?」
 珍しく後輩を気遣ったのか、君の返答を待たずにあっさりと山岡が譲歩してきた。
「いいですよ、わかなで」
「無理するなよ」
「してませんよ。俺も鰻を食いたいと思っていた所だったんです」
「そうかい?」
「そうです」
「鰻は好きだったんだっけか?」
「大好きですよ、三度の飯よりも好きなくらいです」
「三度の飯よりもね」
 山岡が仕方のない奴だとでもいわんばかりの笑みをもらす。
 正直な所、君はそれほど鰻が好きなわけでもないし、わかなに行きたいわけでもない。が、顔色を見透かされた、と恥じ入る気持ちから君は普段以上に意固地になっていた。
「そういう事ならわかなにするか」
「ええ、望む所です」
 山岡がまた苦笑した。

「――っと」
 『実話世界』の編集部の入っているビルの玄関から表に出た所で、君は不意に足元をすくわれるような感覚を感じて思い切りつんのめりそうになる。
「おっと」
 まばらに車の姿の見える弁天通りに飛び出し掛けた君の右腕を、山岡ががっしりとした手で捕まえる。しかし、それだけでは気色ばんで歩いていた君の勢いを殺しきれず、君は山岡を中心に回転する様に歩道に転げ込んでしまう。
「ごきげんよう――鈍ってる?」
 思わず、赤面する君に横合いから突然声がかけられた。
 若い女性の、響きの良い、良く通る声であった。
「君は――」
 顔を上げた君の視界に、いかにも女学生らしいえび茶の袴姿の少女の姿が入ってくる。
 空色のリボンでまとめられた艶やかな黒髪、ややつり目がちの大きな瞳、乙女らしいはにかみを含んだ口元、少女雑誌の挿絵から抜け出してきたような、目を見張らさせるような美少女であった。
 少女は、光の加減によっては緑にも見えるほど黒い、豊かなまつ毛をパチパチさせながらこちらを見ている。
「知り合いかい?」
 君の腕から手を離しつつ、興味を顕にした山岡が君に尋ねてきた。


運命の糸をあなたの手に
 このコンテンツは、ゲームブックへのオマージュをこめた読者参加式のコンテンツです。
 あなたの選択、ご意見によって物語の展開が大きく変わる可能性があります。
 かつて、TRPGやゲームブックにはまっていたあなた、是非とも参加してみて下さい。
あなたのお名前は?:

 突然、君の目の前に現れた美少女。
 さて、この娘の正体は?

実家からF女学校に通うために出て来た従姉妹
下宿の大家の娘
人外のもの(式神、妖怪の類)

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