第一幕
雨、降りしきる春の中山、皐月賞。 不良馬場をものともせず、お前は泥を蹴散らし、馬群を割って先頭におどり出た。
比類なき強さの片鱗。激しく、壮絶なるプロローグである。
第二幕
緑、鮮やかなる初夏の府中、日本ダービー。 気の昂ぶりか、はたまた余裕か。 出遅れたおまえは、終始後方でレースを進める。
だが、4コーナーをまわり、おまえの末脚は爆発する。
直線一気、ターフを切り裂くものすごい追い込み。
並はずれた強さの証明であった。
第三幕
やわらかい日差しに映える秋の淀、菊花賞。 夏を越し、おまえの馬体にはさらなる力がみなぎった。レースが三コーナーにかかったとき、この劇はクライマックスをむかえる。
おまえは、坂の手前で先頭に立つというタブーを犯してしまったのだ。 あわや、と思った。 しかし、それも杞憂。他を力でねじ伏せてしまった。
まるで、脇役のいない、演出主役の一人舞台。
第四幕
競馬史上三頭目の三冠馬、ミスターシービー。おまえが、ターフにその雄姿を見せるかぎりこの英雄叙事詩は、さらにつづく。
(1986年優駿4月号にて5名に抽選プレゼントされた)