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生物学的言語習得


1.まえがき
英語教育においてNatural Approachは定番である。
S.Krashenの理論はちょっと英語教育学をかじればすぐに出てくる名前であろ う。
彼の理論については周知の部分もあろうが、70年代後半に風靡したN.Chomsky やRadfordに代表されるTranformational English Syntaxが基底に流れている 。
「言語習得装置」こと"L.A.D"(Language Aquisition Divice)について3者が共 通して論じている。
L.A.Dとはなにか。それは私たちが生まれながらに言語を習得できるよう にはじめからインプットされている言語獲得能力である。
しかも、それは英語や日本語に限ったことではなく、世界どの言語でも獲得で きるようにフォーマットされている。このL.A.Dが機能して初めて人は母国 語・第一言語をマスターすることになる。...........という仮説で ある。

とにかく言語習得の初段階においては”インプット”中心でその言語環境に浸 ることが第一優先とさせる。極端な話下手にアウトプットさせてはいけないので ある(インプット理論)
英語漬けになるのにはさまざまな環境の工夫や精神的な問題があるのは英語学 習や他言語学習に励んだ人ならお分かりになると思う(Affective filter)。イ ンプット理論はESLのためで、EFLの私たちには少し馴染めないところもあ るのが現状だし、それが当り前のことである。もし、L.A.Dを働かせて自然 に他言語を習得しようというならとにかく環境を英語漬けにすることである。
中学の英語授業時間を毎日にしListening・Reading中心に文 字や音声の再現を徹底的に訓練することである。(Shadowing)

それができないのであればどうするか?
理論的に圧縮要約して基本型から応用していくか(文法)、ごく基礎基本的な ことだけに的をしぼってやるしかない。

中学週3時間でコミュニケーションありリーディングあり、ライティングあり 、リスニングありで生徒はぺらぺらと話してくれればそれでもよいが、たいてい は難しいに決まっている大半の生徒は小学生のころから塾通いで英語を学んでい る。
なぜ小学生や幼稚園児から英語をやっているのか。中学からで遅いであろうこ とをだれもが認識してしまっているからであろうか? そして、そんなに必要な のだろうか?

早くから英語学習を始めることに意義があるのだろうか?

ここでは早期英語学習と所謂「臨界期」(Critical Period) について考察していきたい。


2.「脳と言語機能」

これから、述べることは先月8月にLLA学会で講演された植村教授の内容で ある。

ここで当然植村教授の理論であるから、私がここに書くことは大変まずいこと かもしれないが、LLA学会員の1人として、メモした内容から綴るのでそのま まの著書の引用等はしていない。
大変すばらしい講演を有り難うございました。この場を借りてお礼を申し上げ ます。

植村教授は浜松医科大学脳神経外科担当で医学生を相手にしておられる方です 。

ぺらぺらと英語のみならずドイツ語、フランス語等を交えてユーモアたっぷり に話されました。

”右利きの人のほとんどと左利きの人の大部分で言語活動は大脳左半球に起因 している。
左半球を優位半球、右半球を劣位半球という。言語活動には「聴く」「話す」 「読む」「書く」といった機能があるが、「聴いた言葉の意味を理解する」能力 がもっとも基本である。
これは Wernicke 感覚言語野の機能に依る。十分な会話能力を有する 他国語使用者
では書く言語を司る部位がそれぞれ分離している。分離状態の仮説図を下記に 示す。
とくに日本語に翻訳しないと理解できない程度の人は日本語言語野しか存在し ていない。
『外国語学習でもっとも重要なことはそのげんごのための Wernicke 感覚言語野をまず独立させること』である。そのためにはリスニングの’特訓’ しかない。話す能力に関しては前頭葉の Broca 運動言語野の機能に依る。 ”


”記憶には7秒程度しか続かない「即時記憶」、2年以内に消失する「中間期 記憶」、
2年以上の記憶に不可欠の「長期記憶」の3つの機構がある。認知体験と技能 とは別系統で
記憶されることが判明した。認知体験の記憶機構は、感覚統合脳に到達した情 報としては
数秒以内に消失。それ以上保持するには内側辺縁系内にある海馬へ送られなけ ればならないが、海馬は中期記憶程度(2年が限界)である。更に長期保持のた めには再び感覚統合脳へ
戻されて神経回路網の改編が必要と考えられている。”

”左脳は言語的情報処理(デジタル)をするが、右脳は視空間的情報処理(ア ナログ)をすると同時に直観・創造力に関係する。具体的に言えば人から聴いた り本で読んだ知識は左脳
に入り、長期記憶になりにくいがたった1度しか見ていない美しい光景などは 右脳に入り、
長期記憶化しやすい。
視覚教材の優位性がある。
運動技能の記憶においては小脳のプルキンエ細胞が中間期記憶に関与し長期記 憶には補足運動野が関与する。
学校教育は左脳開発に偏重しすぎているが、創造性開発には右脳開発は欠かせ ない。脳は訓練したことしか覚えない。創造性の源は問題発見能力と問題解決能 力であり、この育成のためには英語教育も「発見的学習」を取り入れるしかない 。”

さらに教授は”左脳の多用は右脳を劣化させるらしいが、右脳の多用は左脳を 促進させる実証がある”と付け加えられた。



3.ある程度の結論的仮説:

・大脳の機能から考え、長期記憶として残し且つ言語を定着させるには知識と して学習するより視覚的イメージとして残存映像の如く捉えるように努力する。 また、インプットの中でも「ヒアリング」に力を入れていく。これは上記の「S hadowing」方が支持される可能性が高い。すなわち「音声の即時再現訓 練」である。これは周知のことだと思うが翻訳・同時通訳業界で広く行われてき ていることである。

・インプット理論は正当性がありそうだが、まだこの他の要因があり、一概に はこれといった方法はないだろう。その要因の一つとして上記の言語学習開始時期と訓練的な時間の問題楽しい授業の組み立てと訓練の相違等がまだ散在している。 ・コミュニケーション活動は何のために必要なのか?もしかしたら、現行のや り方が間違っているかもしれない。



「臨界期」から見た言語習得

1.まえがき
上で述べたように、長期記憶を果たすには確かに右脳を刺激して「夢にまで見 るような」刻印をするのが良い。しかし、ここで言語特有の成熟度における習得 率を考えない訳にはいかない。小学校への英語科の導入は賛否両論だがたしかに 困惑させられる問題が現実には多い。
簡単に早ければ早いほど習得率が高いとかの問題ではなく、そこには第二言語 以下のレベルとしての外国語としての英語の位置づけがある。将来的にどのよう な力を、生きて働く力を付けさせてやるかが見とおせてこそ初めて結論がでる内 容だと思う。英語を語学と捉えて、とにかく英語だけできれば良いというのなら まだしも小さいころにもっと母国語を第一言語としてしっかりとうけとめ、国語 教育を充実させるのならば外国語にそれほど全力を尽くさなくても良い。臨界期 についての E.Hレネバーグの著「Biological
Foundations of Language」から考察をしていく。
余談になるが筑波大学の中山先生の言葉に以下のようなものが有る。
「明治5年の学制の発布においては『国民皆教育・近代産業に役立つ教育・国 民教育施設としての学校・立身、治産、昌業に役立つ教育をめざしていた。その 結果が明治以後の日本の急成長につながっている。農業社会から工業社会への転 換であった。今までの社会は物の生産を中心とした社会であったのに対し21世 紀は情報の生産を中心とした社会である。Industrial society から post Industrial society への転換である。』求められる教育概念、教育理念があってこそ現在 の教育の形はある。」
「臨教審でも『生涯学習・情報教育・心の教育』をうたっている。」生涯にお いて学習していくのであるから、けして急ぐ必要はなさそうである。
英語を話し、聴く力で捉えると早いに超したことはなさそうだが、技術の進歩 でもはや音声で訳語がでる時代である。それほどのBilingual・multilingualが 必要なのだろうか?
それよりももっとやるべきことが他にないだろうか?
英語科としてだけでなくこのように教育全体にかかわる問題なので、小学校即 導入に関しては私も?である。

2.言語習得の「臨界期」による英語学習考察

私たちの大脳はまさにスーパーコンピューターである。そのコンピューターの 成熟は何と
2歳まででその中枢はフォーマットされてしまう。チンパンジーにいったては もっと加速されている。絶対的な量やニューロンの数とうからの違いは当然ある 。しかも、他の霊長類に比較して人間の中枢神経の発達は遅れている、遅れるよ うにできているのだそうだ。しかもそのことが「種に固有」の発達なのでもある 。
大脳左半球、右半球で機能が分かれることを「一側化」とよんでいるが、この 一側化が2歳を過ぎると固定化してくる。普通言語感覚機能は左半球中心と考え られていた。しかし、言語失語症患者において半球切開除去手術を施した幼児に 関して、3歳位までであると右脳に言語感覚機能が一側化するという事例が過去 発見されて苛た。
なお且つ、半球優位性は3歳から5歳で確立してしまう。確立してしまうと可塑 性がなくなると同時に機能がどちらかに依存する率が高い。あくまで依存の率で ある。大脳はまだまだ計り知れない複雑にからみあったものなのである。まして やAIDSのように人体実験などできないので資料は古い。ここで述べる研究も Basser等の60年だいの研究である。
世界大戦や戦争での負傷兵の切開手術におけるもの等が多い。

「刻印付け」
ある種の鳥においては幼少期の特定の発達段階、通常、孵化数時間ないし数日 に生ずる。
雛は臨界期の間に体験した動く物体にしたがって動き、幼児期の大半をその動 く物体の後を追いかけ続ける。この反応は一定の速度で動く、一定の範囲の大き さのいかなる物体に対しても基本的には無差別にまたきわめて急速に確立される 。のちには他の反応の影響を受けるかあるいはとって代わられる。

要点は幼児期に刻印付け反応を発達させることができなかった場合は生長後行 動異常を引き起こすことがあり、このような鳥の行動は後の訓練によって正常に戻すことは不可能であるということだ。

(Hinde;Hess、1962)

多くの霊長類、種の間に一定の型の行動を習得するための臨界期が存在すると いう事実はそれらの種に系統発生的関連があることを意味しない。行動の進化論 的起源をたどるという問題に関しては年齢的限界を持つ行動発生が余りにも多く の要因によるため発見的価値に乏しい。言語の場合は年齢限界をもたらす要因と して想定されたのは「臨界期の開始時に関して
は大脳の未成熟状態、その終結時に関しては機能の一側化に関連する組織の可 塑的状態の消失」である。


「外国語学習」

平均的知能を持つものの大半は10代の始め以降においても第二言語の習得が可 能であるが
思春期以降は「言語習得障害」が急速に増すことは事実である。一方単にある言語が話され ているのを体験するだけで自動的にそれを習得す ることは思春期以降不可能とな、外国語は意識的な労の多い努力によってのみ教えられ習得される。そして、 外国語なまりも思春期以降は容易に矯正することはできない。しかし、人は40代になっても外国語によってコミュニケーションすること を学習するのは可能である。このことは年齢的限界についてのわれわれの基本的 仮説になんら障害ではない。なぜなら言語学習のための大脳組織は幼児期にすで に出来上がっており、また自然言語は多くの根本的な面において相互に類似して いるのであるから、言語スキルの母胎は存在しているのである。


「第一言語」

第一言語は幼児から老齢に至るまでのどの時期にあっても習得が可能というわ けではない。
大脳の一側化が確立される時期(思春期前後−12歳)までに、獲得性失語症の 場合、症状は発病後およそ3ないし6ヶ月間回復不可能となる。そして10代の 初期以後は年齢が増すにつれて完治する見込みは急速に乏しくなる。第一言語の 習得が思春期前後までに限られることは、精神遅滞者の場合によってさらに立証 される。これらにおいては10代初期までは言語習得はゆるやかにまたささやかな がら開始されるが、その時以後言語の状態は永久に固定されてしまう。
さらに

Fry によれば重症の聾者は良好な言語習慣を発達させるには、2歳に極力近い 時期に音訓練および補助手段による助けを受けなければならないという。また、 逆として、獲得性聾者の場合、聾となる以前にわずかな期間であっても話されてい る言語を体験したならば患者が言語スキルを有していた時期の長さに応じて予後は 明るいものとなる。


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