Shadowing / Repeating
その理論と実践(中学編)2

98/11/30 23:53:17


   シャドーイング:●その理論と実践             Shadowing:Its Theory and Practice

               松田  雄治   (関西外国語大学非常勤講師)

 1.はじめに

 シャドーイングという用語は.ここ数年の英語教育の学会発表や紀要にも散見されるよ うになってきている。矢島(1988)は、"Shadowingとは乱暴に言うと同時通訳から訳す という作業を差し引いたものである。....ReproductionをほぼListeningと同時に行なう 訓練で、耳とロを同時に使い、また訳出のタイミングを覚えるための同時通訳の基礎訓練 である"といっている(1)。

 なお,矢島は,このシャドーイングという用語は確立されているわけではなく,(同 時)通訳訓練機関によって呼び方はまちまちで."フォローアップ(follow−up)"、"リビ ーティング(repeating)"、"リプロダクション (reproduction)"などとも呼ばれ,通訳基礎訓練の一つとして,いろいろな機関によって汎用されている,と注釈している (1)。

 ちなみに,同時通訳養成機関の最大手の一つであるサイマル・アカデミーではシャドー イング.同じく西日本を代表するインタースクールではフォローアップ (またはフォロ ー)と.いう呼称を使っている。その目的は,リスニング・コンブリヘンション (Listening comprehension)ならびにスビーキング能力の育成にある。  玉井(1992)は,このシャドーイングの聴解力向上に及ぽす効果およぴシャドーイング 能力と聴解カの関係を高校生を被験者にして実験的に立証している (2)。同様に,久米 (1981)も大学生を対象にした実験で.その効果を認めている (3)。

 2. シャドーイング: その理論

2.1リスニング・コンブリヘンションとは

 シャドーイングは.リスニング・コンブリヘンション向上ならびにスピーキング能力の 育成に効果があることは前述したが,このリスエング・コンブリヘンションの最近までの 考え方はどうであったろうか。 ・

 リスエング・コンブリヘンションのこれまでの取り組みに関して,Call(1985)は.数 々の先行研究を務まえて.次のように緒論している (4);

 

Until recently, listening comprehension attracted the least attention of
the four ski11s, in terms of both the amount of research conducted on the
topic and the benevolent neglect that it suffered in most foreign
language programs (Paulston and Bruder 1976, Rivers 1981, Krashen,
Terre11, Ehrman and Herzog 1984). This neglect may have, stemmed from the
fact that listening was considered a passive skill and from the belief
that merely exposing the students to the spoken language was adequate
instruction in listening comprehension

 

 

2.2 短期記憶(short-term memory)の役割
 しかしながら, Callは続いて,心理学的な知見を援用しながら, リスエング・コンプリ
ヘンションは,実際は,能動的(active)な技能であると論破し,発話を理解するには,
まず.聞いたこと(言語要素)を短期記憶(short-term memory)に留める必要性をといて
いる(4):
    Recognizing linguistic  elements (i.e. words, verb  groups, simple  phrases),
      while  essential to  the  process, is  not  sufficient  for  comprehending  what
     is  heard. Listeners  must  be  able  to  retain  these  elements in  short-term
  memory long  enough  to interpret  the  utterance  to  which  they  are  attending.
 同様に,河野(1984)は.入力される音声情報に対する聴解過程における記憶(短期・
長期)の働きについて.次の聴解モデル図を提示して,聴解活動での模倣性記憶装置や短
期記憶段階の役割を述べている(5):

 

                         :::::::::::::::::::::::::::                            
                         :                         :                            
                         :     SENSARY INPUT       :                            
  #########              :::::::::::::|:::::::::::::                            
  #       #                           |                                         
  #       #              ::::::::::::::::::::::::::::                           
  # SHORT #              :                          :                           
  #       #              :         FILTER           :                           
  #  TERM #              :::::::::::::|::::::::::::::                           
  #       #                           |                                         
  # MEMORY#              :::::::::::::::::::::::::::::                          
  #       #              :                           :                          
  # STAGE #              :      ECHOIC MEMORY        :                          
  #       #              :::::::::::::|:::::::::::::::                          
  #       #                           |                                         
  #       #   :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::         
  #       #   :                                                       :         
  #       #___: ANALYSIS BY SYNTHESIS /  PREDICTION <---> TESTING     :         
  #       #___:                                                       :         
  #       #   :           ______REHEARSAL BUFFER_______               :         
  #       #   :           |___________________________|               :         
  #       #   ::::::::::::::::::::::|:::::|::::::::::::::::::::::::::::         
  #       #                         |     |                                     
  #       #                         |     |                                     
  #       #               :::::::::::::::::::::::::::::                         
  #########               :                           :                         
                          :  LONG TERM MEMORY STAGE   :                         
                          :::::::::::::::::::::::::::::                         
                                                                                
                                                                                
3. シャドーイングの実践
3.1 同時通訳養成機関の場合
Authenticな教材を利用して即、実践教育-ケーススタディ(インタースクール)
3.2 パラレル・リーディング(parallel Reading)とは(久米, 1981)
 ステップ1.聞こえて来る通りを声に出して同時に繰り返させる(follow-upまたは
Repeating).
 ステップ2.オリジナルの英語の聴取訓練(Listening Comprehension).
 ステップ3.英語を文あるいは適当な個所で切って筆記させる(Dictationまたは
Transcription).    
                                                     .
 ステップ4.英語を正確こ反映したトランスクリプトを受講生に渡し,それを各自で行
なったデイクテーションと比較させながら、再び英語を聞かせる.この段階で.耳から入
ってくる英語が完全に一致していることを確認させる(Comparative Listening).
 ステップ5・正確なtranscriptにaccent, rhythm, intonation, pitch liaisonなど留
意点にマークをつけ、それを見ながら,ヘッドフォンから流れてくる英語に合わせて
Repeatingを行なう(Parallel Reading). 100%近くParallel Readingが出来る迄それを
繰り返す.
 ステップ6. Parallel Readingが出来るようになると、 transcriptを見ずにRepeating
をおこなう(2nd Follow-upまたはRepeating).
3.3 リンプシンク(Lip-Sync)の利用(岩村1994)
聞こえてきた英文に合わせて文字を見ながら口を動かす.声は出さずに,テープの声を
借りて、あたかも自分が話しているようなつもりで口を合わせればいい.その際には し
っかりと口の動きに注意を払い・どのあたりが発音しにくいのか,あるいは.うまくリズ
ムに乗れない個所はどこかチェックする. (この後にシャドーイングにうつる).
3・3 私の場合関西外国語大学・相愛大学・流通科学大学でのケーススタディ)
  3・3・1 板書を励行した徹底した内容理解(Comprehensible input)
  3.3.2 スクリプトを見ながらのシャドーイング
 3・3・3 スクリプトは、映画のシナリオなど(事前に映像を見せておく)
3・3・4 推薦図書:矢作ほか「英語を聞き取りたい人のために」 ,大塚ほか「映画と英
 ・語とアメI)カと」 (ともに開文社出版)
参考文献
(1)矢島智子(1988) 「通訳訓練の英語教育への応用「-Shaadowing-」平安女学院短期
 大学「英学」 , 21:29-37.
(2)玉井健(1992) 「`follow-up'の聴解力向上に及ぼす効果およぴ"follow-up"能力と
 聴解カの関係」 「STEP BULLETIN」  5:48-61
(3)久米昭本(1981) 「Oral Englishへのアブローチ"para11el Reading"の多元的効
果「南山大学アカデミア」 30:159-174
(4)Call,M.E. (1985)・ `Auditory Short-Term Memory. Listening Comprehension, and
  the Input  Hypothesis, 'TESOL Quaterly, 19:765一781
(5)河野守男(1984) 「Listeningのメカニズム」河野守男・沢村文雄編「Listening &
  Speaking 新しい考え方」 pp.3-6,山口書店.
(6)岩村圭南(1994) 「英語リビーティング入門」p.16-24,アルク出版
その他の例:CNN等のVTR教材を使うClosed-Captionの基礎としてSadowingを使う
5.授業展開とLLの使い方
1年生はリスニングカ養成が欠かせないので、90分の授業のうち前半は音声テープ
のみを使用し、多様な英語音声をなるべく多く流して目的別の聞き取りができるよう
にした。後半はビデオ教材に切りかえ、シャドウイングを中心にリスニングとスピー
キングを連携させ、映像のイメージを手がかりにストーリーの内容について話す練習
を進めた。ここに紹介するのはビデオによる後半の授業展開である。
 (1)ビデオを見る(同時に学生のテープに録音)
 (2)テキストのワークで文法チェック、デイクテーション
 (3)ビデオスクリプトを見て音声テープに合わせて読む(文字による内容確認)
 (4)ドリル練習でシャドウイングをする(既に録音したビデオ教材の英語音声に
   できるだけ速くついて発音。テキストの文字は見ない。)
 (5)ある程度シャドウイングがでさるようになったら、ドリル練習で英語音声を
   追いかけるように日本語に直す練習をする。
 (6)(5)の後で右チャンネルを選択して日本語を取り出し、英藷に直す練習をす
    る。
<以上(1)〜(6)はシャドウイングによるリスニングとスピーキングの土台作り>
 (7)ストーリーのまとめの音声テープを聞く(同時に学生のテープに録音)
(8)教師について(7)のまとめが自然に言えるように練習。(ビデオの各場面の
   説明をヒントに与える)
 (9)ストーリーのあらすじや出来事の順番を英語でまとめる。(ペアワークで協力
    してまとめながら、表現の間違いにチェックをいれる)
 (10)ストーリーのまとめを学生の感想を入れたり、違う視点からまとめる。
<以上(7)〜(10)はストーリーの内容をまとめる練習>
 これらの段階ではモニターで学習状況をみながら、できるだけアドバイスするよう
にした。学生がよくできているときは、インカム、モデルで積極的にほめた。LL
の使い方はその都度、最適な方法を選んだ。例えば、シャドウイングは、集中して行
うときはサイマルを利用し、クラス全員のまとまった雰囲気がほしいときはスピーカ
ーから音声を施して一斉に行った。基本的にはシャドウイングによって話すカの潜在
的なカを蓄え、これを土台として、映像のイメージを想起させながらストーリーをま
とめていくという方法である。音声がこころに残るイメージと結びついたとき、学生
の言葉の使い方が豊かな広がりを持つのではないかと期待を込めた。
6.実践報告のポイント
 この発表では、「聞くカを育てながら話すカを伸ばす」という目的に合わせ、ビデ
オ教材をどのように活用しているかを具体的にLLで説明する予定である。また、視聴
覚教育のさまざまな学習効果をどのように取り入れて授業をしているか、学生の反応
はどうであったかを、教室の様子をまじえて説明するつもりである。

 

その他の例:相当詳しい先生(このWebにリンクしていただいた先生)

 

 

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