地獄総合病院




はじまりの話 前



けが人「急がないと塾に遅れるは-いそげいそげ。」
そして不良とぶつかる  どて−ん            
不良「なんだてめ−やるきか」
けが人「ごめんなさい。」
不良はけが人をやつけにかかる              
けが人「骨が折れる-----------ぎゃ--------おれた--------」
不良「ゴメンわるかったな。今救急車をよぶよ。ぴぴぴRRRRRRRRRRR…もしもし」
看護士「火事ですか救急ですか」
不良「子供がけがをしました。すぐきてください。」
看護士「いますぐいきます。」
不良「もうだいじょうぶだ。あっもうきた。」       
タンカ−の人「さっ乗ってください。」
けが人「どこいくんですか。」
タンカ−の人「地獄総合病院です。」
けが人「地獄なんていやだ。おろしてください。」
タンカ−の人「さっつきましたよ。すぐ楽になりますよ。」
けが人「うわ-やめて。ぎゃ−ぎゃ−。  ぱたり」

********************

冷子「これでいい?」
小田野冷子が2人に聞いた。
教室のすみでポツンと3人が話し合っていた。
秋子「いいんじゃないかな?これだったら話とつながるよ。」
井上秋子が賛成する。
健太「ええ?もうちょっとけが人の悲鳴を―・・・。」
村山健太が反対した。
冷子「うっそ。今回は結構がんばったのにぃ。」
秋子「そうだよ。もういいじゃない!」
健太「けどなぁ・・・。」
冷子は物語をつくっていた。
『恐怖!地獄総合病院!!』という題名の物語をつくっていた。
内容までうまくはいったが、一番最初の話が思いつかない。
そんなわけで、違うクラスの親友の秋子と、同じクラスのこわいもの好きの健太に手伝ってもらっていた。
冷子「じゃあ、もうちょっとひねろうかー。」
秋子「わたしはもうそれで十分なんだけどな。」
冷子「でもな。このままだと健太の言うとおりダメかも。」
健太「だったら一度町立総合病院にいったらどうよ?」
秋子「え・・・。」
健太「あ、ごめん。冗談。」
苦笑いをして答えた。
学校の近くには町立総合病院という病院がある。
そこは恐怖スポット第一位になるくらいこわいところである。
実際に行ったことがある人は大勢いるが、病院の前に立っただけでもう帰ってしまう者が多い。
そういう帰ってしまう者もいれば、中に入った者もいるらしいが、その者たちは十数年たったが今だに帰っこない。
まさにその町立総合病院が地獄総合病院とつながるような感じだ。
健太「そういやぁ、さ。お前の姉ちゃん帰ってきたのか?」
秋子「あ、・・・それ・・・が。」
冷子「帰ってこないのね。やっぱり。」
秋子「うん・・・。」
一週間前に秋子の姉、井上佐代子が町立総合病院に彼氏と行ったらしい。
しかし、彼氏は帰ってきたものの、途中で佐代子を見失ったという。
もちろん、その後彼氏は秋子の母にしかられた。
今になっても帰ってこない。
秋子「わたしも一度行ってみたいんだけど?」
健太「そうだな。それに一度行かなきゃわからない部分もあるだろ、病院って。」
冷子「・・・わかった。でも、佐代子姉さん見つかったらすぐに帰ろうね。」
秋子「うん!ありがとう。」
放課後、町立総合病院に行くことになった。


町立総合病院について




町立総合病院。
昔は、とても活気のあった病院だった。
子供からお年寄りまで、数多くの人々がそこに来ていた。
清潔で、庭もあり、看護婦さんなども優しい。
そんな人気な病院にある日、ある患者が来た。
ガンの患者だ。当時の町立総合病院はガンの患者などまったくこなかった。
なんせこの田舎に、ガンになる者なんぞ誰一人いない。
この田舎町は病にたおれる者は本当に少なかった。
初めてのガンの患者。もちろん、たすからなかった。
遺族に追い詰められ、とうとうその院長は病院を捨てなくてはいけないこととなった。
病院にいた看護婦と患者たちは、それを拒否。院長とともに毒殺した。
前まではなんともなかったが、近くに新しい病院ができた途端、奇妙なことがおきるようになったのだ。


はじまりの話 後




冷子たちはその町立総合病院の自動ドアの前に立っていた。
冷子「とうとうだね。」
健太「いいか?佐代子姉さんを見つけたら、即帰るぞ。」
秋子「うん。」
冷子「少しだけ手術室も見せてね。」
健太「その間に何もおきていなかったらな。」
静まり返ってそっと健太がドアの前に一歩踏み入れた。
ドアにはびっしりと色々な葉がくっついていた。
そして、秋子と冷子が近づいて、ドアが開いた。

奇妙な音をたてながら そっとドアは開いたのだ


町立総合病院 1階




時間が止まっているかのようだった。
呼吸がつまりそうで、ビクビクしていた。
時計がカクッカクッと動いていた。腕時計の時間と同じだった。
もう使われていない病院だというのに、薬のにおいなどがただよっていた。
電気もチカチカと怪しい色をつけている。
受付の椅子に、骨が散らばっていた。
後ろから、あのドアの音が聞こえた。

ジジ・・・ジジジジジジジジジ・・・・・・・・・・・。

また静まった。
何かがそのとき聞こえた。
冷子はもう嫌で仕方がなかった。
先ほどから、はじっこでゴキブリがうじゃついているのだ。
秋子はもう嫌で仕方がなかった。
先ほどから、誰かに見つめられているような気がしたのだ。
健太はもう嫌で仕方がなかった。
先ほどから、健太が先頭に立って、進んでいたのだ。
健太(どうして俺が先頭に・・・。)
泣きそうになったが、近くに階段があった。
健太「あがるか?」
秋子「うん。」
冷子「はやくいって!!」
健太「な、なんでだよ・・・?」
冷子「さっきっからゴキブリがうじゃついているのよ!!」
健太「はあそうですか!」
健太は怒りながら、秋子は少し笑いながら、冷子は泣きながら、
3人はアリのように並んで階段をかけのぼった。


町立総合病院 2階 前




2階は深夜の学校のような風景だった。
電気はここだけ見えても良いところだけしかついていなかった。
全ての電気をつけるスイッチなんて、どこにも見当たらない。
先ほどと同じ、薬の臭いがしていた。
今度はゴキブリではないのだが、まわりがソワソワしていた。
冷子「ねぇ、何か・・・。音しない?」
健太「電気のチカチカの音だろ?俺には聞こえねぇ。」
秋子「でも―・・・。聞こえるね。カチャカチャって音。」
健太「カチャカチャ?」
冷子「パソコンのキーボードを打つときみたいな音。」
健太「・・・耳をよぉくすませば聞こえるな。」
秋子「もしかしてお医者さんがくつろぐところとか?」
健太「そんなとこにパソコンあるかよ!」
冷子「ノートパソコンかもよ?行ってみようよ。」


ガチャ・・・・・・。


全員「!?」
2階にあがる前に扉があるのだ。
その扉はあいていたはずが・・・。
健太「あれ!?鍵かかってる!!」
冷子「うそ!」
秋子「・・・行こ・・・。」
冷子「じゃ、何かあったら。健太、あんたに責任おわせるから。」
健太「俺かよ!」
冷子「行こう。」
健太「・・・・・。」


町立総合病院 2階 後




秋子「あ、ノートパソコン。」
冷子たちは、『医者と看護婦看護士のいこいの部屋』に入っていた。
冷子「本当だ。でも、つい最近のパソコンね。」
健太「何か調べてた警察官がおいたんじゃねえ?」
冷子「何よ、そのオチは。」
健太「・・・・・悪かったよ。」
秋子「見て!」
秋子はすでにノートパソコンの前に座っていた。
秋子は佐代子を探したいので一心だった。
冷子は、秋子みたいになれたらいいのにと思っていた。
冷子「どうしたの?」
秋子「これ。英語で全部書かれてる。」
健太「英語、ってことは・・・・・・・。」
秋子「メールが17件きてるよ。見る?」
健太「・・・。見ようか。」
冷子「・・・・全部英語よ。」
秋子「ねぇ、英語博士!」
健太はクラスの中で一番英語ができる奴なのだ。
英語の授業がはじまると、健太の名前は『英語博士』になっていた。
健太(塾・・・行くんじゃなかった。)
冷子「返信しようよ。」
健太「・・・日本語で通じるかな?」
秋子「1回だけやってみれば。」
健太「よしっ。」

『こんにちは。』

冷子「たったそれだけ!?それだけじゃわかんないよ!」
秋子「もう送っちゃったよ。」
冷子「ええっ!?」
健太「まぁ、いいじゃん。何もこなかったらこなかったで―・・・。」
口が止まった。
秋子も冷子も。
メールが来たのだ。
冷子「もしかしてまだ生きてないってこと知らなかったりして、相手。」
健太「いくぞ!」
カチッ。

『 Who are you? 』

冷子「・・・なんて読むん?」
健太「フーアーユー。誰ですかっだって。」
秋子「え、じゃあ。」
健太「たぶん、このパソコンの主ではないってわかったんだよ。」
冷子「そりゃあ、そうだ。」
秋子「何でわかったの?」
冷子「だって今まで英語で送ってたかもしれないのに、健太が今、日本語で打ったから。」
健太「送信箱見ようか。」
しかし、全てのメールが日本語でかかれてあった。
健太「え・・・。」
秋子「見られてるのかな?」
冷子「じゃぁ。もしかして・・・。」
健太「近くにいるってわけだ。」
・・・。
秋子「あ、またきたよ。」
健太「まだ何にも送ってないからな。そろそろ返信しなきゃ。」
メールを見て、健太は「は?」とつぶやいた。

『 アナタハダレ? 』

秋子「日本語になっちゃったね。」
冷子「あんた、どう責任とるのよ。」
健太「落ち着け落ち着け。でたらめの名前言うぞ。」
秋子「あ、だったらわたしのお姉ちゃんの名前使って!」

『わたしは、佐代子です。』

しばらくたったあと、返事がきた。

『 アナタハダレ? 』

健太「おかしいな。ちゃんと名乗ったのに。」

『だから、佐代子です。』

返事は先ほどよりもはやくきた。

『 サヨコハユクエフメイ。 ダカラ アナタハサヨコジャナイ。
  アナタノナマエハ ケンタ。 ソウジャナイカ。 』


健太「・・・。」
健太はすでに何もいえない状態だった。
代わりに冷子が打った。

『はい。そうです。嘘をついてすみません。』

相手は、何から何まで知っているような返事をかいした。

『 チガウ。 オマエハ ケンタジャナイ。 ケンタニカワレ 』

冷子「健太、相手があなたのことが好きになったみたいよ。」
健太「お・・・おう・・・。」

『俺はちゃんと名前を言いました。あなたの名前は?』

返事は3秒もたたないうちに来た。

『 ワタシハオリバ 』

秋子「苗字だけね。」
健太「いいんじゃん。」

『ところで、あなたはどこにいるのですか?』

冷子「ちょっ・・・健太!その質問だけはやめてよ!」
健太「おっそぉい☆」
後ろで何かキーボードを打つ音がした。
冷子「何?まだ打ってるんじゃない。」
健太「え?俺は何も打ってねぇぜ。」
秋子「じゃ、じゃあ。さっきの音は?」
その時、返事がきた。

『 アナタノウシロ 』

健太「っ!?」
健太も冷子も秋子も、全員後ろを振り返った。
だが、何もなかった。
健太と冷子はほっとしたが、秋子はガチガチ震えていた。
健太「何だ?恐いのか?」
秋子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・ん。」
目には涙がうかんでいた。
健太「・・・・。」

『いませんでしたよ?』

健太は返事を送った。送った直前に
後ろの下のほうでキーボードを打つような音が聞こえていた。

『 アナタノウシロニイル ワタシハ 』

健太は秋子の視線を追っかけた。
冷子も後から追いかけた。
そこには、その人がいた。



首がとれそうな 顔の肉が半分もぎとられている その人が



健太「!!」
血管が縮んだようにかんじた。
そして、その人は片方にしかない目から血を流し始めた。

『 ワタシノコト キライ? 』

メールが届いた。
健太はもう、キーボードを打てないほど力が抜けていた。
その時、秋子は間違えて首をたてにふってしまった。
その人は自分を見ていなかったからふってしまった。
突然、その人は秋子に目をぎろりと向けた。

『 キライ? 』

そして、血が止まり、今度は横たわっていた体がかすかに動き始めた。
体は秋子の方に向いていた。
秋子はすでに凍りついて、動きそうになかった。
冷子「っ!逃げるよ!」
健太は目を覚ました。
冷子は秋子をだきかかえ、すぐに扉までつっぱしった。
健太も冷子の後ろにつき、つっぱしった。
その人は目をとび出しそうなくらい大きく見開き、
ゴキブリのように動き始めた。
そして猛スピードで健太たちの方に走っていった。
健太「やっば。」
冷子は扉を開け、健太を引っ張り、扉を閉めようとした。
しかし、そのときにあの人がいる後ろを振り向いていた。
見ないほうがよかったものを見てしまった。




笑いながら来るその人の首がぐるんと回り、突然・・・




冷子「―――――――――――――――――っ!!!!!!!!!!!!!」
冷子は、言葉にならない悲鳴をあげた。
そして、その人の体は止まり・・・。

「ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


健太「ほら、はやく行くぞ!!」
扉を閉めようとしたとき、その人はさらにスピードをあげて扉に近づいってった。
健太はガチャンと扉を閉める。
グシャッという音が扉のすぐ近くで聞こえ、扉の下の隙間から血が飛び散った。
健太たちは足を止めることもなく、すぐに3階への階段を駆け上がって行った。
3階の扉を閉めると、やっとのことで座った。
健太は何も言えなかった。
秋子は泣いていた。
冷子は来たことを後悔していた。


町立総合病院 3階 前

秋子「ごめんね・・・ごめんね・・・。」
3階で、秋子が泣きながら2人にあやまった。
冷子「別に過ぎたことなんだから、ね?仕方がないよ。それに、ああいう風に答えなきゃ
   きっとここにはいないよ。」
しかし、冷子は怒っていた。
どうしてあの時秋子は返事をしたのか。
あそこで返事をせずに、「普通。」とか何とか言ってればもしかすると
助かってたかもしれない。
秋子「でも・・・でもっ・・・。」
冷子「いいよ、もう。」
健太「そういえばさ。話変えるのもなんだけど―・・・。」
冷子はきつい目で「何?」と言った。
健太「あ、いや、その―・・・。ここにいた院長さんや、患者さん、看護婦さん看護士さんもみんな毒殺したんだろ?」
冷子「そうよ。」
冷子はそっけなく答えた。
健太「変だなぁ。」
冷子「何が?」
健太「毒殺したのにどうしたあんな奴がいるんだよ。毒殺したんだったら普通ゾンビとかじゃねぇ?」
冷子「・・・。」
秋子「実は秘密でまだ手術とかやってたりして☆」
冷子と健太は秋子の意外な答えにびっくりした。
冷子(ねえ、秋子ってこんな子だったっけ?)
健太(わかんねぇ・・・わかんねぇ・・・。)
冷子(ずーっと一緒のクラスだったんだけど、こんな話方、初めて。)
秋子「どうしたの?2人とも。」
冷子「なんでもない。」
でも、冷子はまだ怒っていた。
先ほどまで泣いていたのに、どうして立ち直ったのか。
泣きたかったのはこちらなのに―・・・。
秋子「ねぇ・・・。ここでごめんなんだけど・・・。」
健太「何だ?」
冷子「・・・はいはいはい。」
冷子はやっと笑顔がだせた。
冷子(トイレ・・・でしょ?)
秋子(ピンポン冷子ちゃん。・・・一緒にきてくれる?)
冷子(連れションだったらおまかせなさい。)
健太「まさかだと思うが、トイレか?」
秋子「健太君も大当たりっ☆」
冷子「わたしと秋子でトイレ行ってくるけど―・・・健太は?」
健太「おりゃぁ女子トイレに入る趣味なんぞないぞ。」
秋子「違う!健太もトイレに行く?って聞いてるのよ、冷子ちゃんは。」
健太「ああ、そういうこと。」
やっと3人にも笑顔が取り戻せた。
いつの間にか、冷子はいつも通りに戻っていた。
だが、冷子はまだ嫌な予感を感じていた。
健太と秋子には聞こえてないみたいだが、『声』みたいのが聞こえるのだ。
冷子(気のせい・・・かな?)
秋子「どうしたの、冷子ちゃん。」
冷子「あ、いや・・・。なんでもないよ。さ、はやく行こう。」
だが常に冷子は秋子をひっぱっていた。


町立総合病院 3階 中

秋子「ごめんね、冷子ちゃん。待っててね。」
冷子「すぐ近くなんだから、別に平気よ。」
トイレはとても清潔だった。
使われていないから清潔なのか、前までずっと洗っていたから清潔なのか、
さっぱりわからなかった。
冷子「あ、わたし顔洗いたいんだ。すぐ戻ってくるから、水道のところに行ってもいい?」
秋子「いいよぉ。」
秋子は怖がりなので、30秒以内に終わらせるからと言い残し、去っていった。
それに、ここも清潔なのだがら、特におばけなんぞ出てこないような気もしたので。
秋子「・・・。」
だが、秋子にとってそれが怖かった。
辺りは沈黙し、ただ冷子がいる水道から水が流れる音しか聞こえなかった。
その後、健太の声が小さく遠くに聞こえた。
どうやら、冷子と話しているようだ。
秋子(30秒以内に帰ってくるって言ったのに・・・。)
秋子はちょっとだけ冷子がうらやましかった。
男子とは仲がいいし、積極的なのが冷子のいいところ。
そして何よりも秋子がうらやましがるところと言えば、表情豊なところだ。
自分とは違い、怒るときは怒り、泣くときは泣き―・・・。
そう、思った時、何やら音が聞こえてきた。
秋子「冷子ちゃん?」
その音は、足音だった。


ひた・・・ひた・・・



秋子「冷子ちゃーん?遅いよぉもう。」



ひた・・・ひた・・・



秋子「・・・冷子・・・ちゃん?」



ひた・・・ひた・・・ひた・・・ひた・・・ひた・・・



秋子はやっと何かが違うことに気がついた。
その音は、足音で、裸足で歩いてきているようだった。
しかも、その足音は、だんだんと秋子の近くまで来ているようだった。
足音ははやくなっていった。



ひた、ひた、ひた、ひた、ひた、ひた・・・



秋子は息ができない状態だった。
はやく冷子が来ないか、いつの間にか泣いていた。
もうちょうどトイレが終わったころだったので冷子もきてもいいところだった。
だが、水道では冷子と健太の話し声しか聞こえなかった。
秋子「冷子ちゃーん!!冷子ちゃーん!!」
必死で叫んだが、聞こえていない。
秋子「冷子ちゃーん!!!・・・。」



ひたひたひたひたひたひたひたひたひたひた・・・


秋子「冷子ちゃーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!」



ひたひたひたひた・・・。


秋子「!?」
足音は、秋子のトイレの前で止まった。
秋子は覚悟した。息をのみこみ・・・。
秋子「誰!?」
叫んでドアを開けた。
だが、そこには誰もいなかった。
秋子「??」
夢なのか、本当なのか、幻なのか。
混乱してしまった。
秋子はため息をつき、ついつい、そこに座り込んでしまった。
秋子「なぁんだ。心配して損しちゃった。さてと・・・。」
秋子は最後に必ずトイレのまわりをきれいにするのが日課だった。
いつものように、トイレットペーパーに手をつけようとした。
だが、その時、糸のような、細い細い線が見えた。そして―・・・。
秋子「え――――――・・・。」
冷子と健太が駆けつけた時には、秋子はひどい姿になっていた。


町立総合病院 3階 後

冷子「秋・・・子・・・?」
冷子と健太は絶句していた。
冷子はどうにか保っていたが、健太はほとんど立ちながら気絶。
ため息をつき、冷子が健太に一発パンチを食らわせて、やっと健太は起きた。
だがそれでも冷子はひどい姿の秋子にびっくりしていた。
冷子「秋・・・子?どう・・・したの・・・?」
学校の授業まで楽しくやっていた秋子。
ケンカしながらも笑わせてくれた秋子。
そして、トイレにいた秋子は


そこで、横たわり、血まみれになっていた。



冷子「ねえ・・・秋子・・・?返事・・・してよ・・・?起きてよ・・・。」
冷子は涙を流さないように必死に秋子に問いかけた。
だが、あの笑顔の返事は返ってこない。
秋子の目は、すでに遠くの花畑を見ているようだった。
自慢の髪の毛も、今はグシャグシャになり、血にも染まっていた。
体はありえぬ方向を向き、ほとんどあの人と同じように見えた。
息はどうやらしているようだったが、もう助からない。
頭からは大量の血が流れ、目も少しばかりかつぶれていた。
体のところどころには切り裂いたような傷と、殴られたようなあとがあった。
だがそれでも、冷子は秋子の近くに行こうとしていた。
冷子「秋子・・・。起きて・・・。さっきまで一緒だったじゃない・・・。」
健太「応答なし。」
健太は少しがっかりな口調で言った。いつもなら、そういう言葉は笑いながら言うのだが。
冷子「どうして・・・・・どうして・・・・・何で私のこと呼んでくれなかったの・・・・・。
   どうして声かけなかったのよ・・・。」
健太「・・・。」
健太は、冷子と水道で話をしていたことを、今になって後悔しはじめた。
あの時に冷子を話さえしなければどうなっていただろう?
きっと今頃は冷子が「さ、行こうか。」と笑顔で4階の階段をのぼり始めているに違いない。
健太「・・・・・。」
健太は冷子を見つめていることしかできなかった。
ただ、それしかできなかった。
冷子みたいな、そんな勇気は1つも持っていない。
こんな時にかぎって、健太の勇気は役にたたない。
冷子は、涙を流さないように気をつけていたが、ぼろぼろとこぼれていた。
冷子「行こうよ・・・一緒に行こうよ・・・。お姉さん探しに行こうよ―・・・。」
だが、健太は気がついた。
何かが違う。
秋子の体からは何か細く光っている糸のようなものが見えた。
そして、秋子の顔をよく見た。
泣いているようにも見えたが、違う。

笑っている

冷子「ねぇ・・・秋子ぉ・・・返事して・・・お願い・・・。」
手があともう少しで届くところで、健太は、はっとした。
健太「危ないっ、冷子!!」
冷子「っ!」
しかし、指が触れてしまった。
指の感触はまるで肉を触れたのと同じよう。
健太のもとに戻ろうとしたが、秋子の指にかかっていた細い糸が冷子が少し、ひっぱってしまった。
その結果・・・・・
冷子「―――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
声も何も出さずに、ただ、心臓がひきしまった。
そして冷子は我にかえった。
だが、秋子は帰ってこない。
糸は秋子の体についている糸すべてにつながっていた。
糸がひっぱられ、秋子はどうなったか。

















切断された













冷子「いやぁぁぁああああああああああっっっ!!!!!!」
のどがかれるほど、悲鳴をあげた。
そして、天井から、何かがおちてきた。


町立総合病院 3階 後2

健太「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
病院の廊下、健太は1人だけで座っていた。
冷子と はぐれてしまった。
あまりのおそろしさに、自分だけ逃げてしまったのだ。
健太「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
廊下はつめたかった。
すっかり薬のにおいに慣れてしまい、何にも思わなくなってしまっていた。
あれは見ないほうがいいと思った。
天井からおちてきたもの。それは



 腐った肉 と 血



健太「ゲホッ、ゲホッ・・・。」
思い出しただけでも吐きそうになってしまう。
今頃冷子は何をしているだろう。
無事だろうか。
自分で逃げたくせに、そう考えていた。
後ろから、声をかけられた。
冷子「こるぁ、健太!」
健太「おわぁ!!」
冷子だった。
冷子の手は、血に染まっていた。
一体何をしていたのだろうか?
冷子「なんで健太だけ先に行っちゃうのよ!おかげでわたしの手がびっちょんびっちょんじゃない!!」
健太「ご、ごめん・・・・・。」
どうやら、冷子はしばらくそこにいて呆然としていたらしい。
そのときに、手をつけてしまったんだとか。
健太「それじゃあ俺のせいじゃないじゃん!!」
冷子「でもあんたは結局わたしを置き去りにしたんじゃない!」
健太「だ、だけど―・・・。」
冷子「だけど?。」
健太「・・・あいつ、死んじゃったな。」
冷子「話そらさないでよ。」
それでも心に残っていた。
あの姿が。
そして、冷子も秋子が笑っていたことに気がついた。
何を企んでいたかはわからなかったが、
秋子は確かに死んでしまった。
冷子「あそこで話さなければ・・・。」
健太「悪かった。」
冷子「健太だけのせいじゃないよ、わたしも30秒以内に帰ってくる約束してたこと知りながらも話してたもん。
   まさか、あんな結果になるとは思ってもみなかったから・・・。」
健太「・・・佐代子さん、どうしたんだろうな?」
冷子「さぁ・・・。でももう、後戻りできないよね。」
健太「階段のほうに行ってみっか?」
冷子「わたし、さっき見てきた。でも、鍵がかかってた。それに、2階に戻ることできたって
   1階への階段の入り口の扉は完璧に鍵がしまってたんだがら・・・。」
健太「いつ帰れるんだろうな、俺たち・・・。」
冷子「・・・・・・・。」
健太「どうしよっか―・・・。」
冷子はだまりこんだままだった。
そして2人はあまり会話もせず階段を探しにいった。


町立総合病院 3階 後3

冷子「何よ?」
突然、冷子がもとに戻った。
健太がずーっと冷子の顔を見ていたものだから、
冷子がビンタをくらわせた。
健太「いってー・・・。何すんだよ!!」
冷子「あんたこそずっとわたしの顔ばっかり見て!
   少しは前を見なさいよ!」
完璧に冷子はもとに戻った。
健太「・・・はれた。」
冷子「あ、ごめん。」
健太「・・・赤くなった。」
冷子「ごめん!!」
健太「でさぁ・・・。」
また冷子は健太にビンタをくらわせた。
それから話は180度回転した。
冷子「いつになったら階段につくんだ・・・でしょ?」
健太「そう。もう1周くらいしてるから・・・おかしいなぁって。」
冷子「わたしもそう思うけど、見つかるまでこのままよ。」
健太「えー!?もう歩けねぇよ、俺。」
冷子「秋子のためよ、さ、がんばりましょ。」
健太「・・・・・・・。」
冷子「またビンタするわよ?」
健太「へいへいへい。」
そして10分ぐらいたったあと、やっと見つけた。


町立総合病院 4階 前

健太「うっへー。真っ暗。」
そう、健太の言う通り、4階は真っ暗だった。
冷子「懐中電灯使いましょか。」
健太「りょーかい。」
かちっ、とスイッチの音だけが響く。
4階はただ、廊下が一本と奥に扉があるだけだった。
その扉には『緊急手術室』と書かれていた。
健太「ところで手術室はどこにあったんだ?」
冷子「2階。おりばさんのせいで見れなかったの。で、ここが緊急用みたい。」
健太「ほー。」
窓の光が異様に明るく見えた。
鳥の鳴き声と、それから風の音。
窓は開いていないのに、なぜだか風がこの廊下まで入っていた。
健太「行こうか。」
冷子「―――――ぇ・・・・・・」
健太「何だ?」
冷子が青白い顔をして、何か言っていた。
健太は何も見ず何も考えずにいたのでまったくわからなかった。
健太「どうしたんだ?」
冷子「―――ねぇ・・・足・・・寒くない・・・?」
健太「風が吹いて寒いんじゃねぇか?確かに、足は寒いけど?」
冷子「―――わたしの足に・・・何かつ、ついてない・・・?」
健太「???」
ただ、一本の廊下。
後ろは、扉。
前は、緊急手術室。
冷子の足を少し、少しずつ下に視界にいれる。
その時、みえた。
健太「っ!!」

青白い、手が。

冷子「何かついてなかった?」
健太「あ、・・・手・・・。」
冷子「へ?手?」
そろりそろりと、冷子がみる。
冷子「ひっ!」
青白い手が冷子の右足を掴んでいた。
生温い赤い液体が床に落ちていく。
子供のような、長い長い細い細い腕。
小指だけがなく、あとの指は赤ちゃんのように小さかった。
ただ、手のひらだけが大きく、冷子の足を掴んでいた。
冷子「―――――!!」
健太「だぁ、もう!冷子から離せっ!!」
手に向かって健太が懐中電灯の光を見せると、手が突然消えた。
冷子の足の痛みも同時に消える。
健太「大丈夫か!?」
冷子「ふぁ、あ、あ、うん。痛く・・・ない。」
健太「そ・・・か。」
しばらく、沈黙が続いた。


町立総合病院 4階 後 〜 1階 まで

『緊急手術室』と書かれた看板はきれいだった。
冷子「なかなかうまい字ね。」
健太「佐代子さんがここにいるのか?」
冷子「さ、さぁ・・・まず、入ってみようよ。」
ガチャ・・・・・。
冷子「うわ、この取っ手べたべたしてるぅ。」
健太「部屋見なくて取っ手みてどうする。」
キ・・・キキキキキキキ・・・・・・。
冷子「うわ、この扉嫌な音する。」
健太「・・・・・・・・。」
本当にこいつは真面目にやっているのか、気になる。
だが、そう思うのもつかの間だった。
2人「っ!!」
手術室の中は、ひどい臭いがただよっていた。
薬と肉の腐った臭いが混ざっているような。
壁にべったりと血、血、血。
手術道具は特に機能性はなさそうなのばっかり。
古くてさびているものもあれば、
手術中だったのか、内臓につきささっているナイフもある。
冷子「ふぅ・・・・っ。」
吐き気が胃の底から突きあがってくる。
しかし、そんな手術室の中でも、目立つものが一つ。
手術ベットの上にいる、白い人影。
それは・・・。

冷子「・・・・佐代子・・・さん・・・?」

そっくりの秋子の姉、佐代子が横たわっていたのだ。
まだ、生きている息をしている。
佐代子「・・・冷子ちゃん・・・?秋子は?」
冷子「あ、あああ秋子ちゃんは・・・その・・・。」
健太「家に帰ってますよ、大丈夫です。」
冷子「っ!?」
佐代子「・・・そう。秋子のことだから、つい、来るのかなーって。
    でも、ありえないか。恐がりだし。クスクス・・・。」
冷子「あ、あははははは・・・。」
苦笑いしながら、笑う冷子に健太はムッと顔をしていた。
冷子(・・・どうしたのよ?)
健太(いや。でも本当にこいつが佐代子さんか?何か変だとか思わないのか?)
冷子(・・・いつもの秋子の姉さんね。)
健太(でも注意はした方がいいな。もしかすると体は佐代子さんかもしれないが、
   違うものが乗り移ってるかもしれないから。)
冷子「変なこと言わないでよ!!秋子の姉さんは秋子の姉さんなの!!」
健太「お、おい!」
冷子「あ・・・。」
言った時は、遅かった。
佐代子は、吃驚した顔で冷子を見つめていた。
健太が息をのんでから佐代子のもとまで進む。
健太「え、えーと・・・。気にしないでくださいね?
   今まで嫌なことばっかだったから・・・。」
佐代子「・・・。」
佐代子はまだ吃驚したままだった。
健太「あの・・・。」
佐代子「あ、いや、その・・・何?」
健太「大丈夫・・・ですか?」
佐代子「うん、何ともない。ただちょっと声が大きかったから・・・。」
冷子「す、すみません・・・。」
佐代子「いいのよ、別に。・・・ただ・・・。」
健太「ただ?」
次の言葉に、空気が変わった。
佐代子「ごめんね、健太君。きみ、私のこと変な風に言ったでしょ?
    私、あなたのことだけ・・・許さない。」
突然佐代子は健太の腕を掴み、ぐっと力を入れる。
健太「っ!」
痛みはすぐに頭まで這い上がっていった。
数秒後、手から血がぬくぬくと出てきた。
爪から、指から、次々と。
そして肉が溶け出した。
健太(やばっ。)
苦笑いしながら、ぐるっと冷子に目をやった。
冷子は固まっていた。
健太「おい!冷子!!」
冷子「・・・あっ、ぬ、そ、その、えと・・・。」
どうやら冷子は健太の怪我にまだ気づいていなく、佐代子にどう謝ろうか
迷っているようだった。
冷子が言葉を考えているうちに健太の腕からものすごい血の量が出ていた。
冷子「あれ?ど、どうしたの!?その怪我!」
健太「見ての通りだ!おまえ、早く逃げろよ!!」
冷子「へ?あ?ああっ!あ、・・・。」
訳のわからない言葉を走った後、佐代子の顔を見てやっと状況を掴んだ後・・・。
冷子「きゃ、きゃあああああああ!!!」
健太「悲鳴あげるのおせぇよ!!ともかくさっさと部屋から出るんだ!!」
冷子「で、でも!健太は・・・?」
健太「さっさと逃げろよ!!」
冷子「・・・・・・・・わかった。でも・・・。」
健太「何だよ、さっさとしろよ!!」
冷子「ごめん、じゃあ。お先。」
健太(お先って言われても俺は無理だってば。)
扉まで突っ走った後、冷子は何かが動いていることに気づく。
そう、後ろで。
窓からぬるっと影のようなものが病院に入って動いていた。
それは顔のようで、目のようで、手のようで。
さまざまな形をして動いていた。
3階の廊下を走っていく。
そして途中。あの秋子の姿を目にする。
切断され、血まみれの秋子でなく、いつもの秋子を。
トイレからその影がまた一つ出てきて後ろにくっついていく。
何時の間にか、影は集団となっていた。
冷子はともかく走りつづけ、影から逃げているように見える。
2階への階段を一気におり、また走る。
今まで開けていなかった扉が次々と開いていく。
バンバンバン・・・!!
後ろでたくさん扉の音が、後ろでたくさん影の集団が作られていく。
そして見たくなかった、あの人がいた。
そう、2階であった、あの人に・・・。
冷子「ひっ!!」
小さい悲鳴を出したあと、1階への階段を次々とおりていく。
受付のところまで走る。そこで少し休んだ。
影は何故か、追いかけてこない。
受付の紙に目を少しだけやった。
そこには、嫌な文字が、2つ。

井上秋子 村山健太

冷子「え・・・?」
突然、階段から影が動いた。
冷子「っ!」
また冷子は走り出した。
自動扉の前まできて、体を投げ込もうとした。
だが、やめた。
『声』に呼ばれ、やめた。
冷子「・・・・・・・あそこか・・・!」
待ちあい室の隅に、扉はあった。
光が細く差し込んでいる。
扉を強く開けた。
その瞬間、空気がもとに戻り、眼の前が真っ白になった。


最後の話 前



??「・・・ん、・・・ちゃん!!」
??「おい、しっかりしろ!!」
???「私缶ジュースでも買ってこようか?」
真っ白な世界で、耳だけが頼りだった。
何か聞いたことのある、懐かしい声がきこえた。
眼の前にきっと3人誰かがいる。
冷子(ああ、わたし、天国にこれたんだ・・・。よかった。地獄じゃなくて・・・。)
そんなことを考えていた。
その時、突然真っ白から現実に戻った。
秋子「冷子ちゃん・・・良かったぁ・・・。」
そこには、秋子と健太がいた。冷子は自動ドアの前で横になっていた。
冷子「へ・・・あれ・・・?」
健太「井上結構心配してるからちゃんと謝れよな。」
佐代子「あれ?起きたの?」
かなり遠くから佐代子の声が聞こえた。
冷子「へ?へ?あれ・・・?」
秋子「よかったぁ。よかったぁ・・・。」
健太「んじゃ起きたことだしそろそろいこっか。」
佐代子「待ってよ。まだ缶ジュース買ってきたばっかなんだよ?」
秋子「よかったぁ・・・。」
会話は楽しそうに聞こえた。
だが状況の掴めない冷子は笑っていいのかわからなかった。
冷子「ねぇ、わたしどうしてたの?」
健太「は?おまえ本当に大丈夫か!?」
秋子「やっぱり頭痛かったのかなぁ?
   1階でお姉ちゃん見つけて自動ドアから出ようとしたら突然冷子ちゃん倒れちゃったんだ。
   でも・・・・でもっ・・・よかっ・・・」
佐代子「はいはい、もうやめなさい。じゃ、行きましょうか。冷子ちゃん。」
冷子「ああ、はい。」
そう言って立とうとした。だが、1つ疑問が浮かんだ。
1階で見つけた・・・ということはあとの2・3・4階のことはすべて夢だったというのか。
冷子は足を見る。怪我は特になかった。
冷子「・・・気のせいか・・・。」
そして冷子はいつも通りの生活を送るのだった。