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「エバンス・レポート」佐山雅弘
(2005年10月17日サイト掲載)
もともと「Keyboard magazine」10月号のビル・エヴァンス特集のために書かれた文章ですが、『ページ(レイアウト)の関係で思い切り削ることになり残念と折角なので』と佐山さんより原稿テキストの提供がありました。
雑誌掲載内容と比較すると、ずっと私的で、ひとつひとつの文章がその音を聴きながらしている会話の様。この全文が雑誌に掲載されなかったことはとても残念。でもこうしてサイトへ掲載できることは、とても幸運。(2005.10.17)
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※ファンサイトへのレポート掲載について、キーボード・マガジン編集部より許可をいただいています。なお、文章の無断転載・引用は固くお断りいたします。
 
1. I Love You (New Jazz Conceptions) (1956/9)
後にスコット・ラファロを迎えて超緻密になっていくエバンストリオとは違って実に普通なピアノトリオの感じがいいですね。エバンスの原点を見る思いがする。といっても普通って何かということになるとまた難しい話になっちゃうけれど、ピーターソントリオでもなし、バド・パウエルトリオでもなく、強いて言えばソニー・クラークトリオ的なんだけど、、、
[1]ちょっとしたキメのイントロがあって[2]テーマから抜けるのにピックアップを伴って[3]アドリブにかけてもピアノが主体でそれをサポートするリズムセクション、、、という王道のスタイル。ドラムはポール・モチアンなんだが、ベースがラファロと違うだけで3人のサウンドがこんなに変化するのが興味深い。
勿論演奏は良い。ラファロとのトリオがどこか傍から覗いちゃいけないプライベートな匂いがするのに比べて、こちらの顔も逆に見られながら聞かせていただけるような安心感がある。といえば論評調だけれども、これを分析的に捉えると、エバンスのピアノスタイル、リズムのノリや和声の発想がよりわかり易いので入門者にというなら、ファン入門者はラファロとの演奏、プレイヤー入門者はラファロ以外とのセッションがいいかもしれない。。
2. Peri's Scope (Portrait In Jazz) (1959/12)
8小節が3ブロックの構成がある種のブルースフィーリングを醸し出すことの留意。ブルーノートを前面に押し出さなくてもジャズであることはどこかブルースの遺伝子は入っている。ビル・エバンスにも感じるし、ジョン・スコフィールドのアウトコードラインにとてつもなくブルージィな気分を僕は感じる。Dm〜G7が何度も出てくるのにまるで単調さを感じさせないフレージングは見事。それを引き出しの多さだ、という人もいる。そう思ってその方向で努力している音楽家も多いが、それは間違い。同じフレーズが何度出てこようとも、そのたびの直感であるべきなんです。
このアルバムには“枯葉”“降っても晴れても”などエバンス及び絶頂期(イコール初期ってところが切ないんだけど)のトリオのエッセンスが満喫できる曲ばかりで、一枚聞くと湯当たりしたようにぼ〜っとしていまう。いいオーディオで、LPで、片面終わって、ため息をついて一口のアルコール。
3. Solar (Sunday At The Village Vanguard) (1961/6)
ハーモニーの元祖ないし権化のように言われているビル・エバンスだけれど、このテイクはテーマの和声もジョージシャーリング風の単純サンドイッチ(オクターブで弾くメロディの間にコードの構成音を密集させる)だし、アドリブの数コーラスは単純オクターブ奏法で展開している。テーマの省略の仕方も魅力的。なんだかマイルス風にも聴こえて微笑ましくもある。独特のバウンス感は柔軟なゴムマリのようだと僕は思うのだが、隠れたエバンスの魅力でもある。そのあたりを研究・吸収するのに良い素材。
4. My Foolissh Heart (Waltz For Debby) (1961/6)
キーがAであることにまず注目すべき。ベースにとってサウンド・フレージングともに自由度の高い調を選んでいるのである。通常Bbで奏されることが多い。ピアノとベースのコラボレーションの見事さは何度聞いても息を呑む。ピアノ学習者もピアノプレイよりはベースのラインに耳を澄ませるべきである。といっても単純にバッキングラインを取っている所は殆どなく、ラファロのプレイは全てドラムやピアノとの関連性において意味の深い、それでいて自発性の高い一音一音であることが見に沁みてわかれば自ずからエバンススタイルに近づくことが出来るだろう。
モチアンのシンバル、ブラシワークの音色感を外してはこのサウンドは成り立たないことも意識的に重視するべきである。ピアノのE音、ベースのA音、シズルシンバルとブラッ。この出だしの一音の3者のサウンドに全ての意味が発現している。
5. Beautiful Love (Exprolations) (1961/2)
2バージョンある場合はテイク2の方。最近のCDはサービスのつもりでアウトトラックを入れるが、そういうのは資料として別に流通させるべきで、作品としては元の形のままにして欲しいもんですね。
それはともかくこの演奏は典型的に勉強になる。先ずイントロがない。
[1]アウフタクトのシンコペイション[2]最初の8小節は単音の右手メロディに左手の効果的な多すぎない合いの手型バッキング[3]次の8小節はブロックコードないし同時発音型バッキング[4]ABAB形式のリピートしたAブロックはフェイクからもう一歩踏み込んだアドリブとテーマの綱渡り、エバンスハーモニーに欠かせないマイナーフラットファイブでのナチュラルナインスも効果的に使われている。テーマが終わってアドリブが始まると同時にドラムはブラシからスティックに持ち替えてスイングしてゆく。
こんな風に形式的に捉えてしまってもつまらないけれど、勉強としては色んな曲をこの方法論で実践してみるのは個人的にもグループ的にもとても効果的だろうと思われる。
このアルバムにはナルディスも入っていて、後年の名盤“モントルー、、、”の萌芽が読み取れて、その意味でも興味深いが、とにかく個々までの4枚がスコット・ラファロの残した全てである、ということはある意味ビルエバンスの全てが凝縮したものだからして、ミュージシャンは必携。いやファンも必携でミュージシャンはこの4枚に関わる全ての楽曲の自分なりの研究(聴きこむだけでもいいから)が必須です。
6. You And The Night And The Music (Interplay Sessions) (1962/7)
エバンスには珍しい大編成のセッション。イントロの独特のリズム感も勉強になる。テーマが終わってピックアップからすっとソロは右手だけ。バッキングはギターにまかせっきりの潔さ。ジムホールがまた少な目のいいバッキング。ピアノ学習者としては右手単音ソロという絶好の機会を捉えて音符のバウンスの仕方、選ぶノートの合理性と直観力を学ぶべし。楽譜に写し取ること禁止。そのことで気が済んじゃって深いところに手の届く機会が失われるのだ。ひたすら真剣に何度も聞くべし。ソロの4コーラスをひたすらに聴くべし。分析せずに没頭して聞くべし。全身を耳にして聞くべ、、、、ちょっとしつこいね。
7. I Should Care (Bill Evans At Town Hall) (1966/2)
ピアノトリオにおける左手の見本。テーマ部分最初の4小節と終結部はバンドのキメ。
アドリブ1コーラス目は右手と関係ないかのような独立リズムセクション的な一拍半主体。これはアールハインズ辺りまで遡る伝等のスタイル。2コーラス目ではうって変わって右手に追従する。これはバッキングというよりは右手メロディの中のアクセント〜アーティキュレイションをより強調する役割を果たす。一拍半フレーズのそれぞれのオンをフォローしながら内声を13>b13、とか9>b9、あるいは5度をフラット〜ナチュラル〜シャープ使い分けてカラーリングする見事さよ。
初心者的にはヴォイシングは気にせず左手つかめるコード形でいいからスイングしてくるタイミングを身につけるがよろしい。
このアルバムはチャックイスラエルがとてもいいし、モントルーでの名演“ワンフォーへレン”も入っていて楽しい。
8. Someday My Prince Will Come (Bill Evans At Montreux Jazz Fesutival) (1968/6)
典型的なConbinationed Diminished 通称“コンディミ”が現れる。テーマが半分終わって折り返す時の 2.7>1.6>7.#5>6.#4>5.3>4.2>3.#1>2.7>#1.#6>7.#5>♭7.5>♭6.4 のコンディミ3度ハモラインが実に不思議美しい。コンディミスケールというのはこのように響く。メジャーとマイナーの中間あるいは両立ということです。これを体感して下さい。3拍子と4拍子を交互に行き来するアレンジも楽しいし、ドラムとのトレードも圧巻。
ドラムソロといえば僕はどうも勘定が出来なくて3回に一度は入りそびれる。ここんとこ“ドラムフレーズに強くなる月間”を続けてるんですがどうもうまくいきませんね。このアルバムの“One For Helen”も“Nardis”も歴史上の名演なんですが、ドラムソロの終わりからテーマに戻るところが何度聞いても解らないんですよ。数の勘定だけでもダメだし“ウタ”に耳を済ませてみたりもするんだけどどうもよくわからない。“オーバーシーズ”でのエルビンのソロも未だに解らずにいます。
9. I Loves You Porgy (Bill Evans At Montreux Jazz Fesutival ) (1970)
ソロが圧巻でそれに続くトリオ演奏もバラードの極み。ソロのテンポルバートとトリオのインテンポの具合を学ぶべし。カバーの方法も参考になる。もともと尺(小節構成)が複雑なガーシュインの名曲をトリオ演奏の素材(Cメロ譜面)になるまでにシンプライズする。まずは解剖して骨組みにするわけだ。そこから新たにリズム、メロディ、ハーモニーを自分流、バンドなりに発展させる。換骨奪胎。
しかし、ここまでくるとクラッシックのように八分ごとにアンサンブル音符があるようで、ジャズ演奏の見本にはなりにくい。
ともあれ、好きな曲に出会ったら演奏しよう。但しあくまで自分のやり方で。好きな人にめぐり合ったら、、、あくまで自分の愛し方で。
10. Memories Of Bill Evans
“モントルーのビル・エバンス”に収録されている“A Sleeping Bee”を“Memories Of Bill Evans”に参加した時にピアノのテーマ部分をエバンスの丸コピーで弾いて、アドリブに入ってみたらとても新鮮だった。聞いてみて下さい。元を辿るより解りやすい。ロバート・ジョンソンその人よりもそれをカバーしているエリック・クラプトンの演奏や歌の方が何故か親しみ易い、という現象はあります。ハンコック奏法に悩んだ時は大徳さんのライブに行く、とかピーターソンを理解するには小曽根さんのトリビュートアルバムが大いに参考になるとか、そういったことですね。
今回は取り上げなかったけれど、ジム・ホールとのデュオ“Under Current”の中の My Funny Valentine のアレンジをベース(バカボン鈴木)とピアノに置き換えてドラム(村上PONTA秀一)が自由に歌う、という仕上がりにしています。他にも塩谷哲のBlue In Greenとか笹路正徳アレンジのGloria's Step など名カバー満載。

管理人註:MEMORIES OF BILL EVANS/1999.12.16発売/VICJ-60538
 
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