「インディアンの国への遥かな旅」



 何年か前から、ミステリが好きだったり、アメリカ先住民に興味があるという人に会うたびに勧めている本がある。ジョン・リープホーンとジム・チー巡査という、ふたりのナヴァホ部族警察官を主人公にした、トニイ・ヒラーマンのシリーズだ。
 日本語に翻訳されていて、現在入手可能なのは11作中6作。砂漠と岩山とメサ台地がどこまでも続く、アメリカ南西部の広大な高原を舞台としたこのシリーズを、何よりもユニークなものにしているのは、年齢的にも性格的にも対照的なふたりのナヴァホ警官が、ときには単独で、ときには協力して解決にあたる事件の背景だ。それは、ナヴァホやホピ、ズニといったアメリカ先住民の持つ豊かな文化であり、儀式であり、彼らが抱える葛藤であり、彼らが生きる自然の風景である。そして、読者は、ヒラーマンという素晴らしい案内人とともに、ニューメキシコ、ユタ、アリゾナに広がる、未知のインディアン保留地“ヒラーマンズ・カントリー”に足を踏み入れるのだ。
 ニューメキシコ州最大の都市アルバカーキーは、標高2000メートルの高原の街だ。インターステイト40号線を東から入ればサンディア山脈の山越え。西から入ればアコマ、ラグナの保留地を抜け、山脈を目指して乾いた大平原をひた走る。ヒラーマン氏の家はそのアルバカーキーの街のほぼ真ん中を横切る、リオ・グランデ河のほとりにあった。アドービ風建築の邸宅が並ぶ静かな住宅地。しかし、同じアドービ風でも、こじんまりと何気ないのがいかにも彼らしい。
 「道はすぐわかったかね」と出迎えてくれた彼は、牛泥棒捜査のエキスパートをネヴァダに訪ね、前夜遅く戻ったばかり。「だから、まだ頭がはっきりしなくてね」と笑った。元ジャーナリストで大学教授。71歳になる作家は、あくまでも温厚で気さくである。

――新作を完成されたと聞きましたが、ナヴァホ警官シリーズの新作ですか?>>


Page 1 Page 2 Page 3 Page 4 Page 5 Page 6
Page 7 Page 8 Page 9 Page10 Page11 Page12




Copyright (c) Mayumi Nakazawa