「木の人々」の「木の文化」――北西部アメリカ先住民の小宇宙




 モノとの出会いが、旅をゆるやかに紡いでいくことがある。旅の始まりは20年ほど前のニューヨーク。当時はまだ154丁目にあった狭くて薄暗いアメリカン・インディアン・ミュージアムで、私は10世紀ころのミンブレスの土器を前に息を止めて佇んでいた。淡い褐色をした滑らかな土器に、黒い顔料でくっきりとシンメトリーに描かれた、なんともおおらかでミステリアスな動物や昆虫たち。プエブロの祖先がつくったその土器にすっかり魅せられて、私はもうひとつのアメリカへと足を踏み入れたのだった。
 “インディアン”と呼ばれてきたアメリカ先住民は、それぞれの生活文化のなかから、さまざまな美しい工芸品を生み出してきた。乾燥した半砂漠に住むプエブロの土器、ズニの石細工、ホピのカチナ人形、ナヴァホの銀細工や織物、大平原に住むスーの皮革やビーズ細工…・・。そして、アラスカからカナダを経て、アメリカのワシントン州に至る太平洋側(北西海岸)に住む人々は、世界でも類を見ない木彫造形アートをつくり出した。
 シアトルのワシントン大学で教鞭を取るアーティストのマーヴィン・オリヴァーが、こんなふうに言ったことがある。
「アメリカの南西部――アリゾナやニュー・メキシコには、粘土で家をつくり土器を焼くズニやホピなどをはじめとするプエブロの人々がいる。彼らを“大地の人”と呼ぶならば、家から日用品に至るまで、すべてを木でつくってきた僕らは“木の人”だろうね」
 アメリカのワシントン州やカナダのブリティッシュ・コロンビアに空から降り立つと、その言葉が実感として迫ってくる。フィヨルドのように入り組んだ静かな入り江から針葉樹の森は立ち上り、圧倒的な「木」の世界が丘陵から山岳部へと果てしなく続いていく。土地が粘土質の半砂漠ならばその土で、木が豊富にあればその木材で、人は家を建て生活を築く。人間の生活や文化は自然環境の産物だという、ごく当たり前のことに気づかされるのは、こんなときだ。>>


Page 1 もうひとつのアメリカン・アート
Page 2 彼らは木とともに生きてきた
Page 3 トーテム・ポールと一族の物語
Page 4 自然が人間に教えるもの



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