吉川邦夫 超短編集2

【俺が降りる駅】

俺が降りる駅の下にはよ、必ずブルーズマンが居やがってよ、  くだらねえ仕事の汗に濡れた俺の下着の歌を必ずうたう。
俺が降りる駅の下に必ず居るブルーズマンは歌が巧くてよ、  昼間稼いだ俺の緑色のカネをビールとタバコに換えやがる。
その夜、俺はとてもくたびれて、耳は何の歌も聴けねぇ、  そしたらブルーズマンが謡った、「じゃあ俺の家に来いよ」
「俺はおちぶれて台所にはネズミも居ないんだけどさ、 二階の太った酸っぱい未亡人がチーズとサラミをくれるよ」
ビールとタバコを買って奴の家についたら、二階もありゃしねぇ、  そしたらブルーズマンが呟いた。「世の中、間違ってるね」
俺たちはブルーズマンの汚い台所で飲んだ(ネズミはいなかった)  ビールとタバコが切れる頃か、そのちょっと前に俺はそこで眠った。
朝起きたら野郎は居ない。俺は奴に貸しがあるような気がした。  だから野郎のギターをかっぱらって、喉が乾いた頃にさよならした。
駅でビールとタバコを買って、うとうとしていたら夜になった。  ギターなんか持ってるもんだから、俺はちょっと歌ってみた。


【荒ぶる魂】

ああ、うちの星にも運動会はあるよ。あたりめえだよ、体育会系の星なんだから一年中運動会だよ。雨天順延なんてことはしないよ。酸性雨が降っても流星雨が降っても、やるときはやるんだよ。馬鹿にしたらいけんよ。
まあいいや、まず最初に選手専制を行う。つまり選手が絶対の権力を握り、すべての運営を司るわけだ。この権利を選手権というのだ。よく覚えとけよな。選手権は予選を通過しないと獲得できないから、各地の予選で厳しい試練を経た者だけが選手権を得るという、それほど大切な権利なんだぞ。だから選手専制には絶対の忠誠を誓わなければならないのだ。それが役員および観客の宣誓である。
それから儀式として生け贄をささげる。昔は処女の生き血をプールに満たしたらしいが、最近は処女の供給が滞りがちだから、まあ奴隷を2、3匹血祭りにあげるくらいだな。大運動会だと、もっと殺すよ。派手でいいよ、大会は。
最初の競技は、だいたい騎馬戦だな。ウマは奴隷を使う。武器は槍と盾だ。鎧カブトは、かなり自由に選べるが、電子機器の応用は禁止されている。もちろん細菌兵器や毒ガスもだめだ。相手を殺した選手が勝つ。
次は玉入れだ。玉は砲丸を用いる。当たると死ぬから、終わると死屍累々となる。入った玉を放り投げるのもかなり疲れるぞ。
それから綱引きもやる。これはワニザメがうようよいる池の上で引っ張り合いを行い、負けたほうはもちろんワニザメに食われるわけだ。あとは、まあ格闘球技、格闘五種、格闘リレー、奴隷食い競争といった具合だな。障害者も参加するよ。うちの星じゃ腕や足の1本や2本なくて当たり前だからね。
え、奴隷はどうやって手に入れるかって? おまえね、いくら私ら体育会でもね、自分の星の知的生命体を奴隷にするなんて、そんな野蛮なことはしませんですよ。わかりましたか? わかったら、さっさと跪いて焼き印を受けなさいね。

©吉川邦夫 2004