第四十六話 オトメユリ

6月の終わり、小学校からの幼なじみがバス旅行に誘ってくれました。南会津の「高清水自然公園」と「駒止(こまど)湿原」の日帰り旅行です。これまでも時々、江戸情緒を訪ねて、三人で東京の下町を歩いては、大衆演芸を見たり、昔からの食べ物に舌鼓を打つ仲です。三人で初めてのバス旅行。33人乗りの中型バス3台の催行となりました。大型バスは入れない、狭い道の多い場所だからということでした。

上野から、ビール片手に揺られて着いた先は、「高清水自然公園」でオトメユリの群生地。オトメユリは現地ではヒメサユリと呼ばれています。ウィルスに弱いので毎年野焼きをしているという。誰も採らない(採れない)ので、ワラビも生え放題。お目当てのユリは小振りですが、鮮やかな桃色のユリで、中を覗くとソバカスのような、おそらくは昆虫を誘導する蜜標らしい斑点がありました。オトメユリは日本特産で、宮城県(南部)、新潟県、福島県、山形県が県境を接する付近にのみ群生しているそうです。

写真を撮っていたら、目の前を黄色いものが左から右へ飛んだので、びっくりしてその先を見ると、なんと木道横にバナナの皮!前を行くオジサンが投げたものでした。一瞬のことに、注意する機会を逸してしまいましたが、この人は何を目的にここへ来たのだろうかと、不思議に思いました。私達の旅行グループではない方でしたが。

その後も、ワラビを抜いていて、監視員に注意されているオバサンもいました。ワラビ狩りができる公園もどこかにあるようですが、無神経な方もいるようで、少し悲しくなりました。

駒止湿原では風に揺れるワタスゲの群落に、しばし目を奪われました。標高1100m、カッコウの声を遠くに聞いた、梅雨の晴れ間の一日でした。

【学名】Lilium rubellum Baker
【属名】ラテン古名。ケルト語の li,ギリシャ語の leirion は共に白色を意、ユリ属
【種小名】やや赤い,帯紅色の
 Baker:英国の分類学者 目次へ
オトメユリワタスゲ
オトメユリとワタスゲ

第四十七話 ミソハギ

会社の小川に(小川のある会社というのも、かなり珍しいですが・・・)ミソハギが咲いています。ミソハギ科ミソハギ属で、同じ科にサルスベリがあります。7月のお盆にはちょっと早く、おそらく月遅れのお盆の頃には満開でしょう。

由来ですが「名は、禊(ミソギ)ハギの意味で、盂蘭盆会(ウラボンエ:7月15日)で仏前の供物に水を注ぐのに花穂を使うため、ボンバナともよんで親しまれる。」(日本大百科全書:小学館)だそうです。

初めてミソハギを教えていただいたのは、第四自主探でのこと。フィールド・ノートに登場するのは、1994年7月24日(日)の暑い日で、松木さんがご近所で保護されたヒヨドリの雛を持参された日でした。矢戸ノ池でカラスアゲハの給水を観察し、アキノタムラソウ、ミソハギが咲き始めた、とありました。懐かしく思い出されます。
はじめの頃は、「味噌萩」だと思っていました。一体どこが味噌なんだろう、色でもなし、匂いでもなしと不思議でした。ミソサザイを「味噌栄螺」だと思っていた方もおられるそうで、同類でしょう。

味噌と勘違いしていた「禊ぎ」について調べてみました。かつて、ロッキード事件の灰色高官や、リクルート事件で疑惑のあった議員らが結果オーライで行ったのも「みそぎ」と称していましたが(とてもそうとは思えませんでしたが)、本来の禊ぎは「禊祓:みそぎはらえ(6月と12月の晦日:つごもりに行った万民の罪や穢(けがれ)を祓った神事」ともいい、水滌(みずそそ)ぎあるいは身清(みすす)ぎの意、とも、身削(みそ)ぎの意とも云われます。記紀神話に始まり、万葉集や和歌集に繰り返し登場するそうですが、中世以降は水垢離(みずごり)として修行の一つとなり、手水(てみず:ちょうず)はその簡略形となりました。お参りするときには、これを欠かしてはいけないのですね。

そろそろ月遅れのお盆。子供の頃、ご近所の方が、家の前の土手に、芋がらの迎え火を焚いたり、ナスやキュウリの馬などをお供えしていたのを、懐かしく思い出します。

【学名】Lythrum anceps (Koehne) Makino
【属名】lytron(血)。Dioscorides によって L.Salicariaに対して付けられた名。この種の花が血のように紅いため。ミソハギ科
【種小名】anceps 二稜形の,茎に両翼のある
*Koehneは残念ながらどんな人かは分かりませんでした。ご存じの方、教えてください。
(その後、カリンを調べたとき、判明しておりましたが、訂正し忘れておりました。)
命名者】Bernhard Adalbert Emil Koehne (1848-1918) *内海さんからもご指摘いただきました。ありがとうございました。「ベルリン生まれのドイツ人の植物学者で教師」だそうです。2008.4.29
(日本大百科全書:小学館やインターネットの検索結果を参考にしました。) 目次へ
ミソハギ

第四十八話 オシロイバナ

夕暮れ時に、オシロイバナの甘く、良い香りが匂ってきます。花の色は、赤、白、ピンク、黄、絞り模様と様々ありますが、花と見えるのは実は萼で、萼に見えるのは総苞だそうです。熱帯アメリカの原産で、日本へは元禄時代に伝わりました。

真っ黒くなった種子を割ると、白い胚乳がオシロイの様で、鼻に塗って遊んだ子供の頃を思い出します。事実、オシロイ(白粉)の代用として使われたそうです。根や葉に薬効があり、なかなか有用な植物です。

昼は萎んで、夕方から咲き始めることから、「夕化粧」の別名があり、英名もfour-o'clock。花の構造は長いロート状で、スズメガの仲間でないと蜜を吸えませんし、夕方から夜に咲き良い香りがするのは、受粉を蛾に頼っていると思われますが、実は、ほとんどの花は自家受粉で結実します。

ところで、白粉はいつからあるのでしょうか?外国では5000年以上前からといわれ、顔を白く塗るようになったのは古代ギリシャからで、貝殻の粉で作った胡粉(ごふん)やチョーク(白亜土)が使われたそうです。時代により様々な材料が使われましたが、有害な水銀や鉛を原料としたものも長く使われ、歌舞伎役者の鉛中毒は職業病とまでいわれました。

昔も、真珠の粉、アラバスター、豚の骨、デンプンなど安全なものもあったようです。我が国でも、平安時代の公家の女性や、武家社会になれば、男女ともに「白塗り」するようになりました。

江戸時代では遊女の厚化粧に、歌舞伎役者の化粧にと使われ、上方は艶やかな厚化粧、江戸は清楚な薄化粧というような文化も育ったといいます。オシロイバナでやったような、鼻を高く見せる「鼻オシロイ」は、江戸末期の歌舞伎役者の扮装を真似するようになってからとのこと。

昭和9年に、鉛の白粉は禁止となり、現在では、安全な亜鉛華、タルク、マグネシウム、二酸化チタンなど、百種ほどが材料に使われているそうで、お洒落のために身体を犠牲にすることはなくなりました。めでたし、めでたし。

先日、熱海のMOA美術館に行く機会があり、9月24日まで、「美しさへの挑戦」と題して、女性の化粧道具・髪型・装身具などの、300年間の移り変わりを展示しておりました。江戸時代の高い身分の女性達が使っていた金蒔絵の化粧道具の豪華さ。また刷毛などは今のものとちっとも変わらないのにはびっくり。女性の美しさへの追求に頭が下がりました。

【学名】Mirabilis jalapa L.
【属名】ラテン語の不思議な,素敵なの語から出たもの。最初は別の植物に,後にオシロイバナに当てられた。オシロイバナ科
【種小名】ヤラッパ(メキシコの町の名から) 目次へ
オシロイバナ

第四十九話 スズメノカタビラ

あまりにありふれた草なので、きっと日本全土に生えているのだろうなと思ったら、全世界に分布するそうです。和名のスズメは小さいもののことで、大きくなっても30cm、普通は10cmほどしか背丈が延びないため。カタビラは帷子のことで、葉が柔らかくて薄いため、単衣(ひとえ)を思わせることによるといいます。

なぜか、この「帷子:かたびら」という言葉に惹かれるものがあって、一度聞いたら忘れられない名でした。それは何故だろうかと考えてみると、きっと「経帷子」とか「鎖帷子」という語が連想されるからかと思いました。経帷子は死装束の白い木綿の着物で、経文を記し、たとえ地獄に落ちても、浄土に生まれ変われるようにとの願いを込めて、死者と縁のある女性数名が、引っ張り合って同時に縫うなどし、糸尻を止めない、という作法があるといいます。(日本大百科全書:小学館)
一方、鎖帷子は、甲冑の下(時に上)に着る胴衣で、鎖を縫いつけた防具です。鎧の隙間からの攻撃に備えるものですが、同様のものが西洋でも着用され、中世の騎士物語などの映画に登場したのを覚えています。そういえば、映画「コマンドー」でシュワちゃんの敵役も身に着けていましたね。

帷子は、公家の場合は、布製の単(ひとえ)仕立ての下着ですが、近世以降では布製の単物の着物のことで、夏の季語です。浴衣は湯帷子のことで、古くは沐浴(もくよく)に麻衣を着用したことの名残だそうで、のちに浴後の汗取りとして用いるようになり、室町・江戸期に掛けて盆踊りが行われるようになると、民間で着用されるようになったそうです。藍染めの浴衣は風情がありますね。ススキのかんざしして、熱燗とっくりの首つまんで、にっこり・・・なんて。

先日、サイクリング・クラブのツーリングでは、途中、帷子川に沿って走りましたが、このカタビラは、片方が山で、片方が田畑であったためにその一帯が「かたひら」と呼ばれていたからという説があるそうで、浴衣とは関係がなさそうです。

「赤い鳥」の大ヒット曲、竹田の子守歌にも、かたびらが登場します。

♪守もいやがる盆から先にゃ 雪もちらつくし子も泣くし
 盆が来たとて何うれしかろ かたびらはなし帯はなし♪

放送自粛など色々ありましたが、貧しい子守の悲哀が胸を打ちます。
花を咲かせていたスズメノカタビラから、様々なことを連想した次第です。

学名 Poa annua L.
Poa 草又は牧草マグサのギリシャ古代名 paein に基づく。イネ科
annua 一年生の

*牧野植物図鑑やインターネットでの検索を参考にしました。 目次へ
スズメノカタビラ

第五十話 野菊

ミヤコワスレによく似たカントウヨメナの薄紫色の花びらは、とても美しいですね。
コーラス部だった小学校時代に良く歌った唱歌に登場する野菊も、このカントウヨメナのことかと思います。

野菊(文部省唱歌)
作詞:石森延男
作曲:下総皖一

1 遠い山から 吹いて来る
  こ寒い風に ゆれながら
  けだかく 清く におう花
  きれいな野菊 うすむらさきよ
2 秋の日ざしを 浴びてとぶ
  とんぼを軽(かろ)く 休ませて
  しずかに咲いた 野辺の花
  やさしい野菊 うすむらさきよ
<以下省略>(http://www.e-sakura.net/song/)

伊藤左千夫の『野菊の墓』を映画化した、木下恵介監督の「野菊の如き君なりき:1955年」がTVで放映されたのはいつのことだったか。民子が最後まで握りしめていた政夫の手紙、政夫が民子の墓に供えた野菊に涙した覚えがあります。舞台は千葉県矢切なので、この野菊はカントウヨメナと思われるそうです。

カントウヨメナによく似たノコンギクも大変野趣がありながら、可憐です。カントウヨメナは葉にざらつきが無く、筒状花を分けてみても冠毛が見えません。これはヨメナ属。ノコンギクは葉にざらつきがあり、冠毛が長い。これはシオン属。

その昔、ヨメナと思って摘んだ葉を茹でて食したところ、苦くてちっとも美味しくなかったのは、ノコンギクだったのかもしれないなぁ、と今更ながら思います。ヨメナは万葉集に「ウハギ」として登場し、若菜摘みの草として、昔からよく知られていたそうです。いつか「嫁菜飯」をと思っていましたが、カントウヨメナは見つけるのすらたいへんになり、夢に終わりそうです。 では、良いお年をお迎えください。

【学名】Aster yomena Honda var. dentatus Hara
【属名】Aster asterは星の意。頭状花が放射状をなすことから。キク科
【種小名】Yomena ヨメナ(日本名)
Honda:本田正次(1897-1984)/植物分類学者
【亜種名】dentatus 歯のある,鋭鋸歯の,歯状の
Hara 原 摂祐 (はらかんすけ;1885-1962) あるいは、
Hara原 松次(1917-1995)/植物研究家・文化女子大学室蘭短期大学教授か。
*日本大百科全書:小学館、野に咲く花:山と渓谷社などを参考にしました。 目次へ

kantouyomena nokongiku
左:カントウヨメナ、右:ノコンギク 
第五十一話 タケ

タケは草本でしょうか木本でしょうか?
wikipedia(インターネット百科事典)によれば、

「単子葉植物には、普通の意味での木本はなく、いずれも特殊な構造をしている。ヤシ科、タコノキ科などは木本である。イネ科のタケは木本・草本どちらとも取れる」とあります。また、「タケは、茎は太くならず、形成層もないが、木質化するので木本と考える場合がある。」のだそうで、どっちつかず。どちらの性質も備えているようです。

では、ササとタケの違いは?
いくつかありますが、見た目では、竹の皮がタケ類は生育後落下するが、ササ類は生育後も付いたままなので、区別できます。

第二自主探で、雨上がりや足下の悪いときに歩く「極楽コース」の、銭洗い弁天へ向かう裏道の階段手前に、シホウチクを見ることができます。中国原産ではありますが、茎が鈍四稜形、つまり角の丸い四角なので、奇妙です。この様なタケは他にないようです。

羅宇屋(ラオ屋)をご存じでしょうか?煙管(キセル)のヤニ掃除や、軸になるラオ竹のすげ替えをする商売で、「ピーィー・・」と良く通る笛を蒸気で鳴らしていく屋台でした。私が子供の頃にはまだありました。山形の母方の叔父や叔母はキセルの愛用者でしたので、このことを聞かされていました。叔父や叔母が吸っていた刻みタバコの「桔梗:キキョウ」は今はもうなくなってしまったようです。

タケで思い出すのは、エジソンの炭素電球です。エジソンはフィラメントの材料に、最初は木綿糸にススを塗って蒸し焼きにしたものを使っていたそうですが、大変寿命が短い。ある日、机の上にあった扇子のタケを使ってみたら、200時間も切れずに光ったので、早速世界中からタケを集めたそうです。財力も相当なもので、7000種ものサンプルを集めたそうです。とりわけ、京都石清水八幡宮の竹を炭化したものが2400時間以上もの寿命となり、やっとこのタケで電球を実用化したそうです。これがGE社のもとになりました。同時期に東芝も電球のフィラメント材料を探していたそうで、「灯台もと暗し」と大変悔しがったそうです。

今でも、京都府八幡市・石清水八幡宮には、エジソンを記念した碑があるそうで、そこには、こう書かれているそうです。

Genius is one percent inspiration
and ninety-nine percent perspiration.
Thomas Alva Edison

エジソンの有名な言葉ですが、英語ではちゃんと韻を踏んでいることを知りました。

タケはいくら切っても資源枯渇ということはなく、もっと利用されてよい植物です。また、竹皮は、昔はお肉やおにぎりを包むものでした。様々な素材として、タケはもっと利用されてよいものの一つではないでしょうか。門松の青竹を見て、そんなことを思いました。今年もどうぞよろしく。 目次へ

第五十二話 オリーブ

オリーブは小アジア(トルコのアジア側半島)が原産で、地中海沿岸へと伝わりました。日本へは安土桃山時代にキリスト教伝来と共にもたらされました。明治末期に栽培を行ったところ、小豆島だけが成功したそうで、小豆島のある香川県の県花、県木です。

高さは10mにもなり、寿命の長いものは千年を越えます。葉は長楕円形で対生し、いわゆるオリーブ色が美しい。自主探の観察ポイントにしている、畑前のお宅の玄関先に植えてあるのを、お気づきの方も多いと思います。

果肉に多量の油を含有し、多いもので60%にもなります。塩漬けしたものは、マティーニには欠かせません。オリーブ油は、昔は薬局で買って、海水浴の時に身体に塗るものでした。しばらくして「コパトーン」に取って代わられたものの、なんだか懐かしい気がします。

今ではどこのスーパーに行っても、上等な食用オリーブ油が手に入ります。なかでも最上級品といわれるものを試食(試飲)したことがありました。今まで味わったことのないフルーティーな香りがしましたが、贅沢すぎて、残念ながらとても手が出ませんでした。

最近、比較的安価なトスカーナ産のものを、薄く塩をした白身魚の薄切りに掛けて食すことをおぼえました。なかなかおつなものですよ。

タバコ「ピース」の図柄で有名なオリーブの小枝をくわえたハトは、平和のしるし。このハトは、ノアが方舟から放って、洪水が引いたことを確かめたという旧約聖書の逸話に基づいています。世界中のどこにでも、オリーブの葉をくわえたハトの羽ばたく日が早く来て欲しいものです。

【学名】Olea europaea L.
【属名】油質の、モクセイ科、オリーブ属
【種小名】ヨーロッパの
命名はカール・フォン・リンネ。 目次へ 
マティーニ オリーブ

第五十三話 ミモザ

2月から3月にかけて、ミモザの花が見られます。我が家にはないので、川向こうのお宅の庭にある見事なミモザを楽しませていただいています。この原稿を書いている2月半ばには、もうすっかり鮮やかな黄色に彩られています。

本来、ミモザはマメ科オジギソウ属の属名ですが、葉や花が似ていることから、フランスから輸入されたフサアカシアの切り花を、イギリスでmimosaと誤って呼んだものが定着してしまったそうです。今でのこの誤用の方が一般的になってしまい、フランスでもそう呼ぶようです。

もう8年も前になりますが、3月初めにイタリア旅行した折り、ローマの花屋さんに、ミモザを中心とした、あるいはミモザ単独の小さな花束が沢山置いてありました。ツァー・コンダクタに聞くと、なんでも男性から女性へ、感謝を込めてミモザの花束を贈る習慣があるとのこと。このミモザはギンヨウアカシア(ハナアカシア)といい、オーストラリア原産です。

La Festa Della Donna(ドンナの日:女性の日)といい、3月8日がこの日ですが「国際婦人デー」でもあります。この日にミモザを贈るいわれの一つとして、こんなお話が。・・・1908年のこの日、ニューヨークの紡績工場の女性労働者が、労働環境改善を訴えて工場へ立てこもったそうです。故意か偶然か、封鎖された工場から火の手が上がり、閉じこめられた129人の女性が亡くなったということで、これを悼んでの行事という誠に悲傷な話もあるそうです。なぜこの日にミモザなのか、というのは分かりませんでした。

ミモザ・サラダは良くお目にかかりますね。カクテル好きの方なら、シャンパンやスパークリング・ワインと、オレンジ・ジュースで作るそれをご存じかも知れません。

これがお手元に届く頃には、ミモザの日は過ぎてしまっていますが、ローマで家内に「ミモザ、贈ろうか?」と聞いたら、「枯れてしまって持って帰れないからいらない」と断られてしまいました。こういうものは、黙って渡さないとダメなんですね。反省。

ギンヨウアカシア
【学名】Acacia baileyana F. v. Muell.
【属名】Acacia 本属中のエジプト種に対する古いギリシャ名。
【種小名】Baileyana 園芸家L.H.ベイレーの
 Muell. スイスの分類学者J.ミューラーか(複数の同名者あり) 目次へ
ミモザ
 ミモザ(ギンヨウアカシア)横須賀市長沢

第五十四話 阿蘭陀辛子

フランスではクレソン:cresson、英国ではウォータークレス:watercressといいます。アブラナ科の多年草で、ヨーロッパ原産です。明治の始めに渡来し、茎の一部だけでも増えるので、軽井沢の外国人用に栽培されたものが、今や日本全土に帰化し、湿地や水辺に自生するようになりました。オランダミズガラシともいいます。

そのままサラダにしたり、ビーフ・ステーキの付け合わせには欠かせません。爽やかな辛みがあり、脂気の多いものにはぴったりです。若い頃に旅した長崎で、側溝に自生しているのを見つけ、「あら、こんなところにも生えるんだ」と驚き、さすが、オランダ商館のあった長崎だなぁと思っていたのですが、その後、気を付けて見ると、横須賀の水路にも沢山生えていることがわかり、がっかりしました。

自主探で必ず通る「佐助川」の石垣には良く似たタネツケバナが見られます。クレソンよりも辛みがあるようですが、葉が大きなものは、クレソンの代用になりそうです。

作曲家、團伊玖磨(1924-2001)のエッセイ「パイプのけむり」に、こんな話がありました。本は昔処分してしまって手元にないので、かなりうろ覚えですが。(続パイプのけむり「阿蘭陀芥子」から)
若い頃、逗留していたロンドンの宿で、しばしば食卓に上るクレソンが大変気に入り、さぞ清らかな流れのある水辺から採ってきたものだろうと思っていた。それにしても、都会であるロンドンの、どこからこんな美味しいものを摘んでくるのかと訝しく思い、宿の女主人に問うと、「お前はこんなものが好きなのか。ではどこで採ってくるか教えてやろう」と連れていかれた先は、家のすぐ近くの、下水が流れ込むどぶ川のようなところだった。道理で時々、髪の毛などが絡まっていたわけだと納得し、それ以来、宿で食すことはなかったということです。

【学名】
Nasturtium officinale
N. nasturtium-aquaticum
N. aquaticum
Rorippa nasturtium-aquaticum(別属Rorippa に含める場合)
と学名は様々あるようです。(Wikipediaによる)
代表的なものとして、
【属名】Nasturtium:nasus(鼻)+tortus(ねじる,ひねる)。植物体に刺激性の辛味のある性質を示したもの。アブラナ科
【種小名】officinale:薬用の,薬効のある なお、aquaticumは、水生の
*日本大百科全書、牧野植物図鑑、野に咲く花:山と渓谷社、インターネットでの検索結果を参考にしました。 目次へ
クレソン

第五十五話 ハンショウヅル

ハンショウヅルの、可愛らしい赤紫色の釣鐘が、木陰に揺れる季節になりました。
半鐘蔓と書き、花の形が半鐘に似ていることによります。キンポウゲ科の蔓植物(藤本:とうほん)で、葉は対生しています。小葉が三枚あるので、一回三出複葉という、と図鑑にはありますが、なかなか憶えられません。
センニンソウ属で、センニンソウ、ボタンヅル、カザグルマ、中国原産のテッセンなどが仲間です。園芸種のクレマティスも同じ仲間で、カザグルマやテッセンがその原種になっています。

つやつやと輝くきれいな赤紫色の花がちょうど今頃(5月)に咲きますが、花弁と見えるのは萼で、花弁はありません。

花が上向きに咲くセンニンソウ、ボタンヅルと、下向きに咲くハンショウヅル、カザグルマがあり、同じ仲間には見えませんが、葉の形や付き方で、同属となるのだそうです。

ハンショウヅルには、近畿以西、四国、九州に分布するタカネハンショウヅル、関東以西、四国、九州のシロバナハンショウヅル、本州、四国のトリガタハンショウヅル、本州に分布するクサボタンなどがあるそうです。近所の水辺公園には、三浦半島に多いとされるシロバナハンショウヅルがあるのですが、ニリンソウと同時期に開花するとのことで、もう咲き終わってしまい、今年は見ることができませんでした。残念。

最近の金属価格の高騰で、火の見櫓の半鐘が盗まれる、というとんでもないことが起こっていますが、こちらのハンショウは蔓植物でしっかりと絡んでいるため、盗掘はされにくいので安心です。
【学名】Clematis japonica Thunb.
【属名】Dioscorides が付けた,長い柔らかい枝を持ったよじ登り植物の名で,clem(若枝)の縮小形。センニンソウ属
(牧野植物図鑑、日本大百科全書:小学館、山に咲く花:山と渓谷社、神奈川県植物誌2001、などを参考にしました) 目次へ
ハンショウヅル
ハンショウヅル(鎌倉市浄明寺)
第五十六話 エゴノキ

足下に落ちた白い花で開花を知ることが多いのですが、そんな季節になりました。
えぐい、えごい、が語源のエゴノキは、秋に成った実の果皮に有毒なエゴサポニンがあるためです。昔はこれを沢山袋に詰めて、川の上流でもみほぐすと、下流に魚が浮き上がる、という漁法があったそうですが、今こんなことをすればお縄を頂戴することになります。

エゴサポニンのサポニンは、昔は石鹸の代わりになりました。他に石鹸の代わりになるものは、乾燥したサイカチの実の鞘を水に漬けたものや煮出したもので、布や髪を洗ったそうです。サポニンは様々に植物に存在するので、外国でも同じように使ったそうです。今でもサイカチの実の鞘を束ねたものを売っているところがある、というのをTVで放映したことを憶えています。草木染めの布を洗うのには、これが良いそうです。

サポニン、ソープ(soap)の語源は、古代ローマでいけにえの羊を焼いたサポー(Sapo)の丘に由来するそうで、したたり落ちた脂が木灰と混ざり、石鹸の様なものが生じ、これが溜まりに溜まって地にしみ込んだものが河へと流れ、その河で洗濯をすると良く落ちことによるということです。シャボンの方は、石鹸が盛んに作られた8世紀のイタリア、サボナ(Savona)に由来すると言われています。

ヤマガラはこの硬い殻を割って、脂肪分に富んだ種子をよく食べます。両足に挟んで「コンコン・・」と殻を叩く様は誠に愛らしい。三宅島の噴火の後、源氏山で見かけたオーストンヤマガラ(に間違いないと思われる個体)も、エゴの実を食べていたようでした。

夏になると、奇妙な形をしたエゴノネコアシという虫こぶを見ることがあります。巧い命名だと思います。中を割ってみるとエゴノネコアシアブラムシがいるそうですが、割ってみたことはありません。いつか機会があれば・・

以前、明治神宮の探鳥会に参加した折、小泉リーダーから「えごいと言われていますが、エゴノキの実の果皮をちょっと囓ったくらいでは、そんなに苦くはないですよ」とおっしゃるので試してみましたが、確かに「死ぬほど苦い」ということはありませんでした。とはいえ、よい子は真似をしないように。

エゴノキ
Styrax japonica Sieb. et Zucc.
【属名】storax(安息香)を産出する樹木の古代ギリシャ名。エゴノキ科
【種小名】日本の
【命名者】シーボルトとツッカリーニ

*日本大百科全書:小学館、牧野植物図鑑、インターネットでの検索などを参考にしました。 目次へ
エゴノキ
エゴノキ(葉山町下山口)
第五十六話 ネジバナ

芝生にネジバナが咲き始めました。その名の如く、花は捻れて付きますが、上から見ると、右巻きだったり、左巻きだったり、ほとんど捻れず真っ直ぐだったりと、色々です。個性がある、とでもいうのでしょうか。

別名は「モジズリ:捩摺」。伊勢物語の「みちのくのしのぶもぢずりたれゆゑに乱れそめにしわれならなくに」の忍捩摺(しのぶもじずり)にちなむ、ということだそうですが、あいにく無教養で、原典を当たったことはありません。

しのぶずり、という染め物があるということですが、「昔、陸奥国信夫(しのぶ)郡から産出した忍草の茎・葉などの色素で捩(もじ)れたように文様を布帛に摺りつけたもの。」とありますが、捻れ模様のある石の上に布を置いて、色素を刷り込んだということです。これは県庁からもほど近い、福島市山口の文知摺観音に保存されている石がそれ、と言われているそうです。

無教養ついでに調べてみると、百人一首の河原左大臣の歌がそれで、「陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、誰のせいで乱れ始めてしまったのだろうか、わたしのせいではないのに」という意味になるということです。そうか、恋の歌か・・・

ルーペで見てみると、淡いピンクの花は小さいけれどもカトレアのよう。ルーペをお持ちの方、ぜひ拡大して観察して見てください。写真は携帯のカメラで撮ったものですが、レンズの前に、時計修理用のレンズを置いて、ズームでケラれを除いて撮影しました。ルーペを上手く使うと、きれいに撮れます。それにしても、なかなか美しいですね。自画自賛・・・

【学】Spiranthes sinensis (Pers.) Ames var. amoena (M. Bieb.) Hara
【属名】Spiranthes speira(螺旋)+anthos(花)。花穂が捩れるので花が螺旋状に着くため。ラン科
【種小名】sinensis 支那の 命名者などは省略。 目次へ
ネジバナ
 ネジバナ(横須賀市光の丘)

第五十八話 セリ

鍋物の季節にはもってこいの食材ですが、今は花の時期。純白の(あるいはうす桃色の)小さな花の塊が何個か集まって咲きます。調べてみると「複散形花序」と言うのだそうですが、いつまで憶えていられるか、最近、記憶力が・・・

春の七草として有名ですが、欧州などにはなく、東洋のもののようです。遙か古代から野菜として重要だったのですが、現在では栽培が盛んで、特に水田で栽培されるものは、生長と共に水位を上げて茎を長く伸ばして、柔らかく育てるのだそうです。

ん十年前に、横須賀に転勤になってから、野草というものを憶え、セリの味も覚えました。春先、ロゼット状に広がった田ゼリの強い香りもなかなか良いものですが、枯れ草の中にひょろひょろと伸びた柔らかいものが、自分の好みでした。しかし、これは採取がやっかいで、採ったものは大切に頂きました。

茹でたものは、ごま油(ラー油もよし)を少しまぶして、お醤油をたらして食するのが楽しみでした。また、根も少しばかり戴いてきて、甘辛く炒め煮したものも、酒のつまみに最適・・・最近はもっぱら栽培ものをお店で買うばかりですが。

セリ科の植物は、食用、薬用やスパイスとしても有名なものが多くあります。和物ではウド、アシタバ、ミツバ、ウイキョウ、ハマボウフウなどが利用され、外国ものでは、ニンジン、セロリ、パセリ、キャラウェイ、コリアンダー、ディル、フェンネル、アニスなど。なお、ウイキョウとフェンネルは同一です。

セリは独特の香りがしますが、嫌いな方はあまりおられないでしょう。同じセリ科でもコリアンダーについては意見が分かれます。乾燥した果実は爽やかな香りがしますが、葉は「パクチー」「香菜:シャンツァイ」と呼ばれて、未熟な果実も同様に、非常に独特な香りです。タイやヴェトナム、時にはインド料理にも沢山使われるようです。

その香りの由来は、コリアンダーの学名からも分かります。
Coriandrum sativum L.
属名の語源は coris(南京虫)+annon(アニスの実)(sativumは栽培された)
幼少の頃、南京虫は見たことがありますが、においまでは知りませんでした。南京虫はカメムシの仲間ですから、においが近いのでしょう、生のコリアンダーの香りを「カメムシのにおい」と思った瞬間に、もう受け付けない方が多いようです。ちなみに私は全く大丈夫で、パクチーなしのフォーなど考えられません。あなたはいかがですか?

セリ
【学名】Oenanthe stolonifera DC.
【属名】Oenanthe oinos(酒)+anthos(花)か,又は古いラテン語の植物名。セリ科
【種小名】stolonifer,-fera,-ferum 匍枝を持った
 【命名者】DC. = A.P. de Candolle
 *牧野植物図鑑、日本大百科全書:小学館を参考にしました。 目次へ
セリ
 セリの花(横須賀市光の丘)

第五十九話 砂漠のバラ・石の花

今回は植物の花ではなく、鉱物の花のお話し。
写真の「砂漠のバラ」と呼ばれているものは、硫酸カルシウム(石膏)や硫酸バリウム(重晶石)が結晶になるときに、砂漠の砂を取り込んで出来たものです。どんなメカニズムで、この様な見事な花びら状になるのかは未解明だそうですが、置物としての人気もあり、メキシコやサハラ砂漠で産するものが市販されています。

結晶化するときには水が関与していて、全く水に縁のない場所からは産出しないそうです。つまり、これを産出する場所は、砂漠とはいえ、かつてそこに水があったことを示しています。雷が砂漠に落ちて出来ると聞いたことがありましたが、それは「雷管石」と呼ばれるもので、「砂漠のバラ」の様な美しい形にはなりません。

一方、旧ソ連の作家、バショーフの小説「孔雀石の小箱」の一編に、「石の花」があります。本物の花よりも美しい花を彫り上げたいと願った石工が、様々な困難に打ち勝って、ついに壮麗な石の花を彫り上げる、というウラル地方の民話に基づいたお話だそうです。プロコフィエフ作曲のバレエも有名ですね。

また、CARONの香水「Fleurs de Rocaille:フルール・ド・ロカイユ」も「石の花」です。フローラルな香りがとても素敵。昔、好きになった女の子に、一番小さい瓶のそれを贈ったことがありました。まだ高校生だった彼女には、ちょっと早かったかも。今はどうしていることか。私のことなど、とうに忘れてしまっていることでしょう・・(涙)

ウフィッツィ美術館の廊下(もしかしたらピッティ宮殿だったかも)に展示してあったテーブルの上面は、一面に様々な花のモザイク様の象眼が施されていました。花びらの微妙なグラデーションも、天然大理石のもつ色彩と模様を巧みに、しかも隙間なく切り出したもので、あまりの見事さに、しばし家内と見とれていたことを思い出します。これも「石の花」の一つでしょうね。 目次へ
砂漠のバラ
 砂漠のバラと「石の花」のオー・デ・コロン

第六十話 栗

秋は栗の季節。台風の後に落ちた実を拾いに行ったことがありましたが、地上に落ちた実は虫との競争。一日でも遅れると穴が空いていました。穴を空けるのはクリミガ、クリゾウムシだそうです。武山をジョギングしていて見つけた、シバグリでしょうか、とても小さな、でも実がしっかりと入った野生のクリを拾って帰り、茹でて食べたことがありました。意外に甘くて、とても美味しかったのを思い出します。

クリは英語ではchestnutといい、温帯の広い範囲に分布していて、アフリカやアメリカにもあります。古代から木材・タンニンの利用があり、食材としての果実は栄養価が高く、200種以上の品種が生み出されています。

青森市の三内丸山遺跡からは、直径1mを越えるクリの巨木を使ったと見られる遺構が見つかり、縄文時代からクリの木を利用していたことがうかがえます。

長野県の小布施は栗の産地として有名で、竹風堂の栗おこわ(栗強飯)は、なかなか結構でした。また、栗を使った沢山の菓子類があり、栗落雁でお抹茶もたいへんよろしいようで。

欧州では、マロン・グラッセが有名ですが、焼いただけの「焼き栗」が好きです。3月のローマの街頭で、アラブ人の売り子から買った「マローネ」は、ほくほくとして、また割れた皮は簡単に剥がれて、とても食べやすい。手渡された袋は二枚重ねになっていて、一方は焼き栗が、もう一方には皮を入れるように分かれているので、歩きながらパクつくにはとても便利。あまりに美味しいのであっという間にほとんど食べてしまい、家内にこっぴどく叱られました。食べ物の恨みは・・・

【学名】Castanea クリ属 ギリシャ語の castana(栗)から来た古代ラテン名。ブナ科 目次へ
クリ
 会社のビオトープに実ったクリ