脳炎後遺症による認知障害のある児童の指導
K君への肯定的メッセージを柱とした関わり
小川 征利
0 はじめに
- K君は5才5ヶ月の時急性脳炎に罹り、後に認知障害が生じてしまった児童です。養護学校に入学してきた当時は、母親とその他の女性とを区別することも出来ないでいました。迎えにきた他の児童の母親の手を引いて車に乗ろうとすることが度々でした。また、「何か」を探してうろつき回り、はじめに思っていた「何か」を忘れて、目についた別の「何か」を手にして、後になってこれは違うと気がついて投げていました。また、いつも衝動的に走り回ったりしていました。
- 彼の遊びに加わり共感的な世界を作ろうと善意で近づく教師を猛烈に拒否し、持っていたおもちゃを投げつけて壊し、不快感を周囲の子どもを叩いたり突き飛ばしたりするやり方で表現していました。
- ブロック遊びが得意で集中して取り組み、周囲にいる大人に「ミーミー」と言って見せて歩いていました。
- その当時私は違う学年の担任をしていましたが、K君の存在がとても気になっていました。というのは、K君の様子から自分の意思ではコントロールできない苛立ちと、自分を分かってくれない周囲への悲しみと、以前のようにはうまく出来ない焦りのようなものを感じたからです。
- 昨年「乱暴で、衝動的で、指導の難しい子」とレッテルを貼られたK君を希望通り?担任することになりました。いろいろと試行錯誤と言うよりは格闘しながらようやくたどり着いた足取りを紹介し、みなさんからいろいろな御指導を受けたいと思います。
1 K君について
(1)プロフィール
・生年月日:平成3年6月20日
・家族構成:父・母・祖父・祖母・本人の 5人家族(父は会社員、母は専業主婦、
祖父母は農業 を営んでいる)
・生 育 歴:満期産で混合栄養。発育は良好。首のすわりは3ヶ月頃。歩き始めは1才頃。知恵付 きは早いように思われ
た。
(2)疾病について
- 5才までは特に問題なく健常に育った。5才5ヶ月になる平成8年12月に風邪から脳炎を発症。けいれん発作を起こした事をきっかけに緊急入院。入院後呼吸停止及び昏睡状態となる。CTの所見から脳炎が認められる。15日間昏睡状態が続き自発呼吸も見られなかったが、酸素濃度を上げたところ自発呼吸を始め、昏睡状態から回復。
- 目覚めた直後数日は2語文を話し、指示や質問への理解を示した。次第に話さなくなり、言葉の理解も悪くなった。同時に院内を走り回り多動の状況を示す。
- 平成9年3月に退院するが、衝動性や多動性、注意欠陥の状況がひどく、てんかん発作も収まらず、投薬による治療を行い現在も続いている。
- 現在の診断は「急性広汎性脳炎の後遺症による認知機能などの障害」とされ、衝動性、多動性、図形認知や空間認知、相貌認知などの障害が見られる。
(3)諸検査について
入学時のS−M社会生活能力検査の結果は次の通りである。
・SH(身辺自立):2−8
・L (移 動):2−4
・0 (作 業):2−4
・C (意志交換):3−3
・S (集団参加):2−2・SD(自己統制):2−2
・SA(社会生活年齢):2−4
(4)行動の観察から(2年生時)
〔基本的生活習慣(身辺自立等)〕
・普通の服の着脱ができる。(時間はかかる
がジャンパーのファスナーをかけることがで
きる。)
・箸を使い、茶碗を持って食事をする。いわ
ゆる三角食べはせず、一品ずつ食べる。
・便意をもよおしたら自発的にトイレに行く。
大便の後ペーパーを使って拭くが、ペーパ ーを長く引き出し、畳まずに拭く。
・脱いだものや使ったものを出しっぱな し。片づけを促すと抵抗することが多い。
〔運 動 (粗大・微細) 〕
・動きはぎこちないが、歩く、走る、跳 ぶ、投げる、受ける、蹴る、転がる等と
いった基本の運動ができる。
・ハサミを用いて、紙を切り離すことが できる。
・レゴブロックを使って、車などの簡単 な形を組み上げることができる。
・新しい動きやルールのある動きなど、 理解を伴う運動は苦手である。
〔社会性(コミュニケーション)〕
・音声による指示などの意味を理解すること
が難しい。具体物を手掛かりとしながら理 解を促すと理解することが多い。
・「ミーミー(見て見て)」「コレコレ」「ド
コドコ」「ヂーヂー(違う、違う)」「ボ クボク」「カカー(お母さん)」「アイア
イ」などの音声がある。コミュニケーシ ョンに使われないこともあるが、概ね何
か意図していることが多い。
・伝えようという意図は強い。また、言 葉を思い出そうと考え込むような様子が
見られる。
〔興 味・関 心〕
・道具などに関心を示し、手にしたがる。
・ブロックやパズル、動きのあるおもち ゃなどに興味をもちやすい。
〔その他(行動特徴等)〕
・「ひとや行動(行為)」に対するより、「もの」
に対する関心の方が強い。
・基本的に成人男性に対しては依存する傾 向が強く、成人女性に対しては支配的に関
わる傾向が強い。また、接近しすぎたり反 発して離れすぎたりする。
・衝動性が強く、何かしようと思い立ったら突
っ走る傾向がある。そのことが、周囲に「予
測できない行動」として映る。
・行動を規制したり、制止したりすることに対
して強い抵抗を示す。多くの場合は物を投 げ破損したり、そばにいる者をたたいたり
するような表現を取ることが多い。
・こちらの意図が理解できたときは、とても素
直に従う。
〔家庭生活〕
・ブロックやパズルなどを用いて室内で遊ぶ
ことが多い。その時期学校でやっている遊 びを家でもやる傾向がある。遊びに夢中に
なっているときはひとりでもかまわないが、
作品ができたりしたときに家族に見せて回 る。その時の反応が期待したとおりでない
と暴れることがある。
・突然祖父や母親などに飛びついて、抱き ついたり肩に乗ったりする。高い台の上か
ら飛びついたりすることもあり、受け止める
側が危険なこともある。受け止め方が不十 分であると苛立ち暴れることがある。
・平日は父親の帰宅が遅いことと本児の就 寝が早い(午後8時前後)こともあって父親
と接する機会は少ない。しかし、休日には 散歩に連れ出すなど育児に対して協力的
である。
・パニックになったときの対処が十分にでき
ないという理由で、公共の場にでることに 対し保護者は消極的である。
・周囲に人がいると興奮し衝動性が強くなる
傾向があるため、公園や遊園地、一般のプ ールなどの利用が難しい。
2指導の経過
(1)出会い(平成11年4月上旬〜中旬)
- 4月8日
- 玄関で旧クラスの児童を待っていると、玄関に走り込むなり後ろから飛びついてくる。担任発表の前だというのに予期しているよう。靴を脱ぎ捨てると教室へ走り込む。始業式の後、教室へ。教室ではブロックを見つけると早速遊び始める。ウレタンパズルも気に入った様子で夢中でやっていた。周囲に対して関心をはらう様子が感じられない。
- 4月9日
- 足の怪我の治療のため10時過ぎに登校。今日も機嫌がよい。
- 給食を食べ終わるとすぐに席を立とうとする。それを止めると途端にパニック。食堂で30分近く暴れて椅子を倒そうとしたり、人を叩いたりしようとするのを抱き留めて静まるのを待つ。”抵抗する”と言うより”攻撃する”と言う感じ。攻撃のチャンスを必死にねらっている。何度も攻撃して効き目が無いと思ったのか、少し力を抜き落ち着いたところで離す。すると女性教師の所へ飛びついて抱かれる。精神的なダメージを回復か?
- 集団と同じ活動には入れない。去年の様子から、この段階では期待していないが、せめて場の共有だけは、と思う。ほとんどの時間をひとりで好きなことをして過ごす。彼の世界に教師が入り込む余地がない。
- 4月12日
- 足のけがの治療のため、病院へ寄って10時過ぎに当校。8.9日と発作があった。先週は発作の前で少々ハイテンションだったとのこと。てんかん発作を起こす前には興奮気味になることが多いという。
- とにかく、何かを探し回り、見つけ、遊ぶ。周囲がどんな状況であるかは全く関係が無いように見える。止められると火がついたように怒る、そして攻撃する。邪魔者は倒す、というように。でなければ、いらいらを物や人にぶつける。物なら壊れるくらい、本人なりの手応えがあるまで何度もやる。今日も暴れるところを抱き留めて静まるのを待つ。イライラを物や人にぶつけない(攻撃しない)。そのためにまずは暴れるエネルギーを受け止めることからはじめる。
- 抱かれたときの感じで、わかって欲しい。自分の気持ちが落ち着き、力が抜けてくるにつれて、抱きしめられて拘束されている感じも弱くなってくる。それに伴って心がリラックスしてくる感じをつかんで欲しい。
- 4月13日
- 今日初めてみんなと同じ登校時間。教室へまっしぐらに走り込むと、早速パズルで遊び始める。他の児童は着替えを始めているが全く関心がない。自分の興味を持った物しか目に入らない。とにかく、欲求の赴くままに行動している。
- 身体測定は、病院慣れしている彼に対し、病院に見立てて対応をすることですんなりと受けることができた。ベッドに横になった彼の胸や背中を触診するまねをすると、体重計や身長計の方へ素直に移動していた。
- 身体測定後近くの神社へ遊びに行く。本人が次の遊びを始める前に外へ誘うことで素直に移動ができた。彼なりに集団を意識している姿なのか、教師の牽制する気持ちを察しているのか、付かず離れずの距離を保ちながら堤防の斜面を歩いている。砂利が埋まっているところを見つけ、掘り起こそうとしはじめる。こういう風に遊びが始まると、集団が今何をしているかなんて意識の中に全く無くなる。思ったことを自分なりに完結して、満足しないことには終われない。
- みんなに遅れて上笠神社に着く。遊べそう、と思うとそれまで抵抗していたのに自分から走っていく。滑り台には昨夜の雨が残り水たまりができていたが、気づかずに滑り降りていく。そのため、ズボンとパンツを濡らす。濡れた服は脱がずにはいられない。公園で裸になることはいけない、という規制は全く効かず、ただひたすら脱ごうとする。脱ごうとするのを制止すると制止した担任を攻撃し始める。脱ぎ掛けたズボンを無理矢理はかせて担ぎ上げて学校へ戻る。その間たたく、蹴る、かみつく、唾を吐くなど攻撃の手をゆるめない。そのうち力つきたのか、徐々に攻撃の手が弱まるのを感じる。手をつないで歩こうかと肩からおろすと用水に向かって石を投げる。それを止めると用水に飛び込もうとする。ありとあらゆる手で相手を自分に屈服させようという感じだ。途中車が走ってきてもよけようとしない。車の方に避けて通れと言わんばかり。
- どうにか教室へつれてきて、ズボンを脱がせると少し落ち着いて着替えることができる。着替えてさっぱりすると、ウレタンパズルを見つけて始める。しばらく教室で遊んだ後、1年生が給食にいくのを見て、給食の準備を始める。
- いろいろなことに対する予測のつきにくいことが彼の生活の難しさかもしれない。給食後は中学部の教室を順番に回って鍵を閉めて回り遊ぶ。
- 4月14日
- 自分の遊びを始めてしまうと、こちらがしてほしいと思っていることができないので、先手を打ってみる。遊び始める前に、上着をさっと脱がせ着替えを促す。意外に抵抗は少ない
- 着替えた後、朝の会の間は自分の遊びを続けている。友達が散歩に出かけ、全校集会に出かけても遊びを続けている。キリのいいところでないと活動は切り替わらない。体育館にいても場を共有していると言う感じも希薄で、そこだけが別世界のように見える。
- 給食はとにかく「いただきます」をするまでは何とか我慢をさせようと取り組んでいる。たかが数十秒の「待て」ができないことには自己をコントロールする力は育たない。
- 食器を片づけさせようとしたが抵抗し暴れる。外に連れ出し気分転換させる。月曜日と同様、寄宿舎前の滑り台に上り、上靴を自転車置き場の上に放りあげる。明らかにこちらを意識した行動。その後鶏をつかまえ憂さ晴らし?一旦教室の方へ戻ってきてからは、午後はずっとスクールバスの中で過ごす。何をして遊ぶと言うわけでもなくイスに座っている。帰りにもスクールバスに乗ろうとする。ちょうどお母さんが迎えにきたので車に乗せようとすると抵抗する。
- というような、強烈な出会いの1週間を過ごしました。周囲の生活の様子には目を向けず、自分のしたいことをして過ごす。それを少しでもじゃまするものがあれば、攻撃して排除する。そんな印象でした。何かを止められ叱られると、最後にはそばにいるやさしそうな人(多くの場合は女性)に抱きついてイライラを鎮める。その姿にはどこかしら叱られた自分を正当化しようとしているようにも見えました。
- 何かを始めようと動き出してしまったら止めようがないのですが、動き出す前に促すとうまくいくこともありました。例えばいつものブロック遊びを始めようとする前に、「着替えようね」と服をサッと脱がすと意外に抵抗なく着替えることができます。本人が何かを始めようとする前に「さあ、これしようね」という感じでした。でも、失敗も多く、例えば「いただきますの挨拶をしようね」と箸を持ち上げた彼の手を遮ろうとしたら、次の瞬間はおかずを入れた食器が空中を飛んでいるということが度々でした。
- また、パズルがうまくはまらなくて困っているように見えて「ほら、こっち向きにするとはまるよ」と手を伸ばしたとき、パンチの返答が返ってくるということも度々でした。そういうときは理由が想像できるのでいいのですが、これといって理由の見つからないときもありました。そして、止めようとすればするほどエスカレートしていきます。大きな声で強い口調で制止しても止まりませんでした。最後には物が壊れたり、人を傷つけたりするところまで行かないと止まらないのでは、と思わせるものがありました。
- そこで、とにかくそのイライラを全身で受け止めよう。物が壊れたり、人が傷ついたりしないように彼を抱き留めて嵐が過ぎるのを待とうと考えました。
- また、集団の中で場を共有したり活動を共にしたりすることは、彼がその気にならないと無理だと考えました。まずは、彼のしたいことを、したい時に、したい所でやる。それをそばで見守りながら、彼とつながるチャンスを待とうと思いました。
- そこで、次のような方針で関わっていくことにしました。
・どうしてもさせたいことがあるときには 遊びが途切れるのを待ち、タイミング良 く身振りと言葉掛けで行動を促す。
・一旦暴れ出したときには、抱き留めて静 まるのを待つ。
・穏やかなときは、時間割など関係なく彼 の好きなこと好きな所で過ごし、ラポー トを作る努力をする。
(2)格闘(平成11年4月中旬〜5月初旬)
- 4月16日
- 15日18:30にてんかん発作があったと連絡。学校でも14:20ごろ発作。そのせいか、1日中変に興奮気味でニコニコしているかと思うと些細なことで物を投げたり、走り出してそばにいる児童に体当たりしたりしていた。イライラして暴れているのを抱き留めているとだんだんと落ち着いてきて、そろそろいいかなと思っていたところにてんかん発作。
- 4月19日
- 18日の朝発作があったと連絡。今日は1日発作がなく穏やかに過ごした。もやもやしていた頭の中がすっきりしたようだ。午後、いつものように教室の隅でブロックをやっていたが、突然鏡の前で百面相を始める。目を大きく開いたり、眉間にしわを寄せたり。そのうち笑顔を作り始める。隣で同じようにすると鏡の中の顔に気づいたのかうれしそうな表情になった。
- 4月23日
- 今日は雨で外に出られないせいか、エネルギーを持て余しているようでイライラした感じの1日だった。この2,3日は鼻の穴に棒を突っ込んで鼻血が出るまでグリグリしたり、そこら中につばを吐いたりしている。得意のブロックやパズルをしようと誘うが、あまり気が乗らない。そのうち、叩いたり頭突きをしたりの攻撃が始まり、抱き留めてイライラが収まるのを待つ。
- 4月27日
- 教室をいきなり飛び出して走っていく。こういうときは言語訓練室に行くように誘導する。誰もいない時間だったら、いくつもあるおもちゃを次々と取りだして二人だけで過ごすことができる。二人だけで遊んでいるときは、危険な事や物を壊したりしない限り大目に見ながら過ごすことができる。規制する場面が少ないせいもあって落ち着いた時間を過ごすことができる。今日も皆と一緒に公園へは行けなかった。
- 4月28日
- 大変な遠足だった。いつものようにブロック遊びを始めて、皆が出かける頃合いと遊びが一区切りするタイミングを見計らって、外へ出かけるように誘導する。「何で外に行かないかんのや」みたいな感じだったが。リュックサックを見せて「みんなと遠足に行こう」と誘うと玄関に出てきて靴を履き替えた。玄関を出て校門の所まできたところで突然走り出す。リュックを投げ捨て田圃の中を突っ切って行こうとするのをどうにか捕まえて止める。
- 田圃の中で暴れて叩いてきたり、頭突きをしたり、服を脱いで裸になろうとしたりするのを抱き留めて収まるのを待つ。40分位して少し落ち着いたところで道路の所までつれてきて歩き出す。再び走り出して、職業訓練センターのフェンスをよじ登ろうとする。引きずり下ろすようにして止め、暴れるのを抱き留める。また30分。結局学校を半周して、校庭でお弁当となる。ここでも、自分の弁当箱を投げ捨てようとするのを止める。あぐらをかいた股の中に座らせて腕を押さえ、弁当箱の中を見せると、ようやく落ち着いて食事を始めた。
- 5月1日
- 全校集会だったが、やっぱり二人で過ごす。室内で好きな遊びをする。遠足の日の出来事
が嘘のように穏やかな1日だった。
- 二人きりの世界でまずは仲良くなろう、彼の好きなことを見つけ、それで関わろう。と、考えて登校から下校まで多くの時間を二人で過ごしました。たいていのことは大目に見て、彼と二人で行くところが教室と考え学校中いろいろな所で過ごしました。
- 彼は穏やかなときと暴れ出したときの差が激しく、付き合うこちらが精神的に参ってしまうのではないかと思うほどでした。でも、そういう状況が家庭ではもう2年以上も続いていたのです。
- 暴れたときにはとにかく抱き留めて落ち着くのを待つ。これ以外に手だてが思いつかずにいました。暴れる彼はとにかく30分以上時には1時間以上も逃れようとしました。それだけではなく、つねったり噛んだり叩いたり、頭突きで攻撃をしてきました。その攻撃をかわしながら抱き留め続けました。「腹を立てて人や物にあたってはいけない」「物を壊したり、人を傷つけてはいけない。」などと語りかけるのですが、ひたすら力尽くで逃れようとするばかりでした。そして最後は力つきて大人しくなるというように見えるのでした。
(3)変化(5月中旬から6月中旬)
- 5月12日
- 彼が何かをしようとする前に促すと素直に従える。何かを仕始めたところでの制止は効かない。かえって強い反発とパニックを引き起こすだけ。
- 寄宿舎へ行ったら中学部の生徒が入浴の学習中だった。服を脱ぎ始めたので、一緒にお風呂に入れてもらうとうれしそうにしていた。
- 5月13日
- ちょうどパズルが完成して見せようと振り向いたとき「すごいなあ、上手にできたなあ。じゃあ片づけようか」と促すとすんなりと片づけを始める。拍子抜けするくらい素直だった
- 5月21日
- 使っていたおもちゃを放り出し部屋を飛びだそうとしたところを止めたらパニックになり暴れ出す。抱きかかえて落ち着くのを待ち、話しかける。「おもちゃを片づけてから部屋を出なさい」「ちょっと待て、と止められただけでそんなに暴れてはいけない」などと離している間は目を合わせようとしない。しかし、「先生と一緒に片づけて、遊びに行こうか」などと話すうちに落ち着いてきて目が合うようになる。
- 5月29日
- ここのところ新しいパズルに挑戦している。うまくできないと腹を立てて投げる。そっとずらして手助けするとどんどん集中していった。手を出したことに気づくとまた怒るので、気づかれないようにするのが難しい。集会の時、好きなこと(高いところ登り)をしながらもその時間ずっと体育館にいることができた。
- 6月8日
- 彼が走り出す前、走りだそうと構えたところならブレーキをかけることができる。しかし、一歩でも足が前に出てしまってから止めようとしても止まらないことが多いし、パニックを起こして暴れることが多い。
- 6月9日
- いろいろと考えていたずらをしている。そのたびに叱らなければならない。「何でそういうことをするの。」「そういういたずらをしてはいけない。」などと言っているときは口をギュッと結び目は向こうを向き表情は硬い。「ヨーグルトがブチューっとでて面白いけれど汚いからやめなさい。」と言ったときのほうが聴いているような感じがする。
- 6月11日
- だんだんと上手になってきて変化を求めたのか、2枚のパズルを混ぜてやり始める。途端に難しくなり、なかなかできずに苦労しているようで「やってみろ」とばかりに一枚渡してくる。「これはここにはまるんだよ」と簡単にはめてみせるとそれが面白くなかったのか「ふん!」という感じではずして投げた。
- 6月15日
- なんだか朝からイライラした感じだった。周期的にこんな感じの日が来るような気がする。ちょっとしたことでも止められるとイライラして物を投げたり叩いたりする。そのたびに抱き留めて落ち着くのを待つ。「イライラして物や人にあたっても先生には伝わらないよ。」と話しかけると向こうを向いてじっとしているが、身体の力はスーッと向けていくのが分かった。
- 6月17日
- 並んでパズルをしていたとき「コレコレ」と言いながらピースを渡してくる。「ここに入れるんだよ」と指さすと、示したところに持っていってはめようとする。うまくはまるとニコニコしてくすぐってきた。くすぐるのは彼の友好の印。
- 6月になる頃まで、どちらかと言うと走り回る彼の後を追いかけ回しているだけのようでした。また、彼が一方的に要求してくることにただひたすら答えているだけのようでした。その要求が危険だったりして拒むと、拒否されたことに対して腹を立て暴れ出すという毎日でした。
- しかし、毎日の格闘に変化を感じるようになってきました。抱き留めているとき、ただひたすら暴れて逃れようとするのではなく、はっきりとした強弱が感じられるようになってきました。初めのうちはとにかく力任せに逃れようとするのですが、しばらくすると収まってきて力を弱めてきました。それに応じてこちらの力も緩めました。それから、なぜ止められたのかどうすればよかったのかを語りかけました。初めのうちは目を合わさず、口元をぎゅっと結んで表情を硬くし、耳を傾ける気配が感じられませんでした。しかし、彼の身体から少しずつ力が抜け落ち着いてくると、表情の硬さも少し緩んでくるようでした。表情の緩みが感じられるようになってくると、こちらの語りかけに耳を傾けているように思えてくるのが不思議でした。語りかけが彼の行動を否定するような内容になると、再び、表情を硬くして身体にも力が入るようにも思えました。身体の力を抜いて落ち着いたところで離し、別の遊びへと誘導するようにしました。
(4)仲良し(6月後半から夏休みまで)
- 6月19日
- 今日は学年で6月生まれの誕生会をした。彼も主役の一人だが、主役の席には着かず部屋の隅で大好きなブロックをして過ごす。教室から出ていくことなく1時間を過ごすことができた。
- 6月22日
- ブロックやパズルで遊んでいるなあと思っていたら、ニコニコしながら近づいてきて頭突きや体当たりをしてくる。こちらにしてみれば突然のことで「何するんや!」という感じではあるが、彼にしみれば遊びに飽きて変化を求めたと言うところか。
- 6月29日
- 彼がうまく遊べずにイライラし始める直前に、別の遊びへと誘導するとうまくそちらにのってくる。ボール遊びはわざと棚の上にボールを投げ上げて取りに行かせて楽しんでいた。この調子で行くとそのうち部屋の外に投げるなあと思い、手で打ち返す遊びへと誘導するとそちらへとのってきた。
- 7月9日
- 昨日プール交流へスクールバスに乗って出かけたことを覚えているようで、今日もスクールバスに乗り込んでしまう。並んで座り、「昨日は楽しかったね。今日もプールに行きたいねえ。でも、今日はプールに行かないんだよ。中庭で水遊びだよ。」などと話しながら、納得するのを待つ。30分くらいして自
分から降りてきた。
ボール遊び、パズル、ブロック、高いところ登りなど、彼の好きな遊びを通して仲良く過ご せる時間が増えてきました。
- 彼は遊びが単調になると変化を求めて行動します。その多くが衝動的に見え、予想を超えるためにこちらが慌てて止めなければならなくなっているように思えました。
- 例えば、キャッチボールを始めます。単調なボールのやりとりにすぐに飽きて、ボールをいろんな所に投げます。だんだん取りにくい所に投げ、「取れるものならとってみよ」とばかりに屋根の上に投げます。そんなところに投げたら取れないよと見ていると、「こうして取るのだ」とばかりに屋根に登ろうとします。以前は、屋根に登りかけたところで止めるから格闘になっていました。しかし、この時期にはある程度予測ができるようになっていたので、「見守りながら取りに行かせ、本人が満足できるようにする。」
「本人が取りに行こうとする前にこちらが取りに行く」
「屋根に投げ上げようとする前に、違う方向に遊びの変化を促す」
などの選択肢を持つことができるようになっていました。そのおかげで、うまくいく時間が増えて行ったようでした。
(5)「なるほど」(2学期)
- 9月3日
- 心配していたが落ち着いた新学期のスタートだった。夏休み中、家では手に負えない感じで大変だったようだ。岐阜大学の神野先生の所へも相談に行ったとのこと。この3日間学校では落ち着いている。
- 9月8日
- 「今日は運動場で運動会の練習だよ」「運動場に行くよ」と事前に話しておき、周囲の友達が動き出したところで「さあ、運動場に行くよ。」と促すと一緒に出ていく。
- 待ちの時間が多いのでグズグズしていたが、障害物走の時は促されるままに走っていた。
- 9月14日
- 今日は室内での練習。運動会の練習は待ち時間が多く、思いっきりできないのでつまらない時間。それでも、同じ場所にいることができると言うだけでも進歩だと思う。
- 主治医の先生が学校の様子を観察に来た。朝からずっと見てもらうことになった。
- 嫌々だったが促されて何回目かの競走をした後に、校舎の入り口にある排水溝の蓋を外しはじめた。その時、何気なく「おっ、ゴミが溜まっとるなあ。掃除するか。」と言葉をかけた。また、蓋がはまらずにイライラしかけたとき、隣の蓋をさりげなく横にずらしてうまくはまるようにした。うまくはめることができて振り返った彼に「うん、うまくはまったね。」と言葉をかけた。その時ことを主治医から指摘され、「ああいう関わりをこれからも続けて下さい。」と言われた。
- 9月22日
- 運動会の練習に素直に取り組んでいた。特に入場行進の時などは膝を上げて前を向いて歩いている。「すごいなあ、上手に歩いているなあ。」と話しかけると得意げな感じでこ
ちらをちらりと見た。
9月28日
- 運動会当日。1日落ち着いて過ごすことができた。移動の際は前もって声を掛けておいて、いざ移動というときには友達の様子を見させて移動を促すと素直に手をつないで移動することができた。競技を待つ時間も膝の上に座らせておくと落ち着いて待っていることができた。
- 10月4日
- 日曜日、家庭では暴れたり、物にあたったり落ち着かない生活ぶりだったよう。学校でもそわそわした感じだった。電車で出かけたとき、慣れてきたのか車内を走り回ろうとする。また、駅からの帰り道にフェンスを触りながらどんどんと先へ行ってしまう。「ちょっと止まりなさい。一人で先に行ってはダメ。」と止めると靴を脱いで用水に投げ込もうとしたり、リュックを投げようとしたりする。それも止めるといよいよ大暴れとなる。
- 10月5日
- 電車で出かけて公園で交流をする。昨日の反省から「待ちなさい」「止まれ」「だめ」ではなく「歩くの速いなあ。ちょっと待って。」と言うようにしてみた。すると、意外に素直に立ち止まることができた。
- 公園では人が少ないうちはのびのびと遊んでいたが、人が増えるとうまく遊べずイライラする。
- 10月15日
- 登校してからずーっとそわそわしていた。今日のそわそわは悪い感じではなく、むしろ電車に乗って出かける事への期待感のようだ。いざ、出発するとどんどん先へ歩いていこうとする。曲がり角にくる度に「歩くの速いなあ。見てごらん、みんなまだ来ないよ。待ってようか。」などと話すと立ち止まって待つことができた。
- 考えて出た言葉ではなかったのですが、指摘されて「なるほど」と思いました。運動会の練習は待ち時間が長く、1学期の彼ならイライラしてどこかへ走り去っていたことでしょう。彼なりにやり終えたものの、何となく消化しきれない不満のはけ口を探していたのだと思いました。校舎の入り口の溝にはめてある蓋をはずしたとき、それまでの自分なら「何しとるの?」と意識せずに否定的な響きを込めて言ったことでしょう。それが「ゴミが溜まっとるなあ。掃除するか。」と、肯定的な響きで言えたことが、その後の彼の落ち着いた行動を促す結果になっていました。
- それから、意識して彼の行動を肯定的に捉え、口に出して言うように心がけました。例えば「電車で出かけよう」の単元の時、どんどん一人で先を行ってしまう彼に「止まりなさい。待ちなさい。」ではなく「歩くの速いなあ。みんなついていけないよ。ちょっと待って。」と言うようにしました。すると、すんなりと立ち止まることができました。
- なるほどこれなんだと思い、
- ・肯定的な言葉かけに心がける
・動き出す直前のタイミングを捉えて促すの2点を特に気をつけるようにしました。
(6)落ち着き(2学期後半〜3学期)
- 10月28日
- 5年生が体育館前でインラインスケートをしているのを見かけ、走って教室に戻っていった。どうしたんだろうと、追いかけていくと何かを探している。もしやと思い、同級生のインラインスケート靴を出すとそれを履かせて欲しいと身振りをする。靴を履くと体育館前まで戻り、5年生に混じってスケートを楽しんだ。
- 11月2日
- 食器を片づけずに食堂を出ようとしたところへ「オーイ、ちょっと待って。教室に戻るんだったら、食器を片づけようか。」と声を掛けた。すると立ち止まって振り向く。もう一度そばによって片づけるように促すと戻ってきて食器を片づけた。
- 11月5日
- 劇の練習も待ちの時間が長い。出番を待ちきれずイライラしはじめたところで、抱きかかえて様子を見るように言葉をかける。はじめのうちは目を背けていたが、様子を話しているうちに見るようになった。そのうち身振りで「先生と2人でステージに上がる。」と言い出したので、「ほな、行こうか。」と手を離すと立ち上がって手をつなぎ自分からステージに登った。
- 11月10日
- 食堂に行くと食事がテーブルに並んでいるので、箸を手にしてすぐに食べはじめようとする。箸を手にする前に「みんながそろっていただきますをするまで待てるよね。」「見てごらん、友達がまだ来ていないよ。」と言うと待つことができた。これが箸を手にした後に「食べちゃダメ」とか「待ちなさい」など
といっても聴けないのだろう。
- 11月20日
- 相変わらず待つ時間はイライラしがちだったが、様子を見せながら「そろそろだね」「次は出番だよ」「ちゃんと待っているね」などと言いながらどうにか待つことができた。そしていざ出番となるとしっかり手をつないでステージに上がることができた。
- 12月9日
- 走れ走れ大会当日。これまでの練習では、後半は息切れがしてペースが極端に落ちる。もう走らないとばかりに田圃に走り込んで寝そべってみたり、石投げをはじめたりと言った様子だった。
- しかし、今日は担任とお母さんと3人手をつないで走り出した。手をつないだことが精神的な支えとなったのか最後まで走り通した。「がんばれ、走れ。」ではなく「一緒に走ろ
う」という感じがよかった。
- 1月13日
- 段ボール遊びに使うため段ボール箱をガムテープで組み立てていたところ、横に来てじーっと見ていた。やりたそうなので「一緒にやろうか?」とガムテープを差し出したが手にせずずーっと見ていた。
- 1月17日
- 広告の紙を持ってきてくるくると巻き、棒を作り出す。得意な事の一つだが、何に使うのだろうと見守っていると教室の扉の上の方にテープで貼り付ける。なるほど、先週私が不用意に閉めないようにとつっかえ棒をしていたのを思いだして作ったようだ。「へーえ、覚えていたんだね。ありがとう。」というとちょっと得意気な感じに見えた。
- 1月31日
- 午前中留守にしていて、午後教室に戻ってくると「お帰り」とばかりに飛びついてきた。しばらくぎゅーっと抱きしめていると満足したのかそれまでしていた遊びに戻っていった。
- 2月4日
- 教室に戻ってくるとイライラして物を投げていた。もう1度投げようと振りかざしたとき「それ、どうするの?」と声を掛けるとハッとして振り返り、振り上げた手を下ろした。「片づけようか」と肩をポンとたたき散らかしたブロックなどを片づけはじめ、「君が出したおもちゃ、一緒に片づけようね。」というと素直に片づけを始めた。
- 2月17日
- 沢山雪が降って多くの児童は登校しなかったが、彼はいつものように登校してきた。
- 丁度、玄関前の雪のけを始めたところだったので、思いついて一輪車を持ってきて雪をのせ一緒に運んでみた。気に入ったのか一人でやるというので一人に任せてみたところ、1時間以上根気よく続けていた。
- 2月26日
- 自転車単元は彼が楽しみにできる活動の一つだ。毎日、自転車に乗ることを楽しみに学校に来ている。今日もヘルメットを見せたり、手をぐるぐる回して自転車に乗りたいと言っていたが、全校集会があって乗ることができなかった。「今日は自転車に乗れないんだよ」「これから体育館に行くよ」と話し、みんなが移動を始めるのを見るように促すと納得したのか、後についていった。
- 3月7日
- 自転車の活動の時、わざと友達の横や直前をすり抜けようとしてぶつかるので「ちょっと待て、そういうことをしたら怪我するだろ。」と止めて叱ったところ、久しぶりの大暴れだった。自転車を倒して暴れるところを抱き留めると意外と早く落ち着く。落ち着いたところで「君は自転車が上手で速く走れるし、すれすれの所を走れるのは知っているけれど、そんな事したら友達とぶつかったとき怪我をするよ。」などと話すとだんだんと分かって納得した様子。後片付けは素直にやっていた。
- 3月18日
- 卒業式に参加。練習の時も何とか落ち着いて座っていたから今日もできると信じていた。式の間、時々そわそわと身体を動かしてみたり膝の上に寝そべってみたりしたが、「もう少し頑張ってごらん」「君は我慢のできる子だから我慢しなさい」などと話しながらどうにか最後まで座っていることができた。
- そうそう、いつもいつも肯定的に言葉かけできるわけでなく、ついつい「何やっとるの!」「ダメ、止めなさい!」などと言いがちです。それでもせめて10回に1回ぐらいは肯定的な言葉かけができるようになろうと心がけながら過ごしていきました。
- また、1学期の頃は「今は、○○だったから止められたんでしょう。それに腹を立てて攻撃してはいけない。」「腹を立てて人や物にあたってはいけない」「物を壊したり、人を傷つけてはいけない。」と「○○はいけない」と叱っていました。でも、もっとうまく注意したり叱ったりできるのではないかと考え直してみました。
- よほど自分が落ち着いていないとダメなのですが、例えば食堂に先に行っていただきますの挨拶が待てずに給食を食べようとしたとき、以前なら「ちょっと待ちなさい。いただきますをしていないからダメ。」というところを「待って。」「お腹が空いて早く食べたいんだね。でも、友達がまだ来ていないよ。君はいただきますまで我慢ができるから、もう少し待っていようね。」と、こんな風に変えてみました。すると、落ち着いて指示に従えることが多いのでした。1学期の頃なら「待って」でお皿が飛んでいるところですが、2学期後半の頃には食べようとした手を止めることができるようになっていました。
- また、イライラしているときに抱き留めるとすぐに身体の力を抜き、自分から落ち着こうとする感じも見られるようになっていました。
3 指導のまとめ
- 彼とのつきあいの中で、自分のやってきたことの何がよかったのかを振り返り、次のようにまとめてみました。
@肯定的な言葉がけが多くなるように心が けたこと
- 彼はどのくらい言葉を理解しているのか分かりません。しかし、暴れる彼を抱き留めて話しかけたとき、話す言葉によって彼の反応がはっきりと違っていました。
- 「どうしてそういうことをするの。物や人にあたってはダメじゃないか。」と言ったときと「今はイライラして、つい物や人にあたってしまったんだね。そういうことをしてはいけないこと知っているよね」と言ったときではその場の反応も違うし、その後の反応も違うのでした。
- 前者の場合には再びイライラして暴れることが多く、表情をこわばらせて目を背けていることが多いのです。一方後者の場合わずかですが表情に緩みが見られたり、身体の力を抜いたりすることが多く早く落ち着いていきます。また、離した後、遊びに誘ってきたり、スキンシップを求めてきたりすることが多く見られました。
A彼の好きな遊びに付き合ったこと
- とにかく、彼と共に過ごす時間を作ろうと考え彼のする遊びについて回りました。初めのうちは彼の遊びに加わろうとして手や口を出し、結果的に彼の遊びのじゃまをして彼を怒らせていました。そこで考え直し、彼と同じ事を横でやる、または静かに見守ることにしました。
- 彼はパズルが完成すると「ミーミー」と言ってパズルを見せ、誉めてもらおうとします。そのパズルが得意になると「お前もやって見ろ」と言いたげに私の前に差し出しやらせます。一人でのボール遊びに飽きてくると、私を離れたところに立たせてボールを投げろといい、投げたボールを足や手で打ち返す遊びを始めます。
- ある面道具的な関わり方でしたが、そこから彼との関わりが始まっていきました。遊びを通して「自分の要求に応えてくれる人」という関係ができていったようです。
B枠にはめ込もうとするのではなく、大目に見ながら少しずつ促してきたこと
- 1学期の始めは「あの二人はどこにいるのか分からない」「給食と帰りの時間にだけ現れる」と言われるくらい時間割を無視して、二人だけで好きなときに好きなところで好きなことをやって過ごしました。「生活単元学習の時間に、○○の遊びをやっているから一緒にやろう」と誘っても気が向かなければ全然やろうとしませんでした。
- だから、初めのうちは「好きなところで、好きなことを、好きな時間に」でした。しかし、彼と仲良くなるにつれ、「決められたところで、好きなことを、好きな時間に」から「決められたところで、好きなことを、決められた時間内だけ」へと変えていきました。そうして、徐々に学級や学年の集団での活動に近づけていったのです。
- また、彼は危険なことを沢山しました。例えば、ジャングルジムのてっぺんで仁王立ちになるのは序の口で、渡り廊下の屋根の上を走ったり、バスケットゴールの梁の上に立ったりしました。それらの中から、「人に危害や迷惑をかけない」「ものを壊さない」「自分の生命を危険にさらさない」と言う3原則で、昨日言ったことと今日言うことがちぐはぐにならないように、止めるべき事は止め、大目に見られることは大目に見るように接してきました。彼の行動はあれこれと「ダメダメ」言わなければならなくなるのですが、そこの所を「少々の怪我ぐらいは」と大目に見ることで「ダメ」の数を減らすことができたと思います。
4 さいごに
- 主治医の診断によれば、小学部入学当時と比べ、対人や空間の認知に改善が見られるそうです。確かに、周囲の友達が部屋を移動するのに気づいてついていったり、むやみやたらと何かを探してうろうろしなくなったり、何人もいる女性の中からお母さんを見つけだすようになりました。
- また、S−M社会生活能力検査の結果は次に示すようです。
- ・SH(身辺自立):2-8→4−0
- ・L (移 動):2-4→2−11
- ・0 (作 業):3-3→5−10
- ・C (意志交換):1-3→1−8
- ・S (集団参加):2-2→2−2
- ・SD(自己統制):2-2→2−2
- ・SA(社会生活年齢):2-4→3−2
- この結果からは意志交換や集団参加、自己統制など彼の一番の課題であるところには大きな変化が見られません。
- しかし、日常の学校生活の中では落ち着きが見られ、我慢したりあきらめたりすることも見られます。また、促せば順番を守ったり、交代で遊んだりすることもできることが出てきました。イライラしてものを投げようと振り上げた腕を止めて静かに下ろしたり、アピール程度に壁や窓ガラスを叩いたりするなど物が壊れるところまではしなくなったのも大きな変化です。周囲の子どもに体当たりしたり、叩いたりすることはほとんど見られなくなっています。
- このような変化をもたらした原因を特定の指導方法や手だてに求めることはできません。しかし、彼との関わりの中で、できる限り肯定的なメッセージを添えて言葉をかけようとしてきたことが大きな要因だと思っています。
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