「聞こえるけど 分からない」
APDってなに?


買い物客で賑わうスーパーマーケットで、お母さんが「ねえ、牛乳を1本取ってきて」といいました。すると、お母さんのそばにいたN君は「えっ?なに?」と聞き返しました。そこで、お母さんはもう一度「牛乳を取ってきて」と言いました。N君は「なに?何を取ってくるの?」とまた聞き返しました。「牛乳」ともう一度言うと、N君は一瞬考えるような様子を見せた後「ああ、牛乳だね」と売り場の方へ走っていきました。そんな様子を見たお母さんは、N君の耳(聞こえ)が悪くなっているのではないかと心配になり、N君を連れて耳鼻科に行きました。
 耳鼻科のお医者さんは「心配いりませんよ。聴力は正常でよく聞こえています。中耳炎などの心配もありません。鼓膜もきれいです。」
 そういわれて安心したお母さんはほっとしました。そういわれれば、家の中での会話では聞き返すことがあまりありません。きっと、スーパーの中がざわついていたこととN君が何かに気を取られていたことが原因だろう。そう思うことにしました。

 N君は小学校の1年生です。今日は初めての家庭訪問でした。担任の先生がやってきて、家庭での様子を一通り尋ねた後、こう言いました。
「私は、難聴学級で担任をしていた経験があるので気になるだけかもしれませんが、N君、授業中お話が十分聞こえていないような感じがするんです。こちらからの言葉かけに対して聞き返しが少し多いような・・・。耳の方の病気に罹られたことはありませんか?」

 梅雨明け間近のお休みの日、N君はお父さんと郊外の川へ魚釣りに行きました。川の流れがザワザワと聞こえる堤防でお弁当を食べている時、川向こうの林から蝉の鳴く声が聞こえてきました。
「N、蝉の声が聞こえるね。あの声が聞こえると梅雨が明けてもうすぐ夏休みだよ。」とお父さんはN君に話しかけました。すると・・・
「蝉の声?・・・聞こえないよ。お父さん、川の音と間違えてるんじゃない?」
お父さんには川の水音に混じって蝉の声がはっきり聞こえるのでした。


・「聴力が少し悪くてよく聞き取れないから分からない」というのとは違います。
・「聞いていなかった、聞き逃したから分からない」というのとは違います。
・「聞きおぼえのない音や言葉だったから分からない」というのとも違います。

聴力には問題なく、知的な面でも問題はないのに、よく聞き間違えたり分からなかったりする子どもたちがいます。聞いた音を頭の中で分析し、理解するところに弱さをもった子どもたちです。
そのような障碍を「聴覚情報処理障害」と呼んでいます。
英語では「Auditory Processing Disorders」といい、頭文字をとって「APD」です。

APDに関する研究は少なくあまり見かけません。成人における脳障害ではいくつかの症例があるようです。発達過程で生じる子どものAPDについては分からないことが多く、研究も療育実践もこれからです。LDだとかADHD、あるいはPDD等ではないかといわれている子どもたちの中にAPDの子どもたちがいるのかもしれなせん。また、「よく聞き間違える子、学習があまり進まない子」というだけで、何の支援も始められていない子もいることでしょう。
そこで、私も微力ながらこのHPを通して、APDのことを知ってもらい、一緒に療育実践に取り組めたらと考えています。


APD関連のリンク
      小渕千絵先生のHPです


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