51 帰化者への差別

帰化しても受ける差別

 帰化は今なお在日朝鮮人社会に拒否反応がある。帰化を拒否する在日の活動家は、帰化を考える同胞がいたら「帰化しても元朝鮮人ということで差別されるので同じだ。帰化なんかしない方がよい。」と説得するだろう。あるお年を召した一世が「今は私らの代でしないが、息子の代になったら帰化せなあかん。その時は私もそうしようと思ってる。」と言ったら、若い在日活動家のR君が激しく反論していたのを横で聞いていたことを思い出す。

 帰化してもなお受ける差別とは一体なにか。ある新聞の投書欄に、子供が就職の際にいい所にほぼ内定して喜んでいたら、戸籍を持って来るよう指示され、ちょっと不安になりながら提出したら電話がかかってきて、あの話はなかったことにしてくれ、と拒否されたという帰化者の投書があった。今その資料がないのでうろ覚えであるが、就職の際に戸籍を提出させるのは、1980年までには禁止されていたはずで、ちょっと古い話だなあと記憶に残っている。帰化者が差別されているというのは、事実であった。

 

帰化者への差別こそが民族差別

 考えてみるに、在日朝鮮人への差別は前に書いたように外国人であるが故の差別と朝鮮人である故の差別とがあるが、帰化者への差別は外国人である故の差別ではありえず、朝鮮人の血を引いているという理由だけの差別である。従ってそれは純粋で典型的な民族差別であり、そしてあまりにも悪質な人権侵害である。帰化者への差別は、日本社会の民族差別問題の深刻さを示すものだ。そして朝鮮人にとって、それはひどい民族的屈辱であるはずだ。

 ところが帰化を拒む在日は、帰化してもなお受ける差別の事実を知っても、だから帰化してはいけないんだと考えるのみである。なぜなら帰化は祖国を捨て、民族を裏切るものなのだというレッテルが今なお生きているからだ。このレッテル貼りを大事にする民族主義的観点からすると、差別を受けた帰化者には「ザマー見ろ」と冷たいものとなり、同情を寄せることはないし、ましてやそういう差別が個人だけではなく自民族へ向けられたものであり屈辱的なものだとは思いもよらない。

 「民族差別と闘う」在日は、外国人差別を民族差別とみなして果敢に闘争を組んでいるが、二つの差別を混乱させている論理は、外国人差別には敏感だが民族差別には鈍感にさせている。外国人差別は帰化すれば全てが解決する差別であり、民族差別は帰化しようがするまいが受ける差別である。従って帰化者に対する差別に民族差別が典型的に現れる、ということに早く気付いてほしいと思う。そして民族差別という深刻な人権問題に取り組んでもらいたいものと思う。

 

「帰化しても『元朝鮮人』と戸籍に書かれる」という噂

 帰化しても孫の代まで「元朝鮮人」と書かれるという噂は、まことしやかに在日朝鮮人社会に流れている。帰化した人の戸籍には「元朝鮮人」「新日本人」と朱書されると言う人もいた。しかし戸籍関係に勤めたことのある人に聞いたら、帰化すると「帰化により本戸籍編成」と書かれるだけで、「元朝鮮人」とか「新日本人」と記載されることは絶対にないということであった。

 また転籍すれば、「転籍により本戸籍編成」となり「帰化」という言葉は戸籍からなくなる、そうしなくても子供が結婚すれば新たな戸籍を作成するのでその時に「帰化」という字はなくなる、つまり帰化したかどうかは二代目で分からなくなる、ということも教えてくれた。噂はウソ八百なのである。

 なぜこんな根拠のない噂が飛びかうのだろう。おそらく帰化に対する歯止めで、帰化を考える人に思い止ませるための噂なのだろう。しかし全くのウソの噂を持ち出して「帰化するな」と説得する姿は、滑稽な感じがする。

 

(追記)

 『「民族差別と闘う」には疑問がある』(1993年12月)の一節の再録。今読み返すと、違和感があります。

 在日の帰化者は近頃は年間1万人ぐらいで、在日社会における帰化の抵抗感が薄らぎつつあるようです。また日本社会における帰化者へ差別は、管見において全く聞こえてこなくなりました。この点については個々人のレベルでは残っているでしょうが、社会的には解決したと言ってもよいのではないか、と思います。つまり日本における民族差別問題はもはや深刻なものではなくなった、ということです。

むしろ在日活動家らによる帰化者・帰化希望者への差別言動が気になります。人権上大きな問題を抱えるのは、こういった方たちのような気がします。

 

(参考)

帰化にまつわるデマ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/05/31/387157

在日の帰化 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/08/18/489465

帰化と戸籍 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/08/26/499625

 

ホームページに戻る