読書ノート

8/22

黒木亮 「トップレフト」

米投資銀行のモルガン・ドレクスラーの国際金融マン 龍花と、邦銀 富国銀行の今西。
かつて同期であった二人がトルコを舞台に国際協調融資(シンジケートローン)を巡る壮絶なバトルを繰り広げる。
経済小説を初めて読んだ。膨大な専門知識だけに終わらず、男達のドラマにも重点が置かれ、ラストでは思わず胸を打たれた。カネと幸福。巨額のディールを行う男達のみが語ることのできる苦悩が、圧倒的なリアリティで書かれた傑作である。

6/23

伊藤元重 「デジタルな経済」 日本経済新聞社

デジタルに出きるモノと出来ないモノ。ITによって何が変わって何が変わらないか。経済学部の教授陣の中でも、もっとも大忙しの伊藤教授が、実地体験をもとに描く。さすが、さまざまなエピソードが盛り込まれていて楽しめる。ITばかり先行して、実際の業務に活用できてない企業と、そうでない企業の差が明確に描かれている。

6/11

那須正彦 「実務家ケインズ」 中公新書

数学と倫理学を専攻し、経済学はたった2ヶ月学んだだけで、20世紀を代表するエコノミストとなったケインズ。そんな彼の実務家(インド、大蔵省、ケンブリッジの会計、投資家などなど多彩)としての側面をえぐり出すとともに、リットン・ストレイチーやバーナード・ショウ、バージニア・ウルフらとの秘密の組織での交流など、ハロッドによる伝記を下敷きに、余すところなく描く。 経済学部の学生として、この天才の人生にかなりの衝撃を覚えるとともに、何か勇気づけられるようなものも感じた。

5月

カート・ヴォネガット 池澤夏樹訳 「母なる夜」 白水社

愛のために死ねる女性に対し、無力な主人公。戦後のもとナチス党員でスパイだったハワードの、衝撃的な悲劇。ラストまで読んでいて静かに泣けた。「朗読者」よりも名著かもしれない。

吉川洋 「高度成長」 読売新聞社

私が経済学部を目指したのは岩井克人先生とこの吉川先生が教えているから。そんな経済学者・吉川洋が、あえて歴史家として、戦後日本の急速な高度成長を、精緻な分析をふまえて、ドラマチックに描く。漱石の引用でラストを締めくくる。果たして経済成長とは何なのか・・・。

ローデンバック 「死都ブリュージュ」 岩波文庫

美しい妻の死。それを受け止められないままの主人公の目の前に現れたのは、妻そっくりの踊り子だった。彼女と婚約し、以前の生活を再現しようとする主人公だが、現実は大きな齟齬があり・・・。女性のしたたかさに比べ、如何に男性が無力か。かなり痛切な物語。


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