天国と地獄

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　ケミカルシューズの大手の時期社長を巡って、役員の秘密の会談がもたれる。有力人物・権堂は密かに、株式を買い占め、経営を掌握する計画を練っていた。そんなある晩、権堂の運転手の息子が、権堂の息子と間違われて誘拐されてしまう。３０００万円の身代金を巡る壮絶なサスペンスが始まる。
　さすが黒沢と思わせる手を抜かない作りに、最後まで飽きずに見られた。だが、サスペンスが上手いのに、ドラマにイマイチリアリティを感じられない。犯人の動機が、やや曖昧であるし、権堂の心の動きも、三船敏郎の無骨な演技が災いして、あまり伝わってこない。テーマである低所得者と高所得者の対立が、ストーリーを通してうるさいぐらい伝えられるのに、実感を伴わないのは、そういうところに問題を残しているからだろう。やはり黒沢明がどうしてもどん底を描けなかった、本当のヒューマニストになろうとして、なれなかった、そういうジレンマが、作品中に現れているような気がする。「用心棒」のように、純粋に娯楽作品として堪能するべき作品。