優香の闘病日記

 

 

〜優香の病気について〜

 優香の場合は呼吸が自分でなかなかできず,人工酸素を手放せないものの,それ以外ではすくすくと育っていました。生まれた時から未熟な肺に長い間人工酸素をつかっていたため,「慢性肺疾患」でした。レントゲンでみると肺の中の酸素は黒く写るのだそうですが,優香は酸素が行き渡っていないため白黒のまだらな写真でした。肺は成長と共にきれいになり,レントゲンを見る限りではゆるやかに軽快していると言われていました。
 しかし,肺と心臓のパイプ役をしてくれている血管の形が蛇行したり,ひずんでしまったりして「慢性肺疾患」が進行し「肺高血圧症」になってしまいました。心臓には「動脈管管開存症」もあります。けれどこの管があるから、圧力の逃げがあり、心臓への負担が軽減している可能性もあり、心不全の進行が抑えられている可能性もあるということです。
 続発性の肺高血圧なので、正常な肺胞と血管が増えれば症状は軽快するはず,との診断でした。その時期まで安定を持続させ、成長を促すのが治療方針でした。

 下記の闘病記録は優香が「肺高血圧症」になって、手探りの治療をはじめた頃からの記録です。



☆ 優香の闘病日記(母の目から 99.7.25〜00.6.25) ☆


 7月25日,点滴がはじまって1週間くらいは調子も良く,心配していた副作用もなく過ごしたけれど,ここ4,5日調子の良し悪しの差が激しく酸素量が薬を使う以前より増えることも。今日は薬がもれていることがわかり,針を変えました。血管に入れていた細長いクダは,入れた先の血管が蛇行していることがわかり,急遽短いクダに変更。しばらく顔色がかなり悪くなり,酸素量を増やし酸素マスクも使用しました。30分ほどで顔色がもどってきたので,ミルクを飲もうとしたら再び呼吸が苦しくなり,今度は手足の色も変わるほどだったので,安定するまで様子を見ることに。
 原因はいくつか考えられるとのこと。薬がもれたこと,副作用が出てきたこと,薬に慣れて薬が効かなくなったこと,原因を即断することはできないので,もうしばらく薬の量を調整しながら様子をみましょうということでした。副作用で血圧低下があるので,薬の点滴のほかに,血圧を上げる薬の点滴もすることになりました。手と足と2ヶ所の点滴です。見ていて可哀想です。今日は疲れてぐったりしたのか,面会時間の間ずうっと眠ったままでした。
 優香,貴女はお腹にいる時から『生きているのが不思議』とお医者様に言われ続けたくらい,運の強い,生命力の強い子で,お母さんから「宇宙人」というニックネームまでもらっていたね。今回も底力で乗り越えてね!

 7月27日,正午頃急に様態が悪化し,点滴を止めることになりました。生まれた時みたいに保育器に入り,口からクダが入り人工酸素になったのです。夕方病院より連絡を受け,夜面会に行きました。様態は小康状態。
 原因は副作用もあったのでしょうが,熱が出て感染症になったそうで,午後感染症の治療をしたら様態が安定したそうです。狭い保育器のなかで呼吸が安定するまで,麻酔を使って眠りながらの治療になります。起きてしまうと,狭いところにいて不自由なのと,口のクダがわずらわしくて泣き出すからです。今回はお母さんが,とにかく早く帰ってきてほしいばかりにせっかちだったので,とっても後悔しています。ごめんね,優香。これからは優香のペースを大切にするよ。だから元気になってね。がんばれ,優香!

 7月28日,昨日より呼吸が安定しているものの,眠っているとはいえ時々動いたりするので,その際にガクッとサチュレーションが下がってヒヤリとします。眠っていると心音が静かすぎるので,機械で助けてもらい,優香の胸に手をのせると人工的な音が伝わってきます。ミルクはやめにして点滴で栄養補給。両手,片足に点滴,口から肺には太めのクダ,おしっこもクダです。
 楽しい夢でも見ているのか,時々口元がほころぶことがあります。起きているときはまるで顔つきが違う優香ですが,寝顔はお兄ちゃんにそっくり。優香であって優香でないような,不思議な感覚になります。がんばれ,優香!

 7月31日,優香の小康状態が続いているので,新たに治療をはじめることになりました。とにかく点滴治療前の状態には戻したいので,一酸化窒素を微量ずつ酸素と一緒に口のクダから入れ,肺の血管を広げてみようというのです。これは認可のおりていない治療法ですが,「肺高血圧症」のとりわけ未熟児の患者では,特に副作用が悪さをした例が殆どないらしいので,試してみようということになったのです。
 確かに優香の状態は日に日に安定してはいますが,相変わらず動くとサチュレーションがガクンと下がるので,点滴治療の前に戻れる確率は五分五分。新たな治療も,もし優香の肺の血管が細く固まってしまっていたら効果が無いそうです。肺の血管を広げるだけなので,点滴治療みたいに全身の血管が広がって急激な血圧低下をまねくことはないそうですが,その分効果が出ても点滴治療前に戻るだけ。それでも,治療前には絶対戻って欲しい。目を開けて笑って欲しい。優香は口からクダが入ってるために,お腹にだいぶ空気がたまってふくれています。おしっこの量も少なくなり,その分体全体がむくんできました。麻酔を使ってるから,内臓にも良くないでしょうし,待っているよりは可能性に向かって前進したいので治療をお願いしました。
 優香,ガンバレ! お医者様や看護婦さん,そして同じNICUの赤ちゃんのお母さんたちも,みんなが優香の快復を願っているよ。元気になって,また美味しいものを食べたり一緒に遊びたいって,みんな思ってるよ。ガンバレ,ガンバレ!

 8月2日,一酸化窒素の治療が始まって2日目。昨日の面会時間でちょうど24時間になり,だいたい安定している様子でした。毎晩当直の先生をたたき起こす騒ぎを起こしていた優香も,いい子で過ごせたようです。今日は目が少し空き,足をバタバタ動かしていました。『お母さん来たよ,優香』と声をかけると,わかるのか少し口の両端があがって笑ってるように見えました。麻酔がきいていてもよく動くようになったそうですが,まだ安静でなければならないので,動くとすぐ苦しくなってしまいサチュレーションが半分も下がることも。感染症が完治していないので,熱がちょくちょく出ます。今日は39度あり座薬を使って下げました。熱があると苦しいはずなのに,まばたきをよくし,足を動かしていました。座薬が効いた頃にやっと静かに眠りました。
 手を握って話しかけたり歌を歌ったりしかできないお母さんは,嬉しいことを一つでも発見したくて,優香をじっくり観ています。今日も発見しました。クベース(保育器)に入って,7本の点滴をしている優香ですが,何だか髪の毛がのびてきたようで,身長もいくぶんのびたような気がします。もうクベースが狭くて狭くて仕方ないといった様子で,足を蹴る優香。もっと呼吸が安定しないとクベースから出れないよ。がんばろうね。

 8月4日,昨日から面会時間によく目が開くようになりました。今日は目がしっかり開いていて手足をバタバタさせていました。とても調子が良い様子でサチュレーションも安定しています。動いてサチュレーションが下がっても自力で戻ってこれるまでになりました。昨夜から頻繁に目が開き,活発に動いているということでした。麻酔をしていてもよく動くので,少し麻酔の量が増えましたが,それでも起きてしまうとのこと。今日の安定した様子は先生も意外だったようで,驚いていました。
 この調子でがんばれ,優香!

 8月6日,今日は面会時間ずうっと起きていて,機嫌良くお母さんの顔を見てくれました。点滴がさらに減り,残り4機。おしっこのクダもとれ,おしっこもうんちも順調に出ました。サチュレーションはとても安定していて,手足をすごく動かしてもほとんど落ち込むことがなくなりました。今日からはミルクも飲めることに。まだ鼻に通ったクダで体内に入っていますが,ミルクが流れている間ひたすら舌をなめていました。飲んでる気でいるのでしょうか。担当のお医者様から来週にはクベースから出れそう,という良いお話を伺うことができました。やったね,優香! まだこれからも乗り越えなくてはならない事がたくさんあるけれど,一つ一つ乗り越えられるね。Go! Go!

 8月7日,今朝から少しナーバスになっている優香。元気になったつもりの優香は,まだクベースの中にいるのが納得できないのか,ちょっとしたことで「ふぇ〜ん」と泣いてしまいました。面会の時はずうっとお母さんの顔を見上げていて,お母さんの歌ににこにこしていたけれど,時々不安がよぎるのか顔がゆがんで泣きそうになります。『もうちょっとの辛抱だからね。もうすぐ出れるよ』と言うと,わかるのか少し口元がほころびます。体は小さいけれど,優香はNICUではお姉さんなのです。何となく大人の言ってることがわかるのです。でも,こういうとき,抱っこすればきっと落ち着くんでしょうが・・・ 抱っこもできない,してもらえない,お母さんも優香もちょっとストレスがあるかな?

 8月12日,点滴は残り1本になったものの,優香はまだクベースの中。酸素濃度が高くてそれを徐々に下げていってから口のクダが抜けるので,それまではクベースで過ごすことになりそうです。思ったより長引きそう・・・
 でも,優香は動けるのに狭い箱の中に入れられて,時々いろんな顔が覗くので不満一杯の様子。面会の度に訴えるように大泣きするから,お母さんは段々可哀想になってきて面会が辛くなってきました。
 『元気出してGO! GO!』と叫んでも,お腹をトントンしても,何をしても大泣きになる優香には,今はおしゃぶりだけがお友達。おしゃぶりをして涙をためながらうつらうつら眠っていきます。優香は早くクベースから出たい,出たい!と叫んでいるけれど,お母さんたちは早くお家に帰ってきて欲しい!と毎日叫んでるよ。

 8月14日,モルヒネが終了して意識がはっきりし出してから,面会時間ずっと泣いている優香。もう1週間になります。泣くと痰が出てくるので,クダに細いチューブを差し込んで痰を取ってもらわなくてはならなくなります。これが結構イヤでまた泣き出す優香。泣いてばかり。最初の2,3日は励まし続けていたお母さんも,真っ赤な顔をして泣く優香の姿ばかり見ているうちに,段々気が滅入ってきました。面会に行く足も重くなって,行くのを止めようかと思ってみたり・・・
 今日ものっけから泣き出すので,最後の点滴が取れたこともあって,看護婦さんに抱っこをお願いしました。およそ一月ぶりの抱っこ。クベースが開かれお母さんの腕に移動した優香は,最初怪訝な顔をしていましたが,泣き顔が止み,お母さんの指を握ったり,洋服のウサギの絵を持って口にもっていき食べようとしたり,次第に少し笑顔になってくれました。久しぶりの笑顔を見て,お母さんもやっと一安心。その後はうつらうつら。目を半開きにして時々口元をにやりとさせながら眠りました。
 お父さんは優香が点滴治療の前段階以上に症状が良くなるのであれば,クベースにいる時間が少々長引いても良いと考えています。お母さんは頭ではわかっていても,優香の表情で心が乱れてしまいます。新生児のように眠るのがお仕事の間は入院生活も不満や苛立ちはありませんでしたが,優香がお座りをし,一人遊びが上手になってきたとき,いろんな刺激をあげて声を出して笑うくらいに心も発達して欲しいと願うようになってきたのです。1年半近くの入院生活,退院のめどのたたない日々に,少しずつ不安,不満,苛立ち,焦りが出始めてきました。

 8月17日,昨日呼吸器が取れ,今日はやっと保育器から出ることができました。でも酸素濃度がまだ高いので口のクダはついたままです。優香はクダが目の前でぶらさがってるので,何とも気になるようで,手で取ろうとします。その度に『だめよ』と言われ,時々イヤになって『ふぇ〜ん』と甘え泣き。抱っこを再会して4日目。今日は抱っこしたとたん,ニンマリニコニコ。口も両端が広がって笑ってくれました。クダが入っているためにお腹に空気がたまりやすく,抱っこしている途中で苦しくなって泣きだし,さらに空気がお腹に入ってしまい,ベッドに戻った優香。看護婦さんにたくさんの空気を注射器で吸い出してもらい,お腹は見る見るうちにへこんでいきました。
 保育器を出て大きめのベッドに入ったので,のびのびとおもちゃで遊ぶことができました。良かったね。今日はお風呂にも入ったようで写真をもらいました。帰ってお兄ちゃんに見せました。『優香,ヤッホーって言ってるね』とお兄ちゃん。優香が両手を耳のうしろにやってセクシー・ポーズをとっているのを,お兄ちゃんには手を振っているように見えたようです。

 8月23日,保育器から出て1週間。口のクダはまだついたままです。それでも保育器の中のような窮屈さから解放されて,優香はおもちゃで遊べるようになったことでずいぶん機嫌もよくなりました。一人遊びが上手になっている赤ちゃんは,両手がとても器用に動くので,手袋をしていてもクダを動かしてしまいます。週末2日続けてクダが取れてしまい,大騒ぎになりました。動かすと危ないので,抱っこはおあずけ。その分,おもちゃで一緒に遊んでいます。
 優香は顔を近づけると両手で顔を触るようになりました。2,3日前から寝返りの兆しも見え始めましたが,クダがあるので寝返りしないように体を手で押さえています。人工酸素濃度がなかなか減りませんが,優香のペースに合わせてゆっくり落としていくようです。点滴治療前はいつも手足の先が紫色でしたが,現在はきわめて血行が良くかわいいピンク色です。唇の色も良いので,酸素濃度を落としてもこれは変わって欲しくないなあと願っています。

 9月1日,とうとう口のクダが抜けました! ベッドは新生児用に戻ってちょっと窮屈だけれど,だいぶ自由になって優香は面会の間ずうっとニコニコ顔。抱っこも自在なので,今までの分もとばかりに両手を広げて抱っこをせがみました。1ヶ月と1週間ぶりにお母さんが優香をお風呂に入れることもでき,抱っこもとりあえず十分にでき,フローラン治療の前より顔色や手足の色が良かったので,ずっとこのまま調子良くいってほしいと願うばかりです。
 お兄ちゃんが水ぼうそうにかかってしまい,今週は面会が少ないけれど,優香は自由を満喫して離乳食も早速食べることができて大いに満足といったところかな。良かったね,優香!

 9月4日,口のクダが抜けたと喜んだのもつかの間,昨日様態が悪くなり再びクダが口に入りました。しかも人工呼吸器や点滴5本が追加されたのです。これにはびっくりしました。前回の面会時にとっても元気一杯で機嫌が良く,ミルクや離乳食を食べていたのに。今日もお風呂に入れたら遊ぼうと張り切っていたお母さんは,がっくりしました。
 原因はお医者様にもはっきりしないということ。ただ,ミルクや離乳食が急激に増えたので肺や心臓に負担がかかり自力呼吸が困難になったのではないか,ということでした。半年前にも優香はミルクが増えて体重が加速的に増えたことがあって,その時ものちに心臓に負担がかかることがわかって量が制限されたのです。優香は1ヶ月以上も不自由だったので,口でミルクや離乳食が食べれるようになって,がむしゃらに受け入れてしまったのでしょうか。優香,目先の欲求につい手が出てしまうところ,お母さん似だね,とお父さんに言われましたよ。またしばらく点滴と口のクダがお友達だね。貴女は一歩進んだと思ったらすぐ3歩も4歩も下がってしまう・・・ヤレヤレ。
 でも,周囲の心配や不安をよそにケロッとしてお気に入りの「おじゃる丸」を振り回して遊んでる貴女は,ホントにただ者じゃない,って気がします。

 9月11日,この1週間はお兄ちゃんが水ぼうそうのため面会できませんでした。久しぶりに面会に来て,優香は相変わらず口にクダが入ったままでした。1週間もしないうちに取れるとお医者様は言っていたけれど,ミルクを飲んだ後ガクンとサチュレーションが落ち込んでしまうので,今日まで抗生剤を受けていたとか。まだ人工呼吸器と点滴がついていました。新たな点滴も追加です。優香は顔を近づけるとにこっと笑うし,おもちゃにも興味を示すけれど長い間持って遊んだりはしませんでした。ずうっと寝たままなので,また体力が落ちているのかもしれません。
 ここ半月の様子を見ていると,ゆっくり状態が悪くなっているような気がしてならないので,今日担当医に伺ったところ,肺高血圧症が半歩進んだ様子だそうです。どうしてこうなったのかわからないとのこと。以前なら時間が経てば自然に自力で呼吸するようになるという話でしたが,このままだと良くても今のまま,悪くなる可能性の方が高いような気がするのです。7月にフローラン治療で一気に状態が悪化してしまった優香ですが,現在の状態だとフローランしか治療薬がないかもしれないらしいのです。以前手術の話もありましたが,体力的もすぐには無理だということ。
 様子をみているうちに状態が悪くなるよりは,早めに治療をしてもらったほうが良いと考え,不安はありますが再びフローラン治療をお願いすることにしました。
 ミルクも量が多いと肺への負担が大きいということで,ミルクに似たものでミルクより栄養価のあるものを半分の量で与えることになりました。

 9月12日,今日はのっけから心拍数がかなり高く,サチュレーションが相当落ち込んでいて,以前ならすんなり上がっていたのに,今日はミルクを飲んだ直後でもないのに,安定するまで15〜20分くらいもかかりました。その間ずうっと顔色も手足も白く,足がいつもより冷たかったので,イヤな印象でした。どうかこれ以上落ち込まないで! 優香,ガンバレ!
 酸素濃度が100%なのに,かなりしんどい感じなので,このままだとまたクベースに戻ってしまうのではと心配してしまいます。昨日より悪くなった感じがして不安にかられます。優香は眠いときなど目をこする時に口のクダも抜いてしまう勢いがあるので,早朝から麻酔で眠っているということでした。だから,面会時間になっても起きない。目は半開きで,若干声がもれるけど,うつらうつらの状態でした。面会時間くらい麻酔がきれるようにして欲しかった・・・

 9月13日,悪い感ほどよく当たるもので,優香は昨日よりさらに悪くなっていました。先週から口のクダにのぼってくる痰と混じって血が微量に出るようになっていました。それはクダをいれているから気管に傷がついたせいだと思っていたのだけれど,肺の血管に血が少しずつつまっているせいだと今日聞かされました。これが優香の様態を悪化させた原因のようでした。これ以上悪くならないように薬を強くし,人工呼吸器の圧力,呼吸回数も多めになりました。でも,これじゃ時間稼ぎにしかならないように思えます。これ以上悪くならないように手を打って欲しいと担当医にお願いしました。このまま肺高血圧症が悪化するようなら,最悪の場合肺の移植になると言うので,一瞬目の前が真っ暗になりました。
 優香の場合移植まではいかないだろうということ,しかも先だって治療に使った一酸化窒素をもう一度行うまでにも至っていないということです。けれど,どんな説明があっても,日に日に点滴の量が増えたり,薬が強くなったり,機械に頼ることが多くなったりでは,家族にとっては何の手だてもしてないと同じなのです。せめて以前のように,実際に優香の呼吸がある程度安定しきちんと食事をとれる状態になってほしい。
 優香は起きるとどうしても口のクダをかまってはずしてしまうので,手をしばって口にもっていかないようにしたり,麻酔で眠ったりしています。しかもミルクを飲むと呼吸が不安定になるので,今日からは注射による栄養剤の注入になりました。
 優香,どうしたら貴女を元気にさせてあげられるんだろう。ここ数日,お父さんもお母さんも何が優香に最善なのか,医者でもないのにあれこれ考えています。

 9月24日,1週間前の午後から2回目の一酸化窒素による治療がはじまりました。肺から出ている微量の血がやや茶褐色に変わってきましたが,まだ出血しているので,今回は治療がきくのか不安がありました。治療が始まっても様子は変わらず,優香は面会時間内の殆どを眠っていました。それが,22日に人工呼吸器の設定がちょっと減り,ミルクもクダからの注入ですが30cc飲めることになりました。今日はミルクを50cc飲んだそうです。やったね! 1歩前進かな。
 お医者様のお話だと慢性肺疾患は破水から出産までの時間が長いと患う可能性が高いと言われているそうです。優香の場合,お腹にいる時胎盤の下に血腫があったので,感染症を引き起こしていた可能性があるそうで,そのため週数のわりに肺の発達が遅れていたのかもしれません。慢性肺疾患の赤ちゃんはたいてい時間の経過とともに,自然と快復していくのですが,まれに悪化してしまうケースもあるそうです。優香は慢性肺疾患から肺高血圧症へ悪化してしまいました。この2ヶ月はじわりじわりと更に悪化してしまったのです。
 何とか,少しずつでもいいから良い方向へ前進して欲しいと毎日願っています。

 9月26日,昨日からミルク再開。30cc。呼吸は安定。ここのところミルクを飲んでいなかったので,体重が3500gまで落ち込んでしまいました。

 10月1日,ミルクを30,50,80,100,130ccとここ数日順調に消化できていたけれど,6時間おきの130ccになってから飲んだ直後呼吸がまた不安定になったため,点滴設置の機械を使って2時間かけてゆっくり飲むことに。

 10月3日,ミルクが50ccにダウン。ミルクを飲むと呼吸が不安定になるため,2時間おきに50ccを摂取することになりました。
 以前,普通出生児に閉じるはずの肺と心臓をつなぐ血管が優香は開いたままでいたので,これが悪さをする可能性もあるというので具合が良くなったら手術をして血管を閉じるという話だったけれど,現在はこれがあるおかげで肺の血管がつまっても,体の他の器官へこの血管から流れているから,優香は少し楽なのかもしれないと言うことでした。肺の血管がつまることで痰と一緒に出ていた血は,止まってきているようで,もう殆ど茶褐色の薄いものが出てくるだけです。

 10月4日,優香にとってミルクを飲みやすい条件がわかったと担当医からお話がありました。ミルクを飲む前に痰をとったり,お腹をマッサージしてお腹にある空気を抜くと,ミルクが終わっても呼吸がひどく不安定になることもなく,お腹もやわらかいままで過ごせるということでした。今日はミルクが増え60ccに。体重3890g。

 10月5日,今日優香に大変なことがおきました。肺高血圧症の発作があったのです。こんな発作があるとは思いもよらないことだったので,びっくりしました。原因はわからないけれど,突然肺の血管が縮んでしまい,全身硬直,肌がどす黒くなっていったそうです。あわてて酸素を大量に送り,一酸化窒素の濃度も倍にしたそうです。

 10月11日,ここ数日は2時間おきにミルク60cc,呼吸はやや不安定。昨日から少し熱があるけれど,氷をあてると下がる程度。体重は4300gに。手足やお尻の肉がすっかりなくなってやせ細ってしまった優香。目がくぼんでいましたが,やっと少しふっくらしてきました。少し見た目にも安心感をもてます。

 10月13日,痰と一緒に出ていた血が,すっかり出なくなったようです。少し前まで血管が細く点滴の針が入らずにずいぶん痛い思いをしていた優香ですが,ここにきて,栄養が体に行き渡るようになったのか,血管が太くなってきたという医師の言葉。今日は背中に産毛ができているのを発見しました。

 10月21日,一昨日から高カロリーのミルクと,ふつうのミルクを半々くらいで飲むようになりました。採血したところ,カリウムの値が高かったそうです。カリウムの値が高いと心不全を引き起こすらしいのです。ミルクの量も2時間おきに40ccで,体重は4268g。普通のミルクになってしまったので,おしっこの量が増え,体重も減ってしまいました。早く高カロリーのミルクオンリーになって,ミルクの量が少しでも増え,体重がどんどん増えて欲しい。目標は5000gです。
 まだ人工呼吸器で心臓を助けられ,口にクダが入り,一酸化窒素が体内に入っていますが,少し体力がついてきたのか,手足が良く動くようになりました。笑顔も見られるようになりました。やつれていた時は笑う元気もなく,手足も殆ど動かなかったけれど,優香の笑顔でどんなにお母さんは勇気が出ることでしょう。

 10月29日,様態は特に変わらず。体重がジワリジワリと減ってきたので,ミルクの種類を変えてみることになりました。高カロリーもミルク(エンシュア)でカリウムの値が高くなりましたが,普通のミルクと交互に飲み始めて平均値になったそうです。普通のミルクだと水分が多くて,お母さんの目からは普通のミルクを飲み始めてから,どうも優香がよく汗をかくようになったような気がし,もしかして水分が多いことで心臓に負担がかかったのではと思い始めています。ミルクの消化の悪さもだいぶ解消されてきましたが,なるべく良い状態でミルクを体内に入れたいということで,お腹の消化に良いミルクがあるというので,今日からそれを飲むことに。お腹の手術をした患者さんが術後飲むらしいのですが,術後の患者用だと果たして栄養になるのかどうか疑問です。
 エンシュアを飲んでいたときは髪が黒くなったし,髪の毛も増えたし,背中に産毛まで発見して栄養が体に行き渡っているのを感じましたが,現在はまた髪の量も色も落ちてきたし,抜け毛が増えています。背中にあった産毛がなくなっています。もう普通のミルクでは優香の血となり肉とはならないのでは・・・? 本来ならすでに離乳食を食べている時期なのに。いったいどうしたら優香の体に負担なく栄養がゆきわたるんだろう・・・ 心配はつきません。

 11月17日,6日から再びエンシュアにトライすることになりました。お腹にやさしい高カロリーのミルクを飲んでいましたが,いっこうに体重が増えないし,むしろジワリジワリと減ってきてしまったので,担当医に全体の半分でもいいからエンシュアにしてくれるよう頼みました。お腹が消化してくれるか心配だったのですが,消化している間は呼吸が不安定になりやすいものの,それでも何とかクリアできそうなので,2時間毎の40ccから3時間毎の90ccに増やすことになりました。すると順調に体重が増え始め,髪の毛もまた黒くなり量も少しずつ増えてきました。体重4350g。
 一酸化窒素は相変わらずついたままで,いっとき70まで濃度が下がったけれど,ミルクの消化中や,痰を取るときに嫌がって泣くので呼吸が不安定になるため,120〜100くらいをいったりきたり。一酸化窒素は少量からスタートしましたが、途中から私の身長近くある大きさのタンクに切り替わりました。あまりの大きさに周囲のお母さんたちを驚かせてしまいました。一酸化窒素はすでに1ヶ月半使用していますが,優香の体はまだこれに頼りきっているところがあるため,まだしばらく続きそうです。一日でも早く体重が増え,体力がつき,肺の血管が育って肺や心臓の影がきれいに消えてなくなるように祈る日々です。がんばれ,優香!

 12月1日,およそ10日ほど前から一酸化窒素の数値が順調に減り続け,とうとう今日取れました。およそ2月もの間使っていたので,体に不調がおこるのではと心配しましたが,とりあえず何とか前進したようです。

 12月7日,一酸化窒素がとれて2,3日は呼吸が安定していたので人工呼吸器の条件を下げたとたん,様態悪化。点滴の量が増え,人工呼吸器の条件を上げることに。とりあえず一酸化窒素を再開するまでには悪化していないらしいので,様子を見ることになりました。けれど,ちょうど12月から赤ちゃんが3人増えたのと,新しい看護婦さんが3人一気にはってきたため,病棟内はてんやわんや。非常に慌ただしく緊迫した空気が赤ちゃんにも伝わるのか,優香をはじめとする長期入院の赤ちゃんにちょっとした異変が起こってしまいました。目が行き届かないこともあって,泣いてもあやされないので,余計具合が悪くなることも度々。優香は非常に呼吸が乱れ,面会時間の間警告音が鳴り続けるという事態になってしまいました。軟便のためお尻がかぶれてしまい出血するまでに。
 唯一体重だけは順調に伸びており,4820gになりました。

 12月10日,感染症の数値があがって様態悪い優香。しかも新しい看護婦さんが優香の担当になったため,手際の悪さが目立ちそれが優香を苦しめているのです。新しい看護婦さんが悪いのではなく,引継ぎがちゃんとできていないために,知らない,わからないことが多いのです。面会時間内に痰の吸引に時間がかかりすぎると思い,『ちょっと時間がかかりすぎるんじゃないんですか』と思わず叫んでしまった私。とたん優香の様態が悪化。エビ反りになって全身紫色に。近くに先生がいたのですぐ呼びました。呼吸が安定するまでに20分以上もかかり,結局薬で眠らせることにしたら少しずつ呼吸が安定してきました。

 12月13日,人工呼吸器の条件をさらに上げることに。優香の機嫌は良いのだけれど,ミルクを飲んだ後呼吸が不安定に。足を高くすると血液の流れが良くなるということで,タオルを巻いてその上に両足をのせることになりました。もちろん本人の嫌がらない範囲でのことです。体重は5000gを突破。睡眠中の呼吸は安定。

 12月15日,およそ4ヶ月ぶりに優香を抱っこすることができました。優香は最初痛いことされるのではと非常に警戒し大泣きでしたが,みんながニコニコ笑っているのをみると次第に落ち着きをみせ,笑う余裕も出てきました。お母さんは安堵感につつまれ,これまでの疲労がすうっと消えていくようでした。
 担当医のお話では肺と肺の血管に栄養がいって育っているようだけれど,人工呼吸器という不自然な圧力がかかっているため,せっかくできてきた良い細胞を破壊しているために時々ひどく呼吸が乱れるのではないかということでした。一日も早く人工的なものを一切とってやりたい。でも,それはまだまだ先のようです。

 12月20日,面会直前に原因不明の発熱。38度を超えて呼吸も荒い優香。今朝の採血では感染症の値は低かったそうで,首をかしげる担当医。ミルクを飲んだ後かなり呼吸が乱れました。そのあと人工呼吸の圧力が急に下がりはじめ,下がりはじめると同時に優香の呼吸も乱れました。おかしいと思って『酸素がもれてるんじゃないんですか』と看護婦さんに言いましたが,もれてる様子はないとのこと。それでも絶対おかしいと思ったので,先生を呼んでもらいました。すぐに人工呼吸が取り替えられることになり,そうしたらすぐに優香の呼吸も落ち着きました。安定したので抱っこも10分ほどできました。
 最近は親のカンが当たりやすいことが度々なので,毎日面会に行かないと不安になります。優香の状態を把握しているスタッフがどれくらいいるのだろうかと思うこともあります。まだ優香はちょっとしたことで様態が悪くなるのです。非常に厳しい条件の病棟内でスタッフも大変でしょうけれど,決してスキをつくらないで見て欲しいと願うばかりです。

 12月21日面会のはじまる午後1時から30分抱っこ。優香は非常にご機嫌で両目を三日月にして笑います。やっぱり抱っこはいいね。お母さんも気持ちが落ち着きます。
 ミルク後は呼吸が不安定。面会時間中よく眠りました。

 12月22日,朝9時頃優香が自分で口のクダを取ったとのこと。ちょうどスタッフが揃っている時間だったため大事に至らなかったが,これがもし深夜や早朝だったらと思うとゾッとします。緊急だったため病棟内にあったクダを使ったそうで,酸素がもれやすいらしく終始呼吸が不安定。声がよくもれ,まるで優香がお喋りしているみたいでした。
 体重5210g。

 12月23日,昨夜様態が悪かったとのことで,太いクダに取り替えました。相当疲れたらしく呼吸も不安定。眠っていると若干落ち着く程度。ミルクはだいたい消化できているとのこと。様態の悪いときは睡眠薬を使うことに。

 12月26日,久しぶりにご機嫌な優香。人工呼吸器の設定で,呼吸回数「60」,最大吸気圧「55」。それでもミルク後は少し呼吸が不安定になります。午前10時のミルクのときは,お腹に入っているミルクが40ccも引けたとのこと。
 お兄ちゃんとお母さんの歌やおしゃべりをカセットに録音し,優香のそばへ置くことにしました。お兄ちゃんのとても大きくて高い声に,きょとんとしている優香でしたが,歌が一曲終わるたびニカッと笑う優香でした。優香が起きている時にはテープを流してもらうように看護婦さんにお願いしました。

 12月27日,今日もご機嫌で呼吸も安定,ミルク後もまあまあ安定していたので,30分ほど抱っこできました。お腹がパンパンに張っていて,空気がなかなか外にでてこないとのこと。体重5252g。体重が何とか増えているのが嬉しい。

 12月31日,点滴の濃度を下げたら少し呼吸が不安定に。今日はタンがよく出ました。体重5470g。


【2000年】

 1月1日,呼吸不安定。ミルク後特に悪い。クダの中に水を入れて掃除をすると呼吸が安定していたのだけれど,ここ数日していないとのこと。タンがさらさらでよく出るので,掃除の必要がないからということでした。
 寝起きは機嫌が良いけれど,ちょっと遊ぶと疲れるようで機嫌が悪くなりそのまま眠ってしまいます。

 1月3日,ミルクが半分近く消化できず,体重も減少。5370g。

 1月4日,昨日より若干呼吸が安定していました。機嫌も良くよく笑う優香。かわいい。点滴がもれ今日は2回も点滴の針をさしかえたとのこと。血管が蛇行しているため,針がなかなか入らないらしいのです。24時間している点滴に関しては糸のような細い針を3〜7センチ入れるのですが,先が蛇行しているためつまりやすく,もれやすいのです。生まれてから何百回と点滴の針を刺している優香。健全な血管もぼろぼろになるのは当たり前です。まして血管の発育が悪く蛇行した血管が多いというのも,可哀想でなりません。現在点滴を4本流しています。
 タンが良く出て,タンを引くと呼吸が不安定になり快復するまでにずいぶん時間がかかります。また,軟便が続いているためお尻かぶれがひどく,血がでるほどで,かゆいのか優香はしきりにお尻ふりふり。冷やしてはどうかと思い,紙おむつの下に小さな氷枕を敷いてもらったところ,気持ちよくなったのか眠りにはいりました。以後、かぶれのひどい時には冷やしてもらうことに。

 1月6日,感染症の値が跳ね上がり,抗生物質が追加されました。手と足に点滴の針が1本ずつつきました。従来の点滴も長くもたず,昨日3回,今日2回さしかえたとのこと。優香を見ていると胸が痛みます。熱があって息が荒い優香。
 今朝口のクダもさらに太いものに変えたため,声が全くもれず,親としてはむしろ寂しい限りです。けれど,声がもれないということは,その分酸素や圧が肺にいっていることなので,優香の体は楽になるのですが。人工呼吸器の呼吸回数が「60」から「55」に下がりました。最大吸気圧は「55」のまま。

 1月7日,感染症の値は依然高いままですが,熱が下がったため優香はご機嫌。体が少しむくんで大きく見えました。体重5600g。むくみのせいで増えたらしいと看護婦さんの弁。人工呼吸器の呼吸回数が「45」に下がりました。

 1月8日,感染症は「肺炎」だとわかったようです。抗生物質は3種類。でもまだ感染症の値は高く,機嫌は良いけれど呼吸が不安定です。優香の場合は口にクダが入ってから,常に感染症があって,普通の人は感染症が0もしくは0に近い数字なのですが,優香は調子の良いときでも2〜3をフラフラしているそうです。大きな感染症は退治できても,小さな感染症が常にくすぶって優香の体に悪さをしているのかもしれません。

 1月9日,昨夜12時から今日の12時までぶっ通し眠り続けていたということ。薬は使っていないのですが,とにかくよく眠ります。面会中も殆ど眠っていました。ここのところ調子が悪かったので,やっと熟睡できる状態になったのかもしれません。
 肺炎のせいか眠りすぎのせいか,顔がむくんで目が腫れぼったい優香です。機嫌は良いけれどお腹がパンパンに張っていて血管が浮き出ている状態。
 紙おむつが新生児サイズからSサイズへ変更。体重が5キロをこえて,やっと新生児サイズを卒業できました。嬉しい。

 1月10日,体重5580g。今朝優香の様態が悪いため人工呼吸器の呼吸回数を「55」に増やし,点滴の一つも「15」から「20」に増やしたということ。
 面会中は殆ど寝ていましたが3時過ぎ急に呼吸が不安定になり,なかなか快復しなくなりました。そのうち苦しくて泣きだし,さらに悪くなりました。3時半頃には目の色に異常が見られ出したため,「先生を呼んだ方がいいのでは」と私は叫びました。目の焦点があわず,顔色も紫でした。私は度肝を抜かれ,優香の頬を叩いて優香を呼び続けました。数分して目が元に戻り,泣き疲れたのか眠ってしまいました。呼吸は不安定なまま。
 すぐに医師がかけつけてくれないことへの不安や不満を懐いたまま,病棟をあとにしました。

 1月11日,人工呼吸器が新型に代わりました。昨日まで使っていた機械はひと昔前のものですが,新しいのは患者の自発呼吸にあわせて機械の方が酸素や圧を送ってくれるということ。こういう機械があるとわかっていたなら,なぜもっと早く代えてくれなかったのかと看護婦さんに聞いても,ちゃんとした答えが返ってこなかったため,昨日のこともあり非常に腹立たしい思いを懐きました。昨日まで長い間使っていた機械は,機械に患者が合わせなければならず,優香が泣いたりすると機械と喧嘩して様態が悪化するという状態を繰り返していたからです。
 また,ここ数日お腹が異常に張っていてかなりつらそうな優香でしたが,いつもミルクの後体の向きを変えるのに,昨日は向きを変えようとすると泣いて嫌がるのでどうしたんだろうと思っていました。そしたら,今日看護婦さんから優香の肝臓が腫れているので,体の向きを右下にしたほうが楽らしいと伺い,驚きました。何日も前からそのことはわかっていたというのに,昨日や一昨日の看護婦さんからそのことを教えてもらっていません。いったいどういうことか,と不安と不信が膨らんでいきました。

 1月12日,優香の担当医と主人を交えて話する機会をもつことにしました。
 人工呼吸器を代えなかったのは,優香が新型に合わせられるほど快復していなかったため,肝臓の肥大については普通の人より2まわり大きいけれどそれが将来優香の体に悪さする可能性は低いのであえて報告しなかったこと,お腹が張っているのは殆どが空気のせいで,空気を抜くにはミルクのクダから引くかガス抜きをするしか方法がないこと,空気が抜けないときには空気が下に降りるのを待つしかないということ,様態が悪いときは安定剤を使って泣かないようにすること等々・・・
 現状はわかりましたし,担当医やスタッフが優香にとって良いことを常に考えていることもわかったので,昨日までの不安や不信はおさまりましたが,今後も体重が増え体力がつくのを待つしかない状態であるのは変わりません。レントゲンや心臓のエコーをみて総じて言えば,若干快復に向かっているということですが,まだまだ先は長そうです。
 痛い思い,嫌な思いをずいぶんさせてしまって可哀想な優香ですが,どうしても生きていて欲しいし,必ず元気になって退院して欲しいのです。何とか有効な治療が見つかり,快復が早まるように願うしかありません。願うことしかできない親は情けないです。

 1月14日,昨日は殆ど眠っていたという優香。眠っている間は呼吸が安定していたそうです。ミルクを2回60ccに減らしましたが,100ccいっている時は飲んだ後やはり落ち込むようです。むくみがとれ,今日は空気がよく出てお腹もすっきり。体重は6025gに。100g近く減りました。呼吸回数「42」,最大吸気圧「43」に人工呼吸器の設定が下がりました。
 今日も殆ど寝ていましたが,途中目が覚めほんの数分機嫌良く絵本を楽しんだものの,やがて呼吸が不安定になり,心拍数もかなりあがってご機嫌ななめに。20分ぐらいぐずった後再び眠りにつきました。眠ったあとも面会中は呼吸が不安定なままでした。

 1月15日,久しぶりに面会の頭から起きていて笑顔で迎え入れてくれた優香。久しぶりに見るような気がしました。昨夜からミルク後呼吸が不安定で呼吸回数や吸気圧も上げたそうですが,今朝若干快復が見られたということで少し下がりました。今日から60ccを3回に増やし,100ccを4回にするということです。面会中のミルクは100ccでしたが,非常に呼吸が不安定で機嫌も悪くぐずりました。疲れて眠ってしまったあとは呼吸が安定しました。
 今日新たな発見がありました。歯が生えたのです! 前歯の下に1本だけ,かわいらしい白い歯が少しのぞいていました。手先も器用になってきて,鼻をほじったり耳の穴に突っ込んだりするようになりました。

 1月17日,感染症の値が若干さがってきて,人工呼吸器の吸気圧も「42」に下がりました。ミルクの消化がいまいちなのと,むくみがとれたので体重も減少で5800g。

 1月18日,感染症の値がさらに若干さがって,夕方から抗生物質の点滴が2種に減りました。おおむね呼吸も安定し,人工呼吸器の吸気圧も「38」に下がりました。反面,腫れている肝臓が昨日より大きくなったような気がして,気がかりです。胃の上あたりまで膨れているのです。相変わらずミルク後の呼吸は不安定で,特にぐずって泣き出すと呼吸が乱れます。

 1月28日,今週に入って抱っこを再開しました。抱っこしていない時はいつも不安と心配ばかりしていましたが,抱っこをするようになって勇気と希望がわいてきました。必ず病気を跳ね返して完治しようという気持ちがわいてくるのです。我が子のエネルギーのすばらしさを感じるのです。抱っこをしてから優香のほうも若干調子が上向きかなという気がします。呼吸も心拍数も落ち着いてきてるように思います。
 ただ相変わらずミルクの消化は悪く,100%消化できる時もあるのですが,半分以上消化しない時もあります。空腹時は好調ですが,ミルクがある程度の量が入って消化をはじめると酸素や血液の循環が悪くなってしまいます。
 一昨日カリウムの値がまた上がってしまったので,ミルクの種類を変えることになりました。今度はエンテルードという高カロリー・ミルクです。
 身長63cm,体重5874g。肺炎になって体重が減ってしまいましたが,また少し戻ってきました。人工呼吸器の呼吸回数「45」から「40」に減り,最大吸気圧も「38」に。少しずつ自発呼吸ができるようになってきているのでしょうか。

 2月3日,昨日また感染症の値があがり5.0だったそうで,点滴の抗生剤が始まりました。今日は4.9に下がりました。人工呼吸器の設定はここ数日調子が悪かったため,吸気圧をあげ,呼吸回数も「50」に増やしましたが少しずつ回復し「39」に。今日は酸素濃度も95%に下がりました。もっとも,酸素濃度は100も95もデータとしては変わらないようです。90%まで下げると変化が見られるということです。ただ,優香の場合一酸化窒素をとるときも,データ上ではとれていいはずの数値が優香はなかなかとれませんでした。データに頼りすぎるのはどうかと思います。
 体重も思うように増えず,5840g。お尻かぶれが一段とひどくなり,優香はこれが一番不愉快なようです。

 2月4日,感染症5.6に上がり,体重も5710gに。けれども,心拍数もサチュレーションも安定しており,機嫌も良い優香です。

 2月9日,昨日24時間点滴2本のうち,ブドウ糖がなくなりました。今日は心臓を強くする薬もなくなりました。そのせいかちょっとぐずり気味で,呼吸も若干不安定。
 体重が5600g台に落ちてしまったため,ミルクをエンテルードに変え,1日140ccほど増やしました。感染症は6.8に上がっています。

 2月12日,体重5870g。抗生剤のせいか体がむくんで見えます。手の甲に点滴をしてもれ,もう片方の手の甲に変えたけど再びもれ,昨晩から手の甲がむくんで熊の手みたいになってしまいました。両足も点滴の針のあとがたくさんあって,とても痛々しい優香です。感染症6.1,サチュレーションは60〜80代で良くない状態です。

 2月15日,体重6024g。抱っこをしました。お尻かぶれのせいで,何度となく優香はお尻をすりすりして,どうしても姿勢が悪くなってしまうので,途中から縦抱きにしました。久しぶりの縦抱き。支えがなくても首がちゃんとすわっており,背筋をピンとのばして,きれいな形のお座りができました。お母さんは感激!

 2月17日,体重6097g。感染症の値が4.3まで昨日下がったけれど,今日5.7に上がってしまいました。抗生物質は3種類24時間流れています。優香の場合血管が蛇行していたり,長い間点滴を続けているのでボロボロになっており,現在の担当医のみが点滴の針をさせる状態です。なるべく早く点滴をとってやりたいけれど,感染症がくすぶっている間はまだ無理かな。
 お尻かぶれがまたまたひどくなってきました。サチュレーション60〜90代,心拍数130〜98。

 2月18日,人工呼吸器の呼吸回数を「40」から「35」へ下げてみました。特に悪くなる様子もなく,ご機嫌で両手両足をバタつかせています。

 2月19日,呼吸回数が「40」に戻りました。サチュレーションがふらつき始めたのと,ミルクの消化が悪くなったためです。優香も疲れてしまったようで,眠ることが多い1日でした。

 2月21日,体重6120g。感染症が3まで下がったので,抗生剤3種のうち1種を午後3時で取りやめになりました。
 お尻かぶれも快復しています。オムツかぶれに関しては特に治療がないということなので,なるべく開放にして,むずがゆくてお尻を頻繁にこするようならオムツの下に氷枕を置いて冷やしてもらうようにしています。
 心拍数は120代で比較的安定しているのですが,サチュレーションが60〜80代とふるわず,何が原因しているのかなと考えてしまいます。機嫌は良いようです。

 2月24日,体重6002g。おしっこがずいぶん出て一気に体重が減りました。感染症の値が3に下がったので,点滴が取れました。やっと! 呼吸はほぼ安定していますが,泣くとサチュレーションが40代にまで下がります。

 2月25日,泣いて興奮すると体のあちことに赤いのっぺりした斑点が出てきました。機嫌も悪くよくぐずっていました。お尻かぶれがひどくなったのも一因。赤い斑点は原因不明とのこと。

 2月26日,感染症の値が6にはね上がったので,点滴が再開。面会中熱もあり38.7度まで上がりました。

 2月29日,数ヶ月ぶりにお風呂に入りました。比較的安定していることと,ここのところ原因不明の赤いのっぺりした斑点が時々出ており,お尻かぶれもひどいので,思い切って入ってみようということになったようです。久しぶりなので,最初は怖がって泣いたそうですが,しばらくすると落ち着いた様子。カメラ目線の写真も撮れました。
 赤い斑点はじんましんの可能性もあるので,今日より内服薬が始まりました。

 3月1日,体重6160g。感染症の値4.7。人工呼吸器の呼吸回数を「40」から「35」に下げてみました。呼吸はやや不安定。睡眠中もサチュレーションが良くて80代。

 3月2日,感染症の値がまだ4ですが点滴を取ることに。使いすぎた血管を休ませるためです。呼吸回数が減ってから心拍も酸素も不安定気味で,ミルクの消化もあまり良くなく,半分近く引けてしまうことも。
 肺高血圧症の治療では水分を要しましたが,慢性肺疾患の場合は水分が少ない方が良いとのこと。今までは肺高血圧症の治療として,点滴などで水分を多めに与えていましたが,今日から慢性肺疾患の治療をするため,り尿剤を使用。肺高血圧症がゆるやかに快復したため,慢性肺疾患の治療をしようということにしたようです。
 現在優香は9種類の薬を常時服用しています。抗生剤,心臓の薬,タンをきる薬,整腸剤,り尿剤,そして時には鎮静剤も。

 3月5日,体重6010g。り尿剤のせいでおしっこがよく出るため,体重が減りました。心拍数も高めで170〜180代,サチュレーションは40〜60代が主です。機嫌も悪く,絵本を読むのに集中力がなくなっています。にこっと笑ってくれるけれど,愛想笑いで,ぼんやりした感じです。眠りについても良くて80代。現在の治療で果たしていいのか,不安になります。

 3月6日,体重5985g。感染症の値1.6。人工呼吸器の呼吸回数「35」から「30」に。良いときと悪いときの数値にかなり落差あり。睡眠中は心拍120〜110,サチュレーション90代ですが,泣くと心拍170〜180,サチュレーション40代になります。

 3月15日,体重6100g。この10日ばかりは感染症が2〜4をいったりきたり。結局点滴をつけることになりました。人工呼吸器の設定が下がり,当初かなり不安定でしたが,体が慣れてきたのか,ここ数日はとても安定しています。サチュレーションも100になることもあり,心拍数も130〜98くらい。機嫌が良い時は両手両足をリズミカルに動かしています。お尻かぶれも良くなったりひどくなったりの繰り返しです。
 現在飲んでいるミルクは優香にあっているようで,髪の毛もぐんと増えました。
 抗菌の必要のない月令になってきたということで,好きなベッドシーツを用意しても良いことになりました。女の子らしい花柄やキティちゃん,動物もののシーツを手作りして用意しました。ベッドシーツが明るくなったら,優香の顔色も明るく見えるから不思議です。今度は何を作ろうかなと楽しみが出来ました。

 3月22日,体重がなかなか増えないのでミルク120ccになりましたが,ミルクの消化が少し悪く,特に午前中が悪く半分くらい引けることも。今日は久しぶりの抱っこで,せき込んでタンが出るまで機嫌の良い優香でした。呼吸も安定しています。

 3月23日,昨日の深夜よりゆるやかに呼吸が不安定になりました。気管が縮んだらしいとのこと。慢性肺疾患の発作です。これまで優香は肺高血圧症の発作は何度もありましたが,慢性肺疾患の発作は今回が初めてです。
 肺に呼吸がいかないので,気管を広げる薬を点滴で与え,口のクダをさらに太くしてみましたが,サチュレーションは60代,心拍も170くらいと高め。慢性肺疾患の発作ではないかということで,もしそうなら呼吸器の条件をあげれば安定するはずらしいのです。呼吸器の吸気圧を60,呼吸回数を50に増やしましたが,サチュレーションは良くて70,ほとんど50〜60代です。
 ミルクをストップし,点滴を3本,オシッコの出が悪く,顔も体もずいぶんむくみました。空気が体にたまっているので,それもむくみの原因かもしれないとのこと。

 3月24日,様態が悪いため今朝レントゲンを撮ったところ,吸気圧に耐えられなくなって,肺がつぶれたとのこと。脇の下に針を入れ,クダを差し込み,そこから肺にたまった空気を出すことになりました。肺へのクダはストローの大きさでやわらかいそうで,5センチ入り込むとか。それから太めのクダをつないで,機械に付け,水の入ったポンプに空気が入っていくと泡がぶくぶく出てくるしくみ。
 処置に小1時間,一昨日より鎮静剤を使っているため,優香はぼんやりした様子です。この後呼吸が安定し出し,サチュレーションが90代まで快復,心拍も150前後。

 3月25日,レントゲンで説明を受けました。肺の3分の2が真っ黒。これが空気とのこと。健康な肺に穴が開いた場合は自然治癒で穴がふさがるので,片方の肺がつぶれても心配ないが,優香の場合呼吸器を付けているため,常に吸気圧がかかっているから穴がふさがるのに時間がかかるとのこと。
 優香が体を動かすため,空気の吸引が時々できなくなることもあり,その度様態が悪化する。心拍数がかなり高く170〜192。タンが出やすくよくせき込む。
 夜10時頃また様態が悪くなったため,手動で先生が2時間おきに注射器でも空気を抜くことになりました。

 3月26日,昨夜あの後は落ち着いており,注射器での空気抜きはしなかったとのこと。今朝11時になってまた様態が悪化したため,脇の下に刺しているチューブの位置を差し替えたところ,安定しました。
 レントゲンを撮ったところ,肺がだいたい元に戻っていますが,中央部分が真っ黒。新たに空気がもれていることがわかりました。空気によって心臓も圧迫され,形がゆがんでいます。かなりぐずったため鎮静剤をうつことに。その後は安定し,機嫌も良くなりました。
 気胸はふつうの肺で穴があく分には特に問題ないということですが,優香は呼吸器を使っているため,仮に今回直ったとしてもまた穴があく可能性があります。片方の肺だけならまだ良いが,両方の肺がつぶれた場合は命にかかわるとのこと。
 気胸が完治するまで,優香は24時間脇の下からチューブを差し込んで空気を吸引していきます。人工呼吸器を使っているため,こちらが思っているほど負担が重くないようで,元気良く遊べることもあるということです。
 吸気圧がかかっている以上,気胸の完治には時間がかかるので,様態が良くなればまず圧の設定を下げていく方針にするということ。

 3月27日,昨日の段階で,レントゲンでは肺をくるりと囲むように空気が見られました。面会前にまた具合が悪くなったため,肺へのクダを刺し替えましたが,そのクダが空気のないところを刺していたため,再度局部麻酔で刺しました。
 このあと優香は非常に安定していて,心拍120〜100,サチュレーションも90代後半になりました。しょっちゅうせき込んだり,タンが出てきていましたが,それも少なくなりました。

 3月28日,面会前にまた具合が悪くなりました。サチュレーションが20代まで落ち込みました。5日前に起きた慢性肺疾患の発作と同じだということで,気管を広げる薬を注射器で注入したところ,面会時間は非常に安定し,人工呼吸器の条件も下がりました。心拍も110〜98,サチュレーション94〜100。気管が狭くなった原因は前回同様不明です。ただ,5日前の発作の時と違ってすぐに安定したので,ちょっと安心しましたが,頻回に慢性肺疾患の発作が続いているのが気になります。
 ミルクは一度90ccまで上がりましたが,ミルク後に具合が悪くなるのでまた60ccに下がりました。

 4月2日,感染症の値が11.9に上がりました。昨日は4.3でした。でも機嫌は良く呼吸も安定しています。体重6319g。

 4月3日,気胸が治ったため,胸に入れていたクダ(ドレーン)が抜けました。呼吸は安定。機嫌も良い優香です。

 4月4日,タンがとても多く四六時中,肺がゴロゴロいっています。ヘンだなと思って看護婦さんに聞いてみても,感染症の値は1.9だし,気胸は完治したので,という返事。酸素濃度を100%に上げてみても,起きてるときサチュレーションは40〜60代,熟睡モードでやっと呼吸が安定する程度です。

 4月5日,感染症の値が9.8。肺炎と診断されました。昨日の値は間違いだったのです。昨日ずいぶん苦しんでいたのに,もっと早く診ていただいていたら,優香も少しは楽になったのではないかと思います。数字をうのみにせずに,様子を診てすぐ判断できないものなのでしょうか。優香はいつも様子見ばかりです。
 今日も苦しんだりぐずったりの繰り返しなので,鎮静剤を使用。それでやっと落ち着いて呼吸も安定に。抗生剤は点滴で3種になりました。

 4月10日,肺炎がなかなか完治しません。起きるとどうしても苦しくなるらしく,機嫌が悪く,遊びにも力が入らない様子の優香です。感染症の値は横這い。

 4月13日,体重6656g。体重だけはゆっくり上昇しているので,これだけが楽しみです。感染症が思ったより快復しないため,抗生物質を変えてみることになりました。今日は朝から寝てばかりだそうで,面会中も30分ほど起きて遊んだだけ。笑ってくれますが,だるい感じですぐうつらうつらしてしまう優香。タンも多く,むせるとなかなか止まりません。昨日人工呼吸器の呼吸回数が「30」になりました。吸気圧は「50」,酸素濃度はまちまちですが,今日は具合が悪かったため100%に。

 5月28日,ゴールデンウィーク前からお腹の調子が悪く,よくぐずっていた優香。相変わらず良くなったり悪くなったりを繰り返しています。人工呼吸器の設定を少しずつ下げているため,ミルクの消化が悪く,体重は伸びません。ただ,感染症の値が最近上がらなくなりました。クダが入っているため良くて2〜4あったのに,現在は1以下になることも。調子が悪そうだとハラハラしますが,主治医の話だと全体的にはゆるやかな快復をみせているということです。

 6月14日,先週月曜日よりうんちなどで力むと無呼吸状態になるようになりました。日に1回から2回そういう状態になるということでした。木曜日より様態が悪化,鎮静剤,入眠剤,安定剤も効かなかったため,モルヒネ1.5cc使用。ミルクはストップとなりました。一度回復がみられたため,ミルクを再開しましたが,30cc入れても半分以上引けたので中止。
 深夜11時過ぎ,優香の体に異変。急に血圧が下がりだし,カーツをしましたが戻らず,心拍が下がり始めました。心臓マッサージをすると心臓が動きますが,止めると首から上に酸素がいかない状態に。蘇生の薬を何本か投入したものの,この状態が40分間続きました。このため,脳味噌の細胞がこわれ水分がたまり,むくみが生じたため,脳障害が残る可能性が高くなりました。
 首から点滴針を差し,心臓手前までの長い点滴針を入れて様子をみることに。10日近くミルクをストップしていたのと口にクダが入っているストレスから胃に潰瘍ができているのか微量ながら血が引けてきます。また,酸素のクダが入っている気管支にも傷がついたらしくタンをとる時にも血が引けてきました。
 脳のむくみをとる薬を日に4回注入することになりました。これはおしっこを出す副作用があるため,これからどんどん痩せていく可能性が出てきました。
 心臓が停止に近い状態になった時,痛みに関しては全くの無反応だったそうです。まるで植物状態の優香。びくともしません。また,心臓の状態が限りなく悪いため,肝臓がひどく腫れています。脾臓もはれ,モルヒネの副作用で腸も殆ど動かない状態。点滴7本,首,手,足に点滴の針がついています。熱も37〜38度あり,感染症も15と極めて高い状態です。

 6月16日,昨日よりサチュレーションが落ちています。90以上に殆どなりません。昨日の夕方と今朝2回ほど血圧低下があったそうです。優香が血圧の急低下に襲われたのは今回が初めてでした。足がけいれんするため,けいれん止めの薬も追加。脳味噌のむくみはなかなかとれません。両足が注射の跡なのか赤紫になっていて,とても痛々しい。優香はちょっと目を開けてくれましたが,焦点がまるであわず,脳障害が出ている感じがしました。看護婦さんが気をつかって、優香の目の上にハンドタオルを置いてくれるのですが、その行為がむしろ私を苛立たせます。どういう姿になっても優香は優香なのです。

 6月17日,昨日より更に薬の量,呼吸器の条件を上げることになりました。14日の発作は原発性肺高血圧症の患者さんが亡くなる時に襲われる発作と同じで,突然心臓が停止するのだそうです。ただ,優香は肺と心臓のパイプが余分にありそれが,心臓への圧力を逃がしたため一命をとりとめたのです。薬はめいっぱい使っていて,これから段々薬が効かなくなるということでした。もう治療すらできず,見守るしかないと主治医の弁。ふつうは最期の段で家族に連絡するそうですが,優香の場合は入院が長いので,具合が悪くなったらすぐ連絡をするようにしましょうか,と言って下さり,お願いすることに。そして,もし意識が回復したならば,お兄ちゃんとの面会をお願いしました。

 6月18日,脳障害による手足のけいれんが時々ありました。痛みに関しては反応するようになったものの,目はまだ白目状態。耳は聞こえるらしく,声かけをすると体がぴくりと動きました。面会時間も自由に。こうなる前にもっと遊びたかった。面会時間がやっと自由になっても素直に嬉しいと思えなくなっていました。
 主治医より電話。お兄ちゃんとの面会が許可されました。子供がNICUに入るのは初めての試みです。抗菌エプロンを半分に切って短くし,それをお兄ちゃんが着ました。お兄ちゃんは優香の手を握り,歌い,少し話しかけました。すると,それまで殆ど動きのなかった優香の両手両足が持ち上がり,目が開きました。
『これはすごいことだぞ!』と主治医の声。昨日の面会では9分9厘絶望的な話でしたが,今日は一転,回復の兆しが見えてきましたということ。うんちが出始め,お腹もキュルキュルと音がして,全く働きのなかった腸が戻り始めていました。熱も少し下がりましたが,感染症は依然高いまま。

 6月21日,心臓がだいぶ回復してきて,落ち込んでも自力ではい上がってこれるようになりました。すごいよ,優香! しかし,脳障害は残る可能性が高く,以前の優香を期待してはいけないと言われました。絶望と希望が交錯し、それでも親はどこかで回復を信じてしまいます。

 6月22日,脳障害に関してずいぶん落ち込んでしまったお母さん。でも,優香はここまで回復して頑張ってるんだもの。お母さんも負けてはいられない。脳障害なんてへっちゃら。そうだ,優香は赤ちゃんに戻っただけだ。また最初から愛情いっぱいの刺激を与えればいいんだ。必ずもとの優香に戻れる! 優香のために面会時間を増やし,1分とも無駄にしないで声をかけるね。

 6月23日,白目だった優香が少しずつ瞳がさがってくるようになりました。眠っている時は以前の優香そのもの。手を握って歌を歌いながら指の1本1本をのばしたり,曲げたりを繰り返しました。体をさすり,頭をなで,顔にキスをし,声をずっとかけ続けました。すると,手がグーしかできなかった優香が,パーをするようになりました。
 眼球は脳とは関係ないので,見えていると思う。ただ,見たものを認識する能力が戻ってるかどうかは定かではないということでした。
 瞳はまるっきり動かなかったけれど,右向きに動かせるまでになりました。時々真っ直ぐを見たり,下を向いたりもできるようになりました。今日は手も動くようになりました。左手がゆっくりと動き,右手は顔に近づける仕草が頻回見られました。指シャブリをしたいのかしら。鼻に分泌物がたまるため,時々吸引するのですが,これにもちょっと嫌がるような反応が見られるようになりました。
 絵本を2冊読みました。聞いてくれてる風なので,ゆっくりと読み上げました。2冊読み終わると,優香は目を閉じ眠りにつきました。
 ミルクが再開。1日4回で,ほぼ消化できています。夜はミルクを飲むと具合が悪くなるため,30cc〜0cc。様子を見ながら調節しているそうです。また,目を開けることが増えたせいか,サチュレーションが乱れがち。60代まで下がります。睡眠中は90以上。モルヒネも相変わらず使用中。

 6月24日,昨夜ミルクのあとサチュレーションが落ち込んだため,ミルクをストップ。一晩中カーツをしては呼吸器につなげるという繰り返し。疲れたせいか今日は熟睡でサチュレーションも良く顔はピンク色。
 先週に引き続きお兄ちゃんの面会。今日は『うんちしたの,だれよ』を声をはりあげて読んでくれたお兄ちゃん。他の赤ちゃんがびっくりしてお兄ちゃんの方を見ていました。『今度はいつ面会に来れるの?』とお兄ちゃん。様態が安定してきてるので,月1回程度定期的にしましょうという主治医からのお返事。お兄ちゃんニコニコ顔。

 6月25日,日付が変わってすぐに優香の様態に変化。病院より呼び出しがあり,お兄ちゃんを起こして,深夜の道路を病院へ向かいました。病院まで小1時間。車の中でお兄ちゃんと歌を歌いながら,優香がんばれと心で叫びました。
 私たちが駆けつけると同時に主治医も駆けつけました。心臓マッサージ,蘇生の薬を10本近く投入した後でした。優香は目を開けており,その顔は脳障害を克服したかのように,以前の優香そのものの顔でした。看護婦さんの話によると,私たちを待っている間苦しそうな表情は少しもなく穏やかだったそうです。
 お父さん,お母さん,お兄ちゃんに囲まれ,優香は安心したようでした。『輪になっておどろう』を歌い,優香の手足を握りました。優香が笑っているように見えました。ゆっくり目を閉じていく優香に,私は「もういいです。何もしないでください」と主治医にお願いしました。口のクダや点滴の針を取ってもらいました。胃に入っていたミルクの用のクダ,気管支に入っていた酸素用のクダ,どちらにも血がべっとりついていました。どんなに痛かっただろう。どんなに辛かっただろう。点滴の針も首から心臓手前まで10センチの長さで入っていたのに,優香は苦しそうな顔をしていませんでした。なんて強い子,がんばり屋さんの優香。すばらしい,私の優香。

 医療器具を全て取り外して,私は優香を縦抱きに抱っこしました。「優香,お母さん嬉しいわ。優香をこうして抱っこしたかったよ。ずっと長い間抱っこしたかったの。願いがかなって嬉しいわ」
 私はしばらく優香を抱っこしたあとで,主治医はじめスタッフに優香にお風呂を入れて欲しいとお願いしました。何ヶ月もお風呂に入っていませんでした。一人一人が石鹸をつけ,優香の体を洗ってくれました。きれいな体になっていく最中も,歌を歌い,話かけました。新しい服は、誕生日プレゼントにと先に退院していった優香の友達から頂いたワンピースでした。それを着て,再び抱っこ。やっと自由になれたね,優香。
「優香はやっと退院できます。これは退院なので皆さんと記念撮影しましょう」
と私は言い,スタッフ揃ってカメラに向かいました。ポラロイドの写真で,優香はとっても穏やかで眠っているようでした。退院おめでとう,優香。さあ,みんなでお家に帰ろうね。生まれて初めてのお家だよ。優香のお家だよ。お帰りなさい,優香。

 


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