ふるさと鳥取県米子市




☆ 伯耆の里、大山(だいせん) 1998
☆ 私の好きな場所  1998
☆ ふるさと食の四季 1998

☆ 伯耆の里、大山(だいせん) ☆


 裾野をなびかせる優美な姿から伯耆富士とも呼ばれている名峰、大山(だいせん)。私のふるさと、鳥取県米子市は大山のふもとにある小さな商業都市です。子供の頃からいつでも、どこにいても体のどこかで大山の気配を感じていました。市内のどこからでものぞめる大山の存在は、ある種神様のようなもの。とても神聖で崇拝の気持ちをかりたてられる山です。
 私の祖母などは大山を氏神様のごとく拝んでいましたし、昔は気持ち的においそれと山に立ち入ることができないようでした。実際大山寺まで上っていくと河原にていねいに積み上げられた石の塔を見ることができます。大山を日夜拝み親しんできた私たち地元民の、大山への想いが深くこめられているような気がします。
 大山は米子市からだけ見ることができるのではなく、島根県側や岡山県側からも眺めることができます。中国地方最大の秀峰なので観光で訪れた人もたくさんいるでしょうけれど、四季折々どの角度から眺めても決して飽きることない、千変万化の山です。私は小さい頃から西側の顔を眺めて育ったせいか、伯耆富士と呼ばれる通りの、富士山に面差しの似た、女性的な、懐の大きな姿が大好きです。私は今は横浜に住んでいますが、とても天気の良い日には富士山をうっすら見ることができます。すると、まさに「大山だ!」と口走ってしまうのです。反対に、北側の顔は人を容易に寄せつけないような、とても険しく厳しい男性的な姿をしています。最近では自然破壊で登山道が閉ざされてしまったところもあるようです。
 口惜しいことに、数年前からリゾート開発で大山は日に日に衰弱してきています。雄大な山麓は遠くからでも豊かな樹々のぬくもりが伝わってきたものでしたが、今ではあちこちで山肌をさらけだし、とても痛々しく、むごい姿になりつつあります。私にとって里帰りは大山の懐に帰っていくことでもあるのに、飛行機の窓から山を眺めるたびに胸がきゅっとしぼんでいくような、哀しい気持ちになります。
 ふるさとを去ってしまった今、なおさら大山が私の心に大きく佇んでいることを思い知らされます。



◎大山(だいせん)
  日本4名山の一つ。1,711メートル。
  『出雲国風土記』に大神岳とあり、大国主命をはじめとする神話が大山にまつわり伝えられました。
◎鳥取県米子市(とっとりけんよなごし)
  鳥取県西部に位置する商業都市、大山のふもとにあり日本海にも面しているため、山の幸海の幸ともに恵まれた四季豊かな気候風土。

 

 

☆ 私の好きな場所 ☆



 米子の市内はビルや大型店が建って、ずいぶん賑やかなつくりになってきましたが、いつまでも変わらない一画もあります。変わって欲しくない一画とでもいいましょうか、私の特に好きな場所をここでは少し紹介しましょう。
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 大山の中腹に「DAISEN LAKE HOTEL」というちょっと古いホテルがあります(もしかするとそろそろ改築しているかもしれません)。文字通りホテルの裏手に面して大きな湖が広がり、湖の向こうには小さな山が連なっています。夏になると釣りを楽しむ人、キャンプをする人、ホテルの横手にあるテニスコートで汗を流す人など、ホテルを利用しない人でもゆったり自然を満喫できます。私はもっぱら夏の週末にせっせとドライブがてら出かけました。読書をするのにちょうど良い木陰もたくさんあるので、ぐったりするような蒸し暑い午後、インド麻のラグを贅沢に敷いて両足を投げ出したっぷり読書三昧。野鳥の声や風で揺れる水面の音が心地よく、まるでルノアールの絵の中に入っているような気になってしまいます。草や樹々の葉の一枚一枚が同じ色をしていないことを気づかせてくれる風景なのです。
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 米子駅から車で10分もかからないところに湊山公園があります。市内で唯一といって良いほどそこそこに整備された公園です。中海に面していて春は桜の花見、「米子がいな祭り」という夏祭りではナイアガラの花火を楽しむことができますし、他にもヨットの試合や彫刻フェスティバル、野外コンサートなど催しがたくさん開催されます。この公園に隣接して湊山野球場があるのですが、球場を囲む道路にはいちょう並木がありました。球場の裏手にあたるところに児童図書館跡があり、通りの道は少し傾斜になっていて、秋になると黄色づいた樹々とその下に絨毯のように落ち葉が広がるのです。比較的車の通りが少ないので、下り坂をゆっくり歩いていると何だかワクワクしてきます。時々葉っぱの影にてんとう虫やカマキリを見つけて「わぁっ」と嬉しい悲鳴をあげることも。わずか数10メートルの距離なのですが、不思議とふらっと歩いてみたくなる道です。
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 大山の観光拠点の一つに桝水原があります。ここにはスキー用のリフトがあるのですが、オフシーズンでも運転していることがあります。とびきり天気の良い日、リフトで往復すると特に降りるときに視界に広がる雄大な山々だけでなく、中海や弓ヶ浜、米子市内を箱庭みたいに眺めることができるのです。かつて私は『メリーポピンズ』という映画でメリーポピンズが傘をさして空から降りてくるのを観て、何て気持ち良さそうなんだろうと羨ましくも憧れていたのですが、このリフトは私の願いを叶えてくれました。風で左右に揺れるリフトに乗って降りていくと、さながらメリーポピンズになったような気分です。日頃の疲れも吹っ飛んで、たまらなく愉快な気持ちになっていくのです。

 

 

☆ ふるさと食の四季 ☆



≪春≫
 春になると食卓にがぜんワカメが出てきます。あぶりワカメというのがあるのですが、これは全国共通の食かと思いきやそうではないようですね。以前あぶりワカメを実家から送ってもらったときに、近所の方に少しお裾分けしたのだけれど、食べ方を知らないということでした。あぶりワカメはちょっと遠火にかざすと磯の香りがいちだんと高くなります。年輩の方によると七輪の余熱に和紙のほい炉をのせてあぶるのが一番美味しいそうですが、今は無理でしょうね。私の家ではよくワカメをもみほぐしてご飯にまぜていただきました。「メノハ飯」というのだそうです。おにぎりでもお茶漬けでも美味しくて、これだけでおかずなしでもよかったものです。最近は郷土土産にもあぶりワカメがありますので、鳥取に行った際にはどうぞお土産に。
 魚で旬になるのはタイ、サワラ、イワシなどですが、特にイワシはいろんな調理方法で舌を楽しませてくれるので、高級魚より美味しかったりすることも。私は丹念に包丁で叩いたすり身で作ったイワシ団子が好きです。
 5月になると山菜摘みが盛んになってきます。昔は家の周りでもとれたものですが、最近では山に入らないと山菜が見つからないのではないでしょうか。タケノコをはじめ、ワラビ、ゼンマイ、山ウド、フキ、たらの芽など大山をはじめとする野山には、たくさんの山菜があります。山菜は市内の食事処や居酒屋などにも出てきますが、法勝寺焼の器にもよくあって見た目にも一層美味しくなります。この時期牡丹満開の大根島を訪れる観光客も多いのですが、赤貝やもずくなど中海の七味をいただくのもいいですよ。

≪夏≫
 山陰名物の一つに「アゴ野焼き」があります。アゴとは飛び魚のことで、初夏に舟釣りで沖へ出ていくと飛び魚に出くわしたことが何度かありました。色は黒いけれども練り物とは違った美味しさがあります。ワサビじょうゆを添えたアゴのはんぺんもいい。また、身の薄い小魚でエノハという魚がありますが、これは他県では見られないと聞いたことがあるので、ふるさとの特産なのでしょうか。
 2年ほど前に私は初めて隠岐に行きました。フェリーで2時間、飛行機でも行けますが、この隠岐を囲む海の色の美しいことといったら、本当に驚いてしまいました。港の船置き場でさえ海底が見えるほど透き通っているのです。旅館でいただいた新鮮な魚介類は何にもまして魅力ある食です。

≪秋≫
 秋になると、全国的に有名な「20世紀梨」が店頭にならびます。私の母は以前梨狩りを手伝っていたことがあって、収穫が終わると1箱わけてもらっていました。鳥取県の梨は比類のないみずみずしさがあります。横浜に来てから他県の梨を食べたこともありますが、やっぱり鳥取の梨が一番です。
 彼岸近くなると何故か食べたくなる「ふろしきまんじゅう」。茶色い皮に赤あんがたっぷり入った蒸しまんじゅうですが、ふろしき包みみたいな形から名前がついたようです。米子にいたときに勤めていた広告代理店で「ふろしきまんじゅう」のCMを何度か手がけましたが、撮影後にいただくまんじゅうは口の中いっぱいに風味が広がっていき、いくらでも食べられます。
 秋が深まってくると松葉ガニが解禁になります。横浜に来てから年の暮れになると実家から松葉ガニが送られてくるのですが、爪の身が多くて、塩ゆでしたものをそのまま食べても美味しいけれど、二杯酢にして食べるのが一番かもしれません。横浜のスーパーなどに並んでいるカニはどれも身が細くて食べるところが少ないので、実家から松葉ガニが届くと私は大はしゃぎしてしまいます。

≪冬≫
 山陰の冬は日本海の荒波を泳ぎ切った魚たちがもっとも味わい深くなります。寒ブリ、ナマコ、岩海苔、白魚、アマサギ、赤貝、シジミ……。私は赤貝をつかった大山おこわやシジミの味噌汁が好きでした。岩海苔は正月にいただく雑煮の味を引きたててくれます。冬と言えば鍋物汁物。カニ鍋をはじめカキ雑炊、けんちん汁、どじょう汁、にゅうめんなど、食べれば一晩中体がぽかぽかして厳寒の冬を少しの間だけ忘れさせてくれます。

 

 

☆  郷土料理レシピ ☆


 ふるさとに離れて初めて『ああ、アレは郷土料理だったんだ』とわかったものがいくつかあります。米子で暮らしていたときには日常的に食べていたのに、横浜に来てからどこを探しても見あたらない食材があったりして、改めてふるさとの味をちゃんと作れるようになろうと思い始めました。ここでは、山陰で収穫される食材を使っての料理をいくつか紹介しましょう。
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◎スルメのこうじ漬け
(材料)スルメ……3枚
     こんぶ……適量
     人参……1本
     しょうゆ……カップ1・1/2
     米こうじ……300g、
     酒、みりん、砂糖……各適量
(作り方)●人参は千切りに,スルメとこんぶは洗って水気をとってからはさみで千切りのように細かく切ります。
●水カップ1,しょうゆを煮立てて冷ましたあと米こうじを入れ,千切りの人参,スルメ,こんぶを混ぜて容器に入れます。
●1日1回かき混ぜ,1週間ほどしてから食べれるようになります。
※私の父はお酒好きなので、食卓によく出てきた1品。お酒のつまみに最適。

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◎粕みそ
(材料)ねぎ……5本
     だしじゃこ……50g
     酒粕……100g
     みそ……100g
     砂糖,しょうゆ……適量
(作り方)●ねぎは適当な大きさに切って鍋に入れ,砂糖,しょうゆを入れてから水をひたひたになるまで加えじゃこを入れます。
●酒粕とみそは同じ分量にしてとかさずに点々と置いて煮ます。煮立ってから酒粕とみそをゆっくり混ぜて味をみて仕上げます。
※米子市の弓ケ浜は白ねぎの産地です。小さなおかずの一品としていかが?

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◎大山おこわ
(材料)もち米…カップ3
     うるち米……カップ5
     赤貝……500g
     しめじ……100g
     人参……100g
     塩,みりん,しょうゆ……適量
(作り方)●赤貝は塩湯でゆでて身を取り出しておき,汁はこしておきます。
●しめじは小房に分け,人参は短冊切りにします。
●炊飯器に米と同量の赤貝のゆで汁と赤貝,しめじ,人参を入れ,調味料を入れてたきあげます。
※私の母がよく作ってくれました。給料前の懐がさびしい時はたいてい大山おこわでしたが,これだけあれば十分,他のおかずがいらないくらい美味しかったのです。

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◎ねぼしまんじゅう
(材料)ねぼしの粉…カップ3
     砂糖……カップ1
     炭酸……大さじ1
(作り方)●水1.5カップ,ねぼしの粉,砂糖,炭酸をまぜ,ねばりが出るまでよくこねます。
●適当な大きさに丸めて蒸し器に入れ強火で15〜20分くらい蒸します。
※「ねぼし」とはさつまいもを切り干ししたものです。あずきの練りあんこを入れてさらにまんじゅうらしくしても良いかも。

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≪お・ま・け≫
 米子駅を利用された方はご存知と思いますが、米子の駅弁には「カニ寿司」と「五右衛門寿司」があります。「カニ寿司」は日本海で水揚げされたズワイガニをふんだんに使ったちらし寿司で、「五右衛門寿司」はいわゆるサバ寿司。サバと昆布を巻いた押し寿司です。里帰りの際に汽車を利用したとき、少々お腹がふくれていてもつい食べてしまいます。山陰本線を利用される方はぜひご賞味を。


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