ここ数年、天皇報道や湾岸戦争、CMにおける女性差別問題など、テレビというメディアについて考えさせられる出来事が相次いできた。本書は、この巨大なメディアのはらむ問題に正面から切り込んだタイムリーな書である。
全体は大きく前半と後半に分かれ、前半部分は、テレビによって異論が排除されたり女性や少数者が差別的に扱われている現状を、事実に即して明らかにすることにあてられる。取り上げられる番組は湾岸戦争報道から子ども番組・ワイドショー、それにCMまでと幅広いが、本書の最大の特色は女性差別の問題を中心にすえている点である。
多くの番組やCMで女性は、単なる性的な対象として、あるいは「女は家事・育児」という固定観念にもとづいて扱われている。こうした指摘自体が特に目新しいわけではないが、本書の指摘は単なる印象批評ではない。何百時間もの番組をビデオに撮り、克明に分析した結果に基づいているだけに説得力がある。女性活動家たちのCM批判に内心反発を感じていた世間の男性たちも、これには納得せざるをえないだろう。
後半部分では、メディアの改革のための世界各国の取り組みが紹介されている。番組に女性の視点を反映させるため女性を優先的に採用している北欧諸国の放送局、ガイドラインを定めて番組内容からの差別の解消に取り組むイギリス・BBC放送、中学・高校の国語の中でメディアに対する批判的な態度を育成するための教育に取り組むカナダ・オンタリオ州など、日本には類書がほとんどないだけに、資料的にも貴重である。
このように見てくると、つい日本では、と言いたくなるのだが、これについては本書を参照していただくことにしよう。なお、著者はフリー・ジャーナリストだが、テレビの改革に取り組む市民運動の活動家でもある。(學藝書林、303ページ、2270円)
(1993.3配信)