規則づくめの生活。食事、入浴、排尿・排便から、座り方、就寝時の頭の位
置まで管理され、汗を拭くにも背伸びをするにも看守の許可を必要とする。違反
すると懲罰が与えられ、面会は禁止、運動も入浴もできず、一日中正座させられ
る。他人に危害を与える恐れがあるとみられると革手錠をはめられ、食事は犬食
い、用便は垂れ流し。日記の内容も管理され、内容によっては懲罰の対象になる
。
こうして受刑者は感情の起伏を失い、なにごとにも無関心・無感動になって
いく。どこかの国の強制収容所の話ではない。日本の監獄の実態である。本書は
獄中でどのような人権侵害が行なわれているかについての、包括的なレポートで
ある。
扱われる問題は、獄中の医療・労働事情、検閲や面会制限からセクシャル・
ハラスメントにいたるまで幅広い。詳しくは紹介できないが、正直言って、読み
進むうちに背筋が寒くなってきた。もちろん、監獄のすべてがこの通りではない
かもしれないし、管理者や法務省の側にも言い分はあろう。きちんと調査した上
で、オープンな議論が行なわれることが望まれる。
問題は監獄のみにはとどまらない。監獄の歴史を通じて、学校や病院にまで
共通する近代社会の管理体制を分析したのはミシェル・フーコーだが、著者の言
うように監獄は社会の縮図なのである。その一端は管理教育に見ることができる
。多くの監獄では看守を「先生」と呼ばせている、というのも示唆的である。
本書の終わりの部分では、拘禁の緩和と自由化に向かう世界各国の動向も紹
介されている。自由化によって獄中の事故が減少し、社会復帰も円滑になるとい
う。日本は今のところ、こうした動きから完全に立ちおくれている。大部な本だ
が、日本の人権レベルを問う問題提起の書として、多くの人にすすめたい。
(1992.4月配信)