著者は新進気鋭の家族社会学者である。氏が世に知られるようになったのは
、二年前に刊行された著書、「近代家族のゆくえ」(新曜社)を通じてだと思う
が、この書の広告には確か、「家族版マーフィーの法則」と銘打たれていた。こ
のコピーが正確かどうかはともかく、家族・結婚といった身近な現象について、
一見意外な法則性を示してみせるところに氏の著作の面白さがあるのは事実だろ
う。
その延長線上にある本書で著者が強調するのは、「結婚に関する意識が変わ
らないから未婚化が進む」「男女交際が盛んになるから未婚化が進む」という二
つの「法則」である。なぜ、そうなるのか。後者は読者の楽しみに残しておくこ
ととして、前者については概略、次の通りである。
著者によると一般に、女性は自分の父親より経済力のある男性との結婚を望
み、男性は自分の人生のコースを邪魔しない「かわいい」女性との結婚を望む傾
向がある。女性の社会進出が進んだといわれるが、この傾向には昔も今も変わり
がない。
高度成長期には、両者の希望がうまくマッチした。若い男性は親世代以上の
経済力を手に入れる可能性が高かったし、若い女性にとっては、そんな男性たち
と結婚して専業主婦になることが生活水準の向上を意味したからである。
ところが低成長期になると事態が一変する。強くなった父親たちの経済力に
対して、若い男性の経済力は見劣りがする。女性の学歴が上がったこともあり、
専業主婦になると生活水準が低下する危険は大きい。こうして男女双方、特に経
済力のない男性と経済力のある父親をもつ女性で、未婚化が進むのである。
論理は明快で、データも豊富。説得力ある議論である。ただ一つ苦言を呈す
れば、未婚化の原因についての諸説を批判した冒頭部分は、やや強引すぎるので
はないか。著者が批判するフェミニストの説や「女性の高望み」説には、著者の
主張と共通の部分が多いと思えるのだが。
(1996.9月配信)