面白いが論証には疑問 金原克範「"子"のつく名前の女の子は頭がいい」他

 
 遊び半分で、野菜の生産量と大学進学率の関係を調べてみたことがある。そうすると、カボチャの生産量が減り、レタスの生産量が増えるにしたがって、大学進学率が上昇してきたことがわかった。
 それでは、カボチャを食べると頭が悪くなり、レタスを食べると頭が良くなるということか。そんなはずはない。食生活の変化と大学進学率の上昇が同じ時期に起こったというだけのことである。このように本来関係ない出来事が、何かの原因で関係があるかのように見えることを、統計用語で「疑似相関」という。
 ちまたにあふれる評論のたぐいには、疑似相関を元に組み立てられたものが極めて多い。金原克範著「"子"のつく名前の女の子は頭がいい」(洋泉社・一八〇〇円)は、その代表例。姓名判断の本ではなく、一種の若者論である。
 著者によると、名前に「子」のつく女子生徒は一流女子高に多く、そうでない女子高には少ない。また名前に「子」のつかない女の子は、健康管理に問題がある場合が多い。さらに、「子」のつかない名前の増加と登校拒否の増加の間には関連がある。
 なぜか。著者によると「子」のつかない名前をつけるのは、テレビの影響を強く受けた親であり、彼らは子供とのコミュニケーションに問題を抱えている。そのため、彼らの子供たちに問題が発生するのだ。
 著者の論証には、いろいろ疑問がある。家庭環境についての資料が完全に欠けているし、年齢の違いも考慮されていない。テレビの影響だと言うが、証明されたわけではない。登校拒否=良くないこと、と前提されているようなのも気にかかる。しかし、学術的な研究からは得られない面白さがあることは確かだ。
 これに対して岩間夏樹著「戦後若者文化の光芒」(日本経済新聞社・一七〇〇円)は、マーケティング論をベースとした正統派の若者論といえる。団塊世代から「新人類」を経て団塊ジュニアに至る若者文化の変化を、豊富な事例とともに論じている。

(1995.11月配信)

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