クラシック界の裏側 ジョーゼフ・ホロウィッツ著「国際ピアノ・コンクール」他



「コンペティション」という米国映画があった。ある国際ピアノ・コンクールに参加した男女が、ライバル意識と愛の入り交じった複雑な関係に陥るという内容である。
 華やかで勝利至上主義的な演出に、これがコンクールに対する米国の一般的イメージなのかと感心する一方、演奏される曲などすべて覚えているはずの審査員たちが、楽譜をめくりながら演奏を聞いているといった、非現実的なシーンが気になった覚えがある。
 ジョーゼフ・ホロウィッツ著「国際ピアノ・コンクール」(早稲田出版・二五〇〇円)は、米国の代表的なピアノ・コンクールであるヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールを中心に、音楽コンクールのあり方を問い直そうとするもの。原題名はズバリ、「鍵盤売買」である。
 著者によるとコンクールの最大の問題は、無理やり順位をつけて一位を決めなければならないこと、そして優勝者が多数の演奏会を過密スケジュールで開かなければならなくなることである。順位をつけるやり方では、演奏者たちの多様な個性が評価されにくい。優勝者は過密スケジュールの中で消耗し、才能が無駄遣いされていく。
 こうなるのも、コンクールが大衆娯楽の一部として運営され、優勝者を商品として売り出す必要があるからだ。著者はこうした現状を憂い、クラシック音楽は死滅に瀕しているとまでいう。ちなみに先の映画の話だが、本書によるとクライバーン・コンクールは、審査員席に楽譜が備え付けられる例外的なコンクールなのだそうである。
 クラウス・ウムバッハ著「金色のソナタ」(音楽之友社・二八〇〇円)は、何人かの著名な演奏家を取り上げながら、今や巨大産業となったクラシック音楽界の実像を描いていく。著者の意図はもちろん、商業主義によって音楽界が堕落させられている現状に警告を発することにあるのだが、一流演奏家と金にまつわるエピソードの数々は、読み物としても大変面白い。

(1995.6月配信)

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